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――20XX年。


AI人工知能研究者としても知られる本庄悟郎によって、革新的な人工知能ピューティアが開発された。


これにより世界はピューティアにより管理され、人は働かずともすべてを機械がやってくれるようになった。


さらに世界のリーダーたちは、超高齢化社会、人手不足が招く経済成長の鈍化、資源の枯渇、各国の紛争などの問題解決にまでをピューティアに任せると決定。


これが引き金となり、ピューティアは暴走した。


世界に必要ないのは人であると結論付け、片っ端から人間を捕えた。


機械に捕まった人間たちは、ピューティアが管理するVRゲーム――ラスト·ワールドへと送られる。


ラスト·ワールドは中世ヨーロッパをモチーフにしてはいるが、ゲームユーザーにリアリティを感じてもらうためにあえて魔法がない設定になっている。


架空の世界には当然のようにモンスターも現れ、さらには人々を脅かす存在――四つの塔があった。


ピューティアは仮想現実に捕らえた人間たちに()いる。


ゲーム内での死は、現実の死であると。


「この世界で人としての尊厳を取り戻しなさい。さすれば解放される。ですが、もし現実と同じことを繰り返すのならば、この世界はより過酷なものとなるでしょう」


クリアを目指す者、諦める者などに分かれ、捕らわれた人間たちは架空の世界ラスト·ワールドを生きていくことになった。


この事件の元凶であるピューティア開発者の本庄(ほんじょう)悟郎(ごろう)は、逃げ伸びた人間たちによって投獄され、処刑を言い渡された。


だが、彼の娘であるバトル系VRゲーム世界チャンピオン――本庄芽衣(めい)がゲームをクリアし、ピューティアの支配から人類を開放することを条件に刑は延期とされる。


かくしてメイは、これまで培ってきたゲームのちしきと技術を武器にラスト·ワールドへと挑む。


これはそんな彼女が、ラスト·ワールドにログインする数日前の話だ。


「だからもう偉い人たちに言っちゃったんだよ!」


狭い部屋でメイが吠えるように男に言った。


眼鏡をかけた白衣姿の男の名は深上(ふかがみ)祐介(ゆうすけ)


年齢は三十代前半で、歳のわりにくたびれた容姿をしている。


深上は若くして最先端の人工知能の研究に携わっており、メイの父親である本庄悟朗のスタッフでもあった男だ。


彼の両親と本庄悟朗が親しかったのもあって、二十年前に事故で深上の親が死んでからは、本庄が後見人となっていた関係だ。


そんな立場からか、メイのことは彼女が幼い頃から知っている。


「なんでそんな勝手な真似をしたんだよ!? このゲームは人間を閉じ込めるためのもので、一度ログインしたらもう出れないんだぞ!?」


「そんなのクリアすればいいんでしょ? 大丈夫だって。アタシなら楽勝だよ」


軽い調子で言ったメイに、深上は詰め寄った。


彼女の両肩を両手で掴み、今にも喰らいつかんばかりの勢いで顔を近づける。


「このゲームの中で死んだら現実でも死ぬんだぞ!? ピューティアがそう言ってるんだ! いくらお前がVRゲームの世界大会優勝者でも、そんな危険な真似を許せるもんか!」


投獄される前に――。


深上は、本庄悟朗からメイのことを頼まれていた。


そういう事情もあって、彼は勝手に取引きをしたメイに声を荒げている。


二人が今いるのは、ピューティアの指示で動くドローンから逃げ伸びた人間たちが集まっているシェルターだ。


場所は日本――沖縄で、現在は各国のリーダーやその代理の者と連絡を取りながら、なんとか現状の打開策を立てている。


ドローンから逃れた人間たちは、二人を含めて数十人しかいない。


しかもそのほとんどが高齢者で、武器を持ってドローンらを撃退することもできない。


他の国も似たような状況だった。


そんな中でメイは、ピューティアが二十四時間流し続けている映像で、捕まえた人間たちを強制ログインさせているVRゲームの存在を知った。


内容は抽象的だったが、ピューティアはその映像の中で、人としての尊厳を取り戻せば解放すると宣言しているのもあり、彼女は自らラスト·ワールドへとログインすることを決めた。


幸いなことに、このシェルターにはそのための設備がそろっている。


そのためメイは、深上になんの相談もなく施設にいた政治家たちに歎願(たんがん)し、自分がゲームをクリアすれば父を解放してほしいと話をつけたのだった。


それでも政治家たちからすれば、彼女に大した期待はしていない。


できるものならばやってみろ程度のものだろう。


だが当然、保護者の立場にある深上は納得はできない。


メイのことを恩人に頼まれているのだ。


それなのに、わざわざ自分からデスゲームに参加しようとしている彼女に、深上は怒りが止まらない。


「でも、誰かがやらなきゃ! 深上さんだってアタシのゲーマーとしての腕は知ってるでしょ!?」


「ダメだダメだダメだッ! いいかメイ! お前なら当然わかってると思うが、VRMMORPGってのはソロで攻略できるもんじゃないんだぞ!? お前一人ゲームに入って、一体何ができるんだよ!?」


「そこはゲーム内でパーティーを組んで――」


「その考えが甘いって言ってるんだ!」


深上はメイの言葉を遮り続ける。


極度の緊張状態にさらされた人間は何をするのかわからない。


ラスト·ワールドがゲームである以上、手に入れることができる装備、アイテムにも一定の限りがあるはずだ。


そうなると必ず奪い合いが起き、ましてやモンスターだらけの世界で命がかかっているのなら、なおさらプレイヤー同士の争いが激化するだろう。


すでにラスト·ワールドが始まってから三年が経過している。


そんな中をレベル1でログインして生き残れるものかと叫び、深上はメイのログインを認めなかった。


「そうかもしれないけど……。絶対に協力してくれる人もいるよ。大丈夫だって深上さん。アタシを、もっと人間を信じて」


だが、メイは引き下がらなかった。


それは、彼女がゲームの腕に自信があるからだけではない。


ラスト·ワールドを舐めているわけでもない。


危険は百も承知で、父を、世界を救いたいと言っている。


深上は、メイが昔から言い出したら聞かないことを知っているのもあって、最後には折れた。


そこで彼は、せめて彼女にできることはないかと考えた。


最初は深上もラスト·ワールドにログインして、メイと共にクリアを目指そうとしたが、フルダイブ型VRゲームの経験が浅い自分では逆に足を引っ張ると諦める。


メイはすぐにログインしたがったが、深上は何か手伝えることがあるはずだと彼女を止め、そしてついに発見した。


「メイ。キャラクター·コンバート機能のことは知ってるよな」


「うん。他のゲームのデータを引き継げるヤツでしょ。でも、ピューティアが管理しているゲームでそんなことできるの?」


メイの疑問は当然だった。


なんといってもピューティアは、今や世界を手中に収めるような人工知能だ。


そんな隙があるとはとても思えない。


しかし、深上には本庄悟朗のスタッフをしていたことで、ピューティアに対しての知識がある。


そこから導き出したのは、ラスト·ワールドにはモデルとなったVRゲームがあることだった。


フルダイブ型VRゲーム大会優勝者であるメイは、そのモデルとなるゲームをもちろんやっており、これでゲームスタート時から高ステータスで始められるはずだったが――。


「くッ!? ダメだ……。コンバート機能を使ってもレベルは1のまま……。これでは意味がない……」


「でも、スキルデータは引き継げるみたいじゃん。なら楽勝だよ」


「お前な……。自分が戦場へ行く自覚はあるのかぁ?」


深上は知らなかった。


メイの保持しているスキルがすべて戦闘用で、しかもカンストのSランクであることを。


その後、深上の不安が消えぬまま、メイはゲームの中へ入ることに。


ベットに体を預け、ラスト·ワールドへログインするための二つのヘッドセットを頭につけ、いよいよ始める。


「このゲームでは飾りみたいなものだが。セーブポイントにつけば、こちらと連絡できるようにしてある。できることは少ないが、何かあればその場所から連絡をくれ」


「オッケー。じゃあ行ってくるね、深上さん」


「メイ……。生きて帰ってこいよ」


こうして本庄芽衣は、ラスト·ワールドへと入った。


これまで培ってきた経験と、他のゲームで育ててきたスキルを持ったまま。


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