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03

二ヴァは何をするでもなく、メイの肩に乗ったまま目を細めてる。


メイは自分の肩でたたずむミニウサギみたいな毛の塊を一瞥すると、隣の席にいるワルワラのほうを向いた。


「その前にいい?」


「いいわよ。二ヴァのことでしょ」


ワルワラはなぜだか得気な表情になって、小動物について話し始めた。


なんでもミニウサギみたいな毛の塊は、彼女がとあるダンジョン攻略したときに、洞窟内で倒れていたらしい。


現実とほぼ変わらないVRゲームとはいえ、ステータス画面もモンスターもいる世界である。


クリア報酬だと思い、攻略後は二ヴァと名付けて面倒をみているのだそうだ。


「ちなみに二ヴァっていうのはワタシの国のオモチャの名前から取ってるんだ。ゲーム的にはNPC扱いなんだろうけど、今ではすっかりワタシの相棒よ」


「で、二ヴァってウサギなの? 耳は長いけど、ちょっとばかり丸すぎない?」


メイは肩に乗った二ヴァを手に取ると、両手で包むように抱いた。


細めた目からは赤い瞳が見える。


媚びた様子もなく、二ヴァはただメイのことを見つめ返すだけだ。


森でも思ったが、ずいぶんと愛想のない子だなと、メイはワルワラに思ったことを言った。


「そこがこの子の特徴よ。可愛げがないところが可愛いの。無愛想だけど人懐っこいし」


「うーん。わかるようなわからんような……。でも、可愛いとは思う」


メイがじーっと見つめていると、二ヴァは彼女の手をすり抜ける。


そしてピョンと跳躍して、再びメイの肩に乗った。


それを見ていたワルワラが言うには、二ヴァは気に入った人間の肩に乗りたがる性格のようだ。


さらに人の善し悪しがわかるようで、ワルワラの旅のお供として、知らない人間の善悪を判断をするときにも役に立つらしい。


「よかったわね。あなたは悪い人じゃないってさ」


「なるほど。二ヴァにそういう能力があるなら、ダンジョンで手に入ったって話にも繋がるね」


二ヴァの話が終わったとき、ジルイが酒と料理を運んできた。


黒いパンとスープにサラダ、あとはメインディッシュの肉の盛り合わせだ。


アルコールのほうは、グラスにスライスされたレモンが入った透明の液体が見える。


「はちみつレモン入りウォッカよ。さあ、乾杯しましょう」


グラスを片手に意気揚々と声をあげたワルワラに、メイもグラスを手に取って杯を重ね合わせた。


すると乾杯を終えた瞬間に、ワルワラはグラスに入った酒を一気に飲み干していく。


余程喉が渇いていたのか。


彼女がもう一杯同じものを注文している横で、メイもはちみつレモン入りウォッカを飲んでみた。


「うッ!? このお酒……きつすぎるよ。とても昼間から飲むお酒じゃないって」


広く流通している一般的なウォッカのアルコール度数は40度ほどである。


これはウイスキーとほぼ同じアルコール度数で、日本で親しまれている日本酒のアルコール度数15度ほどであることからも、ウォッカのアルコール度数の高さがうかがえる。


ワルワラは、それをほぼ割りもの無しで飲み干して、次のグラスを口に付けている。


メイはそんな彼女を見て呆れると、ジルイにお願いしてなんでもいいから薄めてほしいと頼んだ。


「そりゃそうだよね。ワルワラみたいに飲める人なんていないもん」


「ちょっとジルイ。それじゃワタシが飲んだくれ女みたいじゃないのよ。ワタシの国じゃこれくらい普通よ、普通」


メイは日本人で本名は芽衣(めい)という。


ワルワラのアカウント名が本名かはわからないが、容姿を見る限り白人女性だ。


このVRMMORPGラスト·ワールドでは、プレイヤーのアバターが現実の姿を再現されるため、メイは彼女と会ったときから自分とは違う国の人間だと理解していた。


ならば国の違う二人がどうして会話ができているのか?


それもこのゲームの特徴で、言語はすべてプレイヤーがわかるように変換され、本人の声質のまま相手に伝わるようになっている。


アルコールを薄めてもらい、食事を楽しみながら話を再開するメイとワルワラ。


メイは先ほどのことを無視して、このゲームのことばかり質問してきた。


(わずら)わしいと思いながらも、ワルワラは彼女に知っていることをすべて伝える。


ラスト·ワールドは中世ヨーロッパをモチーフにしてはいるが、ゲームユーザーにリアリティを感じてもらうためにあえて魔法がない設定になっているらしいこと。


この架空の世界には当然のようにモンスターも現れ、さらには人々を脅かす存在――四つの塔があることを。


「じゃあ、次こそワタシの番ね」


ワルワラが訊いたのは、メイが口にしていた“このゲームをクリアするためにログインした”ということだった。


それも当然の質問だった。


ワルワラを含め、このゲームにログインしているプレイヤーは全員、自分の意思でプレイしているだけではない。


それは、とある人工知能が起こした事件によるものだった。


今から三年前――。


AI人工知能研究者としても知られる本庄悟郎によって、革新的な人工知能ピューティアが開発された。


これにより世界はピューティアにより管理され、人は働かずともすべてを機械がやってくれるようになった。


さらに世界のリーダーたちは、超高齢化社会、人手不足が招く経済成長の鈍化、資源の枯渇、各国の紛争などの問題解決にまでをピューティアに任せると決定。


これが引き金となり、ピューティアは暴走した。


世界に必要ないのは人であると結論付け、片っ端から人間を捕えた。


機械に捕まった人間たちは、ピューティアが管理するVRゲーム――ラスト·ワールドへと送られる。


ピューティアは仮想現実に捕らえた人間たちに()いた。


ゲーム内での死は、現実の死であると。


《この世界で人としての尊厳を取り戻しなさい。さすれば解放される。ですが、もし現実と同じことを繰り返すのならば、この世界はより過酷なものとなるでしょう》


クリアを目指す者、諦める者などに分かれ、捕らわれた人間たちは架空の世界ラスト·ワールドを生きていくことになった。


この事件の元凶であるピューティア開発者の本庄悟郎は、逃げ伸びた人間たちによって投獄され、処刑を言い渡されているのが現状だった。


そんな牢獄のようなVRゲームに、どうしてわざわざ自分からログインしたのか、ワルワラはそのことが聞きたかったのだが――。


「ウプ……気持ち悪いぃ……」


二杯目のアルコールを飲んだ後、メイの顔が真っ青になっていた。


どうやら薄めてもまだアルコールの度数がきつかったらしく、彼女は今にも嘔吐(おうと)しそうな声を出しながら、カウンター席で伏せてしまっている。


これにはさすがの二ヴァも心配になったのか。


メイの肩から降りて、彼女に向かって鳴いていた。


「お酒、弱かったのね、あなた……。美味しそうに飲んでたから、てっきり好きだと思ってたんだけど……」


「好きとはお酒の強さは関係ないでしょ……ウプッ」


意識はちゃんとしていそうだが、これではとても話などできそうにない。


「ま、いっか。いつでも聞けるし。ジルイ、もう帰るよ」


ワルワラは、そう焦ることはないかと思うと、カウンター席に代金であるルビーを置いた。

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