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2 プロローグ

 戦争。

日本にいると全く馴染みのない話だが、実際にニケ達は今フランシア王国の王位をめぐって戦争している。

聞いた話をまとめると、フランシア王国の先代国王がニケの父親で、今の国王シャルルIV世がニケから見て大叔父に当たる人物らしく、その大叔父と王位を巡って揉めているから戦争するようだ。

そして、この内戦にはフランシア王国の隣接勢力であるブリタニア王国と西ルメリア帝国がニケ側として参戦している。

一方、フランシア国内は北部のほとんどがシャルルIV世派な一方、南部や西部はそのシャルルに対して反乱を起こしていて、実質ブリタニア王国+西ルメリア帝国+フランデーニュ公国(ニケの領地)+反乱軍vsフランシア王国らしい。


「陛下が有利ってことでいいんですか?」


「多分、今の所はね。」


良かった。

よく分からないが勝てそうで何よりである。


「政略結婚のおかげよ。私も自由恋愛してみたかったけど、背に腹は代えられないから。」


ニケは同盟のためにブリタニア王エドワードⅡ世の長男リチャードと婚約していた。


「これから会うから私の呼び方覚えといてね。エドワードお義父様、エドワード様以外は役職名で呼んで。例えば隣のジョフロワだったらリュクサンブール伯って。ジョフロワが助けてくれるから緊張しなくて大丈夫。」


「よろしくお願いします。リュクサンブール伯。」


挨拶に対し二人が笑う。


「ああ、ジョフロワはジョフロワで大丈夫だから。私はおじ様って呼んでるけど。」


「そうなんですね。」


この二人の関係は謎である。

王様と伯爵で敬語抜きに親しそうに話しているが、さすがにこれが普通ではないよな?


「あと、大事なこと決めてないんだけど。」


「何ですか?」


「あなたの名前。」


そういえば俺は自分の名前を思い出せない設定だった。

間髪入れずにニケが目を輝かせて言う。


「私が決めていい?自分につけたい名前ある?」


西洋風の名前で思いつくいい名前はないし、つけてもらうことにするか…?

いい案があるんだろう、きっと。


「いいですよ。決めてもらって。」


「やった!じゃあ…」


そういうと彼女は考え込んだ。あれだけ名前つけたそうにして決めてなかったのかよ。


「じゃあシーザで!」


隣のジョフロワが噴き出す。


「いい名前でしょ?」


彼女が笑いながらジョフロワの方を向いて言った。

それに対して伯爵がこちらを向いて言う。


「めちゃくちゃいい名前だけど、お前はそれでいいのか?」


絶対ろくでも無い名前を付けられたな。


「やっぱり自分でつけます。」


「ええ⁉私がつけていいって言ったじゃん!じゃあシーザの何が不満なの?」


「いや、具体的な不満は挙げられないですけど…」


「じゃあシーザね。決定!王の命令だから従いなさい!」


これから付き合っていく名前に不穏な雰囲気があるのは不満だが、少し安心した。

王族といっても子供っぽいところはちゃんとあるのだと。



名前を決めてから数時間経つと、馬車は目的地フランデーニュ公国へと到着した。

その時間中に色々聞かれてそれに答えた結果、俺は記憶喪失だけどもどうでもいい知識だけ覚えているような人間になってしまった。

そして同年代っぽいこともあってニケとは結構仲を深められた気がする。

王族も話してみると案外普通である。

そして、フランデーニュ公国について。

フランデーニュ公国はフランシア王国北部ラングドイル(南部はラングドックというらしい)の中の7つの公爵領の1つであり、その中でもかなり都市化が進んだ地域である。

ニケは生まれ育ちがここで、今は領主らしい。


窓の外には大軍が集結しているのが見える。

ジョフロワのような装飾をつけて馬に乗った騎士から、人だかりの多くを占める鎧すら身に着けていない身軽な格好の雑兵まで。

彼らを見ていると自然と気合が入る。

いよいよこの世界での初仕事である。


しかし、その気合も服を着せ替えられたことで、いくらか失われることとなる。


「おおー、似合ってる。」


覚悟していても女装するのは非常に恥ずかしい。

しかし、今回は鎧を着るおかげで女装要素は少なめである。


「では、行きましょうか陛下。」


伯爵の態度が馬車の中のものと違う。

ここから演技しなければならないということか。


「ええ。おじ様。」


恥ずかしさで声がかすれる。


「もう一回。」


ジョフロワが意地悪そうに言う。

そう、演技だ。

恥ずかしがることではないと自分に言い聞かせる。


「ええ、ジョフロワ。」


「君、声真似うまいんだな。」


本当にたまたまだ。

地声は違うがニケと似た声を出すことができた。


そうしていると騎士の一団が向こうからやってきた。


「先頭がリチャード王太子殿下だ。君をお迎えらしい。エスコートされてきなさい。」


「ちょっ、エスコートってどうやって…」


「黙ってたら大丈夫だ、あっちが勝手にやってくれる。いざというときは私が助ける。」


近づくにつれ先頭の騎士の風貌が徐々に見えてきた。

年齢は高校生かそれより少し上くらいか。

王族らしい気品を感じさせるとても整った顔立ちである。

彼は俺の目の前まで来た後、下馬して口を開いた。


「お待ちしておりました。フランシア女王。」


何か言わなければならない雰囲気だが、黙ればいいといわれたので黙っておく。

というかそうするほかない。


「殿下、陛下は殿下のご容姿を一目見て照れてしまったようで…。殿下の前で話すのが恥ずかしいのです。」


ジョフロワの言葉に王太子は少し笑うと俺を彼の馬に乗せ、王太子自身も俺の後ろに乗った。


「では父上のところまで参りましょうか。」


そう言うと馬は来た方向へと足を進めた。



隣に王と王太子。

眼前には百は下らない諸侯たち。

王は王太子に似ていて、老化は感じられるものの下ろした長い金色の髪や佇まいから威厳を感じられる。

あれから終始無言のままここまで連れてこられた。


「諸侯。」


王が口を開いた。

容貌通りの威厳のある声だ。


「ついに大王より受けし雪辱を晴らす時が来た。」


「わがブリタニアより2万2千、フランデーニュより8千、帝国より2万3千の勇士が馳せ参じてくれた。私は貴君らとともにフランシア王国を打ち砕けること、誇りに思う。勝利の暁には、帝国にはブルゴラントを、女王ニケには王冠を、そしてわが息子リチャードには麗しき女王を。帝国、ブリタニア、フランシアの調和によって世界に平穏が保たれんことを。息子リチャード、女王ニケの神聖なる結婚によって今、ブリタニアとフランシアの長き争いは終わった。あとは僭称者を倒すのみである。いざ、シテへと向かわん!」


約一秒の静寂ののち、歓声と拍手が鳴り響いた。



意外と短かった婚約発表と演説を終えて馬車へと戻ると、その前に一人の男が立っていた。

彼は俺たちに気づくとすぐさまその場に跪いた。


「宰相閣下。」


使用人の一人がジョフロワに話しかける。


「ロンバルディー公のご子息であるチェーザレ様が是非陛下にお会いしたいと。」


「‼」


ジョフロワが一瞬固まったのち、馬を降りて口を開いた。


「あの名高いチェーザレ殿が何の用ですかな。」


先ほどあった王太子と同じく、高校生くらいに見える目の前の少年は彼も一目置く人物らしい。

背は160㎝半ばくらいで、黒目黒髪に整った顔をしている。

ニケ、リチャード、チェーザレと貴族の容姿は大体優れている気がするが、偶然だろうか。


「陛下にお聞きしたいことが。」


やはり、俺と違って声変わりした後の声だ。


「陛下は今お疲れで、後日会うということでいかがでしょう。それに、お聞きしたいこととはいったい。」


「王の資格について。そして、本当の陛下はこの中に?」


一瞬でバレた。

何か悟られたのであろうか。

慌ててジョフロワが口を開く。


「これ以上のお話は、馬車の中で…。」



「陛下、お久しぶりです。」


馬車の中に入ってニケの前に座るなり、チェーザレが言った。


「ごきげんよう。チェーザレ。」


ニケが返す。


「陛下が一戦交えられるということで、ロンバルディーから参りました。」


「あなたが味方なら心強いわ。」


「…いえ、誰にお味方するか決めかねているのです。」


肝が据わっているなと思った。

俺とジョフロワとニケと彼の4人しかない密室で、チェーザレは婉曲的に俺たちの敵になるかもしれないと宣言した。


「なので、これからそれを決めようかと。陛下に王の資格があるならば、私もその臣下に加えていただきたい。」


王の資格…は言葉通りの意味か?

だとしたら10代前半のニケに王の資格について答えられるのだろうか。

そしてどう答えるのだろうか。

チェーザレ以外の3人は皆、押し黙っている。


「王の力は絶大だ。特に大国フランシアともなれば。」


チェーザレが勝手に続ける。


「陛下はなぜ自らがフランシア王としてふさわしく、どのように王の力を振るわれるおつもりか。お聞かせ願いたい。」


沈黙。

答えが一つではない質問だ。

これに自信をもって答えられる人間は稀だろう。

ましてや10代前半で…。


「私が王としてふさわしいのは、先王である父の血を引いているから。王の力は悪しきを砕くために。」


結構あっさりと答えた。

それに自信があるのが声色から感じられる。


「では開祖シャルル王はなぜフランシア王にふさわしいのです?そして悪しきとは具体的に何でしょうか。」


「シャルル王はノルド人からフランシアを守護したことでその王冠をかぶるに値する。悪しきは僭称者であるアンジェ公よ。」


アンジェ公は今のフランシア国王シャルルIV世の臣下時代の称号である。

ニケたちは彼が王ではなく自分が王だと主張しているのだから、アンジェ公と呼んでいるのだろう。

それにしても、隣に座るニケは質問にあっさりと答えていく。

それに対して目の前の少年が返す。


「陛下、それではアンジェ公は王にふさわしいということです。開祖シャルルI世はその実績から諸侯の支持を得て戴冠し、アンジェ公もその実績から諸侯の支持を得て戴冠した。陛下はお若い故仕方ありませんが、現時点での王にふさわしいのはアンジェ公では?」


ニケが黙った。

数秒たっても返事が返ってこないことを受けて、チェーザレが笑って口を開く。


「もとより、あなた方は敗けるでしょうから聞いても意味のないことだったかもしれません。ではこれで。」


そういって彼の手が扉に触れようとしたとき…


一閃。


金属音が馬車内に鳴り響いた。

懐から飛び出したジョフロワの短剣はチェーザレの首を外れた。

彼の手にも短剣が握られている。

ジョフロワの短剣はチェーザレの短剣にはじかれていた。


「衛兵!」


ジョフロワが叫ぶ。真剣な顔のジョフロワに対し、チェーザレは余裕の顔である。


「宰相閣下、この狭い車内で陛下を巻き込んで戦闘するつもりですか。まあ陛下は二人もいるんだからどっちかは助かるかもしれねえな。」


馬車をノックする音がする。

そして外から声が聞こえる。


「陛下、お開けします!」


「開けるな!」


チェーザレが叫ぶ。

そして車内の俺たちに命令する。


「開けさせるな。全員殺されたくなかったら俺の言うことを聞け。」


脈が速くなる。

思いがけないところで修羅場がやってきた。

が、意外と冷静だ。

こういう時こそチャンスであると考えている自分がいる。

扉を開けてニケを逃がすか。

いや、失敗したらやばい。

戦闘に加わるか。

いや、刃物を持っていない俺じゃ太刀打ちできない。

考えているうちに言葉が出た。


「王の資格について、俺が答える。」


チェーザレがこっちを見て困惑した表情を浮かべる。


「お前は王の資格を持つものの味方になるんだろ?じゃあ俺の味方になれよ。」


言葉を発している自分でも意味が分からない。

俺は何の権力も持たないのに。

王の資格が何か、皆目見当がつかないのに。

その言葉にチェーザレは笑う。


「宰相、剣を下ろせよ。俺の方が強い。あと衛兵を散らせろ。こいつの話に乗ってやる。」


彼の言葉でジョフロワがしぶしぶ剣をしまうと、チェーザレも剣をしまって体ごとこちらを向いた。


「じゃあ聞こうか。お前の王の資格について。」


・地名の元ネタ


ブリタニア王国(イングランド王国)

西ルメリア帝国(神聖ローマ帝国)

フランデーニュ(フランドル)

リュクサンブール(ルクセンブルク)

ラングドイル(ラングドイル)

ラングドック(ラングドック)

ブルゴラント(ブルグント)

ロンバルディー(ロンバルディア)

アンジェ(アンジュ―)

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