第一話 第二偵察小隊、始動。
突如として東京湾上に姿を現した謎の島。
「秘境」と名付けられたこの島に自衛隊が派遣された。
GPSが作動せず、衛星写真にも写らない。
そう、橋を越えた瞬間からこの世界の人間じゃなくなるのだから。
異世界に派遣された自衛隊は早速拠点設営をはじめていた。
未開拓の森の中を一台のトラック(自衛隊車)が走っている。
「は~、なんでこんなことを俺たちが…鉄筋運びは施設科の仕事ですよ!」
なんて文句を垂らすこの男の名前は相良義人。
階級は三等陸曹でレンジャー資格を持っている。
「その施設科隊員が不足しているから俺たち普通科が手伝いしてんだろ?」
そしてこの話の主人公、陸島臣爾。階級は三等陸尉で相良と同じレンジャーに加えて、空挺レンジャー資格も持っている。
本題に戻るが、第一次派遣で派遣されてきた自衛官の大半が戦闘職の普通科、機甲科、野戦特科、高射特科である。
故に後方支援の部隊、特に施設科隊員が不足しているのである。
「ほら相良、基地の建設現場が見えてきたぞ。」
橋から十キロ程離れた所に自衛隊は基地を設営している。
駐車場もできてない現在、戦車や使っていない車両にはオリーブドラブ色の布がかけられている。
何台かは野ざらしだが…。
「何度も往復してるんです。もうこんな光景見飽きましたよ。」
「文句言うな、あの七四式戦車とかに興味をそそられないか?」
「そそられませんよ。俺の嫁はガンタンクちゃんですから…。」
「お、おう…」
意外とマニアックだなこいつ…。
「まあほどほどにな…」
「何言ってるんですか? 三尉。」
「何でもねえよ。ほら着いたぞ。降りろ。」
トラックから降りると施設科隊員が何人か仮設の倉庫から出てきた。
「毎回、すみません。何分人手が足りないもんで…。」
こいつは加茂晴喜陸士長。三年前に入隊してきたんだが後輩からも舐められる位のお人好しだ。しかし人望は厚い。あだ名は次期連隊長。
「こっちも承知の上で仕事受けてるんだぞ。気にすんな。」
「ありがとうございます。おい皆、さっさと運ぶぞ。」
「はいっ!」
隊員たちがいい声で返事した。
こいつの人望あってこそなのか?
そういえば今日、蒲生二佐から呼ばれてたっけ…。
少し早いけど行くか…。
陸上自衛隊 通称、秘境基地 同仮設本部。
トランクに窓を付けたような建物だが電機はつくし冷房、暖房も常備している。
その本部の第三庁舎に入った。
「なんだ、来るのが早いな陸島。先に話しとくか…。ちょっとこっち来い。」
「はい…なんですか?」
「早速何だが、お前に小隊長を任せようと思う。」
「はぁ……はっ⁈ 俺は未だ三等陸尉ですよ、こういうのは二等陸尉の仕事でしょう⁈」
「三尉が小隊長でも珍しい話じゃないだろ? 出世話はおとなしく受け解きゃいいんだよ。」
「いやしかし…。」
「二十六で幹部入りしたお前だ皆認めてくれる。」
「そうですかね…。」
「それじゃあ本題に入る。この地は全く持って未開だ。GPSも通じないこの地での作業は極めて困難で危険な作業になるだろう。ということで我々、派遣隊は三つの偵察小隊を設置することになったんだが…その一つ、第二偵察小隊の隊長を君に任せたい。」
「主な任務内容はなんですか?」
「特別警戒区域の状況、固有生物、人がいれば地域住民とのコミュニケーションもだな…戦闘があれば撤退、矛先がこちらに向けば猫だまし程度の反撃は許可しよう。明日、隊員を第三庁舎に集めるから。」
「ちょっとまっ…」
「じゃ、よろしく。」
蒲生はそう言って敬礼すると半ば強制的に退出を促した。
どうなるのか…明日が心配だ。