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01-32 重力盾シュヴァルツシルト

 エルフの里に来て1か月近くが経過した。今日もスノーゴーレムに開発した魔法の盾を持たせて強度テストを実施する。


「ハインさん。お願いします」

「了解。こっちも準備OKだ」


 エルフの里の錬金術師であるハインがライフル銃を構え、その銃口の先に威力を強化するブラストバレルの魔法陣を6枚展開する。バレル系魔法は最大で2種6枚を使用可能で、枚数によって強化度合いを調整することができる。


「3……2……1……」


 ハインが引き金を引き、6枚の魔法陣を通過して閃光となる。最大まで強化された銃弾が一直線にスノーゴーレムの構える黒いエスクード【シュヴァルツシルト】と激突する。


「やった、やりましたよ!」

「おお、マジか!? とうとうブラストバレル6枚を防いだ」


 銃声と激突音が鳴り響き、緑色の閃光が散る。そこに残った無傷のシュヴァルツシルトを見て、アキトとハインは歓喜と驚きの声を上げる。


「凄いな。まさか、この期間で形にするとは」

「エスクードの比ではない……相当な量の魔力を込めているのが分かるわ」

「皆さんに色々教えてもらったおかげです!」


 近くで様子を見ていたシンとアリスも、完成したシュヴァルツシルトの防御力に目を丸くする。特に彼女は魔力が視える精霊の眼を持つため、エスクードの10倍以上の魔力が圧縮状態を維持していることに驚きを隠せない。


「圧縮する魔法にも、魔力を相当消費しているはずです。アキトの魔力量では消費量が多すぎるのでは?」

「計測した僕の魔力量は50……それのおおよそ20%ほど消費していますね。効率化は今後の課題です」

「それでも、俺には使えそうにないな」


 アリスの懸念の通り、シュヴァルツシルトの形成には膨大な魔力を消費している。保有魔力量は50を基準かつ平均値として計測する。つまりアキトの保有魔力量は平均的で、多くも少なくもないことになる。

 ちなみにハインの持つ計測器でシンも一緒に量っており、その結果は35と平均以下であった。彼は自身の魔力量を把握しており、そのうえで戦い方を確立している。


「ハイン、大変だ! ここにいないで早く里に戻れ!」

「どうした? そんなに慌てて」


 そんな中、狩りに出ていたエルフの猟師が声を上げながら近づいてくる。ハインは彼を迎えると、何があったのかを尋ねる。


「近くでヴィーヴルがうろついてるんだ。危うくかち合うところだった」

「おい、何言ってんだ。この時期は冬眠してるはずだろ?」

「してないから問題なんだよ。餌が足りずに、縄張りの外に出てきたんだ!」


 エルフの猟師の言葉にハインは反論するが、そのただならぬ様子から嘘ではないことが分かる。近くで話を聞いていたアキトはヴィーヴルについて漠然としたイメージしかなく、隣にいたシンに疑問をこぼす。


「ヴィーヴル……ドラゴンですか?」

「ああ、動物全般を食べる雑食のドラゴンだ。餌が足りなければ人間も捕食する」

「さっきの銃声を聞いて、こっちに向かってるみたいだ。アキト君たちは里に戻って、僕の妻を呼んできて欲しい」


 ヴィーヴルがエルフの里に向かうとは限らないが、猟師たちの活動圏内に入っている。エルフの猟師から詳細を聞いて、ハインは腕の立つ猟師である妻を呼ぶようにアキトたちに伝える。


「それなら私が倒します。復帰戦に丁度いいですし……ゴーレムを使えるので、シュヴァルツシルトの実戦評価も同時にできますから」

「だったら僕も戦いますよ。自分で使うために開発したんですから」

「そうでしたね。では、共に行きましょう」


 エルフの里から猟師の応援が来るのを待つよりも、近くにいる自分が倒した方が早いとアリスは進言する。同時にシュヴァルツシルトの実用性を計るつもりだったが、アキトの意思を尊重して参戦を認める。


「エルフの里には世話になってる。ここは俺たちに任せて欲しい」

「やれやれ、そこまで言うなら」


 エルフの里からは少し距離があるため、時間の余裕はある。それでもシンの後押しもあり、ハインは彼らにヴィーヴルの退治を一任する。


「君は念のため、里にこの事を知らせてくれ」

「ああ、そっちも気を付けろよ」


 ハインはエルフの猟師を先に里へ帰らせると、ヴィーヴルを見つけたという場所にアキトたちを案内する。






――――――――――






 人間の倍ほどの高さに蝙蝠のような大きな翼をもつドラゴン【ヴィーヴル】が、雪で覆われた岩場を闊歩している。額に埋め込まれている赤色の結晶石が目立つが、それ以外にも剣で斬られたような傷跡が散見される。


「どこかの村の奴が手を出して、返り討ちにされたのか?」

「あの傷が起こされた原因だとしたら時間も経ってる。元の住処に帰ることは期待できそうにないな」


 明らかに人と交戦した跡があるヴィーヴルを見て、ハインが冬眠していない理由を推測する。シンも傷跡の状態から時間が経過していると考え、討伐が必要だと判断する。


「まずは俺が切り込む。2人は援護してくれ」

「いえ、貴方は後方で周囲の警戒をお願いします。前に出られては、私たちの試金石になりません」

「確かに。シンさんが戦うなら、僕たちは要らないですもんね」


 槍を手にして先陣を切ろうとしたシンだったが、アリスによって梯子を外される。その意見にアキトも同意しており、ハインは肩をすくめて眺めているだけだった。


(空を飛ばれたらどこに行くか分からんが……逆に言えば、懸念点はそれだけか)

「……分かった。いざという時はすぐに合図しろ」

「ええ、もちろんです」


 シンは少しだけ思考した後、アリスの意見を受け入れる。2人は改めてヴィーヴルに向き直し、意気揚々と戦闘態勢を整える。


「では、行きましょう。アキトは前衛をお願いします」

「任せてください!」

(ようやく形になった。強度試験も問題ない……後はちゃんと実戦で使えるかどうかだ)


 弓を持ってヴィーヴルを見据えるアリスの横で、アキトは左腕から大量の魔力を放出してシュヴァルツシルトを発動する。魔法の開発でこれまで試行錯誤してきた思い出を振り返りながら、実戦投入できる形になったことに感慨深くなる。


(魔力を直接グラビティで圧縮すると、エスクードの形成ができなかった)


 黒い樫の杖【セイファート】を握る左手の握り拳を核にして、重力魔法を込めた魔力球を作る。その魔力球の外殻にエスクードを形成するのと同時に、添えた右手からグラビティを発動して均等に圧縮していく。


(だから先に核を形成してそこから広げる。力の加減を間違えると、ここでバラバラになるから慎重に……)


 そのまま内側からはエスクードに魔力を供給して、外側からは重力場による圧縮を続ける。圧縮しつつもエスクードは膨張していくので、それに合わせて重力場に強弱を付けて形を作っていく。


(ここまでできても、圧縮する重力場を解除すると崩壊する。だから事前に核に重力魔法を込めておく)


 セイファートを軸にして体を覆うほどの大きさになったところで、外側の重力場を解除する。そして核に込めた重力魔法を発動することで中心に向かう重力場が発生し、自己圧縮によって超密度状態を維持する。


(これで核の重力魔法が発動し続ける限り、状態を維持できる。その魔法も後から魔力を供給できるから、破壊されない限りは魔力が尽きるまで使える)


 重力による圧縮によって、盾に触れた空気中の魔力や魔素は吸い込まれる。その際に光も一緒に吸収されて放出されないため、縁の周囲が細く光る黒色の盾として見える。


(形成にかかる時間は15秒ほど……慣れもあるけど、まだまだ課題は多い)


 圧縮する魔力だけでも相当な量だが、形成と維持にも多くの魔力を消費する。その上魔道士としては駆け出しであるアキトの技術では、マトリクスの構築も粗削りで魔力効率も悪い。


「いいか、ドラゴンには共通して喉元に逆鱗がある。この内側にはブレスを吐くための筋肉があって、その可動域のために他の鱗より隙間が広くなっている」

「それって、ブレスを吐く瞬間を狙えってことですか!?」

「そのタイミングが最も隙間が広がる。危険ではあるが、うまくいけばブレスが体内に入って窒息する。喉を潰す勢いで突き刺せ」


 ヴィーヴルの元へ向かうアキトたちにシンがアドバイスを送る。種族差はあるが、ドラゴンは総じて巨体であり硬い鱗も持っている。逆鱗周りも弱点ではあるが、生半可な攻撃では致命傷にはならない。


「不用意に飛び込めば、爪や翼の攻撃で潰されます。アキトは無理をせず、注意を引き付けることに専念してください。私が逆鱗を射抜きます」

「分かりました。でも、アリスさんもちゃんと守って見せますよ」

「ふふ、頼りにしているわ」


 これまではシンとクロムウェル隊に守ってもらっていたアキトの成長に、アリスは柔らかく微笑んで信頼を向ける。それは訓練だけでなく魔法の開発に取り組む彼を見ていたからであり、その努力の成果が発揮されることを半ば確信しているからでもあった。


(笑うところ、初めて見たかも……綺麗だな)


 初めて見るアリスの穏やかな笑顔に、アキトは思わず見惚れてしまう。常に凛としていた彼女の気品はそのまま、長い金色の髪が揺れ、温かな翠色の眼を向けてくる。


「行きましょう。アリスさん」


 ヴィーヴルは想定通りの進路を歩いている。アキトは気を引き締め直し、アリスと共に待ち伏せをするために岩場に隠れながら移動する。

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