友達を作らない俺と友達が作れない彼女 1
十六夜凛華といえば校内で知らないものはいない。校内一の有名人である。成績優秀運動神経抜群の文武両道の超人であることは彼女を有名にする一因であるのには違いないが、何より彼女を有名にさせているのは、ずば抜けた容姿である。同じ人間とは思えないほどの容姿を兼ね備えた美少女なのだ。流れるような長い髪に澄み切った瞳、可憐さを秘めた整いすぎた顔立ち。加えて身体は黄金比と言わんばかりのものである。筆舌に尽くしがたいというか、彼女の美しさを言葉に落とし込むのが間違っているのかも知れない。あえて例えるなら、夜を照らす月、といったところだろうか。まぁ、つまるところ、そんなに大げさに表現してもおかしくないほどの美少女なのである。
だが、この世の物理法則なのか、はたまた神様の気まぐれなのか、十六夜凛華といえども欠点がわずかながら存在する。
一つは——それほど、たいしたことではないのだが(女性からしたら大事かもしれない)——率直に言えば、十六夜凛華には胸がない。まったくと言っていいほどないわけでもないが、一般的な女子高校生と比べると些か平均を下回る慎ましやかな胸の持ち主なのである。世間一般的な男子高校生である俺からすると、巨乳であろうと貧乳であろうがおっぱいはおっぱいなのであり、ロマンを求むべき男の夢の詰まったものなのではあるが。
と、こんなどうでもいい話は置いておくとしよう。まぁ、これが十六夜凛華の欠点の半分を占めるのだが、もう半分のほうが致命的であり、彼女が同じ人間であることを実感させる欠点なのである。
その欠点は、
——十六夜凛華には友達がいない。
彼女、十六夜凛華は常に一人なのである。孤独というか孤高。誰とも話すことなく誰とも関わることなく、いついかなる時も一人でいるのだ。
いない、というだけなら問題はないだろう。偉人にだってそういう人間は何人もいる。かくいう俺も、友達は——現在は一人もいない。だからと言って、別に生きづらいということはなく(不憫に思うことはあるが)、一時の関係で上手くやっていける。だから、友達なんてものはいなくてもいいのだ。
決して必需品などではないのだ。
だが、リア充だろうがオタクだろうが何かしらのコミュニティを作り、群れる現代社会においては突き抜けた孤高というのは決定的な欠点以外のなんでもない。本来なら忌避されるような存在ではあるのだが、やはりその容姿ゆえか、クラスでは腫物というよりは凡人には理解できない美術品のような扱いで、誰一人触れようとはしなかった。当の本人も気にする様子はなく、興味がないといった感じで教室でただ一人、涼しげな表情で静かに座っているのだ。
窓から入り込む斜光に照らされたその姿はまるで絵画のようで、俺はその横顔を見るとき、不覚にも見惚れ、胸に形容しがたい何かがをこみ上がるのを感じてしまうのである。
俺と彼女の共通点といったら、程度は違えども友達がいないことぐらいしかないのだが、なぜか俺は十六夜凛華に共鳴じみたもの感じてしまうのだ。
そのせいなのだろうか、
現在、俺は四つん這いの状態で十六夜凛華に踏まれていた。