第零話 派遣に備え!
それは突如として現れた。
十一月二十三日 午前二時七分。
警視庁中央本部に不審な何かが東京湾上に浮上しているとの通報が入った。
警視庁湾岸警察署に指令が伝達、警ら隊が派遣された。
太田区、第二駐車場
「湾岸〇三、現着しました。これより通報主の事情聴取を行います。」
「…踊現隊長、不審な何かってまさか水死体じゃないですよね?」
「まだわからんが見てみないとわからないだろう。」
「そんなもんですか…。」
「ほらっ新田、行くぞ。」
赤色灯を回転させたパトカーから二人は出てきた。
通報があった第二駐車場には一台の大型トラックがハザードランプを焚いて止まっている。
「あっ、お巡りさん。こっちですこっち!」
通報主であるトラックのドライバーが警察官を誘導していく。
「ドライバーさん、お名前は?」
「日野と言います。」
幸い第二駐車場は城南島海浜公園と直結していて歩いて五分もかからないのだ。
公園側からの潮の匂いが漂う中東京湾へ向け歩き始めた。
「いつもより匂いが薄いな…」
踊現が言った。
「漁師ですか?」
「いや、長年の勘だ。」
三分もしない内に砂浜まで出た。
暗中の中でやっと目が冴えてきた瞬間、砂浜に広がった光景は想像を絶した。
「何だあれは…。」
「島が…浮いてる?」
東京湾上に木々が何本も生い茂っていた。
相当の広さの島らしきものが現れていた。
さらに海浜公園には海水がほとんどなかった。
「おい新田、本庁に連絡!」
「は、はい⁈」
「こりゃあ大事になりそうだ…国家をも動かしかねん事態までにな…。」
踊現は警官帽を取ると頭を搔いてガードレールに腰を掛けた。
その額に流れる冷や汗は街灯に反射していた。
「隊長、湾岸区域で同様の通報が相次いでいるみたいです。」
「だが俺たちは本庁の言うままに踊るだけよ。」
連絡が相次いで回ることから相当の広さなのだろうか?
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太田区湾岸区域にはすぐに交通規制がかけられた。
特に湾岸方面は厳重に警備され一般人は人っ子一人としていなかった。
警視庁は上空から浮き出た島を観察するためヘリを飛ばした。
「こちらおおとり〇八。上空から東京湾上を観察中。今のところ湾上に不審なものは無し。送れ。」
「こちら本部一課。島は見えんか? 送れ。」
「はい、江戸の砲台くらいしか島は見えません。送れ。」
「おかしいな…陸側からは巨大な島が見えるのだが…。引き続き上空から観察。 終り。」
「了解、観察を続行する。 終り。」
陸から見える島は上空から見えることはなく、そのまま燃料を使い果たしたヘリが東京へリポートへと戻っていった。
十一月二十四日
国会ではこの島についての議題が上がった。
国土交通省の調査官が現地の情報を読み上げた。
「それでは小西調査官。」
「はい。現在、国土交通省は全力を挙げて調査していますが得られた情報は少なく、島への立ち入り調査を行った結果、島内上空に専門機関では未確認の生物も発見しましたがこれ以上進むのは危険だということで調査を中断いたしました。」
国土交通省からの報告が終了したとき、一人の男が手を挙げた。
議長が名前を呼ぶ。
「柴沼哲也内閣総理大臣。」
「え~、確認できている限りは上空、海上からは察知できないということです。不思議なことに現在でも東京湾には貨物船が出入りしています。千葉県からも確認できる島ですよ? 完全に人知を超えています。それに加え海浜公園には建造者不明のかなり大きい橋も多数確認されています。警察官が総出で警備を実行していますが警察の装備では不完全です。よって私は自衛隊の現地派遣を提案します。」
柴沼は胸を張って席へと戻っていった。
翌日には提案(法案?)が可決され陸、空の自衛隊が派遣されることになった。
派遣自衛官は志願制で翌週には千二百十五人が全国から集結した。
十二月一日
異界へと通ずる橋に自衛官は整列した。
霧がかっていて橋の先が確認できなかった。
国土交通省の小西の報告だと橋の先は舗装されておらず森を切り開いたような道が一直線に伸びていると報告があった。
陸自の迷彩服、空自のデジタル迷彩服や車両で橋は埋め尽くされた。
そして派遣部隊長の挨拶が始まる。
「派遣部隊長になった、沖田武陸将補である。今回の派遣では諸君らの生命に危険が及ぶことが予想される。各々(おのおの)覚悟して任務にあたるように。以上である。」
「全車運転開始、出発に備え。」
それは度重なる奇跡が導くある人のお話。
秘境と呼ばれたその地に赴いた英雄を人々は異世界派遣自衛隊と呼んでいた。
「こちら異世界より、前方に脅威なし。送れ。」
「了解、各車警戒を続行。こちら異世界より、通信終わり。」