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不倫してしまったアラサー女が転生したら、悪役女王でした。なお、二年後には処刑予定です  作者: オレンジ方解石


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途中から地の文がオーロ子爵の語りになります。

「アウラ女王を処刑するな!!」


「ドゥーカ公爵は、国と女王を売った裏切り者だ!!」


 民が口々に騒ぐ。王宮をとり巻く鉄の柵は高く頑丈で、門も厳重に閉じられて、ブリガンテの兵達に守られているため、王都の民は門にすがるように集まって、声をあげている。


「これはどういうことなの? アウラ女王は民に嫌われている暴君ではなかったの?」


 門を見下ろせる、ロヴィーサ王宮の二階の窓の一つから。

 ローズピンクの髪の聖女が不安をありありと目に浮かべ、愛しい恋人のリーデルを、信頼するレスティを、そして初恋の少年にして実の異母兄と判明した、ソヴァールをふりかえる。

 リーデルやレスティは状況を解説する材料も根拠も持たない。

 しかし、ロヴィーサの民の叫びを目の当たりにした、ローズグレイの髪の青年は。


「…………っ」


 痛みと苦味をかみしめ、ソヴァールはフェリシアに宣言した。


「我々の負け、ということだよ。フェリシア」


 フェリシアは不思議そうに異母兄を見あげる。


「どういうこと? あなたは、なにを知っているの? ソヴァール」


「イルシオン王は、私達が思うほど民に望まれた王ではなかった、ということだ」


 切れ長の目尻にかすかな水滴がにじんだ。

 ソヴァールはオーロ子爵の従者に持たせていたぶ厚い本の一冊をフェリシアに、新たなロヴィーサ女王になるはずだった、かつてのロヴィーサ王女に手渡す。


「なあに? これは」


「イルシオン王とレベリオ王、それからクラージュ王の時代の、国庫の帳簿だ。捕縛前、アウラ女王がなんとしても避難させようとした、重要書類だ。これを見れば、クラージュ王の時代からレベリオ王の時代まで、宮廷内の予算がどう使われたか、すべて把握できる」


 ずらりと並んだ数字の山に、聖女はレモンを皮ごとかじったような表情になる。田舎の村育ちで高度な教育をうけていないこともあり、勉強はフェリシアの大の苦手だった。

 かわりに公爵子息のリーデルと、隣国の第二王子であるレスティが本をうけとり、ソヴァールに指摘された頁の記載を確認していく。


「きれいにまとめられている。が…………どういうことだ。これが正しいとすれば…………」


 レスティの言葉をソヴァールがひきとる。


「国王一家の、ドレスや宝石をはじめとする、身の回り品の支出。それだけをとっても、イルシオン王の時代よりレベリオ王の時代のほうが、格段に()()()いる」


「!?」


「? どういうこと?」


 リーデルが数字を凝視し、フェリシアが愛らしく首をかしげる。

 ソヴァールが言った。


「イルシオン王とその家族より、レベリオ王とその家族のほうが質素な暮らしだった、ということだ。レベリオ王は野心からイルシオン王を追放した簒奪者、と聞かされてきた。けれど本当の彼は、アウラ女王は、ロヴィーサをどうにか立て直そうと奔走していた王だった…………」


「まさか」


「事実でございます」


 レスティの否定を、若者達の様子を見守っていた財務大臣がさらに否定する。


「どういうことですか、オーロ子爵」


 リーデルは蒼い顔で数字と財務大臣の顔を見比べる。

 オーロ子爵は沈痛なものを含んだ声音でフェリシア王女に向き直り、一礼した。


「王女殿下にとっては大変不愉快なお話であること、承知のうえで申し上げます。どうぞ、最後までお耳をお貸しください。殿下のためにも、このロヴィーサの未来のためにも」


 そうして、四人の王に仕えた老大臣の長い語りがはじまる。






 どこから話したものでしょう。

 そもそもは三代前のロヴィーサ王、クラージュ王陛下がはじまりです。

 クラージュ王陛下は、歴代ロヴィーサ王でも特に勇猛で戦いを好まれ、在位中、特にブリガンテとは幾度も戦い…………その半分以上が敗北で終わったことは、貴族の男なら誰もが習う歴史上の事実です。

 クラージュ王陛下が崩御なさる頃、ロヴィーサは巨額の借金を抱えておりました。


「借金…………」


「ロヴィーサが借金を抱えているのは知っています。宰相の父からも聞きました。しかしそれは、アウラ女王や先王の時代からの贅沢と失政により、積み重なったものだと」


 それは違います。クラージュ王陛下の代より、ロヴィーサの国庫を一手に担ってきた、この財務大臣の地位と矜持において、断言いたします。

 ロヴィーサ国庫の大赤字の原因について、お二人は完全に無関係。

 現在のロヴィーサの大赤字は、クラージュ王陛下が積み重ねた借金が主原因でございます。

 借金はほぼそのまま、イルシオン王陛下の時代に持ちこされ――――イルシオン王陛下は、効果的な対策をとることができませんでした。


「え…………」


 はじめにお断りしておけば。イルシオン王陛下は、殿方としては人間としては、真面目で誠実な、信頼に値する御方でございました。

 王子であった頃から学問や鍛錬を怠けたことはなく、政略でさだめられた妻にも律儀に真心をもって接され、信頼で結ばれ合い、王女である殿下を心から愛し可愛がられて、父親や夫としては申し分のない人柄であったと、今でも断言できます。伝統や歴史にも通じておられ、前例のあることには上手に対応されておられました。

 ただ、為政者としては…………保守的で、柔軟性に欠けておられた。

 新しいことに挑戦したり、受け容れたりすることに積極的でなかったのです。

 そのためロヴィーサが抱えた巨額の借金に対しても、通り一遍の対応しかなさいませんでした。


「それはつまり…………」


 課税です。


「!?」


 イルシオン王陛下の時代、民の税金はどんどん重くなっていきました。


「そんな、お父さまが!?」


 くりかえしますが、イルシオン王陛下自身は、愛情深い誠実な人柄でした。民を苦しめることは、けしてあの方の本意ではありませんでした。

 ただ、ロヴィーサは巨額の赤字を抱え…………王宮で生まれ育ったあの方は、国を追われるまで、王宮の外の生活をご存じなかった。民が本当に苦しんでいると、察することができなかったのでしょう。周囲の大臣達も、それを教えたりはしませんでした。

 結果、イルシオン王陛下はドゥーカ公爵達の「この程度の課税なら、民に大きな影響はございません」という言葉を信じ、不本意ながらも民への課税をつづけられたのです。


「そんな…………っ」


「父上は、そんなことは一言も…………ただ『イルシオン王は温厚篤実な方だったのに、欲に目がくらんだレベリオ王が、卑怯にも武力をもって追放した』と…………!」


 レベリオ王が武力を用いられたのは事実です。レベリオ王は王家の血を引くと言っても、イルシオン王陛下の再従兄で、一介の伯爵。王位を継げる可能性は低かった。即位を望むなら武力を用いるのが一番てっとり早いと、判断されたのでしょう。

 一方で、レベリオ王陛下は、けしてイルシオン王陛下の死を望まれたわけではありませんでした。だからこそ、将来の禍根となることを承知のうえで、国外への追放にとどめたのです。

 さらに国庫が苦しかったにも関わらず、レベリオ王陛下はイルシオン王陛下に相当額の品々の持参を許しております。こちらの頁をご覧ください。


「たしかに。この記録を信用するなら、イルシオン王夫妻の追放を境に、大量の宝石や衣装や身の回りの品々が無くなっている。それに、こちらには多額の金貨の支出も…………」


「そんな…………父の話では、陛下も王妃様も贅沢を好まない人柄だった、と…………」


 無意味な贅沢を好まない方々であったのは事実です。ただ、イルシオン王陛下は王宮で育ち、王妃殿下も実家である名門公爵家と、王宮の生活しかご存じありませんでした。そのためお二人共、なんの疑問もなく伝統的な王族の作法に従っておいででした。

 アウラ女王陛下とレベリオ王陛下は、この作法を廃止なさったのです。


「伝統ってなに? 伝統どおりにするのが贅沢だったの?」


 たとえば、着替え。国王は大勢の女官や侍従達の前に下着姿で立ち、衣服の一枚一枚を、女官や侍従達からうけとって身につけていきます。衣服や装飾品の数だけ、それを持って待機するだけの専用女官や侍従がいるのです。アウラ女王陛下には三十名の専属女官がおりました。


「三十人!?」


 女官は全員、中流以上の貴族の夫人です。着替えを一枚、女王陛下の侍女に手渡す。それだけで、ひと月に何枚もの金貨を報酬として得ていたのです。


「服を手渡す、って、本当にただ渡すだけ? それ以外のことは、なにもしないの? それだけで金貨がもらえたの? 信じられないわ。下町の女性は一日中、汗だくになって働いても、銀貨一枚がやっとなのに!」


 食事も、女王陛下一人のために、三十人分の量が用意されておりました。


「そんな量を用意して、どうするの? 絶対に食べきれないでしょう?」


 残った分は、下男下女に下げ渡すのです。

 一年半前までのアウラ女王陛下の暮らしは万事が万事、このような調子でございました。

 そして、フェリシア王女殿下。あなたの父王陛下と母妃殿下も。


「…………っ!?」


 レベリオ王陛下は王宮の外で育ったため、ロヴィーサ王宮の様々な作法を非効率かつ浪費と断じ、何度もイルシオン王陛下に廃止や倹約を勧められました。

 ですがイルシオン王陛下は伝統を重んじて提案を退けられ…………レベリオ王陛下は、反乱という手段に出たのです。


「何故、イルシオン王はそのような判断を…………父は、いえ、宰相はなにも言わなかったのですか!?」


 それこそが宰相の望みだったからだ。


「えっ…………」


 レベリオ王陛下が即位された直後、この手の女官や侍従はいっせいに解雇され、王族の着替えは限られた数の侍女や侍従によって、手早く済まされるものとなりました。

 食事も、それぞれに合った量だけが用意されるようになり、浮いた食費の一部が下男下女の食費に回されました。

 伝統の名目で毎晩、催されていた夜会や晩餐会。不正の温床だった、不必要で無意味な式典や工事の数々も大きく削られ、浮いた予算は借金の返済や下男下女の薄給の改善、なにより民への減税へと費やされたのです。

 ですがレベリオ王陛下が急逝され、八歳のアウラ王女が即位して、ドゥーカ公爵が摂政に就くと、即座にこれらの伝統を復活させました。それに伴い、民への税金も重くなったのです。


「何故、父はそんなことを!?」


 貴族の支持を集めるためです。

 貴族にとって『国王陛下のお側にいける』というのは、大変な名誉なのです。着替えを一つ手渡すだけの仕事がもらえるか否かで、自分や家の、貴族社会での立ち位置が決まるのです。

 ですから貴族達は、解雇されると憤慨しました。その貴族達に仕事を返してやることで、宰相は彼らに恩を売ったのです。国庫の赤字と引き換えに。


「…………っ、父上が…………っ」


 その後しばらく、この伝統はつづきましたが、一年半前にアウラ女王陛下が廃止されました。三十名の女官達には退職金を払って解雇しましたが、それも陛下のご意向で、少しでも国庫からの支出を浮かせるため、陛下が所有している宝石類を手放す、という形で実行されました。国王の持ち物を譲られるのも、貴族にとっては名誉なことですので。


「!」


 現在、陛下の着替えを手伝うのは、数名の侍女のみ。食事も陛下お一人分の量だけ。

 以前は毎晩、開いていた舞踏会や夜会も、現在は週に一回。招待客の数を増やして規模は倍になりましたが、全体の支出は半分以下に減りました。

 ドレスや宝石類の注文も最低限に削り、現在、アウラ女王陛下が身につけておられるのは、すべて手持ちの着まわし。陛下に関する出費は格段に抑えられております。


「そんな…………それが真実なら、どうしてリーデルのお父さまは『アウラ女王は贅沢三昧で民を苦しめている』なんて嘘をついたの? 大勢の貴族の人達と一緒に、わざわざブリガンテまで来て『助けてほしい』と、私に頼んだの? 貴族の人達は『女官だった妻は真面目に仕えていたのに、女王陛下の気まぐれで解雇された』って、本気で怒っていたのに…………あれは着替えのことだったの? リーデルのお父さまだけじゃない、マルケーゼ侯爵さまとかコンテ伯爵さまとかも…………」


 おそれながら、王女殿下。マルケーゼ侯爵は半年前に悪質な不正が露見し、女王陛下に罷免されたております。


「え…………」


「な…………父上は、そんなことは一言も…………!」


 彼らの処遇については、すべて法務大臣のもとで記録が保管されております。お疑いでしたら、ご確認ください。それからこれを。


「なんの書類? すいぶんたくさん…………」


…………ドゥーカ公爵の、大規模な不正の証拠でございます。


「…………っ!? 父上の…………!?」


 私のこの怪我は、()()が原因でございます、王女殿下。

 アウラ女王陛下は、ロヴィーサの国政をほしいままにする宰相の不正について、密かに調査をつづけておられました。そして先日、ついに重大な証拠を入手したと部下から報告をうけ、私自ら確認に赴き、暴漢に襲われたのです。

 幸い、このとおり九死に一生を得て、こうしておりますが…………。


「そんな…………父上が…………っ」


 ドゥーカ公爵は、王女殿下に乗り換えることに決めたのでしょう。このままアウラ女王陛下の下で宰相をつづけても、陛下には不信を抱かれたまま。とりまきの貴族達も次々失脚して、公爵の権勢は大きく削がれました。

 ならばいっそ子息と和解し、前王の遺児で、聖女の認定と隣国の第二王子の後ろ盾を得た王女殿下の即位に力を貸して恩を売ったほうが、権力を維持できる。そう考えたのでしょう。


「そんな…………父上は『ロヴィーサの民を救うため』と…………フェリシアの即位の際には反対勢力も生まれるだろうから、筆頭貴族であり、宰相でもある自分が彼らを説得すると…………すべてはフェリシアとロヴィーサのため、そう言っておられたのに…………!!」


 レベリオ王陛下が国政を混乱させたことは、否定できません。

 あの方は王家の血を引いてはいても、一介の伯爵。国王に必要な教育は受けておられませんでした。即位したところで、すぐに結果を出せないのは当然でございます。まして血が流れたことを考えれば、もっと穏当な方法を選んでいただきたかった、と思うのも事実です。

 なにより、生まれたばかりの殿下を抱えて、愛する故郷を追放されたご一家の境遇には、神も憐れまれたに違いありません。

 ただ、レベリオ王陛下はそこであきらめる御方ではありませんでした。

 逃げることも、責任を放棄することもありませんでした。

 陛下はご自分に知識や能力が足りないことを自覚されると、それを補う努力をはじめられました。ご家族との時間を削り、寝る間も惜しんで、必要な勉強や情報収集に邁進されました。

 レベリオ王陛下は、もともと大学で法律や税制を学んでおられました。陛下は自ら国庫の状態を調べ、優秀な教授達を呼び寄せ、国庫回復のための税制改革案を練られ…………その最中に事故死なさったのです。

 アウラ女王陛下から、レベリオ王陛下が遺された政策案や日記を拝見しました。どれも見事な内容でございました。あれが実行されていれば、今のロヴィーサの国庫はだいぶん改善されていたでしょう。レベリオ王陛下に必要だったのは、なによりも時間でした。

 歴史で『たられば』は無意味やもしれませぬが、私も財務に関わってきた身。あの改革案は今でも通用すると確信したがゆえ、あれを下敷きにした税制改革案を、アウラ女王陛下と検討中だったのですが…………。


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― 新着の感想 ―
勇猛じゃなくてただの蛮勇だし指揮官としても落第レベルなのよく暗殺されてなかったな
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