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【第2章連載中】ラプラスの魔導士 〜魔眼で魔法を解析し、重力を操る異世界の理術使い〜  作者: 盆妖幻鳥
第2章 リオール疎開

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02-02 無属性の少女

「大丈夫ですか?」

「見ての通りだ」


 馬車を止め、アキトがグラスエイビスの編隊を迎撃した少女に声をかける。彼女は浴びてしまった返り血を気にすることなく、鞄を肩に掛けて返事をする。


「僕は狭霧アキト。で、彼女がシーリス・ルプス」

「イシュテナ……冒険者だ」

「私たちも冒険者だよ。よろしくね」


 イシュテナと名乗った少女は無造作に伸びた白い髪の隙間から、灰色の目を覗かせる。小柄な彼女は見上げるようにアキトを観察すると、確信したように言葉を返す。


「さっきの重力魔法……先日キマイラを倒した理術使いだな」

「そうですけど、どうかしましたか?」

「いや、確認しただけだ」


 イシュテナの問いかけにアキトは肯定を返す。領都バーストンではキマイラの件は噂になっており、彼女のように声をかけられることは滞在中何度かあった。


「ケビンさん。理術って、魔法とは違うんですか?」


 イシュテナがアキトたちと喋っている裏で、異世界に来て日の浅いユースケがケビンに疑問を投げかける。


「理術は魔法を系統別に分類したカテゴリーの1つです。物理操作をより応用・発展させた魔法が理術に分類されます」


 アキトが主に使用する重力魔法は、物理操作を応用して高度な物理現象を引き起こす系統【理術】に分類される。自在に扱うには物理学の知識が必須のため、主力にしている冒険者は少ない。


「この馬車はワタオ村に向かうのか?」


 イシュテナはアキトたちが乗っている馬車を確認すると、その行先についてシーリスに尋ねる。


「そうだよ。もしかしてイシュテナも?」

「ああ、そこまで乗せて欲しい」

「それなら、カナさんに聞いてください」


 どうやらイシュテナもワタオ村に行く途中だったらしい。ただ、この馬車はカナを貿易都市リオールへ送り届けるために使用している。そのためアキトは彼女から乗車の許可を貰うように伝える。


「え、私?」

「金は払う。乗せてくれないか?」

「スペースは十分にありますし、1人くらい増えても構いませんよ。お金もいらないです」

「感謝する」


 突然話を振られたカナは驚くが、馬車のスペースに余裕があるため同乗を許可する。無賃で良いという彼女の計らいに、イシュテナは感謝の言葉を返す。


「ユースケ、少し早いが昼の準備をしてくれ」

「あ、はい」

「じゃあ私たちも食事の準備をしようか」


 シンはユースケに昼食を準備するように指示を出し、アキトともに倒したグラスエイビスを回収しに行く。残ったシーリスたちは馬車を街道の脇に寄せ、食事の準備に取りかかる。




……




…………




「わあ、美味しそう!」

「せっかくだから、カナさんのマヨネーズを使ってみたよ」


 スープの煮込みを手伝っていたシーリスが、ユースケが隣で作っている料理の出来栄えを見て思わず声を上げる。彼が作ったのはカナお手製のマヨネーズに調味料を加え、それをソースにした鶏肉の照り焼きだった。


「スープの方はどうかな?」

「あ、凄く美味しい。私が作るのと全然違う!」

「それは良かった。こっちも完成だから、皆を呼ぼうか」


 スープの味見をして、自分が今まで作ってきたものとの違いにシーリスは驚く。これでスープと照り焼きが完成したので、ユースケは配膳のために皆を呼ぶ。


「ユースケが料理できて助かったよ」

「おかげで解体に専念することが出来ました」

「それはブラッドソーセージにでもするんですか?」

「いや、これは町に着いたらギルドに売るんだ。動物の血肉には食用以外にも使い道があるからな」


 倒したグラスエイビスの解体をしていたシンとアキトが、血液の入った瓶と肉塊を入れた袋を持って戻ってくる。2人は採取した血肉を馬車の荷台にしまうと、魔法で水を作り出して手についた血を洗い流す。


「イシュテナ、君の分もあるから一緒にお昼にしよう」

「……分かった。頂こう」


 少し離れたところで見張りをしていたイシュテナに、アキトは料理を受け取りながら一緒に昼食を取ろうと声をかける。自分の分があるとは思わなかったのか、彼女は一瞬間をおいてから提案を受け入れる。


「パンと紅茶の準備もできましたよ」


 カナとケビンがパンと紅茶を配り、全員に行き渡ったところで腰を下ろして食事を始める。


「ユースケさんの料理って本当に美味しいですね。元の世界でもよく料理していたんですか?」

「そうだね。働いてた時は1人暮らしだったし、実家では父さんの分も作ってたから」


 アキトたちが森の中で保護した転生者……如月ユースケは料理が得意だった。そのおかげで単調になりがちな屋外での食事が、ちょっとした楽しみに変わる。


「自分が作ったマヨネーズが、知らない味になるって凄いですね。今まで古今東西様々な種類のマヨネーズを作ってきましたが、そこで満足して料理方法は開拓してませんでした」

「まさか、持って来たマヨネーズそれぞれ味が違ったりするの?」

「それも考えたんですけど、時間もなかったので全部同じにしました。何より皆さんに食べてもらうのであれば、色々な料理に合う味の方が良いかなと……」


 さすがのユースケも独自の味付けがされたマヨネーズを料理に使う自信はなかった。そのため、カナが1種類しか作っていないことに内心で安心する。


「冒険者って言っていたけど、村に仲間がいるの?」

「いない。私1人だ」


 食事をしながら、シーリスがイシュテナに声をかける。素っ気ない返事だったが、会話に加わろうとアキトも彼女に質問する。


「グラスエイビス相手に手慣れた感じだったけど、冒険者になって長いんですか?」

「つい最近なったばかりだ」

「実は僕も冒険者になったのはつい最近なんですよ」

「そうか」

「……」

(会話が、続かない……それに無表情で感情が読めない)

(無口なだけだと、私は思いたいけど)


 アキトは隣にいるイシュテナに気になっていた事を尋ねる。しかし彼女は表情も声色も変えずに答えるので、なかなか話題を広げられない。その様子にシーリスが話し方を考えていると、眺めていたユースケが先に料理の感想を尋ねる。


「あの、イシュテナさんだっけ? 口に合うと良いんだけど」

「初めて食べる味だが、悪くない」

(質問には答えてくれるんだよね……)


 相変わらず表情は変わらないが、戸惑うことなく口に運んでいる。それに簡潔ながらも質問には答えてくれるあたり、雰囲気ほど冷たい人物ではないのかもしれないとアキトは期待する。


「戦闘の時の白色の魔力……イシュテナは“無属性”なんだよね?」

「そうだ」


 食事を終えたところで、シーリスがイシュテナに話しかける。本来、属性と言うのは魔・天・霊・妖の4つであり、魔力の色も青・黄・緑・赤と対応している。

 つまりイシュテナの持つ白色の魔力が示す属性【無属性】は、それら4属性のどれにも当てはまらないことになる。


「まさかテトラ様以外にも無属性の方がいたとは」

「テトラ様も?」


 ケビンの呟きに、思わずアキトが反応する。50年前に終結した戦争【氾濫戦争】において活躍した英雄の1人……それが虚無の魔導士と呼ばれるテトラ・ニヒルスだった。


「人間や動物を問わず、無属性を持って生まれるのは非常に稀な事です。そのため昔は、無属性の人物というのは未知な存在でした。その常識を変えたのが、自身も無属性であるテトラ様でした」


 テトラ・ニヒルスは氾濫戦争の英雄としてだけではなく、無属性の人物としてでも有名だった。かつては数が少ないがゆえに一般に認知されてなかった無属性と言う存在も、彼女の存在と研究の成果によって広く認識されるようになった。


「あの時のキマイラも確か無属性だったよね」

「そう聞いている」


 ユースケが言うように森の中に現れたキマイラも、同じ白色の魔力を持つ無属性だった。その情報は襲撃の目標になっていた領都バーストンにも伝えられ、イシュテナの耳にも届いていた。


「それもあってあの街を出た」


 そんな時に自身が無属性であることが知られれば厄介事に発展する可能性が高く、そうなる前にイシュテナは領都バーストンを出たという。


「イシュテナはこれからどうするの?」

「別の国へ行くつもりだ」

「それなら、リオールまで一緒に行きませんか? 護衛を引き受けてくれるなら歓迎です」


 ここから一番近いのはラディウス法国であり、その国境は次の目的地である交易都市リオールを通過した先にある。イシュテナの境遇に同情したカナは、護衛を条件に一緒に向かうことを提案する。


「……一度、ギルドで依頼を確認する。それからでも良いか?」

「俺たちがワタオ村を出るのは明日の朝だ。決まったらそれまでに来てくれ」

「分かった」


 他に都合の良い依頼があるか確認したく、イシュテナはカナの提案を一旦保留にする。出発予定をシンが伝え、判断は彼女に任せることになった。


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