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――シベリアン・ウルフの群れが町を襲撃した日の後。


町を囲んでいる柵の修繕が行われた。


ヒョウガが置いていったルビーもあり、柵は以前よりも強固なものになった。


これでもうモンスターが入ってくることはないだろうと、誰もが安心している。


「よし、こっちのほうはもうオッケーね」


不意打ちを食らったワルワラだったが、彼女の傷は持っていたポーションによって治り、当然のように修繕に参加していた。


本当ならヒョウガが置いていった金銭を、すべてワルワラに渡すという話が住民たちから出ていたが、彼女はそれを断り、今こうして手伝っている状態だった。


建築スキルを持つ者がいないので大したものにはならなかったが、町周辺のモンスターにそこまでの力はないので問題はない。


ともかくもう大丈夫だと、ワルワラが一休みしようとすると――。


「おーい、ワルワラ! こっちのほうも出来たよ!」


別の場所で修繕を手伝っていたメイが駆け寄ってくる。


彼女の肩にはニヴァがおり、いつもの無愛想な顔で低い声を出していた。


「こっちも片付いたとこよ。じゃあ、お菓子でも食べようか」


メイとワルワラはその場に布を敷いて腰を下ろし、ジルイが用意してくれたバケットから焼き菓子を出した。


蜂の巣のような外観をした四角い焼き菓子――ワッフルだ。


二人はワッフルにハチミツをかけ、それを頬張る。


口いっぱいに広がる甘さが、一日の疲れを癒してくれているように感じる。


ニヴァも特に変わりはないが、ゆっくりと噛み締めるようにワッフルを食べていた。


「ねえ、結局ニヴァってウサギなの?」


メイが焼き菓子を頬張りながら訊ねると、ワルワラは呆れた様子で訊き返す。


「なんなのよ、急に?」


「だってさ。ウサギって声帯がないんだよ。それなのにニヴァは鳴けるじゃん。体もずいぶん丸っこいし」


「あのね。それだったらモンスターだっておかしいじゃないの。町に現れたシベリアン・ウルフだって、オオカミなのかシベリアン・ハスキーなのかよくわかんないし」


「でもシベリアン・ウルフは両方の性質を持ってるじゃん。やっぱニヴァが鳴けるのはおかしいよ」


ワルワラは「そんなことよりもワタシに話すことがあるだろう!」と、内心で苛立っていた。


それは、メイの正体が数々のVRゲームの世界大会で優勝していた本庄(ほんじょう)芽衣(めい)だったことだ。


槍使いの男――ヒョウガの驚いた様子に、否定もしていなかったところを見るに、メイは間違いなく本庄芽衣、本人。


しかも、その輝かしい実績に(たが)わぬ戦いを見せていた。


それと、一体どうやっているのかはわからないが、メイは初期ステータスの状態ですでにスキルを持っている。


(ったく、話をするならまずその話でしょッ! それに、本庄芽衣っていったら……)


さらにワルワラには知っていることがある。


いや、彼女だけではない。


20XX年の現在では、知らない者は誰一人いないことだ。


それは本庄芽衣が、この世界を創った人工知能ピューティアを生み出した本庄悟郎(ごろう)のひとり娘であること。


メイは、現実世界でピューティアに捕まってラスト・ワールドに来たわけではなく、自らログインしたと言っていた。


ゲームクリアを目指すために来たと軽い感じで断言していた。


そこから考えるに、彼女は何か使命を持ってこの世界に来たことはわかるが。


ワルワラのほうからはプライベートなことなので訊ねづらかった。


「よし! じゃあニヴァのことはそのうち解明することにして、町の人たちに柵の完成を教えにいこう!」


突然声を張り上げ、メイはワルワラの手を取って立ち上がった。


ニヴァもその動きに反応してか、ワッフルを平らげると、ピョンっと飛んでメイの肩に乗る。


それからミニウサギは低い声で鳴いた。


ニヴァの鳴き声が合図となったのか、メイが駆け出す。


ワルワラは転びそうになろうが気にせずに、彼女の手を引きながら走る。


「ねえ、ワルワラ。町の人たちに伝え終わったら今度こそ武器屋にいこうね」


「えッ!? う、うん、わかったわよ。……メイ、ちょっといい?」


「なに?」


急に足を止め、ワルワラを見つめるメイ。


ワルワラは思わず転びそうになったが、寸前のところで踏みとどまった。


ニヴァのほうは上手いこと宙に跳ねて急ブレーキの重力を回避していた。


「いきなり止まるな! 危なく転ぶとこだったでしょう!」


「ごめんごめん。それでなにか訊きたいことでもあるの?」


「……ある、けど! 今はいい。あんたが自分から話すまで、ワタシからは訊かない!」


ツンっと顔を背けながら言ったワルワラ。


二ヴァがそんなワルワラを見てまた鳴くと、メイは彼女の両手を取る。


自分のほうを見るように引いて、メイは言う。


「よくわかんないけど。ワルワラがずっと訊こうとしてたことは、今夜にでも話すつもりだったよ」


「えっ? そうだったの?」


「だって長いし、面倒くさいしさ。まあ、そういうわけだから安心してね」


微笑むメイを見たワルワラは、本当によくわからない奴だと思いながら笑みを返した。

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