今日から俺は魔法少女
初めて小説投稿してみます!
これからも投稿できたらいいかなとか思ってます。
よろしくお願いします。
俺の名前は上谷悠。
母万有美と父良助との間に生まれた末っ子にして長男な男。
家庭環境は比較的明るく、家族は仲が良いと思っている。
朝の六時、ベットが軋む音と共に身体を起こす。
いつもならばもっと遅い時間に目が覚めるのだが、
今日は何故かとても健康的な時間に目が覚めてしまった…朝練なんてもうないのに。
「やっと起きたか悠、使命を伝えに来たぞ」
はて、俺はケータイにストラップなんて着けていただろうか…
記憶が確かならばそんなもの着けたこともなければ、人形なんかも持っていない。
ならばこのケータイの上にある『犬の人形』──は誰のものなのか…
心なしか浮いているように見えるそれは、俺に語りかけてきているように見える。
「うん、俺はどうやら寝ぼけているみたいだな…犬の人形が浮いて喋るなんて」
「ほほう…よもやこの私を犬の人形呼ばわりするとはな」
これは夢なのだろうか…それにしてはハッキリと見えている気がする。
古典的に頬を抓ったり目元を擦すってみるが状況は変わらない。
依然として異常な光景はそこに存在した。
俺は額に手を添えて状況を整理することにした…
異様な存在感を放つ人形──は一体何なのだろうかと。
目の前のそれは俺が犬の人形と呼んだときに元々低かった声色を不満げに落とし、
頬を引き吊らせて微妙に不細工な笑みをつくっているのだ。
喋っているという点がもうすでに頭を抱えてしまうほどの出来事なのだが、
百歩譲ってそれはそういうものと飲み込んでしまおう。
でも──こいつ浮いてるんだよなぁ…
「えっと、お前は何なの?」
「無礼者め…私には御陰という立派な名があるのだ」
御陰…犬には大層な名前だと思ってしまうが──流石に名乗られてしまうと、
"お前"と呼び続けるのは躊躇われることもあり──俺はこの犬を御陰と呼ぶことにした。
「私は妖精の国からやって来た高貴な妖精だ…悠よ、改めて使命を伝えるぞ」
(高貴…ね)
妖精と聞いてつい疑ってしまいそうになるが、犬が喋ったり浮いたりしてたら信じざるを得ない。
一度話の腰を折ってしまったこともあり、今度は黙って聞いておこうと思う。
しかしまぁこの状況は──御陰の姿は犬だ…なんの犬かって?
チワワだよ。
それはもう愛くるしい顔をしている小型犬ですよ。
そんな御陰が足を伸ばして腕を組んで浮かんでいるこの状況――シュールだ。
大体何でチワワなんだよ…高貴感出すならもっとあるだろ、ドーベルマンとか。
「──私と契約し、世に蔓延る侵略者共を殲滅してもらう…」
御陰から放たれた言葉にどうでもいい思考は一瞬にして消し飛び、驚きを隠せなかった。
当然だ、今まで俺は平和に生きてきた…ベーダーなど見たこともなければ聞いたこともない。
だが、この御陰との出会いが…俺の人生を大きく狂わせていくのだった──
公立陸奥高校は普通科の共学校。
偏差値51と程々に普通の高校だ…俺はそこの一年生。
だらだらと生活していたら夏は終わり、秋がやって来た。
俺はクラスメイトが続々と教室を後にする中、
思わず身を硬直させていた──それは主にバックの中の存在が元凶だ。
学校で指定されているバックは横長のスクールバック…そのファスナーから顔を除かせる犬…
今朝衝撃的出会いをしたこの自称妖精さんは、何故か学校まで付いてきていた。
「おまっ…御陰何で鞄の中に!?」
──御陰…それはこの愛くるしい犬…チワワの姿をした妖精を自称する存在である。
今朝方頼んでみたのだが、通常の犬とは違って"おて"や"おかわり"の芸はしないらしい。
しかし"浮遊"や"会話"はできるという超人…いや超犬である。
そんな妖精さんは俺のバックで教材と共に運ばれてきたのか、姿を表した。
「私は悠のパートナーなのだぞ…それに高貴な私を家に置いていくとは何事か」
「んな姿で言われても…」
今の御陰はファスナーから顔のみを出している状態であり、とても高貴な存在に見えない。
威厳なんてフォルムからしてまずないのに、加えて状態が面白すぎて笑えてくる。
今すぐにでも腹を抱えて床を転げ回りたい気分だが、そんなことをした日には社会的に死ぬ。
「それに悠…私はまだ侵略者の対処法を教えていない」
確かにその通りだ…大体ベーダーが何なのかも俺は聞いていない。
言われたのは芸はしないということと一緒にベーダーを殲滅してくれということだけ。
重要なことは何一つ聞いていなかったのだ…しかし──
「俺これから授業なんだよ、悪いけどあとにしてくれよな」
「──何をッ!?」
教材を取り出した後に御陰の顔をバックに押し込んでファスナーを締める。
バックで付いてきたのだから呼吸できないというわけでは無いのだろう…
見つかっても面倒なので一時的にバックの中で待っていてもらうとしよう。
「待て悠、私の扱いがぞんざいに──って聞いてるのか!」
「すまん御陰、今日の一項時移動教室なんだよ」
教室には既に誰も居ないようで、おそらく皆移動した後なのだろう…
早くいかなければ欠時になってしまう。
慌てて教室の扉を施錠して、俺は廊下を走り出した。
「私をこんな場所に放置するとは…悠め」
幾らか時間が経って、締め切られた教室に風で靡くカーテンの音が響き渡る…
そして御陰はその存在を感知した。
「──ベーダーが出たか」
授業開始の鐘が鳴ってかなりの時間が経過した頃、俺はトイレに行くため席を立つ。
廊下に出れば静寂が広がっており、いつもは騒がしい廊下が静かなことに違和感を覚えた。
しかしまぁよくあることだと歩き出したその時、強い風が吹き込んできた。
「いや、今日風強すぎだろ!?」
高所の崖に立っているかと思わせる程の強風に、慌てて足を開いてバランスをとる。
しかし、それでも尚強さを増していく風力は…俺の身体を壁まで吹き飛ばしていた。
「痛っ──は!?」
俺が声をあげたのは痛みでキレたのではなく、有り得るはずのない光景を目撃したからだった。
開かれた窓の外…校庭が一望できるその場所からは、空に滞空する鳥が見える。
物理的法則を無視したその鳥は、一ミリたりとも動くことなく空中で停止していたのだ。
「悠よ…そこに居るのだろう」
「その声は御陰…お前バックごと移動してきたのか」
浮遊する俺のバック…どうやってここまで来たのかは気になるが、
そんなことよりも現状の把握の方が先だと意識を切り替える。
「これは一体どういうことなんだ?」
「うむ、十中八九侵略者の仕業だな…状況は見えないが」
ベーダーの仕業…それは鳥の停止や、強風の発生のことを指しているのだろう。
よく見れば紅葉樹の落ち葉も停止していたことから、俺と御陰以外は停止しているらしい。
「そのベーダーを追い払うのが俺の役目とか言ってたよな…どうすればいいんだ」
「そうだな…初めての変身だから多少戸惑うかもしれんが、ただ<変身>と唱えればいい」
へ、変身…俺そんな正義のヒーローごっこみたいなことしないといけないのか…
だが、そうするのが俺に与えられた使命だとか言われたら期待したくなる年頃だ。
それに…俺の活躍で救われるとか凄くワクワクしてくる。
『…悠、決めてくれ!お前が俺らを――』
脳裏に響いた声を振り払うように頬を叩き、
高鳴る期待を胸に、俺は停止した世界でその言葉を呟いた。
「──変身」
唱えた言葉に呼応するかのように、俺の身体を金色の光子が包み込む…
それと同時に体内から沸き上がってくる熱を強く感じ取れた。
「よもやこれ程とは…」
御陰の呟きは俺には聞こえてこなかった…そんなことよりも重要なことがあるのだ。
頭が重い気がする…具体的に言えば髪の毛の重量が増している。
そして下半身に違和感を感じる…そのせいかバランスを崩して前のめりに倒れてしまった。
すると自然と視界に髪の毛が垂れてきた。
「俺の髪こんなに長かったか?」
え、誰の声だ今の…すごく至近距離から聞こえた気がするぞ!?
詳細に言えば俺の喉から聞こえたような…
「悠、いい忘れていたが…変身するとお前はこうなってしまう」
御陰はバックのファスナーを自力で開くと、懐から手鏡を取り出した。
今何処から取り出したとか──何でそんな物をとかは、この際触れないでおこう。
それよりも驚くべきことは手鏡に写し出された謎の少女だった。
金色に輝くふわりとした髪の毛が特徴的な、控えめに言って美少女…
中学時代のマネージャーよりも可愛いぞこの子…てか俺か。
桃色のドレスを纏うその姿は、学校の廊下とはマッチせずに浮いていた。
「こうなるって…どうみても女じゃんか」
「安心しろ、変身を解けば元に戻る」
はたしてそういう問題なのだろうか…
というか俺、これから侵略者とかいうのが現れる度に女になって戦うの?
「文句は後で聞いてやる…今はベーダーに集中しろ」
「…わかった、それでベーダーってどれだ?」
「あれだな」
当然のように空中に浮かぶ御陰は、窓の外に視線を向けた。
そこは校庭が広がっているはずなのだが、気が付けば地面が穴だらけになっている。
加えて竜巻のような存在が、まるで生きているかのように校庭を削りながら動き回っていた。
「もしかして、あの竜巻がベーダーなの?」
「その通り…今回のベーダーは力が弱いようだ、初心者の悠でも十分倒せる相手だろう」
「弱いって…」
俺さっきあの風で吹き飛ばされたぞ…かなり強く背中打ち付けたから痛かった。
ん、そういえばさっきから背中の痛みを感じないぞ…どうなってんだ?
御陰にそう聞くと、話ながらも着いてこいと言われた。
「何している…窓から直で行くのだぞ」
階段へと駆け出そうとしたところ、御陰は訳のわからないことを口にする。
窓から行けって言ったのか?馬鹿なの?俺飛べないんだぞ?
「察しの悪いやつだ…ベーダーに対抗する存在が脆くては使えんだろう」
「つまり、俺はここから飛び降りたところで死にはしないのか?」
「然り…対侵略者の悠たちは物理耐性、魔法耐性を持っていることで簡単に死ぬことはない」
未だに信じがたい事だが、事実治癒能力も向上しているのだろう…
さっき痛めた背中も痛くないのはきっと沸き上がってくるこの力のお陰だ。
「して怪我がどうこう言ってたが…恐らくそれは悠自身の魔力によるものだな」
「俺自身の魔力?」
俺がいた廊下は三階にあったが、着地したときに痛みは感じなかった…地面は割れた。
その反面全く怪我のない足をみると、確かにこの程度で死なない気がしてくる。
「悠よ、お前の魔力は異様に多い…そのため通常より頑丈なのだ」
「…この沸いてくる熱が魔力なら、確かに尽きる気がしないな」
「既に魔力を感じ取れていたか…では武装を取り出してみよ」
校庭に向かいながらもそんな指示を飛ばされても、武装って何だよ。
いや言葉からして侵略者に対抗する武器なんだろうけどさ!
…まてよ、このパターンもしやまた<武装>って唱えればいいんじゃないか?
「ええい、ものは試しだ! ──武装!」
そう唱えた途端、再び呼応するようにして粒子が舞い上がる…
身体の熱が一気に上昇していくのが分かり、一瞬の閃光と共にそれは俺の手に収まっていた。
手のひらサイズのそれは、白色の球状の物だった。
赤色の糸で縫った後のような楕円型の模様が特徴的で…
「──野球ボールじゃねぇか!」
「何をする!?」
あまりのアホらしさに堪えかねてボールを放り投げた…
すると、飼い主に投げられた物を取りに行く犬のように、御陰がボールを食わえたのだ。
本当に威厳とか無いよなこの妖精…もうただのチワワでいいじゃん。
「自ら武装を捨てるなど自殺行為だぞ」
「俺は認めないぞ、野球ボールは武器にならないだろ!」
「投げればよいではないか」
「それ捨てるのと何か違うわけ!?」
まぁ最悪は投げつけて攻撃するとしよう。
それにしてもボールってなんだよ…もっとあるだろ?
RPGとかでいう剣とか大鎚とか、そういう強そうなの期待したのにさ。
「速度を上げろ…気付かれた、追ってくるぞ」
いつの間にか俺達は校庭に着いていたようで、竜巻がこちらに迫ってくる。
俺は足に力を込めると、竜巻と一定の距離を保ちつつ御陰に視線を向けた。
「わかっている…奴らを倒すには本体に攻撃を当てる必要があるのだ」
本体…そう聞いて後ろを振り返ってみるが、
校庭の砂を巻き込んだ竜巻の中、それを視認することができない。
「しかし、遠目で見たときはまだ弱そうに見えたのだが…存外成長が早いな」
「ベーダーって強くなるのか?」
「奴らも生物なのだ…出現したばかりは赤子も同然、だが時間が経てば成長もする」
生物…あの竜巻の中央にこれを起こしてる生き物が居るのか。
というか強くなられたら俺勝てないんじゃないか?
さっき御陰は俺を初心者とかいってたし…
「ちなみに当初の作戦は、お前が突っ込んで本体に攻撃をあてるというものだ」
「──おま、俺をなんだと思ってやがる!」
「だが今となってはその作戦は通用しない」
俺のツッコミを無視した御陰はそう言った…
これは普通に理解できた、近付けばまず間違いなく吹っ飛ばされる。
…なら近付かなければいいんじゃないか?
はまさにこの時のためにあるようなものを俺は持っている…しかし――
「仕方ない…御陰、竜巻野郎の注意を引くことはできるか?」
「…まかせろ」
御陰はそう言うと、かなり離れた位置まで瞬時に移動した。
目で追うことができないほどでは無かったがただの犬にはできない芸当だ。
何をするのかと思って見ていると、地面に四本の足を着けて太陽を見つめて…
「──ワンッ!」
小型犬特有の高い鳴き声が…虚しく校庭にこだまする。
一瞬でも気が逸れてくれれば俺も竜巻から距離をとれたのだが、
竜巻は御陰のことなど目もくれずに一心不乱で俺を追い続けていた。
「どういうことだよ御陰!」
「おかしい…なぜ私の挑発に乗ってこないのだ」
「小型犬だからじゃないかな!」
小型の犬は気性が荒くて大型の犬や人間に吠えまくってるイメージだ。
これは俺の偏見だがチワワは特によく吠える気がする…そして総じて相手にされない。
ある意味で何とかな犬ほどよく吠えるという造語の原型を目撃した気がする。
「ふ、この私の高貴な毛並みと勇ましい咆哮に恐れをなしたようだな」
「ただ相手にされてないだけ…だと思うのは俺だけなの!?」
たく、何が『…まかせろ』だよ…一瞬でも格好いいと思った俺の純情返せチワワ!
アイツ全く、これっぽっちも役に立たないじゃないか。
こうなったら俺が何とかなするしかない。
──思えば全部巻き込まれた感じなのは否めないが…
寝起きで使命とか言われるし、義務みたいに押しきられたし。
──それでも俺にしかできないなら…
男の俺を魔法少女にしてまで…この世界を守りたいってことなんだろ。
──だったら…
お前たち妖精が俺たちの世界の侵略を止めたいって思ってくれてるなら。
「──やってやるよ!」
過去の俺なんてどうだっていいじゃねぇか。
トラウマなんて言ってられる規模の話じゃないだろ!
俺がベーダー倒さないと世界が侵略されるって言うなら…やるしかない!
──俺は無意識に身体の熱を足に集約し、一気に踏み出した。
見れば竜巻は校庭の反対側に位置していて、ここからなら安全に攻撃できそうだ。
『…で、デットボールッ!』
投球フォームをとると、必ず脳裏によぎる衝撃の言葉──
それは今までの俺の人生を深く、根強く蝕み続けてきた。
しかし、今となっては──そんなことで俺は…俺の球は外れない。
数年前の記事にはこうあった──『史上最年少!?驚異の球速160キロ越え!!』
とある球団で超速ストレートを投げる少年がいる…と。
そしてある大会で彼は問題を起こした…対戦相手の一人を病院送りにしたのだ。
──『○○○球団のピッチャーまさかのデットボール!!』
幸い対戦相手に後遺症は残らず、今では怪我も完治しているらしい。
身体の奥底から熱が溢れてくる…これは心意の熱だ。
受けとれベーダー…俺はこの球に──意思を──決意を込める!
手にした硬球が眩い光を放ち、俺の気持ちの強さを表してくれる。
「──オラァ!」
足を大地に打ち付けると、地面は大きく抉れ…腰を捻れば空を切る音が耳に入る。
勢いに乗ったか肩は安定して腕を送り出し、
鞭のようにしなやかに動く腕を地面に叩き付けるかのように振り抜く。
全身の熱は意識した筋肉に特に集中し、最後はボールと共に打ち出され──
手を離れた球はバランスボール程の大きな魔力弾と形を変えていたようだ。
およそボールが飛んでいるとは思えない轟音と共に竜巻は姿を消し、
魔力弾の通過した後は竜巻が通った跡以上に抉れていた。
「完全にベーダーの反応は消え去った…よくやったな悠」
「はぁ、疲れた…って、男に戻ってる」
変身を解除したつもりは無かったが、無意識にやったのだろうか。
そしてとうとう最後の最後まで御陰は何も活躍がなかった。
緊張が抜けて疲れが出てきたのか、地面に仰向けの姿勢で倒れると…雲が流れていくのが見えた。
「今日は比較的快晴に近い晴れだな…気持ちいい風だ」
「週間予報では明後日頃に雨が降るらしいがな」
「――いいんだよ…もう曇らないから」
最後になんか締めの1文描きたかったかけどそこは想像でお願いします…。
ひぃ、文章力がなくてごめんなさい!
これから応援してくれると嬉しいです。