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不倫してしまったアラサー女が転生したら、悪役女王でした。なお、二年後には処刑予定です  作者: オレンジ方解石


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(どういうこと!? 処刑まで、まだ半年はあるはず…………!?)


 赤い絨毯の敷かれた王座の間で。激しい動揺が桜子を襲う。

 そこへさらに驚愕の報告がもたらされた。


「財務大臣のオーロ子爵、ただいま行方不明、生死不明にございます…………っ」


 桜子も顔なじみの財務大臣の最側近が、苦汁を顔中ににじませ、しぼり出すように女王陛下に報告してきた。

 悪いことは重なるものである。

 桜子は懸命に己を叱咤して、冷静になろうと試みる。

 要約すると、以下のような話だった。

 隣国ブリガンテに留学中のドゥーカ公爵の長男リーデル・ラ・ドゥーカは、向こうで一人の少女と出会った。公爵子息が父の力を借りて調査した結果、少女は長らく行方不明だった前々ロヴィーサ国王イルシオン王の遺児と確定した。

 フェリシアという名のその少女は、懇意となったリーデル・ラ・ドゥーカとドゥーカ公爵の口から、現在のロヴィーサ女王がどれほど横暴で贅沢好きか、それによってどれほどロヴィーサの民が重税に苦しめられているか、切々と訴えられ、公爵に「ロヴィーサの新たな女王となり、民に真の平和と幸福をお与えください!」と懇願されて、「虐げられているロヴィーサの人々を救うため、私は戦うわ!」と立ちあがったらしい。

 反乱自体は予想していた未来だ。漫画どおりの展開である。

 しかし。


「ドゥーカ公爵はブリガンテの第三王子との縁談をまとめるため、直々にブリガンテに赴かれました。その際、子息を介して例の少女を知ったのでしょう」


 さらに。


「前マルケーゼ侯爵、コンテ伯爵、グラーフ伯爵、その他、不正で処分された貴族十名以上の行方が知れません。療養や隠居を口実に、本人との面会は拒まれたり、所在をはぐらかされたり。『姿を消した』という家族もおりました。国境警備からの報告によれば、国境を越える際のドゥーカ公爵が『妙に供の数が多かった』と…………」


「想像ですが、宰相はブリガンテに赴く際に、すでに子息から問題の少女の情報を入手していたのでは? マルケーゼ侯爵達はひそかに公爵に同行してブリガンテに赴き、かの国で少女と面会して、陛下の悪評を吹き込んで少女をあおったのではないでしょうか」


「…………でしょうね」


 桜子は得心がいった。

 ドゥーカ公爵はむろん、前マルケーゼ侯爵達は処分の件で確実にアウラ(桜子)を恨んでいる。悪口などいくらでも出てくるだろう。

 彼らは前王朝の遺児と認定した少女を担ぎ上げ、自分達を冷遇した現王朝の女王を倒すことに決めたのだ。

 たんなる復讐の意図だけではない。そうすることで新たな女王に恩を売り、自分達の罪をうやむやにして()()()()()を約束させるつもりなのだ。


「ろくでもないわね、あのクソ親父共!!」


 思わず桜子が叫び、側近達は華麗な女王の乱暴な罵倒に目を丸くする。


「でも、どうして今? 処分で立場を失ったのはわかるけれど、行動が早すぎるのではない? イルシオン王の遺児というのも、本当に確実なの?」


 財務大臣の最側近が報告する。


「閣下は、ドゥーカ公爵の不正の証拠を入手しかけていたのです」


 既得権益にしがみつくドゥーカ公爵は、ロヴィーサを立て直そうとするアウラ(桜子)の最大の敵だった。それは向こうも理解していた。

 桜子はドゥーカ公爵を失脚、もしくはせめて弱体化させたかったが、彼は様々な不正への関与を疑われながら尻尾はつかませず、処罰の隙を与えなかった。

 しかし今回、公爵本人が国外に出たおかげでロヴィーサに残った部下達に隙が生じ、重大な不正の証拠が入手できそうになった。


「その知らせを聞いて、大臣閣下は自ら証拠の入手に乗り出され…………入手寸前に、襲撃に遭ったのです。おそらくはドゥーカ公爵の手下が…………」


 最側近が無念に言葉を詰まらせる。

 報告によれば、彼が駆けつけた時、残っていたのは負傷した幾人かの部下達のみ。肝心の主人は行方知れず、生死もさだかではないという。むろん、証拠については言うに及ばず、だ。


「推測ですが、閣下が直々に調査にあたっていると知り、宰相は焦ったのではないでしょうか」


 別の側近が言葉を添える。

 桜子がロヴィーサ国庫の困窮の改善に奔走したことで、財務大臣は早い段階から桜子に協力的で、良好な関係を築くことができていた。男爵から子爵へと出世もし、現在のロヴィーサ王宮では『アウラ女王の右腕』という認識が定着している。

 そのオーロ子爵に不正の証拠をつかまれれば、買収や懐柔の余地はない。即刻、女王に報告されて厳しい処分が下される。

 そう判断し、ドゥーカ公爵は我が身と財産や地位を守るため、抵抗に出たのだろう。「失脚させられる前に失脚させてやる!!」と。

 さらに公爵は累進課税の情報も入手していたようで「これ以上、横暴な女王に財産を奪われていいのか!?」と、貴族達を焚きつける手紙を送りまくっているという。


「陛下の周辺情報が公爵へ流れていた形跡も発見されました。リュゼという名に、お心あたりはございませんか? ドゥーカ公爵の遠縁で、陛下のもとに間諜として差し向けられていたようですが」


「リュゼ…………ああ」


 栗色の髪の若い侍女の顔が浮かぶ。

 無駄口を叩かず気が利くので、重宝していたのだが。


「…………言われてみれば、その程度はするでしょうね。向こうも必死だし」


 当のリュゼは昨日から暇をもらっている。

 桜子は己の迂闊さを呪った。

 必死に現状を整理し、頭を回転させる。


(漫画ではたしか、ヒロインが蜂起してヒーロー達とロヴィーサに進軍して…………それからドゥーカ公爵と息子のリーデルが再会して、そこで公爵がヒロインの清らかな心に触れて、父親としての愛情をとり戻し、悪役女王であるアウラに仕えていた過ちを反省して…………という展開だったと思うけど…………あの狸親父(ドゥーカ公爵)に、『反省』とか『改心』なんてある?)


「そのフェリシアなる娘、まことにイルシオン王の王女か? 娘一人、公爵の口車に踊らされている可能性はないのか?」


(まあ、漫画では本物の王女の設定だったけど。でも考えてみると、この世界、DNA鑑定とかないみたいだから、本物でも『偽物だ!』で押し切れないかな?)


 側近達が報告する。


「現状では判断がつきかねます。が、さすがに公爵もブリガンテも、ただの田舎娘に正統な王女を名乗らせるとは思えませぬ。フェリシアという娘、少なくともブリガンテでは聖女の認定を受けているようです」


「報告ではその娘、オブリーオ王家の特徴であるローズピンクの髪をしているそうです。イルシオン王夫妻を知る年配者達も『亡き王妃殿下に生き写しだった』と口をそろえております」


『オブリーオ』はアウラの父、レベリオ王からはじまったオルディネ王朝の前の王朝だ。DNA鑑定のような技術が存在しない以上、そういう事実が重要になってくるのだろう。


「ブリガンテとしては第三王子を婿として送り込むより、正統な王朝の復活を大義名分に、聖女に手を貸して新王朝を興したほうが、確実にロヴィーサを支配できると考えたか。公爵も、公爵の息子も甘い。第二王子レスティは有能で魅力的と聞く。報告を聞く限り、フェリシアとやらもずいぶん気に入っている様子ではないか。最悪、フェリシアとやらが女王位に就いたあと、ブリガンテの権勢を盾に、恋人を寝取られる可能性もあるだろうに」


「ふん」と吐き捨てる様は、まさに『高慢な女王』の表現にふさわしい。


(実際、花宮ヒロインって、そんな感じだからなぁ。逆ハーで、はわわどうしようわたしそんな気ないのに~キャラばっかだから、本命ヒーローとくっついても『そいつが死んだら、別の男とくっつくんだろうな~』としか思えなくて)


 側近の一人が勧める。


「どうか避難を、陛下。ブリガンテからこの王都まで、間にあるのはマルケーゼ侯爵領やグラーフ伯爵領です。彼らは戦わずにブリガンテ軍を通すでしょう。おそらく二、三日中に、この王都に到達するはずです」


「二、三日…………」


(早すぎる)と桜子は思った。

 が、予期していなかった事態ではない。

 時期と展開が少々異なるだけで、ヒロインがブリガンテから軍を率いてロヴィーサに攻めてくること自体は、漫画で読んで知っていたことだ。

 桜子は避難を受け容れ、大臣達と手早く今後の方針を確認しあうと、足早に王座の前から退室する。女王陛下の命令を受けた大臣達も三々五々散っていく。

 こうなったら、とるべき行動はただ一つ。


(よし! 脱出する!!)


 桜子にロヴィーサと運命を共にする気は毛頭ない。

 国庫の立て直しに奔走はしたものの、それは自身の処刑を回避するためで、女王として生きる決意をしたわけではない。脱出経路と安全な避難先を確保するまでの、いわば時間稼ぎだ。


(逃亡資金の宝石や金貨も、変装用の衣装も、全部用意してある! クソ親父共にしてやられたのは不愉快だけど、ここで捕まって処刑される気は皆無だし、さっさと逃げ出してやる!)


 女王位に未練はない。『アウラ女王は死んだ』と思われれば、御の字だ。一介の下女として逃げ出し、一般人として生きていく算段だったが。


「あっ!!」


 桜子は思い出してしまった。


()()を避難させないと!!)


 女王の私室に戻った桜子は方向転換し、宝石や金貨の隠し場所ではなく、国王の専用執務室に飛び込む。

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