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友達を作らない俺と友達を作れない彼女 4

「……は?」


 唐突な発言に俺は戸惑いを隠せず間抜けな声を出してしまった。

 新手の告白かなんかだろうか。


「言ってる意味がわかんないだが……」

「それで友達になってもらうわけだけど——」

「おい、人の話を聞け」

「……なに?」


 不機嫌そうな顔をこちらに向けてくる。いや、なんで俺が悪いみたいになってんだ。


「なんでいきなり友達にさせられるんだよ。意味わかんないだろ」

「言葉道理。あなたは私の友達になればいい」

「だからそれが意味わからないって言ってるんだ」

「あなたも私の欠点が何か知ってるはず」

「ああ、胸が小さ——」


 思いっ切り脛を蹴られた。痛い。


「と、友達がいないことだろ」


 ずきずきと痛む脛を抑えながら言う。人がせっかく気を使って言わなかったのになんていう仕打ちだ。こいつにとって友達がいないことよりも胸が小さいことの方がほうがよほどコンプレックスらしい。これだから女心というのはわからない。


「それであなたには友達になってもらう」

「ちょっと待て、なぜそこに跳躍する」


 友達がいないから友達を作る。これ自体に問題があるわけではない。ただ、こいつの場合、一人でいることに問題ないはずなのだ。進んで孤高を貫いているような奴だぞ。それも一年。そんな奴がいきなり友達を作ろうと思うだろうか。その相手が俺というのがなおさらわからない。何か深い理由があるのかも知れない。


「馬鹿にされたから」


 なかった。というか浅かった。

 たぶん、馬鹿にしたのは見ず知らずの生徒だと思われる。察するに陰口を言われていたところに出くわしたとかだろう。


「そんなの無視すればいいだろ。お前が優れているから嫉妬してるんだけだ」

「そうだけど、たかが友達いないというだけで見下されるのが嫌」


 十六夜は相当高いプライドの持ち主だった。そこまで行くか普通。俺だったら面倒くさくて御免被るぞ。


「それについてはわかった。けど、なんで友達になるのが俺なんだ?」


 自分で言うのもなんだが、少しドキドキする。わざわざ俺を選ぶのだから相当な理由があるはずだ。別に期待なんかはしていない。してないからなっ!


「なんとなく」

「あ……そう」


 俺のピュアな男心が砕け散った。実際のところは期待などしていなかったのだが、これは流石にショックだ。泣いてなんかないぞ。だから、こっち見るんじゃない。


 ……なんて茶番劇はここら辺にしておこう。正直、どっちでもいい。むしろ、十六夜の答えはありがたかった。どうあっても俺の答えは変わらないから。


「悪いな、俺は友達を作らないんだ。ほかを渡ってくれ」


 俺にとっての決まり文句。そして揺らぐことのない信条。


 今度こそ俺は十六夜の横を通り過ぎた。ただ、さっきのような清々しさは感じない。自分の中の何かに苛立ちながら足早に立ち去ろうとした。


 しかし、またしてもそれは叶わなかった。


 俺の足がおもいっきり払われる。見事、俺はバランスを崩して床に両手をついてしまう。もちろん犯人は十六夜。


「危ないだろ! なにする——んごっ⁉」


 俺が怒りを露わに振り向こうとした途端、頭をやや柔らかい感触に一気に押し潰された。というか踏まれている。後頭部にあてがわれた感触からして、十六夜はわざわざ上履きを脱いで踏んでいるみたいだ。配慮ができるあたり十六夜はもしかしたら優しいのかもしれない。が、本当にやさしい人間は人の頭を踏みつけたりしない。


「おい、足をどけろ。人様の頭を踏むな」

「そんなことしたら、あなたが逃げるじゃない」

「わかった、逃げないと約束するからいったん足をどけてください」


 俺の言葉を信用してくれたのか十六夜は足を引っ込めた。そして、十六夜は正面に回り込むと、また俺を踏んだ。全然信用してなかった。


 それでもさっきとは違い、軽く押さえつける程度の力だった。つまり、牽制みたいなもので動いたら踏みつぶす、ということだろう。ていうかこの体勢は色々とまずい。十六夜の色白いすらりとした太ももから上が拝める状態になっている。本人はそのことに気づいていない。俺は目を逸らすように言う。


「で、なんで俺だ。友達になるだけならほかの奴でも問題ないだろ」

「あなたが私と同じでひとりだから」

「一緒にするな。確かに俺はボッチだが、お前と違って会話ぐらいはする」


 まあ、基本的には泉ぐらいしかいないが。


「私だって会話ぐらいはする」

「……例えばどんな」

「『好きです付き合ってくださ』『ごめんなさい』って」


 それは会話とは断じて言わない。しかも相手の告白が終わる前にふってるし。なんというかフラれた奴が可哀想だった。


「嫌味か。というかそれなら告白してきた奴の中にとりあえず友達になって欲しいって奴がいただろ。そいつと友達になればいいだろ」

「イヤ、あの人達は誰一人、本当に友達になろうなんて思ってない」


 確かにそうだ。彼らからすると悪あがきで言っているだけで、本当の意味で友達になろうとは思ってないだろう。あわよくば自分の価値を上げる道具としようとしているのと同じだ。そんなのが友達ではないは俺自身よくわかっていたはずだ。なのに、十六夜に押し付けた。我ながら無遠慮だったと思う。


「悪い……だが、他に俺と同じような奴だっているだろ。別に俺である必要ない。なんなら泉とか気が利くような奴に頼めばいい」

「去年も同じクラスだったのはあなたしかいない」


 朝の泉との会話でフラグがたったみたいだ。やっぱ現実は恋愛シミュレーションゲームより理不尽だ。

「それにここまでやって断られるのは、なんか嫌」


 ほんとプライド高いな、こいつ。普段の俺ならとっくに折れているのだが、事が事だけに今回ばかりはそうやすやすと譲れない。俺は強く拒否する。


「言っとくが俺は何があろうと、誰とも友達になる気は絶対ない。諦めろ」

「…………わかった……」


 十六夜は俺が、何があっても拒否するということを理解したみたいだ。これでこの面倒事から解放される。と思ったのだがおかしい、十六夜が足を引っ込める気配はない。


「おい、わかったんだろ。なら足をどけてくれ。早く帰りたい」


 催促するが十六夜は微塵も足をどかそうとはしない。それどころか、だんだん踏みつける力が強くなっている気がする。


「……平和的解決ができないのはわかった。だから強硬手段に切り替える。正直、強引にはしたくなかったけど、あなたがそこまで拒否するなら仕方ない」


 まるで今までが強引ではなかったかのような言い草だ。誰だよ、こいつの欠点が二つしかないって言ったのは。欠点だらけじゃないか。


「ふざけんな、だから無理だって言ってるだ——痛いたいっ!」

「友達になればやめる」

「い、嫌だと言ったら」

「このまま踏みつぶす」


 こいつ本気で踏みつぶすきだ。頭が床にめり込んで痛い。


「ごほっ、痛いっ、ギブだ、ギブっ。友達になるから、足の力抜けっ!」


 もはや悲鳴にも近い声で言うと十六夜が足の力を抜いた。ただし、十六夜の足は頭に添えられたままだ。


「ただし、条件がある」

「……なに?」


 十六夜の足に少し力が入る。だが、俺は臆することなく言う。


「俺はお前の友達にならないが、偽装の友達にならなる」

「……どういうこと?」

「つまるところ、お前はただ馬鹿にしてきた奴を見返したいだけなんだろ?」


 十六夜がコクっと頷く。


「それならば、俺とお前が本当に友達になる必要はない。俺とお前が友達であるっていう体裁だけがあれば充わだよな?」

「……それで問題はない」

「なら、お前が俺の存在が必要なくなったら即時解消する偽装友人関係、それでいいならお前の友達になってもいい。ダメなら俺は頭を踏みつぶされようが拒否する」

「……わかった。その条件でいい。これからあなたには私の友達をやってもらう」

「偽装ってこと忘れるなよ。やめたくなったらいつでも言ってくれ。大歓迎だ」


 ということでこの関係を手っ取り早く終わらせるべく十六夜に対し、ちょっとした嫌がらせを試みる。


「あと、この恰好だと……下着が丸見えだ」

「~~ッ!」


 効果抜群だったようだ。十六夜は慌ててスカートの裾をギュッと抑える。その頬は真っ赤に火照っていく。今まで変わることのなかった十六夜の表情が初めて変化した。若干涙ぐんだ目でキッと睨み付けてくると、俺の頭を遠慮なく何度もゲシゲシと踏みつける。そして、とっとと教室から出ていった。


「……水色、か……」


 痛む後頭部を撫でながらつぶやく。そういえば、今日の俺のラッキーカラーが水色であったのを思い出す。あと、自分の人生が変わる運命的な出会いがあるかもって言っていたな。当たってはいるが、間違いなく悪い意味で人生が変わりそうだ。


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