第10話 ──そして、二人で選んだ“未来”
世界は、静かに生まれ変わった。
滅びの予言は消え、神は祝福を与え、
魔王グラディウスと白き花嫁・澪の存在が、この世界の新たな“理”となった。
◇ ◇ ◇
――それから一年。
魔王城は、かつての緊張に満ちた雰囲気から一変し、
陽光が差し込む穏やかな城へと姿を変えていた。
空を見上げれば、魔族と人間が共に空を翔け、
市場には混血の子供たちの笑い声が響く。
“世界を救った奇跡の夫婦”は、いまやこの国の象徴であり、
それ以上に、誰もが憧れる“理想の夫婦”として語り継がれていた。
◇ ◇ ◇
城の中庭。白い藤の花が揺れる木陰で――
「澪、そこは危ない」
「えっ? あっ、ありがと。……って、そんなに心配しなくても、私はもう元気だよ?」
「だからこそ、油断は禁物だ。
……そもそも、お前は昔から無茶ばかりだ」
「なによ、“無茶”って! 私はあなたのこと、助けたかっただけで――」
「……そこが“無茶”だと言っているんだ」
ふたりのやりとりは、もうすっかり“新婚の夫婦”そのものだった。
けれど――
「……澪」
「なに?」
「お前が、この世界に来た意味。……本当に、後悔していないか?」
澪は一瞬、目を伏せた。
思い返せば、あの日。
ただの女子高生だった自分が、突然異世界に召喚され、見知らぬ魔王にプロポーズされた。
運命だとか、神の加護だとか、世界の命運とか――
何ひとつ分からず、何度も泣いて、迷って、傷ついた。
でも――
「後悔なんて、あるわけないよ」
にっこりと笑って、澪はグラディウスの手を取る。
「だって、ここで私は、“あなたと出会えた”から」
その手の温もりが、なによりも確かだった。
契約から始まった二人の関係は、もうそこにはなかった。
そこにあるのは、“自分の意思で選んだ未来”。
たとえ過去に別れがあり、宿命に抗ってでも――
二人は、共に歩く道を選んだ。
◇ ◇ ◇
王城の大広間。祝宴の準備が進められていた。
今日は、澪の“異世界転移から一周年記念”――そして、もう一つ。
「奥様、お身体は大丈夫ですか? 階段など、なるべくお控えくださいませ」
「うん、ありがと。でも、歩かないと、ちょっと不安で……」
澪はお腹に手を当てて、優しく微笑んだ。
――そう。新たな命が、二人の間に宿っていた。
「この子も、ちゃんと選ばれたんだと思うの。
生まれてくる時代を、世界を、そして――“両親”を」
グラディウスが、そっと彼女の肩を抱いた。
「俺は、ようやく手に入れたんだ。
お前という“運命”を、そしてこの世界に生きる“理由”を」
◇ ◇ ◇
夜。
ふたりはテラスから、星がきらめく空を見上げていた。
「なあ、澪。もしも、また最初から選べるとしても――」
「うん」
「お前は、本当に俺と……?」
「もちろん。絶対に、何度でも“あなたを選ぶ”」
「……ふっ」
グラディウスはわずかに笑って、言った。
「それを聞けただけで、あと三百年は生きられそうだな」
「えー、そんなに生きるの? 私、普通の人間なんですけど?」
「では、何百年でも愛し続ける覚悟を決めておく」
「もう……ほんとに最近、甘くなったよね」
「それは、魔王としての矜持ではなく、夫としての義務だ」
「……じゃあ、私は奥さんとして、あなたを支え続ける。
この世界でもっと、“幸せな奇跡”を広げていくために」
その夜、ふたりの影はぴたりと寄り添っていた。
もう、契約も運命も必要ない。
たった一つの愛が、すべての奇跡を生んだのだから。
――そして、世界は静かに微笑んでいた。
ふたりの未来が、確かに“始まった”ことを祝福するように。
《完》
お疲れさまでした!
『魔王様と交際0日で結婚したら、なぜか世界の命運を握ることになりました。』全10話です‼︎
ご希望あれば:
•番外編(第一子の誕生エピソードなど)
•黒の教団側の視点スピンオフ
•ユリア編(300年前の“最初の白き花嫁”)
なども執筆します。が… まずはその後のお話へ…
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