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【第2章連載中】ラプラスの魔導士 〜魔眼で魔法を解析し、重力を操る異世界の理術使い〜  作者: 盆妖幻鳥
第2章 リオール疎開

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02-06 試着とお披露目

 一夜を明かしたアキトたちは、ピョートル伯爵と社交界での警備についての打ち合わせをした。それによると今回の社交界は、領主としてではなく伯爵として企画したものとのことだった。


(領兵を動かせないから、僕らを雇いたかったのもあるのかも……)


 そのため社交界の警備は、ピョートル伯爵や協力貴族が雇っている人たちが担当する。アキトたちがその一員として参加するにあたり、スーツを支給してもらうことになった。


(ネクタイの結び方って、これで正しいのかな?)


 ピョートル伯爵に仕えている使用人から、サイズの合うスーツを受け取って試着する。アキトは初めて着るスーツに戸惑いながらも、教えてもらった通りにネクタイを結ぶ。


「スーツか、久しぶりだなぁ」

「僕は初めて着るんですけど、変じゃないですか?」


 元の世界で社会人経験のあるユースケは、その時のことを思い出しながらスーツに袖を通す。対してアキトは初めて着るスーツに少し緊張していた。


「問題ないだろう。しばらく着ていれば慣れ――」

「「……」」

「どうした?」


 シンが自身のネクタイを締めながら、アキトの緊張をほぐそうとする。しかし2人からの反応は無く、ただ彼の姿を見つめているだけだった。


「ヤクザかな?」

「ヤクザだよね」


 シンのスーツ姿は長身も相まって板についているが、そこに彼の鋭い目つきが合わさって威圧感を醸し出している。ある意味で似合っているその姿に、アキトとユースケは思わず言葉を漏らす。


「あのなぁ」

「……皆さん、どうやらお嬢様たちが来られたみたいですよ」


 アキトとユースケの反応にシンが呆れていると、試着の手伝いをしていたケビンが扉をノックする音に気付く。どうやら別の部屋で着替えていたカナたちが来たらしく、彼は扉を開けて迎え入れた。


「じゃーん、どうですか――うわっ、マフィア!」

「カナさん落ち着いて、シンさんだよ。確かに雰囲気出てるけど……」

「もう勝手にしてくれ」


 着替えた姿を見せようと意気揚々と入室するカナだったが、シンの姿を見て思わず声を上げる。一緒にいたシーリスが多少のフォローを入れるが、彼は立て続けに同じ反応をされて諦めの心境になる。


「それよりも見てください。皆でメイド服を着てみたんですよ!」


 気を取り直したカナが、白と黒のクラシックなメイド服に着替えた姿を披露する。普段は馬の獣人として出している尻尾は消して、馬の耳は残したままカチューシャも付けている。


「アキト君、どう? 似合ってるかな?」

「スカートという物を初めて履いたが……まだ慣れないな」


 よく見れば2人とも、カナと同じメイド服を着ている。ノリノリのシーリスがアキトに感想を求めている横で、イシュテナは初めての服装に馴染めずにいた。


「3人とも似合っていますよ。イシュテナは髪も梳かしたんですね」

「シーリスがどうしてもと言うからな。任せた」

「だって、イシュテナが無頓着すぎるんだもん」


 無造作に伸びていたイシュテナの髪をシーリスが梳かしたことで、隠れていた灰色の目がよく見えるようになった。綺麗に整えられた白い髪とメイド服が合わさり、3人の中では一番雰囲気が変わっていた。

 当の本人は変わらず無表情だったが……。


「あらー、皆可愛いじゃないの! でもメイドだと給仕で忙しくなるから、当日はちゃんとスーツを着てね」

「分かりました」

「了解」


 そこにピョートル伯爵が現れると、メイド姿のカナたちに素直な感想を送る。そして彼女から護衛の制服はスーツであることを伝えられ、シーリスとイシュテナは了承する。


「警備って言うけど……武器を持ってなくても、魔法を使われたらどうしようもないんじゃ?」


 当日は警備以外の仕事をするユースケだったが、魔法が存在する中でどのような対応ができるのか疑問に思う。それに答えたのはシーリスだった。


「昨日、私たちが魔法を使ったときに魔力の靄が見えたでしょ? それが魔法の発動する兆候だから、それを見つけて対処すれば良いんだよ」

「言われてみれば、確かに光ってたね」


 魔法を発動する際には、集められた魔力が靄のように見える現象と、魔法発動時に集めた魔力が弾けて独特の音と閃光を発する現象が発生する。この現象【魔法反応】を捉えて相手の魔法に対応するのが、この世界における戦いの基本になる。


「魔法反応も一定以上になれば、探知魔法で位置を推測できる」

「イシュテナのテレポートも発動時と移動先の両方で魔法反応があったから、刺青の人も戸惑ってなかったね」


 探知魔法は放出した魔力の反射によって、物体の位置や形状を把握する。魔法反応がある場所は魔力が乱反射するため、物体とは異なる反応から魔法の発動位置を予測できる。

 そのためイシュテナやシーリスが魔法に対応できるのは何も特別なことではなく、戦いに出るための前提条件とも言える。


「アキトの魔眼はその前段階から視ることができる。その上魔法の内容まで暴かれるんだ……魔道士にとっては天敵だろうな」

「視界にいない時の条件は、シンさんたちと同じですよ」


 アキトの持つラプラスの魔眼は魔法反応が発生する前から、その兆候を捉えることができる。視覚と連動と言う制約こそあるものの、シンの言うように魔法を主体とする魔道士にとっては脅威だろう。


「せっかく普段と違う服を着たんですから、もうちょっと楽しみましょうよ」

「でも聞けて良かったよ。今度から魔法が飛んできても慌てずに……いや、やっぱり無理かも」


 カナとユースケの軽口に緊張した雰囲気が和らいでいく。それを皮切りに談笑がはじまり、しばらく経った頃にメイドに耳打ちされたピョートル伯爵が声をかける。


「それじゃあ、カナ様はドレスを試着しに行きましょうか」

「届いたんですか!」

「ええ、仕立ても完璧よ」


 ピョートル伯爵がドレスの用意ができたことを告げると、待ちわびていたカナを連れて部屋を出ていく。明後日に開かれる社交界に向けて、着々と準備が進んでいった。






――――――――――






――神暦9102年3月16日

 貿易都市リオールとその周辺に住むセレスフィルド連邦の貴族たちが、ピョートル伯爵邸のホールに集まる。メイドたちが給仕で忙しなく動いている中、アキトとシーリスは会場内で警備をしていた。


『こちら異常なし。アキト君の方はどう?』


 シーリスは周囲に目を向けながら、離れた場所に立っているアキトに念話で声をかける。彼女は普段出している狼の耳と尻尾を消しており、スマートにスーツを着こなしていた。


『不審者とかは大丈夫そうだけど……念話を飛ばす人はいるんだね』

『もしかして、傍受もできるの?』

『さすがにそれは無理だよ。僕が視えるのはマトリクスだけだからね。情報が乗った魔力そのものは見えないんだ』


 アキトが持つラプラスの魔眼には、念話でやり取りしている様子がところどころで映る。とはいえ魔眼も万能ではなく、シーリスに伝えたように内容を傍受まではできない。


『それに飛ばす側も警戒して、手や物陰に隠しているよ』

『まあ、私たちも同じことしてるしね。人が集まる場所で、これ見よがしに魔法反応を出すわけにもいかないし』


 念話は出力の小さい魔法のため、魔法反応を隠すのは容易である。実際に2人も壁際に立って後ろに回した手から念話を飛ばしている。この方法は警備員同士の通信手段として教えてもらったものだ。


「それでは皆様、これよりピョートル様より挨拶をしていただきます」


 壇上にいる司会者から社交界の開始が告げられ、会場内の貴族たちが一斉に注目する。そのタイミングで近くにある扉が開かれ、中からピョートル伯爵が1人の女性を連れて姿を現した。


『カナさんのドレス姿、とても綺麗だね』

『うん。こうして見ると本当に貴族の令嬢だって、実感するよ』


 入場したカナは白色のドレスを身に纏っており、その胸元には深い青色をした華の刺繍が入っていた。可愛らしさを出していた馬の耳と尻尾はなく、茶色い髪を銀色の髪飾りでハーフアップにしている。

 普段の親しみやすい彼女とは違う姿に、シーリスとアキトは目を離せないでいた。


「あれが、カナ・C・バーストン。信じられんな……」

「バーストン公爵も人が悪い。こんな可憐な娘を隠していたとは」


 緊張した面持ちではあるものの、カナは公爵令嬢としての気品を漂わせている。壇上に上がったピョートル伯爵が挨拶を始めるが、それよりも初めて見るバーストン公爵家の令嬢に貴族たちがざわめいている。


「本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございます。昨今の情勢不安に――」


 会場の視線の多くはピョートル伯爵の隣にいるカナに集まっているが、時々見比べるように別の場所を見ている者もいる。彼らの視線の先には、彼女を眺めている栗毛の少年貴族の姿があった。


読んでくださってありがとうございます。

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