改変桃物語〜序章
むかし、むかしあるところにお爺さんとお婆さんがいました。
ある日のこと、お爺さんは山へ山賊狩りへ、お婆さんは川へ魚を獲りに出かけました。
お婆さんが川魚を素手で岸に弾いていると上流から大きな桃が流れてきました。
「ついにこの日が来たのね。」
お婆さんは桃を担ぐと手馴れた手つきで獲った魚をまとめて家路に着きました。
その日の夕方、お爺さんは生捕りにした山賊を役人に引き渡して帰ると家ではお婆さんが待っていました。
「流れてきたんだな…。」
お爺さんは置かれた大きな桃を見つけると全てを察するように呟きました。
「えぇ…。今度こそ助けましょう。」
お婆さんは決意に満ちた眼差しでそういうと桃を割ります。
すると中から大きな男の子が出てきました。
産声をあげる男の子をお婆さんはそっと抱きかかえると優しい笑顔で男の子を見つめ、お爺さんも静かに覚悟を決めるのでした。
桃太郎と名付けられた男の子はすくすくと育ち、強さと優しさを兼ね添えた青年に育ちました。
ある日、桃太郎が冒険者組合に行くとそこでは鬼に襲われたという商人の話でもちきりでした。
「港町が鬼達に襲われて酷いことになってるって話だ。この前の地震の調査で出払ってるっていうのに。どうしたもんか…。」
組合の方でも対応に苦慮しているようでした。
話を聞いていた桃太郎は元冒険者組合筆頭のお爺さんとお婆さんに相談をし、鬼退治に行く事を決意します。
「お父さん、お母さん、僕は鬼に襲われたという港町に行って助けを待っている人達を助けてくるよ。」
「そういうと思っとったよ。わし等で出来る限りの用意はしておいた。気をつけるんじゃぞ。」
「これは向かう道中にでも食べられるように作ったきびだんごと仙桃よ。気をつけてね。」
そうして桃太郎は旅立ち、その道すがらに仲間となる者たちを共に連れて港町に着くとそこに居た鬼達を一掃しました。
「主よ。悪鬼は某の刃で滅したでござるよ。」
一度噛みついたら必ず獲物をしとめると言われていた獣人の侍が自信に満ちた顔で言いました。
「おまえはいつもそうだな。皆んなでやった成果だろうが。」
忍びの隠れ里で仲間に加わった魔猿と呼ばれている隠者は侍と言い争いを始めました。
「また始まったよ…。よく飽きないなぁ、犬猿の仲ってか?」
二人を呆れた顔で見ているのは栄光の鷹の異名を持つ射手。
四人は生き残っていた人達に話を聞き鬼の居る島に向かうのでした。
一方その頃
「軸が動いたおかげでようやく動けるわい。」
わし等は桃太郎とは別の行き方で鬼ヶ島に向かう準備を整えていた。何故かと言えばわし等は結末を覚えているから。幾度となく繰り返されたこの物語の中で鬼を退治して帰ってくる桃太郎は必ず同じタイミングで背中から貫かれて絶命する。
わし等はいつの頃からか、それまでの記憶を持ったまま《あの日》の五年前に戻されことを繰り返した。
あの子を助ける為にわし等は努力を続けた。その結果少しずつ物語は変わっていき、とうとう助ける為に必要な物を見つけたのじゃった。
「桃太郎の入っていた桃の種から育てた仙桃のうち、この時期に必ず実るこの黄金の桃を鬼を倒した後のタイミングで食べさせれば桃太郎を転生させられる。」
前回の世界線で竹取の輝夜様から教えてもらったこの情報を元に今度こそ桃太郎を助けると今一度誓い合った。
これは後の異世界転生を果たした桃太郎が転生したタイミングで転性もしてしまい、新たな世界で織りなす物語の前日譚。英雄達の物語。
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