緑の男と青の女
「……ゲフッ」
アズサは海面に出て思いっきり海水を吐き出した。
次に海面に出たウシオはアズサの顔を見て思いっきり顔を歪めて言う。
「ワカメみたいになっとるぞ、アズサ」
確かに前髪が全て目にかかって何も見えない。上に自分の髪は深緑だ。
「……ワカメはないだろう、ワカメは」
濡れた前髪を後ろに掻きあげ、アズサは唇を尖らせる。
ウシオが笑った。
「ふは、それは済まないな」
笑われては謝られている気がしない。
ゆっくりだが、ウシオが泳いでいるのを見てアズサは黙ったままされるがままになることにした。
早くファイに会いたい。
あの子の満面の笑みを見たい。
何故あの時手を離してしまったのだろう。
自分が手を離さなければ、あの子と離れることはなかっただろうに。
「溺愛じゃのぉ」
ウシオが頭の中を呼んだかのように呟いた。
「悪いんですか」
思わず眉を顰めて言う。
この人はもう何なんだ。
人を怒鳴ったり、笑ったり、ワカメって呼んだり、溺愛してるってからかったり。
溺愛して何が悪いんだ。
っていうか、ワカメってなんだワカメって。
「クックック、いや、何も悪くはない」
何故笑うのだろうか。
失礼だな。
自分は何も笑われるようなことは言っていない……はずだ。
「……早く、行きましょう」
ファイ以外とは出来るだけ干渉したくない。
ファイさえ居れば良い。
「島は見えとるぞ、ほれ、あれじゃ」
泳ぎながらウシオが前を指差した。
綺麗な緑の島だ。だが、歪んでいる。
「急いでください」
緑が病んでいるように見えた。
「どうかしたか?」
ウシオがアズサの言葉に眉を顰めて尋ねる。
アズサは思い違いであることを祈りながら、それでも可能性が高いことを隊長であるウシオに言った。
「敵が居る。多分もう島の主に接触済みだ」
最悪のパターン。
救うべき者が敵の方に付いたということ。
そして、敵だらけの島に先に二人を行かせてしまったということ。
それは――――相手に先手を取られてしまったという事だ。しかもかなりこちらが不利な状況に。
「無事で居てくれ、ファイ……ッ!」
悲痛な声でアズサは言う。
だが、そんなアズサに冷静なツッコミが帰ってきた。
別に期待していないのに。
「……わらわの小鳥の心配は何処へ?」
小鳥の心配なんてしてる余裕はアズサには無かった。