3 プロローグ
本当に無策だ。
王が何故王で、その力をどのように使えばよいかなど考えたこともない。
こういう時、どうすべきか。
俺が持っていてチェーザレが持っていないもの。
それは現代の知識だろうか。
今日感じたのは、この世界が元いた世界の昔のヨーロッパに似た雰囲気であること。
いや実際どうなのかわからないけれども。
であれば、元の世界の現代に使われていた理念とかシステムはこの世界のものを凌駕しているんじゃないだろうか…。
そう仮定すると、この世界の王は現代の天皇…、いや、力があるという意味では総理大臣にあたるか。
それなら、総理大臣が総理大臣にふさわしいのは選ばれたからであり、その力は民衆の生活を豊かにするために使われるべき…か?
緊急を要する事態だ。
あまり長く考えてもいられない。
自身の中で暫定的な結論が出たので、それを言葉にする。
「王の王たるゆえんはその資質を皆に認められているからで、王の力は民衆の生活を豊かにするために振るわれるべきだ。」
自信はないが、自信ありげに言った。
「ではその皆とは誰のことだ?」
「民衆のことだ。」
「すべての王国の民の話を聞けるとでも?」
「段階制にすればいいと思う。例えば100万の中からふさわしい一人の王を選べなくても、100万人の中からふさわしい1万人を選び、その中から一人の王を選べばいい。」
とっさに返事ができたが、少年からの質問は続く。
「かつて民主主義は専制に敗れたぞ。民衆の話を聞きすぎた結果な。」
この世界の話をされても分からない。
もうノリで話すしかない。
「敗れた国家などいくらでもあるだろ。その専制の国家だっていつかは滅びる。」
こちらの答えに、今まですぐに質問していたチェーザレは少し考えてから返事をした。
「そのとおりだ。専制にもまた、綻びがある。」
納得させることができたか?
「では次に、なぜ民衆の生活を豊かにするために力を使う?少数の良識ある貴族のためにその力は振るわれてもいいんじゃないか?」
また質問が来た。
「民衆にも良識のある人間はいるだろ。」
「犯罪をするのも能力が低いのも民衆の特徴だ。例外はあれども貴族が比較して善良なのは事実だ。」
「それは貴族が資産を持ってて教育を受けられているからだろ。」
「では王は民衆に教育を受けさせ、金を配ればいいというのか?」
「金を配るんじゃなくて自身で金を稼げるようにする方がいいと思う。それを含めての教育だし。」
ここでチェーザレは考え込んだ。
「なるほどな…。まあ夢物語だな。教育を受けたところで極貧生活から抜け出せるのは一部の人間だけだ。結局は多くの人間がパンを作ってくれなきゃ、社会が成り立たない。人口の90%以上が農民で、その平均寿命が20代。これをお前のやり方で貴族レベルまで上げるのは不可能だ。もし理論上できるとしても現実にそれを実行はできない。」
少年の言う通りなんだと思う。この世界の発展度合いで俺の言っていることは実現できなさそうだと俺も感じる。
「で、お前何歳なの?」
急に年齢を聞かれたが、この体が何歳なのかわからないので答えられない。
「チェーザレ、説明するわ。この子…シーザって言うんだけど自分のことに関する記憶がないみたいなの。」
ニケがフォローしてくれる。
「シーザね。いい名前じゃねえの。陛下と瓜二つってことは13くらいですかね。ま、13でこれだけ答えられたら完璧だ。約束通りお前の味方になってやるよ。」
質問には答えられた。
が、結局納得はさせられなかったし、王の資格を見せることができたとは思えない。
そして、また名前を笑われた。
「チェーザレ、ひとつ聞きたいのだけれど、あなたはシーザに王の資格があると思ったってことでいいのかしら。」
「んー、まあそうですね。」
「結局王の資格って何なの?シーザにあって私にはないって腹立つんだけど。」
「陛下にもありますよ、しかもシーザより強いものが。」
「はあ?じゃあさっきなんで…」
「陛下にその時がきたら明かしますよ。」
ニケの言葉をチェーザレが笑ってさえぎる。
「では次は、私が王たる資格を見せましょうか。」
彼の、王の資格…。
「実は私、予言ができましてね。この戦い、どっちが勝つか未来を見て知ってるんですよ。」
…まさか、魔法!?
そう、ここは元いた世界と違う世界。
であれば魔法はぜひ存在していてほしいし、使ってみたい!
「勝つのはフランシア王国、ああ、フランシア王シャルルIV世って言った方がわかりやすいですかね。」
「ちゃんと理由はあるんでしょうね?」
ニケが口をはさむ。
理由…か…。
予言に理由なんてものは無い。
俺は落ち込んだ。
「外交的に見れば、シャルルIV世の状況はかなり厳しい。北からブリタニア、東から帝国、西からブルテーヌ、南からアクイタニア大公率いるラングドック諸侯に攻撃されてますからね。でも、このうちフランシア王国の首都シテへと迫ろうとする戦力は北のブリタニアだけ、ブリタニアとフランシアの人口差は1:9です。この国力差は如何ともし難い。」
「ちょっとそれおかしくない?まずフランシアの国力のうちには私のフランデーニュも入ってるし、フランシア軍のいくらかは西と南の対処に割かれるよね。首都まで来る気が無いからって放置もできないでしょ?さらにかなりの帝国軍もお義父様の麾下に入ってるはずなんだけど。」
「確かに、単純な国力差だけでは比較できません。が、ブリタニアだって国内に戦力を残しておかなきゃいけませんし、ブリタニアと陛下の連合軍対フランシアになったら負けるのは目に見えてますよね。最終的には帝国もアクイタニアもブルテーヌも味方してくれなくなると思いますよ。」
「なんで私とお義父様しか戦力に数えてないのよ。」
「じゃあ参戦各国の思惑を整理しましょうか。」
そういってチェーザレは続ける。
さっき話を聞いたばかりの俺は全然話について行けない。
「まずは西のブルテーヌ、フランシア王国からの内政干渉を避けることが目的。よっていざとなったらフランシア王国は内政干渉を行わないことで和平を結べばいい。」
「次に南のラングドック諸侯。ブリタニア領アクイタニアの大公、リチャード王太子に従って反乱を起こすが、その目的はフランシアの王権を弱めることで、アクイタニア大公は彼らに対して強権を発動できない。誰かに強く指図されることが嫌だから反乱を起こしてるのに、アクイタニア大公の指図は聞きません。よってシャルル王のいるラングドイルへの遠征は難しい。」
「最後に東の帝国。皇帝の目的は奪われたブルゴラントを取り返すことですが、実際に戦力を供出しているロターリア諸侯の目的は違う。ロターリア諸侯は巨大なフランシアの脅威が帝国へと及ぶのを防ぐことが目的だ。だからまだ子供で女の陛下がフランシア王になるのは歓迎するが、その支援者がブリタニア王で、未来の両国王の結婚によってブリタニア・フランシア王が誕生することは最悪のシナリオってことですよ。だから婚約発表とともに帝国の支援は期待できなくなったんです。彼らと同じロターリア諸侯のあなたならこの気持ちわかりますよね、リュクサンブール伯。」
ここまで聞いて隣のニケの顔が曇っているのに気付く。
「でもブリタニア王エドワードII世には婚約発表をしないという選択肢もなかった。なぜなら王国を手に入れた後だと陛下が王太子殿下との結婚を蹴る可能性があるから。そしてブリタニア王は陛下という戦果を手に入れたことで、フランシア王シャルルとの手の打ちどころを見つけている。つまりね、陛下と王太子の子が陛下のフランデーニュと帝国内に持つ領土を相続できるんだから、フランシア王冠を無理して陛下にかぶせる必要はないんですよ。フランシア王位だって欲しいでしょうけど、勝ち目の薄い戦いに無理をするくらいなら諦めて、まあフランデーニュとその他諸々の領地もらえるならいいか、と考えるでしょう。」
「つまり…」
ニケがその重そうな口を開く。
「そう、ブリタニア王のまともな援軍が期待できるのは陛下が成人を迎える16歳までってことです。成人になって正式に結婚してしまえばもう陛下の財産はブリタニア王家のものだ。そして、16歳になるまでに全力で援護してくれるかと言われればそうでもない。だから陛下が王になることを全力で援護してくれる勢力はいません。よって勝てない。どうです?この未来予知。」
二人が反論しないところから、この未来予知の精度が察せられる。
チェーザレは不敵に笑って続けた。
「でもね、未来は変えられるんですよ。」
・地名の元ネタ
ブルテーヌ(ブルターニュ)
アクイタニア(アキテーヌ)
シテ・マーニュ(パリ)
ロターリア(ロタリンギア)