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02

――メイはワルワラの案内で森を出て町へとたどり着いた。


そこは、この架空世界ラスト·ワールドの地図でいうところの中心にある場所だ。


大きさはそれほどではないが、武器、防具、道具と旅に必要な店はそろっている。


当然プレイヤーが眠るための宿屋もあり、町へと入ったメイたちはとりあえずワルワラが借りている部屋で休むことにする。


「あなた、所持金はどのくらいあるの?」


「えーと、ちょっと待って」


メイは指を動かし、自分のメインステータス画面を開く。


宙に浮かぶステータス画面を出せるのは、VRゲームでは当たり前の動作だ。


そこには彼女の現在のレベルとアカウント名、所持金が記載されている。


レベルは1。


アカウント名はメイで、所持金はゲームスタート時の500ジュエリー。


ちなみにジュエリーはラスト·ワールドでの硬貨となる。


稼ぎ方はモンスターを倒して手に入れるか、またはダンジョンなどに入って宝箱から入手する方法がある。


「レベルも所持金もスタート時のままじゃないの……」


「だから言ったじゃん。アタシはこの世界に来たばかりだって」


それでどうして二ヴァを助けようとしたのか。


たしかに目の前で可愛い小動物が食われそうになったら、助けてあげたくなるのもわかるが。


この世界でモンスターに殺されたら現実でも命を落とすのだ。


それをわかっていて武器もなしにモンスターと対峙するなんてと、ワルワラはメイのことがよくわからない。


それでも余程のお人好しなのは理解している。


しかも大事な仲間のミニウサギの恩人でもあるので、できる限りは力になってあげようと、ワルワラはため息をつきながら言う。


「しょうがない。まともな装備が買えるように、ワタシも多少出してあげるよ」


「助かるよ。ありがとう、ワルワラ」


「気にしなくていいわ。なんかあなたって無鉄砲すぎて放っておけないから」


それから二人は二ヴァを連れ、食事を取った後に装備を買いに行くことにする。


食事をする場所はワルワラが気に入っている酒場があるそうで、今いる宿屋の側にある店だそうだ。


宿屋を出て、店の裏へと回れば到着。


本当に近いんだと口にしたメイより先に、ワルワラが酒場の扉を開けた。


「いらっしゃい! ドゥルージュバの酒場へようこそ!」


黒髪に大きな目をした黒い瞳。


大きめのポンチョにハーフパンツといった格好の少年が、カウンターから命メイたちに声をかけた。


「やってるね、ジルイ」


「なんだワルワラかぁ」


「なんだとはなによ。ワタシだってお客さんなんだよ、全く。今日は連れがいるから、何か美味しいものをお願いね」


ワルワラが気さくに挨拶をし、適当に酒と料理を出してくれとメニューをおまかせする。


店内は狭く、テーブル席はない。


中にはカウンター席が数人分あるだけで、いかにも個人経営の店といった感じだ。


メイはワルワラとジルイと呼ばれた少年が話すのを見ると、カウンター席に腰を下ろしながら訊ねる。


「あの子、NPCなの?」


NPCとはNon Player Characterの略称であり、ゲーム上でプレイヤーが操作しないキャラクターのことを指す言葉だ。


このVRゲームであるラスト·ワールドには、メイはワルワラ以外にも多くのプレイヤーがいるが、基本的に町で店をやっているキャラクターはNPCのはず――。


と、メイは思ったのだが、まるで古くからの友人のような様子の二人に違和感を覚え、もしかしたらと訊いてみた。


「よくわかったね。ジルイはそう、この世界の住民。NPCだよ」


20XX年の現在――。


ゲームの性能向上によって、完全フルダイブ型のVRMMORPGに出てくるほとんどのNPCキャラクターが、人間と変わらない反応を見せるようになった。


そのことは、VRゲームの経験があるメイは当然知っている。


だが、それでもジルイという少年はNPCに見えない。


「この子だけじゃないんだよ。この世界にいるキャラ全員が普通の人間と同じ感じなんだ。ワタシも最初はどうせゲームのキャラだろうって思ってたけど、今ではどんなキャラでも一人の人間として接してる」


ワルワラはさらに言葉を続けた。


通常、他のVRゲームではNPCに手を出せたりはしないが(例外はある)。


このラスト·ワールドの世界では殴ることもできるし、剣で斬ることもできる。


やりすぎれば命も奪え、町の外にいるモンスターにも殺される。


せいぜい歳をとらないくらいか。


他は現実世界と何も変わらないと、彼女は言う。


「あとどっかの町で、セクハラ行為をしようとした奴がいたらしいよ。まあ、寸前で側にいた連中が取り押さえたらしいけど」


「そういう行為ができるなんて18禁ゲームのVRだけだと思ってたけど、そんなとこまでリアルなんだ、ここ」


五感情報を電磁パルスによって脳へと送り込むことで仮想世界へのフルダイブを行うVRゲームは、現在では当たり前になっている。


当然視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚(皮膚感覚)を味わえるので、食事も楽しめるし、セックスも可能だ。


だが、それはプレイするゲームによって変わるので、五感すべてを再現するゲームは非常に(まれ)だった。


メイは他にもこのゲーム特有のシステムがあるのかを訊こうとしたが、ワルワラがそれを止める。


「まずは乾杯しましょう。心配しないで、ここはワタシが(おご)るから。それと、今度はこっちが質問する番なんだからね」


ワルワラがそういうと、二ヴァはその丸い体でピョンっと跳ねて、メイの肩の飛び乗った。

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