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07

前へと出たワルワラには、シベリアン·ウルフの群れと一人の男の姿が目に入った。


身長170cmほどで灰色の鎧を身にまとい、手には槍を持っているのが見える。


165cmのワルワラと155cmのメイと比べると大きいが、男性にしてはそうでもない。


衛兵が言っていた人間だと思ったワルワラは、モンスターへ飛び込まずに男の隣へと並んだ。


「向こうは片付けたわ。あとはこっちだけ」


ワルワラが声をかけたが、男は無反応だった。


その態度に少し苛立ったワルワラだったが、状況が状況なだけに感情を抑える。


対峙したシベリアン·ウルフの群れは、十匹、いや二十匹はいるだろうか。


よくこれだけの数を押さえていたなと、男が頼りになる人物だと思考を切り替えた。


チラリと並んだ男の顔を見る。


男の容姿は無精ひげが生えた中年。


少しだらしない体型のわりに、顔は若いというよりは幼く見える。


武器は槍だ。


剣よりも長いため、モンスターを取り逃がさない戦い方がしやすかったのだろう。


それでも大したものだし、取り逃がした三匹は、衛兵が止めてワルワラが始末した。


ともかく男のおかげで町の住民に被害が出ていないことはたしかだ。


「ワタシが前に出るから、あなたはサポートをお願い」


「……嫌だ」


「へッ?」


思ってもみなかった返事にワルワラが調子はずれな声を出すと、男はシベリアン·ウルフの群れへと突進していく。


槍を風車のように振り回し、その姿はまるで中国武侠ものに出てくる武人のようだった。


「ちょっとあなた!? 勝手に突っ込んじゃ危ないってッ!」


ワルワラのことなど気にせずに、槍使いの男はシベリアン·ウルフの群れを打ち倒していく。


刺突、斬撃を使い分け、その体型からは想像もできない身のこなしで暴れ回る。


そのあまりの手際の良さにワルワラが呆けてしまっていると、ニヴァの鳴き声が聞こえた。


「あの人、かなりフルダイブ系のゲームに慣れてる感じだね」


下がっているようにいったメイが、いつの間にかワルワラの隣に並んでいる。


彼女は槍使いを見て、自分と同じフルダイブ系VRMMORPGの経験者の動きだと、その戦い方を見て感心していた。


言うことを聞かずに出てきたメイをワルワラが睨むと、ニヴァは彼女の肩にピョンっと飛び乗って、ポンポンと叩いた。


相変わらず無愛想な表情のままだが、「まあまあ、そんな怒らなくても」とでも言いたそうな態度だ。


ニヴァに諭されたワルワラが落ち着きを取り戻すと、槍使いの男に加勢するため、シャーシュカを構えて敵へと突進。


剣術スキルの効果でライト·エフェクトで輝く剣を突き、シベリアン·ウルフの群れを貫いていく。


槍使いの男は加勢しに現れたワルワラを見て舌打ちすると、槍を構え直した。


すると、ワルワラと同じように槍にライト·エフェクトがかかって輝く。


そして一閃。


放たれた男のスキル技が、残っていたシベリアン·ウルフたちを蹴散らし、光の粒子となって消えていく。


これで一匹残らず始末した。


ワルワラと槍使いの男の活躍で、モンスター襲撃は撃退できたのだが――。


「お、おいお前。なに勝手に入ってきてんだよ」


男はワルワラに突っかかってきた。


どうも自分の戦いに乱入してきたことが気にくわないらしい。


「はぁ? なに言ってんのよ、あんた」


それでもワルワラとしては、町の人のことを考えたら、さっさとモンスターを倒してしまったほうがいい。


だから加勢したのだと言い返したが、男は納得するどころか、さらに不機嫌そうに顔を歪めた。


まばらに生えた髭面でワルワラへ詰め寄り、ただ何か言いたそうにモゴモゴと口を動かしている。


「なによ。なんか言いたいことあるなら、ワタシの目を見てハッキリ言いなさい」


「……これだから女は嫌なんだ」


「あん? 今なんか言った? 女がどうとか聞こえたけど」


ワルワラが負けじと詰め寄ることで、ここで二人の目が合った。


すると、男はハッと何か気がついた顔をして、先ほどのおどおどした態度から一変する。


「お前、シューフェンとこの奴じゃないか? たしかサブ·リーダーのワルワラ……」


「……昔の話よ。で、それがどうしたの?」


ワルワラの表情が曇る。


対して槍使いの男の口角は上がっていた。


「そうか。じゃあ、お前がワルワラなんだな。フフ、こいつは良い土産になりそうだ」


「さっきからなんなのよ、あんたは! なんか気持ち悪いんだけど!」


ワルワラが声を張り上げると、槍使いの男はニヤニヤしながら何も言うことなく去っていった。


二人の会話を聞いていたメイは、ワルワラに近づくと声をかける。


「なんか揉めてたけど、大丈夫だったの?」


「よくわかんない。でも、あの男が町を助けたの事実だし、気にしなくていいでしょ」


不機嫌そうに返事をしたワルワラを見て、彼女の肩に乗っていたニヴァが長い耳を寝かせて鳴いている。


その無愛想な顔はそのままだが、どこか心配そうだ。


それからメイとワルワラは、避難場所である教会へと向かった。


町にいたモンスターを倒したことを伝えにいくためだ。


その途中で、メイがワルワラに声をかける。


「ねえ、ワルワラ。さっきあの人と話していたこと、あたしも知りたいんだけど」

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