第1話 ──異世界プロポーズと、赤い瞳の魔王
目を開けた瞬間、見知らぬ天井が広がっていた。
「……え?」
硬い床。荘厳な装飾。石造りの壁に、炎の灯る燭台。まるで、中世の城のような――異世界ファンタジーの舞台そのものだ。
高校二年生の春野澪は、状況が理解できず呆然とした。
「ここ……どこ? 私、たしか帰り道で……」
学校帰り、交差点で光を感じた。そのあと、意識が真っ白になって――気がついたら、この場所にいた。
――夢? でも、頬をつねっても目は覚めない。
「目覚めたか」
深く、低い声が響いた。
振り向くと、そこにいたのは――異形の男。漆黒の外套に身を包み、赤い瞳を持つ、美しき青年。
人間とは思えない存在感。冷たさと威厳を湛えたその姿は、どこか神々しく、同時に恐ろしさを纏っていた。
「き、君は……誰?」
「我は、魔王グラディウス。貴様をこの世界へ召喚した者だ」
「……魔王!?」
少女漫画の読みすぎで想像力は豊かな方だが、これはさすがにぶっ飛びすぎている。
「待って! 私、人間だし! 別に魔王の敵とかじゃ――」
「ふん。貴様を敵と見ているわけではない」
彼は、澪に近づく。そして言い放った。
「我が花嫁となれ。嫌とは言わせん」
「……は?」
脳が情報処理を放棄する音が聞こえた気がした。
「け、結婚!? な、なんで私が!? 初対面だよ!? というか異世界だよ!? 帰してよ!」
「拒否は許さん。これは契約だ。この世界を救うために、神の加護を持つ“花嫁”が必要なのだ」
「神の加護……? 世界を救う……??」
「お前が“選ばれし者”かどうかは、儀式を経てすぐに分かる。だが、それ以前に条件がある」
魔王は、感情を感じさせない声音で続けた。
「神の加護は、婚姻という契約によって開花する。ゆえに、我と結ばれよ。契約としてな」
……意味がわからない。けれど、ただ一つだけ理解できたのは――
この世界で、澪は“帰れない異物”なのだということ。
足が震えた。現実感がない。でも、心は不思議と冷静だった。
「私、ただの高校生なんだけど……そんな力なんて、あるはずないよ……」
「それは我が判断する。お前に力がなければ、この契約は無意味だ。だが――」
魔王は目を細め、静かに言った。
「我の中で、何かがざわついた。お前と出会った瞬間にな。これは……導きだ」
「……」
魔王は澪の前に跪いた。そして、彼女の手を取る。
「我の名はグラディウス。魔を統べる王にして、この世界の最終防衛者。
お前が“花嫁”となるならば、我がすべてを以て守護しよう。――契約の証として、名を」
「……私の、名前?」
「ああ。神との契約には、名の共有が必要だ。お前の真名を、我に捧げよ」
澪は戸惑った。けれど、帰れない現実と、この場の異質な力に抗う余地はなかった。
――この人が、嘘を言ってるようには見えなかった。
「……春野澪です」
「……澪」
その名を口にした瞬間、グラディウスの赤い瞳が、ほんの少しだけ揺れた。
そして、天井に描かれていた魔法陣が眩く光を放ち、澪の身体が温かく包まれる。
これは……魔法?
「契約、完了だ。これより、お前は我が花嫁。正式な“魔王の伴侶”である」
「……まじで、結婚しちゃったの……?」
現実味のなさに、言葉を失った。
グラディウスは立ち上がり、くるりと背を向ける。
「明日から、お前は“魔王の城”で暮らす。この世界の理を学べ。そして、己の役割を自覚せよ」
そして、彼は去っていく。
広間に取り残された澪は、ぽつりと呟いた。
「……ちょっと待って。
私、告白されたこともないんだけど。ファーストキスもまだなんだけど……」
人生初の恋愛が、まさか**“異世界魔王との政略結婚”**になるなんて――誰が想像しただろう。
これは夢でも嘘でもなく、現実なのだ。
こうして、澪と魔王グラディウスの“交際0日婚”が幕を開けた。
だが彼女はまだ知らない。
この結婚が、世界の運命を変える始まりであることを。
──第2話へ続く。
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