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12 終わりよければ全てよし

 唐突な貴人の出現に、唖然としてしまう。だがすぐに我に返ったルーナは、内心慌てて、だが振る舞いは優雅に立ち上がった。

 膝を折り、深々と頭を下げる。ヴィクトルも同様に礼を取っていたが、ジョナサンだけは悠然と座したままだった。

 セラフィナが明るい声で言う。

「まあ、まあ、まあ。ジョナサンの血筋とは思えない、なんて礼儀正しい子たちなのかしら。さあ、顔を上げてちょうだい。ここは王城ではないし、わたくしもただの侯爵夫人よ。それに非公式な席なのだから、無礼講にしてしまいましょうね」

 ジョナサンが辟易したふうに息を吐く。

「……これで分かっただろう? セラフィナ王女はこういう方だ。真面目に相対しては、こちらが馬鹿を見ることになる。だからおまえたちも言われたとおり、顔を上げて席に着け。話が進まん」

「まったく、あなたは相変わらずねえ。その性格の曲がり方で、よくもまあ結婚できたものだわ。しかもご息女は、あなたには似ても似つかない良い子じゃない。婚約者がいなかったら、うちにお嫁に来て欲しいくらいだわ」

「馬鹿馬鹿しい。ご子息は、ふたりともに既婚者でしょう。重婚は罪ですよ、諦めてください」

 ばっさりと切り捨てるような物言いに、ルーナは取り繕った表情の裏でぎょっとする。

 王弟リクハルドと対峙したヴィクトルもなかなかの不敬だったが、ジョナサンのそれも負けず劣らずである。

 ルーナは内心はらはらしながら面を上げて、セラフィナに目礼してから再び腰を下ろした。王族とは思えない気軽さで同席したセラフィナが、しみじみと言った。

「本当に、男爵夫人によく似ているのね。愚かな叔父上があなたを見て、妙な気を起こしたくなったのも当然だわ。……ルーナは男爵夫人が以前、王弟リクハルドの婚約者候補だったことは知っていて?」

「はい。今回のことがあって、父から聞かされております」

 質問の意図が掴めず、内心で首を傾ける。するとセラフィナはいたずらっぽく微笑んでみせた。

「どうしてそんなことを? って顔をしてるわね。そう思いたくなる気持ちはよく分かるわ。でもね、そもそもの発端はそこにあるのよ」

 そう言って、セラフィナはジョナサンに視線を当てた。

「あなたの個人的な事情に、少し触れることになるのだけれど、構わないかしら」

「私が嫌だ、と言ってもあなたは聞かないでしょう。どうぞお好きになさってください。ただ、間違いや行き過ぎた点があれば都度指摘しますが」

「そうね、そうしてくれるとわたくしも助かるわ」

 セラフィナがにっこりと微笑う。

 彼女は王族らしい穏やかな笑みを浮かべたまま、はきとした口調で言った。

「王弟の婚約者候補だった男爵夫人――当時の侯爵令嬢は、才色兼備で知られていたの。作りもののように美しく整った顔立ちに、令嬢として完璧な振る舞い、素晴らしい知性の持ち主でもあった。わたくしが王子として生まれていれば、その妃となってもおかしくなかったくらい。だから他に候補がいないこともあって、リクハルドの婚約はほぼ確定していたの」

 でもね、と言ってセラフィナは不愉快げに眉根を寄せる。

「リクハルドは底抜けの愚か者で、婚約者候補を大事には扱わなかった。それどころか彼女の目の前で、堂々と火遊びまでしてみせたの。見たくもないものを見せられた彼女は、冷静に手際良く婚約者候補から退いてみせた。そのせいで両親から辛く当たられたのだけれど、そんな彼女の苦境を救ったのがジョナサンだったのよ」

「……話が本題から逸れていますよ、王女」

「相変わらず細かいわね。ほんの少し脇道に入ったたけじゃない。――とにかく、侯爵令嬢に逃げられた一連の物ごとは、リクハルドにとって致命的な失態だった。外戚となる価値もないと見做され、彼を担ぎ上げる一派からも見捨てられてしまった」

「あの当時、権力図の移り変わる様はなかなかに愉快だったぞ。……その一方、渦中にいるスヴァルト公爵は、まるで堪えた様子がなかった。どころか逃げられたことで惜しくなったらしく、おまえの母に妙な執着を見せ始めたのだ」

「執着、ですか?」

「下世話過ぎて口にするのも不愉快だがな。……スヴァルト公爵が言うには、他の男と結婚する前に可愛がってやれば良かった、だそうだ。さらには愛人として囲ってやる、などと寝言もほざいていた。であれば愚かな真似ができないよう、気を利かせるのが臣下の務めだろう。よって公爵の資金源を少しばかり潰させてもらった」

 セラフィナが呆れた声で言う。

「資産のほとんどを取り上げておいて、少しばかり、とは良くも言えたものね。おかげで大人しくはなったけれど、他の厄介ごとを引き寄せてしまったわ。ヴィクトルを担ぎ出したのだって、そこに遠因があるのではなくて?」

 不意打ちのように名を出されたヴィクトルが、微かに息を詰める。

 確かにリクハルドが金に困っていなければ、先王妃の遺産にこだわる必要はなかっただろう。孫を見せる必要がなければ、婚外子であるヴィクトルは放置されていたに違いないし、ここまでの苦労を味わうことはなかったはずだ。

 ルーナは苦い思いでいっぱいになったが、それを馬鹿馬鹿しい、のひと言で切り捨てたのはジョナサンだった。

「それは結果論に過ぎません。そもそも今回の件で根本的な原因があるとすれば、それはスヴァルト公爵の愚かさにある。あれが愚かでなければ、今のように金に困ることはなかったでしょう。さらに言えば、婚約者候補に逃げられることもなく、今ごろは王弟として権力を恣にしていたはずだ。スヴァルト公爵の現状は、すべて彼自身に責がある。それを他所に向けるのは止めていただきたい」

「……そうね、あなたの言うとおりだわ。ごめんなさい。わたくしが言葉を間違ったみたい」

 王族とは思えない容易さで謝罪を口にして、セラフィナはしょんぼりと肩を落とした。

 ヴィクトルに気遣わしげな目を向ける。

「ヴィクトルも、ごめんなさい。今のことだけではなく、あなたにずっと謝りたいと思っていたの。あなたのお母さま……レイチェルはわたくしの友人のひとりだった。リクハルドが馬鹿なことをしなければ、きっと今も親しくしていたでしょうね」

「……では当時の母になにがあったのか、セラフィナさまもご存知だったのですね」

「ええ。でもわたくしがそれを知ったのは、すべてが終わってからだった。……後悔してもしきれないわ。王族であるわたくしだけが、彼女を守ってあげられたのにね」

 苦い声で言う。ヴィクトルは軽く目を伏せてから、僅かに強張っていた表情を緩めて言った。

「過ぎたことを責めるつもりはありません。大事なのはこれからでしょう。そしてセラフィナさまがここにいらっしゃる、ということはつまり、私たちに力添えをいただける、と判断して構いませんか?」

「ええ、もちろん。レイチェルの件で激怒して締め上げてから、リクハルドはわたくしには逆らえないの。だからあなたたちの身の安全と、婚約はわたくしが責任を持って保証します。安心してちょうだいね」

 にっこりと言う。

 ルーナにとって最大の懸念が解消されて、思わず安堵の息が漏れてしまう。王族を敵に回す重圧感は、そうと自覚する以上の負担がかかっていたらしい。隣でヴィクトルも緊張を緩めたのが分かる。

 一方ジョナサンは平然とした表情を崩さず、無感動な声の調子で言った。

「そう言ってくださるのは助かりますが、先王妃の存在は厄介ですよ。降嫁した侯爵夫人では、荷が勝ちすぎるのでは?」

「その点なら心配は要らないわ。お祖母さまが所有する資産は、侯爵家がほとんど押さえてしまったから。王族は誰も彼も商売が下手だから、代わりに運用すると言ったらふたつ返事で任せてくださったわ。それに……ここだけの話、お祖母さまはもう長くないの。意識はしっかりしているのだけれど、ベッドに身を起こすのも難しいみたい。侍医の見立てによると、長くてあとひと月だそうよ」

 とんでもない秘密をさらりと暴露したセラフィナは、それを気にしたふうもなく後を続けた。

「そうそう。リクハルドのお気に入りだったクリスタ嬢だけれど、彼女は我が家で預からせてもらっているの。どうしようもない碌でなしの叔父は、不思議と女性の趣味だけは良いのよね。クリスタ嬢は良い子だし、ご子息もとても素直で賢いのよ」

 それを聞いたヴィクトルが、難しい顔をして口を開いた。

「……平民の子が抑止力となるのは、先王妃が健在であればこそです。であれば先王妃が逝去なさった後、セラフィナさまは彼女たちをどうなさるおつもりですか?」

「もちろん、引き続き援助させてもらうわ。だってクリスタ嬢のご子息――名前はニコラウスと言うのだけれど、彼はわたくしの従兄弟ですもの。彼がどのような道を選んでも良いように、できる限るのことはするつもり。そしてそれはヴィクトル、あなたにも言えることなのよ」

「――私、ですか?」

 驚いて返すヴィクトルに、セラフィナが優しげな眼差しを向ける。

「だって、あなたもわたくしの従兄弟じゃない。それにレイチェルの大事な息子でもある。彼女にはなにもできなかったし、させても貰えなかったけれど……だから、せめてあなたの役に立たせて欲しいの。そうすれば、ルーナを守ることにも繋がるわ」

 今度はルーナが戸惑う番だった。どう反応すれば良いのか分からず、思わずジョナサンに視線を向けてしまう。だが父は肩を竦めるばかりで、口を開こうともしなかった。その代わりにセラフィナが後を続けた。

「リクハルドが妙な気を起こした、と言ったでしょう? 叔父は男爵夫人に執着していたけれど、ことを起こそうにも彼女は社交界から距離をおいて、そのまま早逝してしまった。手を出せなかった分、余計にこだわりが残ってしまったのね。それで今度は、彼女に生き写しのルーナに目をつけた」

 ジョナサンがうんざりと息を吐く。

「その動きに気づいたのは、ルーナが社交デビューする以前のことだ。いくら相手が王族とは言え、父親と歳の変わらない男の元へ娘をやる気にはなれん。それにメイヴィスは男爵だからな。身分に隔たりがあってルーナは妃にはなれない。つまり最初から、愛人として囲うつもりだったのだろう」

 聞くだけで吐き気のする話だ。

 母への固執も不気味だが、それを娘であるルーナに向けているのもぞっとする。思わず顔を顰めてしまったルーナの横で、ヴィクトルが苦々しい声で言った。

「……リクハルドの本命は、まさかそれですか? 俺を後継として遇する一方、身分が相応しくないという理由で婚約を破棄させ、ルーナを傷物とすることで愛人として得る。先王妃の遺産も、その口実に過ぎなかったのでは?」

「いや、スヴァルト公爵が金に困っていたのは事実だ。おそらくは金もルーナも手に入れる、一挙両得を狙ったのだろう。……それを成し遂げられほどの知能は、残念ながら持っていなかったようだが」

 微塵も取り繕わず不敬を吐く辺り、ジョナサンも相当に腹に据えかねていたのだろう。

 気持ちは分かる、と内心で頷いたルーナは、ふと首を傾けた。

「あの、お父さま。もしかしてヴィクトルとわたくしの婚約も、スヴァルト公爵の手出しを防ぐ手段だったのではありませんか?」

「……オルスト伯爵の申し出が、渡りに船だったことは否定しない。とは言え、ヴィクトルを婚約者に据えたのは、見込みがあると判断したからだ。横槍を入れるのが難しい相手であれば、おまえの婚約者がオルストである必要はなかったからな」

 ヴィクトルが得心したふうの息を吐いた。

「なるほど。だから俺がオルストの血筋でないと知っても、婚約を解消しなかったのですね……。どうにかしてルーナを解放するつもりが、ただ空回っていただけとは我ながら情けない」

「他に漏れないよう、徹底して伏せていたのだから当然だろう。そしてそれと同様のことが起きていたからこそ、おまえがスヴァルト公爵の胤だったことも分からなかった、という訳だ。……おかげでこちらも後手に回ることになったのですが、オルスト伯爵夫人に過去、なにがあったか教えてくださっても良かったのでは?」

 ちらとセラフィナを見遣って、ジョナサンが皮肉げに言う。

 水を向けられたセラフィナは、だが王族らしく上品に微笑んでみせた。

「まあ、言うわけがないじゃない。淑女にとって、あれ以上に不名誉なことはないわ。わたくしは彼女の信頼を失ってしまったけれど、だからと言って不義理を重ねるつもりはありません。そんなものは愚か者のすることよ」

 おっとり穏やかな口調で、だがきっぱりと言う。

 これだけでもセラフィナとジョナサンの、どちらの理がとおっているかは明らかだった。ジョナサンを容易く言い負かしセラフィナは、焦げ茶の瞳を挑むように光らせた。

「それなら、わたくしも言わせてもらうわね。ジョナサン、あなたルーナへの襲撃を返り討ちするついでに、リクハルドの弱味を握ったのではなくて?」

「……分かっていて訊くのは、質問とは言いませんよ」

「そうやって揚げ足を取るのは止めて、良いからさっさと情報を寄越しなさい。あの愚か者が自分の血統を餌に、外国への逃亡を図ろうとしていることは分かっているのよ」

 ジョナサンがうんざり息を吐く。

「そこまで掴んでいるのなら、私の情報など不要なのではありませんか?」

「徹底的に潰すには、確実な証拠が要るのよ。分かるでしょう?」

 王族にそう言われてしまえば、さしものジョナサンも従うしかないようだった。少し席を外す、と言ってセラフィナに目配せする。ふたりは広い室内の一角、窓際に置かれたテーブルセットに場所を移すと、声を落として話し始めた。

 穏やかではない単語が、ちらほら漏れ聞こえてくる。それに気づかないふりをしていると、ヴィクトルが微苦笑を浮かべて口を開いた。

「……あの方が俺の従姉弟か。王弟とは似たところがまるでないが、叔父と姪ならそういうものだろうか。俺に至っては、共通点がなにひとつ見当たらないな」

「氏より育ち、と言うものね。でもあなたの思い切りの良さと、セラフィナさまの豪快さは少し似ている気がするわ。それに聡明なところもね」

「俺はともかくとして、あの方は確かに王弟と違って頭の良い方だ。一見すると朗らかさと勢いで誤魔化されそうになるが、物ごとを良く見ている。メイヴィス男爵を重用している点も、一筋縄ではいかない感じがするな……」

 溜め息混じりに言って、ヴィクトルは話し込むふたりに視線を向けた。

「メイヴィス男爵と王女に親交があることを、きみは知っていたか?」

「いいえ、まったく。父の顔の広さは承知していたけれど、まさか王族と直接の面識があるだなんて考えもしなかった。しかも、あんな態度を取れるほど親しいなんて。驚きだわ」

「メイヴィス男爵のあの態度は、それを許す王女の度量の深さがゆえだろう。……これは口にすべきではないのかもしれないが、女性であるのが惜しい方だ。王子として生まれてきたなら、良い王となっただろうな」

 ルーナは頷こうとして、だが覚えた引っかかりに首を傾けた。

「でも王女だからこそ、わたくしたちの力になってくださった、とも言えるのではないかしら。王が優先すべきは国だもの。そうやって大局で物ごとを見てしまえば、取りこぼすものは少なくない。今回のことで言えば、ヴィクトルのお母さまや、クリスタ嬢は見捨てられていてもおかしくなかったわ」

 王族の血を引く婚外子など、どう考えても厄介ごとにしかならない。

 なかったことと見做されるだけならまだしも、存在ごと消されてもおかしくなかったのだ。そしてルーナに至っては、無難にことを済ますために、リクハルドに充てがわれていた可能性だってある。

 今のこの状況が、さまざまなめぐり合わせの結果と思えば、ヴィクトルと共にいられることは奇跡のように思えてならなかった。

 たまらない気持ちになって、ルーナはそっとヴィクトルに手を伸ばした。

 指に触れるとすぐに握り返してくれて、その距離の近さが擽ったくて愛おしい。彼との結婚を阻むものはもう無いのだ、と思うとほっとして肩から力が抜けるのが分かった。ふわふわと幸せを噛み締めていると、不意にヴィクトルがルーナの耳元に唇を寄せて言った。

「今だから言えることだが、きみと別の国に行くのも面白いと思っていたんだ。俺はきみがそばにいてくれさえすれば、それで充分だからな。きみと共に生きられるなら、その場所がどこであろうと構わないし、身分や名前ですらどうでも良いと思っている。俺にとって大事なのは、きみだけなんだ」

「それはわたくも同じ気持ちだけれど……でも、できれば結婚式を挙げるなら、国内の方が嬉しいわ。せっかく準備を進めてきたのに、無駄になったら悲しいもの」

「だが国を出てしまえば、余計なしがらみも古い慣習も関係がなくなる。明日にだって、きみを俺の妻にすることも可能だ」

 それは困るわね、と呆れた声で言ったのはセラフィナだった。

 いつの間にジョナサンとの話し合いを終えたのか、堂々とした様子で長椅子の脇に立っている。どうやらヴィクトルが囁く声も聴いていたらしく、年長者らしい嗜める口調で言った。

「あなたちの結婚式には、わたくしも参列する予定なの。それなのに外国に行かれたら、ルーナの婚礼衣装が見えないじゃない。いい? コート・サウラが初めて作る婚礼衣装なのよ。それがどれだけの価値があるのか、オーナーのルーナなら理解しているでしょう?」

 前のめりに問われて、ルーナは睫毛を瞬かせた。

 セラフィナが参列するのも初耳だが、コート・サウラを贔屓にしていることも初耳だった。だが言われてみれば彼女が今夜着ているドレスは、今年のシーズンに合わせて作ったいくつかの物に印象が似ている。

 おそらく、男爵家の娘が経営するドレスメーカーを王族が利用する訳にはいかず、それで雰囲気を寄せてつくらせたのだろう。

 顧客となって貰えなかったのは残念だが、ともあれ気に入ってくれたならなによりだ。ルーナはセラフィナを見上げ、商売人の顔でにっこりと微笑んでみせた。

「セラフィナさまに認めていただけていたなんて、これ以上に光栄なことはありません。ウェディングドレスは流通させる予定はないのですが、意匠担当も針子たちも頑張ってくれているので、わたくしもとても楽しみにしているんです」

「まあ、流通させないの? なぜ?」

「コート・サウラは小さなドレスメーカーですから。針子の数も多くありませんし、ウェディングドレスのように手間のかかるものを作ると、儲けが出なくなってしまうんです」

「そうなのね……。そういうことなら、残念だけれど仕方がないわ 。ルーナが着ている姿を見て、それで良しといたしましょう」

 セラフィナは参列する気でいるようだが、果たして王族にそれが許されるのだろうか。

 ルーナは思わず首を傾げてしまったが、遅れてやって来たジョナサンが溜め息混じりに言った。

「娘の慶事を祝ってくれようと言うのですから、来るなとは言いません。ただ王族が来るとなれば騒ぎになりますから、せいぜい周囲にばれないようにしてください」

「それは任せて。――ああ、そうだわ。あなたたち、良ければ今夜はここに泊まっていってちょうだい。話をしていたら、ずいぶんと遅くなってしまったし。それにリクハルドの後始末も少し残っているから、安全のためにも、ね?」

 王女直々の申し出である。断れるはずがない。それでルーナたちはありがたく客室を借りて、落ち着かない思いで一晩を過ごしたのだった。

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