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王冠物語~突然の異世界にて、普通の高校生が王になる物語~  作者: パラド信者
第1章 ブリタニア
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5 ブリタニア

 ニケたちと別れて4日後、ブリタニア王率いる連合軍5万3千とフランシア王率いる4万3千は、フランデーニュ公国に隣接するシャンパイユ公国ギーヌの地で接敵した。

これは、連合軍の規模が多くても自分たちと同程度だと思っていたフランシア王シャルルIV世を大いに驚かせた。


シャルルは側近から、ブリタニア王国内はまとまっていて、国土の割に供出できる兵力が多いとは聞いていた。

あくまで予想ではあるが想定される兵力は3万弱、どんなに多くても4万であろうと。

しかし、歴戦の将であるシャルルIV世の眼前には5万に満ちようかという兵が展開している。


「おそらく2万以上の帝国軍が加わったというわけか。」


帝国諸侯の紋章が明らかに多い。

ホーランディア公、ブラバンティア公などを筆頭として、帝国諸侯の紋章を多数確認することができる。

そして、上述の2諸侯は奇しくも獅子の紋章を使用していた。

敵軍中央にはさらに1つの獅子紋。

かつてフランシア貴族だった今のブリタニア王家、家名はアンジェ=ノルマーニュ家。

アンジェ家、ノルマーニュ家双方の獅子紋を混合した獅子紋が、自身が本当の獅子であるかの如く、周囲に獅子を侍らせて眼前に堂々と鎮座している。

まるでフランシアの獅子王シャルルIV世に、お前は偽物だとでも言っているかのように。


そして、シャルルを驚かせた要因がもう一つ。

連合軍の重装騎兵の数である。

フランシア王国のそれには及ばないものの、予想以上の重装騎兵が連合軍に見られた。

ブリタニア王国が抱える重装騎兵は少なかったが、帝国諸侯の予想以上の参戦がこれを可能にしていた。


事態が不利に動いているにもかかわらず、シャルルには確信がある。


この勝負は私がもらう。


これは過信であろうか。

フランシア王シャルルIV世の胸中には確信に近いものがあった。

見るに、軍の質も量も、帝国に頼っているのだろう。

重装騎兵を操る屈強な騎士たちは誇り高い。

そしてそれは彼らの勇猛さの源泉であると同時に弱点であると、一番よく知っているのは我々フランシア人だ。

中核を担う軍がない連合軍は統率が取れない。

眼前の軍は帝国諸侯が多すぎてブリタニア軍が中核たりえていないのだ。

例えば過去の大聖戦においては、フランシア騎士は自身の力を過信し、功を立てようと逸って他国軍と連携を取らずに単独で敵陣へ突撃をしたことが敗北につながった。

こちらは何もしなくていい、ただ相手が自壊するのを待つのみである。



 同時刻、戦場であるギーヌより離れた丘の上に俺とチェーザレはいた。


「ラングドイルはマジで平地ばっかりだな。安全に観戦ができやしねえ。シーザ、見えるよな。」

この体は以前の体より目がいい。

かなり遠いが、高所から両軍をはっきりと識別できる。

遠くからでも両軍団の威圧感がひしひしと伝わってくる。


「ああ、数だけなら陛下の方が有利でいいのか?」


「ちゃんと見えてるじゃねえの。まあ多分こっちが負けるけどな。」


数だけで両軍を比較すればブリタニア連合軍の方が多い。

素人考えとは違うチェーザレの予想がどうなるか見ものである。

そしてチェーザレが続ける。


「負けていいじゃねえか。王太子が戦死するかもしれねえぜ。戦死するよう神に願ったら案外聞いてくれるかもな。」


「リチャード王太子が死んだところで、陛下が俺と婚約するわけねえだろ…。」


「分からんぞ。お前レベルの美男子はフランシアに一人いるかどうかレベルだからな。婚約者が死んで傷心の女王を慰めてやれば、あっさりとお前になびくかもしれん。」


チェーザレは平気でこういうことを言う。


「まあ、せっかく乗馬できるようになったんだから、女王を遠乗りにでも連れてってやれよ。そこで女王の気持ちを聞いて来い。」


ニケ達と離れてからのこの四日間でチェーザレからいろいろなことを教わった。

といっても、あまりにも俺には常識が無さ過ぎるということで、この世界の常識を教わることが大半を占めたが。

しかし、教わる中で自分に乗馬の才能があったとは驚いた。

チェーザレによると結構センスがあるらしい。


「気持ちはお前が聞けよ。俺だとお前みたいにうまく質問できるかわからん。」


俺の言葉にチェーザレが反論する。


「それはお前の役目だって説明しただろ。多分、女王はお前のことを友達だと思ってるよ。素敵な名前も付けてもらったんだから。少なくとも、この前女王を冗談だけど殺そうとした俺よりは心を開いてると思うぜ?この話はこれで終わり。」


そう言い終わると彼は目を俺の顔から戦場に移す。


「…それにしても、両軍とも戦術が古いな。」


話が戦場の方に切り替わる。


「重装騎兵の時代は終わったってのに、いつまでああやって戦うつもりかね。」


チェーザレ曰く、重装騎兵の時代は終わったらしい。

かつてのフィリップ大王の時代は戦場の支配者であったこの兵科は、主に兵器の破壊力の増大によって支配者の座から引きずり降ろされたと言っていた。


「これからの時代は白兵は槍、射撃は銃だ。パイク(長槍)という圧倒的防御力が銃の隙を支える。銃という圧倒的火力が敵を破壊する。ルメリアではこの戦術の有効性が認識されつつある。だが、ルメリアじゃあ実現できねえ。」


そして彼は続ける。


「俺がフランシアに来た目的の一つは、ここなら新戦術を実現できるからだ。ルメリア諸邦が万に届かぬ程度で戦っているのに対して、その北の王国たちは数万の戦力を出すことができる。強大な王権、豊かな財源が改革を可能にする。今でさえ最強の軍事力を持つフランシア王国が新戦術を駆使できるのであれば、もう誰にも止められやしねえ。」


チェーザレは博識だ。

特に軍事のことを楽しそうに話す。

そして、彼の理論を実現すべくルメリアからフランシアに来たらしい。

チェーザレと話していると、戦場から叫び声と重音が聞こえてきた。


「おっ、始まったな。」


仕掛けたのはブリタニア連合軍。

左翼の重装騎兵隊が敵陣へと突撃し、それに左翼、右翼のいくらかが続く。

それに対してフランシア王国は弓で迎撃し、それでもひるまず突撃してくる重装騎兵を槍で迎え撃つ。


「これ、案外ひどいことになるかもしれねえ。」


チェーザレがそうつぶやく。

前線で槍と重装騎兵がせめぎあっている側面を、王国側の重装騎兵がその機動力と破壊力で襲撃する。

ここで本来連合軍側の側面を守るはずの戦力は置いて行かれてはるか後方、複数の方向から攻撃された連合軍の先鋒がたまらず敗走する。

そして、味方陣地に敗走する連合軍と援軍に駆け付けた連合軍の後続部隊が交錯し、突出した連合軍左翼を中心に混乱が広がる。

そこを、歴戦の猛将である獅子王シャルルが見逃すはずもなかった。


「突撃‼」


王の突撃の号令とともに、王国軍全軍が前進を開始した。

王国軍の戦列は秩序が保たれていて、敵陣へ斬り込むための重歩兵隊や、少なくない攻撃力のある弓兵隊を伴って重騎兵が前進していく。

互いに十分な距離まで近づいたのちに互いの弓兵隊による射撃が行われつつ、王国軍の重歩兵が敵正面に並ぶ槍の群れに向かって斬り込んでいった。

そして、ついに本隊同士が激突。

先ほど見た光景とは逆に、王国の重歩兵が敵槍隊を崩し、崩れた部分へ突撃した重装騎兵が連合軍を蹂躙する。

特にひどいのは多くの前線兵力を序盤に失った連合軍左翼で、軍事についてほとんど何も知らない俺にもその絶望的陣容がはっきりとわかる。

連合軍中央や右翼が不利ながらも十分な厚みを保っているのに対し、左翼からは兵士が逃げ出していた。


「神に願う内容、変更だ。」


チェーザレが言った。


「女王が無事逃げられることを願った方がいい。かなり後方にいるから大丈夫だと思うが。フランデーニュ方面へ俺たちも合流するぞ。」


・地名の元ネタ


ホーランディア(ホラント)

ブラバンティア(ブラバント)

ルメリア王国(イタリア王国)※本文中では省略してルメリア

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