日常
どえらい不備を見つけたのでもう一作の【逆転してもしっくりきます】は少々お待ちください!!!
お絵描き楽しい←
「―――――ユトゥスはどの学校に行くつもりなの?」
【神術】の適性検査を受けた日の夜、家族揃っての食事の時に母さんがそう聞いてきた。
「そうだなぁ……【ガルハルド学園】かな……」
俺は少し考えてから1つの学校をあげた。
【エリュカス王国】には現在3つの学校が存在している。
【神術】の授業に力を入れている【王国立クリューカル魔法学園】。
体術や剣術などの授業に力を入れている【王国軍統括ギルザーナ学園】。
上記2校程特化した訳では無いが、両方ともに学ぶことができる【王国立ガルハルド学園】。
「あら?そうなの??
私はてっきり【クリューカル学園】に行くと思っていたわ」
「【ガルハルド学園】は昔の本とかもあるらしいからそれに興味があったんだ」
【クリューカル魔法学園】、【ギルザーナ学園】、【ガルハルド学園】、この【エリュカス王国】にある3つの学校はそれぞれ違うタイミングで作られたのだという。
一番古くからあるのが【ガルハルド学園】。
昔はこの一校しかなかったらしく、そこから派生してそれぞれの道に特化した学校が出来たらしい。
古くからあった名残なのか、【クリューカル魔法学園】にもない貴重な古書が【ガルハルド学園】にはあるらしく、俺はそれに興味を持ったのだ。
「ユトゥスは本が本当に好きだね」
アルフ兄さんが俺の言葉に微笑ましそうに笑った。
「そう言えば聞いたぞユトゥス。
今日の【神術】の適性検査でとんでもない記録を出したんだってな?」
思い出したかのように濡れ羽色の髪をした細身ながらもしっかりとした体つきの男性――――父さんが俺に向かってそう言う。
やはりと言うべきかあれだけの事があれば父さんの耳にも話は届いていたようだ。
「【神力】の量も質も過去最高を記録したらしいじゃないか!
その上天性の【神力】の操作技術と来ればまさに『神術の申し子』か?」
「……まだ1つも【神術】を使ったことがないのに『神術の申し子』なんて言い過ぎだよ父さま……。
もしこれで【神術】が使えなかったらどうするのさ……」
俺が上機嫌の父さんにそう言うとそれはないと言わんばかりに笑った。
「それは大丈夫だろう!
そこまでの【神力】があって使えない【神術】はないさ!なぁ、母さん?」
「お父さんの言う通りよユトゥス。
【神力】が少ないなら使えないってことがあるかもしれないけどあなたほどの【神力】があれば何の問題もないはずよ?」
母さんがそう言ったあと、父は俺からアルフ兄さんに視線を移した。
「ユトゥスは母さんに似て、アルフは俺に似たか……。
くぅ〜!どうせならユトゥスも俺に似て剣術の方が得意だったら息子を独占出来たのになぁ!」
「なっ?!
そんなことを考えていたの!?」
父さんの発言に母さんは驚きの表情を浮かべた。
そして父さんの肩をポカポカと叩く母さん。
「冗談、冗談だよ母さん」
「……アナタの冗談はタチが悪いわ……!」
母さんは頬をふくらませて父さんを一睨みすると俺のことを抱きしめた。
「ユトゥスも私のよ!」
それを見た父はアルフ兄さんの頭を乱暴ながら優しさを感じる手でワシワシと撫でた。
「母さんは俺がアルフに剣術を教えてたら羨ましそうにしてたもんな。
良かったじゃないか母さん」
「えぇ!本当に!!」
父さんの言葉に母さんは心の底から嬉しそうに答えた。
【王国軍】では厳しいと有名らしい母さんも我が家では表情豊かな俺たちの母である。
「よーしアルフ!
ユトゥスの【神術】にも負けないくらい剣術の修行だな!」
「そうだね父さん。
流石に弟に負けたりできないからね!」
そう言う父さんとアルフ兄さんはやる気に満ちていた。
正直まだ【神術】というものに触れられず、知識しかないため心配事しかないがそれでもやはり楽しみだという気持ちの方が大きい。
そんな俺の頭を優しく撫でる手があった。
「……あまり心配しすぎるのは良くないことよ?ユトゥス。
時には自信を持つことも大切なの。
大丈夫、あなたには私たちがついているわ」
母さんの優しい声音に、父とアルフ兄さんの優しい視線。
俺はそれを一身に受けながら、表情が自然と変わるのを感じる。
「……うん、ありがとう」
暖かな気持ちが胸いっぱいに広がる。
家族の時間というのはなんと幸せなものだろうか。
「とはいえ、まずはお披露目会をしないといけないわね」
「うっ……」
母さんの言葉に俺の頬が引き攣る。
あまりの表情筋の酷使に顔がつってしまいそうだ。
俺の家『オーヴィット家』は【伯爵】の爵位を持ち、領地を治める貴族である。
その子供である俺のお披露目会。
気が重くなるのも仕方がないことだろう。
貴族の子供のお披露目会は【神術】の適性検査の後に行われるのが通例だ。
アルフ兄さんの時もそうだったが多くのお偉いさんが我が家に訪れる。
しかも、アルフ兄さんがお披露目会をして数年、訪れる人数も格も上がっているだろうと確信していた。
「あら、随分と嫌そうな顔ね?」
「……だって絶対たくさんの人が来るよね……?しかも偉い人たち……」
「……いや、ユトゥス……大変なのはそこじゃないよ……。
僕の時がそうだったけど挨拶回りだったりは父さんや母さんが手助けしてくれるし多少は融通が効く。
けどねユトゥス……女の子には気をつけなよ?」
そういったアルフ兄さんの顔は俺の顔よりも顔色が悪く重々しい雰囲気を纏っていた。
その様子を見た父さんと母さんは苦笑いを浮かべている。
「あ〜……アルフはかなり大変そうだったな……」
「も、モテモテだったものね……」
「そんな可愛いものじゃないよ……あれは獲物を狩る狩人の目だった……」
なるほど、アルフ兄さんの言葉で理解した。
領地内の有力者はもちろんだが、このエリュカス王国内の他の貴族や有力者もお披露目会には訪れる。
つまりそこには我が家との繋がりが欲しい人たちもやって来る。
ただの伯爵家ならいざ知らず我が家は両親が共に一代限りながら【公爵】と同等の権限を持つ爵位持ち。
さらに言うなら名の通った存在となれば結果は目に見えている。
「……し、しないという手は……」
「あると思うかしら?」
母さんの方を覗き伺うように向けば満面の笑みを浮かべて無慈悲に言う。
「……デスヨネ」
ガックリと肩を落とす。
なるべく穏便に穏便にことを済ませたい。
やりたいことはたくさんあれど今は目立つのは得策とは言えないから。
(……まぁ、適性検査の時点で手遅れな気がしなくもないけど……)
「安心しろユトゥス。
お前には頼りになる兄がいるだろう!」
「え、ちょ、父さん!?」
肩を落とした俺を励ますためか、父さんがアルフ兄さんの背中をバシバシ叩きながら言った。
「良いかユトゥス、アルフと同じくお前もしっかり者だから挨拶回り程度に心配はしてない。
そつなくこなすだろうし、駄目でもフォローはしてやれる。
心配してる女の子の対応も……ほらここに壁がだな……」
「父さんっ?!!」
アルフ兄さんの声が悲鳴に変わる。
「冗談だ冗談」
「そ、そうだよね……」
明らかに安心した表情を浮かべるアルフ兄さん。
悲鳴を上げたり落ち着いたり忙しいものだ。
「どの道アルフは囲まれるさ」
「そうね、気をつけないと駄目よ?」
「父さん母さんっ!!??」
父さんのみならず母さんまでそう言ってしまったものだからアルフ兄さんの顔が絶望に染る。
例えるならそうムンクの叫びが一番近いような気がする。
「いつまでも避けては通れないからな……そろそろ女性との付き合い方と言うのを学べアルフ」
「そうはいっても……どうしたらいいか……」
見るからに自信の無い心配そうな雰囲気が漂っているアルフ兄さんにちゃんと考えがあると言わんばかりの父さん。
「それは先達者に聞くべきだろうな。
――――エドは居るか?」
父さんがそう言うと恐らく入口のドアの前で待機していたのであろう男性執事が入ってくる。
「お呼びでしょうか?旦那様」
「その呼び方は人前だけで良いと言ってるだろエド」
「はて、そんなことをおっしゃいましたでしょうか?」
父さんと親しげに話すエドと呼ばれた男性執事――――エドワードは優しげに笑みを浮かべた。
「全く……そんなことより頼み事がある」
「なんなりとどうぞ」
「アルフに女性との付き合い方を教えてやってくれ」
「……なるほど。
よろしいのですか?旦那様。
そのようなことを私がお教えしても?」
そう言うエドワードの瞳が怪しげに光ったような気がする。
たまにエドワードから昔の話を聞いている俺としてはあんまりおすすめ出来ないのだが、父さんはその気のようだ。
――――エドワードは父さんの幼なじみであり、昔冒険者をしていた時のパーティーメンバーの一人なのだという。
当時はかなり遊んでいたそうで詳しくその話を俺が聞こうとするとどこからともなくメイドが現れてエドワードを回収し、俺を遠ざけていくため、教育上あまり宜しくない程なのだろう。
「まぁ、程々程度でな。
アルフももう12歳だそろそろお前の話を聞いても分別がつくだろう」
「かしこまりました。
それでは私自身の体験談を絡めつつお教えさせていただきます」
「……くれぐれも初めから飛ばさないようにするんだぞ?」
「心得ております旦那様」
エドワードはにっこりという擬音がぴったりな程の笑顔を浮かべアルフ兄さんに視線を一瞬向けると、優雅に一礼してこの場を去っていった。
「アナタ……確かにぴったりの人選だけれど……初めからエドワードに教えさせるの……?」
「……ま、まぁ悪いようにはしないだろ。
それに初めから上の段階を知ることでその分度胸がつくという可能性もあるからな!」
「……アルフ、何か変なことを教えられたら私にちゃんと報告してちょうだい?」
「ちょっと待って僕はどんなことを教えられるの?!」
父さんと母さんのやり取りから自分は一体どんなことを教えられてしまうのかと恐怖に怯えるアルフ兄さん。
いずれは俺もエドワードに教わるときが来るのだろうかと思いながらもしばらくは関係ないかと食事を楽しむことにした。
――――その翌日、俺は【王国立ガルハルド学園】への入学希望届を提出したのであった。