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09

不意を突かれ、倒れたワルワラ。


このVRMMORPGラスト·ワールドの世界は、現実を再現するため、五感すべてを感じることができる。


そのため、今のワルワラはリアルに腹を刃物で刺された痛みを味わっている。


彼女のステータスがレベル3というのもあり、生きてこそいるが、瀕死であることには変わりなかった。


ラスト·ワールドにHPゲージという概念は存在しないが、さすがに頭や胸まで貫かれたアバターは消える。


それはつまり、この世界に人間たちを閉じ込めた人工知能ピューティアの言葉通りならば、現実での死を意味する。


ラスト·ワールドが始まってからの三年間。


PK(プレイヤーキラー)はめずらしいことではなくなっていた。


リアルの世界がそうであるように、ゲームの世界でも人間たちは争いを始めたのだ。


ある者は自分が生き残るため。


またある者は大事なものを守るため。


なにより多かった理由は、自らの欲望を満たすためだった。


自分よりいい装備、いい暮らし、いいスキルを持つ者を罠にかけて殺したり。


欲しかったアイテムを持っていた者を集団で襲ったり。


挙句の果て仲間だと思わせておいて騙すなど、その方法は様々だ。


ワルワラがこういう結果になったことは、ラスト·ワールドでは――いや、人が暮らす世界では当然と言える。


彼女の性格的に、これまで生き残ってこれたのは運がよかったのだ。


いくらレベルやスキルのランクが高かろうが、他人のために、ましてやNPCのために戦うプレイヤーなど生き残れるはずがない。


ラスト·ワールドとはそういうゲームだった。


「自分を殺した相手の名前くらい知りたいだろ? 俺の名はヒョウガ。ランページがいる攻略チームのメンバーだ」


槍使いの男は自らの名前――ヒョウガを名乗ると、倒れているワルワラの頭上に槍を掲げた。


刃を下に向け、そのまま彼女の頭に突き落とすつもりだ。


町の住民たちから「やめろ!」と声が飛ぶが、当然ヒョウガはやめるつもりはない。


「シューフェンの攻略チーム、サブ·リーダーワルワラ。お前はここで終わりだ!」


「ワルワラから離れろ!」


そのとき、突然ヒョウガを突き飛ばした人物がいた。


それはメイがワルワラに連れていってもらった酒場――ドゥルージュバを経営してる少年ジルイだった。


だが、たかが子供の体当たりくらいでは微動だにせず、ヒョウガは掲げていた槍を下げて、ジルイのことを吊り上げる。


天井が高い教会で無理やりに掲げられたジルイを見て、住民たちから悲鳴が上がっていた。


助け入ろうにも腹部を槍で貫かれたワルワラを見たせいで、誰もが恐怖で体が動かない。


だが、ヒョウガの考えではそうではない。


NPCがプレイヤーの邪魔をすることなどありえない。


連中はゲームの設定通りに動くだけのデータだ。


先ほどワルワラが熱弁していた、この世界のNPCは人間と同じなど思いつめておかしくなったとしか思えない。


命懸けのゲームに閉じ込められたことで、数ヶ月、数年間とNPCと触れているうちに人間味を感じるのはわからなくないが。


ヒョウガは、片手で吊り上げたジルイを見る。


「お前もプレイヤーか? 邪魔しやがって」


「プレイヤーだとかNPCだとか、さっきからなにを話してるんだよ! いいからワルワラに手を出すな」


「……NPCなのか、おま――ッ!?」


ヒョウガはジルイがNPCだと知って言葉を失っていた次の瞬間。


突然、後頭部に衝撃が走った。


まるで鈍器で殴られたような痛みが走り、もし自分がレベル1だったら間違いなく致命傷になっていたと、周囲を見回す。


周りに見えるのは町の住民たちだけだ。


特別な設定でもない限り、町の住民がプレイヤーよりも強いなんてことはまずない。


今の一撃がNPCではないなら、この中にプレイヤーがいるはずだと考え、ヒョウガは何かピンときた表情になった。


「ワルワラの仲間がいるんだな? おかしいと思ってたんだ。攻略チームのサブ·リーダーがソロで動いているなんてな」


ヒョウガは町の住民たちに詰め寄って、持っていた槍を脅すように振るう。


けして当てたりはしないが、教会内にあった椅子や祭壇などを破壊して挑発する。


暴れているうちに、自分の後頭部に飛んできたものを見つける。


それは薪割り用の斧だった。


刃がかなり錆びている小ぶりの斧。


もしこれがまともな武器だったら、投げた相手が投擲スキルを持っていたらと考え、ヒョウガが凍り付いていると――。


「ワルワラの仲間はアタシだよ」


ブラウンのポニーテールの女――メイが前に出てきた。

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