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01

深い森の中を一匹の小動物が歩いていた。


陽が射しているが、木々にさえぎられていて薄暗く不気味な雰囲気だ。


そんな中を小動物は進む。


小動物は耳が長くウサギのように見えるが、真っ白な毛色に丸々とした体をしていて、遠目からだとまるで毛の塊に見える姿をしていた。


誰かを探しているのか。


時折、クンクンと鼻を動かしながらピョンピョン跳ねては立ち止まり、辺りを見回している。


小動物がキョロキョロと周りを見ていると、唸り声が聞こえてきた。


現れたのは体長3mはある(くま)――ワイルド·グリズリーだった。


小動物は体長30cmほどなので、その大きさは10倍だ。


ワイルド·グリズリーはゆっくりと歩みを進め、その鋭い牙をむき出している。


口からはよだれを垂らし、今にも喰らいつかんばかりの顔だ。


走って逃げるにしても歩幅が違いすぎるので、すぐに捕まってしまうだろう。


「ガォォォンッ!」


さらに逃がさないぞと咆哮(ほうこう)


その大きな威嚇の声は、木々を揺らして森全体を震わせるかのようだ。


ワイルド·グリズリーが獲物に狙いを定める。


このままミニウサギのような毛の塊は食われてしまうかと思われたが、次の瞬間――。


そこへ人影が飛び出してきた。


ブラウンのポニーテールをした女が、ワイルド·グリズリーの前から小動物を抱いて走り去っていく。


突然獲物をかすめ取られたワイルド·グリズリーは怒り狂い、女のことを追いかける。


邪魔な木々や岩を破壊しながら血走った目をし、物凄いスピードで駆けてくる。


「あんた、怖くないの?」


女は逃げながら抱いている小動物に声をかけた。


ミニウサギのような毛の塊は、女の腕の中で怯える様子もなくグゥグゥ鳴いている。


どこか不機嫌そうだったが、女はそんなことを気にしている場合ではなかった。


ワイルド·グリズリーはもう真後ろまで迫っている。


人間の足では逃げ切れない。


女は悟ったのか、急に振り返ってワイルド·グリズリーと向き合った。


そして身を屈めると、勢い余った熊が彼女を飛び越えて大きく転倒。


だが、すぐに立ち上がって女と小動物に食い付こうとしたが――。


「二ヴァ! 今助けるッ!」


その声が聞こえたのと同時に、ワイルド·グリズリーの頭に剣が突き刺さった。


頭上から(あご)までを刃が貫き、その一撃でワイルド·グリズリーが倒れると、光の粒子となって消えていく。


ワイルド·グリズリーが消えると、その(あと)には小さな宝石が転がった。


女が驚いていると、小動物は現れた剣士に向かって鳴いている。


「危ないところだったわね。もうっ、勝手にいなくなるからよ」


剣士は羽織っていたマントのフードを取った。


プラチナブロンドのセミロングの髪に、エメラルドグリーンの瞳。


鼻筋の通った顔をしていて、上はチュニックに下はパンツスタイルで、皮の胸当てを身に付けている。


「それにしても無茶するわね、あなた。武器もなしでモンスターと向き合うなんて。まあ、おかげで助かったけど」


ワルワラと名乗った女剣士は、剣を腰の鞘に収めると、女に手を差し出した。


笑みを浮かべ、握り返してくれるのを待っている。


「改めてましてありがとう。ワタシはワルワラ。その子は二ヴァよ。あなた、見ない顔ね。よかったら名前を聞かせてもらえないかしら」


「アタシはメイ。少し前にこのゲーム世界にやってきたんだ」


メイと名乗った女が言ったように、ここはゲームの世界――仮想現実VRゲーム――ラスト·ワールドの中である。


一度ログインしたらクリアするまで出られない、完全フルダイブ型VRマシンでプレイすることができる架空の世界だ。


メイの言葉を聞いたワルワラは、そのクールな表情を崩して両目を見開く。


「少し前ってことは……あなた、この世界のルールちゃんと知ってる!?」


彼女が驚くのも無理もない。


なぜならばこのゲーム世界ラスト·ワールドで命を落とすと、現実世界でも死んでしまうからだ。


それなのに武器も持たずにモンスターから二ヴァを助けた彼女に、ワルワラは声を荒げずにはいられない。


メイは当然知っていると答えると、戸惑っているワルワラに訊ねる。


ここらへんで一番近い町はどこにあって、そこで装備はそろえられるのかと。


はぁーと大きくため息を吐いたワルワラは、地面で自分を見上げている二ヴァを抱き上げて肩に乗せると、メイに向かって微笑んだ。


「こういうことしない主義なんだけど……。まあ、二ヴァの命の恩人だしね。いいわ。あなたに危険がなくなるまでは付き添ってあげる。他にもいろいろ教えるから安心して」


「助かるよ、ワルワラ」


笑みを返し、メイは手を差し出した。


先ほどできなかった握手をしたいといった態度だ。


ワルワラはもちろん彼女の手を握り返す。


すると彼女の肩にいた二ヴァが、喜んでいるのかグゥグゥと鳴いている。


「互いこんなゲームに強制ログインされて大変だけど、必ず生き残りましょう」


「アタシは強制じゃないよ。自分の意思でここへ来たんだ」


「えぇッ!?」


ワルワラはまたも両目を見開いた。


メイはそんな彼女のことを、その赤、黄色、金色など様々な色を混ぜ合わせたような瞳で見つめて言う。


「アタシは、このゲームをクリアするためにログインしたんだよ」

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