紅い少女と緑の男
空気がとても澄んでいる。
地球上何処に行っても此処より空気が澄んでいるところなど無いだろう。
此処は天界なのだから。
此処に存在するのは雲と空気とそして天界のモノが住まう神の城。
神の城はガラスのような形状であったが、中までは見えない不思議なものであった。
神の住まうところなのだから、それくらいの不思議は在って当たり前とも言えるかもしれないが。
そんな神の城から少し離れた所に大きな雲の塊が存在していた。
純粋な白のはずの雲の中心に赤と黒の点があった。
よく見ればそれは、人間のカタチをしている。
それは、黒い服を着た少女であった。
少女は雲の上で身体を丸め、寝息を立てていた。
何処か幼さが見え隠れしている容姿である。
紅色ともいえる美しい純粋な赤色の髪はうねっていて腰のあたりまであった。
眠っているため目の色までは判別できない。
その顔は申し分ない程度に整っていた。
美人というほどでもなく可愛いというわけでもないその顔は、穏やかかつ健やかで見る者を和ませるような造作である。
それは少女の性質を表すかのようだった。
少しだけ少女の瞼が震える。
その瞬間少女が寝返りを打った。
雲から落ちてしまうのではないかと思われたが、少女が寝返りを打った瞬間少女の身体を男が支える。
その瞬間男の長めの前髪が目を隠した。
その男は深い緑色の髪を後ろに無造作に払いのける。翡翠色の目が前を射抜いた。
その視線と同じように、男の顔の造作は整ってはいたが両頬には黒い痣のような模様があり、美しい色の目も少しばかり鋭すぎ美しさを感じさせないものである。
身体もがっしりとしており、身長もかなり高い。
険しい雰囲気が漂うばかりの男にも見えたが、男は少女が幸せそうに寝ているのを見て微笑した。
鋭い目が少しばかり穏やかになる。
しかし、ふいに正面を見て大きく男はため息をついた。
そして男は少し躊躇いながらも少女の肩を揺する。
「……んー」
少女がうなった。
少女はまた寝返りを打つ。
まだまだ寝足りないようだ。
そんな少女を見て男は一回揺するのを止めたが、心を鬼にして起こすことにした。
「……起きて、ファイ。呼び出しかかってる」
男は少女の耳元でそう優しくささやく。
くすぐったいと言わんばかりに少女が動いた。
少女は雲の上で大きく背伸びしながら欠伸をすると上半身を起こす。
そして目をこすった。
「おはよー……アズサ、今何時?」
能天気な声で少女が問う。
その声にアズサと呼ばれた男は穏やかに微笑み、少女の顔を覗き込んだ。
「時間なんて関係ないだろ。まだ生きてたときの癖が抜けないか?」
ファイと呼ばれた少女はそれを聞いて少し苦笑する。
そしてコキコキ肩を鳴らして立ち上がった。
「そっか……忘れてたよ。あたし、死んだんだったね」
何気なく言ったような言葉だったが、その言葉に少し硬いものを感じてアズサはファイを見上げた。
翡翠色の瞳がファイの血色の瞳を見つめる。
ファイはアズサが自分を見ているのを感じて精一杯の笑みをアズサに向けた。
「さて、行くわよー。願いを神さまに叶えて貰う為に働かなくっちゃね」
ファイは明るく言うと神の城の方にアズサを置いて歩き出し始める。
そんなファイの後ろをアズサがゆっくり歩き出した。
そうしてみるとファイとアズサの身長差は大きなものだった。
しかし、アズサは一定の歩調でファイを抜くことは無い。
そんなアズサの心遣いはファイの心に沁みるようであった。
ファイはそっと歩調をゆっくりしてアズサの顔を見ないようにしながらも探る。
そしてアズサの手を見つけ握った。
「…………」
ファイは何も言わない。
アズサも何も言わなかった。
ただアズサは少しだけ震えるようなファイの小さな手を優しく握り返す。
その暖かさにファイは自分の目が潤んだのを実感した。
しかし同時に幸せを感じ、この手を離したくないと思ったのだった。
「……頑張るね、あたし」
小さくファイは呟く。
アズサは何も言わず、強くファイの手を握り返した。
その手は大きく、そして暖かくてファイは幸せを感じる。
ファイはこの人がこの世で1番好きだと思った。
しかし、それは口には出来ない。
ファイは、口にすることが出来るほどの経験値を持っていなかった。
ファイは記憶を神に奪われた神に選ばれし使徒であった。
自分的にアズサは無表情で無骨な男目指してるんですけど、なかなかそうなりませんねー。
無骨だけどファイだけに関してはそうならない、が目標なんですけどね。
ああ、紅茶飲みたい←