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フィギュア

「雷にぃ、金属を誘導する力なんてあるんですねぇ」

「言われてみれば落雷は、金属に落ちていたような気がします」


 実際に『超電磁砲(レールガン)』を試して貰う前に、雷と言うか電気によって金属球を飛ばす原理を簡単に説明した。


「多分ですけど御二人が思っているよりも威力があって、しかも周囲への影響が強いので、注ぎ込む(エーテル)の量は少なめにしておいて下さい」

「うぅーん。良太さんの注意はしっかり気に留めておきますけどぉ、初めてなので上手く加減が出来るかがわからないですねぇ」

「夕霧様の仰る通り、やり過ぎないように気をつけるつもりですが……」

「先ずは俺がやって見せますから」


 実のところ、俺もロスヴァイセと夜中に訪れたこの場所で試した『超電磁砲(レールガン)』の威力を見誤っていたので、今日はそのリベンジをと考えている。


(被害を考えると……真上だな)


 ロスヴァイセと一緒だった時の実験では琵琶湖に向けて発射したのだが、弾体にした鉄球が恐らくは摩擦等で高熱を帯びていて、着水した途端に爆発したようになったのだった。


(なるべく、音速も超えないように気をつけないと……)


 前方大気の圧縮による高熱の問題もあるが、発射した弾丸が音速を超えてしまうと衝撃波も発生してしまうので、程良い(エーテル)の込め具合が肝心だ。


「こう、両腕に雷を纏わせてですね……」


 ごく弱い雷を両腕に纏わせて真上に向けた俺は、手の平に握っていた鉄球を離した」


「あれぇ? 鉄の玉が下に落ちないぃ?」

「浮いておりますわね……」


 手の平を離れた鉄球は真下に居る俺の身体には当たらずに、電磁誘導されて胸の前辺りでふわふわと浮いている。


 これまでにそういう現象を見た事が無い二人は、その光景を不思議そうに見守っている。


「この状態から、雷を腕の付け根から指先の方に向けて、勢い良く放つんです。やってみますね」

「「はい」」

「……っ!」


――シュッ


 威力は落とすつもりだが、お手本としてある程度の発射速度は見せなければならないので、一瞬だけだが無言の気合を入れて空中に向けて鉄球を射出した。


(……上手く行ったかな?)


 軽い風切り音と共鉄球が空に舞い上がったが、意図的に威力を弱めたので音速は超えず、衝撃波が発生したりもしなかった。


「おっと」


 数秒間上昇し続けた鉄球は、やがてエネルギーを失って落下してきたので、素手では危ないと思って蜘蛛の糸を放ち、空中で絡め取った。


「こんな感じですけど」

「雷ってぇ、びりびりするだけじゃ無かったんですねぇ」

「貴方様の仰る通り(エーテル)を多めに込めると、確かに危険そうですわね」


 夕霧さんは雷と言うか電気の性質の不思議さに目が行ってしまったみたいだが、天の方は『超電磁砲(レールガン)』の危険性を冷静に分析していたようだ。


「それじゃ夕霧さんからやってみましょうか。出来るだけ真上に放って欲しいですけど、失敗しても俺が回収しますから」

「わ、わかりましたぁ」


 俺から鉄球を受け取った夕霧さんが、両手を空に向かって上げた。


「こう……雷を両腕に纏ってぇ」


――ぽふっ


「あれぇ?」

「ちょ、ちょっと雷が弱かったみたいですね」


 手から離れた鉄球は雷に導かれて空中に浮く筈だったのだが、威力が高くなるのを恐れてしまったのか、夕霧さんの豊かなバストに落下して鈍い音を立てた。


「それよりも夕霧さん。鉄球が当たって大丈夫でしたか?」


 当の夕霧さんが落ち着いているので大丈夫だとは思うが、数十センチの高さからとは言え、金属球が胸に当たったのだ。


「はぁい。この服のお陰でぇ、なんともありませんよぉ」


 どうやら蜘蛛の糸で作った作務衣が、夕霧さんの胸に落下した鉄球の衝撃を和らげてくれたようだ。


「では無理に浮かさないで、そのまま空に向けて鉄球を放ってみて下さい」

「やってみまぁす」


 幸いな事に胸で鉄球が保持されているので、浮かせるだけに無駄に(エーテル)を使う事も無いので、そのままの状態で『超電磁砲(レールガン)』を試して貰う事にする。


「んんー……やぁぁ!」

「おお」


 夕霧さんが放った鉄球は、目視で二百メートル程の高度まで達するとエネルギーを失って落下し始めた。


(上手い具合に出力を絞れたな)


 翼での飛行の時の(エーテル)の使い過ぎがまだ尾を引いているのか、夕霧さんは少し消極的な感じではあるのだが、それでも雷によって十分な運動エネルギーを鉄球に与えられている。


「よっ、と」


 夕霧さんの射出した鉄球は真上と言うには少し角度が付いていて、真下の俺達の居る場所からは少し外れた方向に落下し始めたので、空中に粘着力のある蜘蛛の糸を放って引き寄せてキャッチした。


「ちょっと弱過ぎましたかねぇ?」

「原理は理解してくれたでしょうから、十分ですよ」


 雷の術を応用してこういう攻撃法もあるというのを、夕霧さんと天に理解して貰えればそれで良いので、威力とかは二の次だ。


(第一、実戦に使う事を考えるとしたら、相当に練習を積んで貰わないとならないしなぁ)


 超長距離からでもかなりの威力を見込める『超電磁砲(レールガン)』ではあるが、それだけに命中させる為の訓練が必要になってくる。


 動標的はともかく、固定された標的に対しては百発百中くらいな精度にならなければ、『超電磁砲(レールガン)』が失中した場合の被害を考えると、実戦での使用の許可は出せないだろう。


「次は天さんの番ですね」

「はい」


 柔らかく微笑みながら、天は鉄球を受け取った。


「では、やらせて頂きますわね」

「ん?」


 天は俺や夕霧さんとは違い、巨大なバストで形成されている作務衣の谷間の部分に鉄球を置いてから、空に向けて手を伸ばした。


「ん……」


 パチパチと天の両腕で放電現象が起き始めると、胸の谷間に置かれていた鉄球がふわりと浮かび上がった。


「行きます……ふんっ!」


 軽い気合と共に天の胸元から放たれた鉄球は、真っ直ぐに蒼天を駆け上がって行く。


(流石だなぁ)


 天の『超電磁砲(レールガン)』はお手本のように威力の調整がされていて、夕霧さんよりも高い位置まで達している割には、音速を超えて衝撃波を発生させたりはしなかった。


(しかしこれは……)


 かなり高い位置まで上がった天の放った鉄球は、風の影響を受けて不規則に動いて、真下には落ちて来そうに無い。


「貴方様?」

「ちょっと取って来ます」


 周囲には人や動物の気配は感じられないので、地面に落ちてしまっても問題は無いと思うのだが、サイズ的に猪とかが飲み込んだりしないとも限らないので、念の為に翼を出して飛び上がり、空中で回収する事にした。


「ほい、っと」


 地面から垂直に十メートル、水平にも十メートルくらい離れた位置で、無事に鉄球をキャッチする事に成功した。


「貴方様。お手数をお掛けしました」

「いえいえ」


 地面に降り立った俺を、申し訳無さそうな顔の天が迎えてくれた。


「今日は術の練習はここまでにしておきましょう。お疲れさまです」

「お疲れ様ですぅ」

「お疲れ様でございます」


 俺が礼を言うと、二人も返してくれた。


「でもぉ、驚きですねぇ」

「何がですか?」

「手で苦無(くない)を投げたりぃ、弓で矢を放つよりもぉ、遠くからの攻撃手段があるなんてぇ、凄いじゃないですかぁ」

「まあ、そうですね」


 長射程で威力のあるクロスボウとかを、こっちの世界の技術でも造れない訳では無いが、そんな事をしなくても十分な量の(エーテル)を込めた『超電磁砲(レールガン)』は、現代のライフルを遥かに超える射程と威力がある。


「とは言え、教えておいてなんですけど、使う機会はあんまり無さそうですけどね」

「それはぁ、そうですねぇ」

「確かに」


 こっちの世界では武人による一騎打ちとかが多いので、幾ら威力があっても発射までに(エーテル)を込めたり狙ったりする時間の掛かる『超電磁砲(レールガン)』は、実戦に於いては使い所が限られる。


 その辺を夕霧さんと天も理解しているのか、俺の言った事をあっさりと受け入れた。


(拠点攻撃とかならかなり有効なんだろうけど、こっちでは攻城戦とか無いからなぁ)


 大きく動かない城や要塞とかが目標ならば、アウトレンジから攻撃出来る『超電磁砲(レールガン)』はかなり使い勝手が良さそうだが、こっちの世界ではほぼ有り得ないシチュエーションだ。


 ならなんで教えたという突っ込みが来そうだが……。


「えっとぉ。今日は術とかの練習はぁ、これで終わりなんですよねぇ?」

「そうですけど?」


 何やらもじもじしながら、夕霧さんが訊いてきた。


「じゃ、じゃあぁ、約束通りにぃ、良太さんの按摩をですねぇ……」

「あー……了解しました」


 期待に満ちた表情をしている夕霧さんに内心で苦笑しながら、俺はマッサージをする事を承諾した。


「あああああぁ……」

「作業をしながらなんて、大丈夫ですか?」

「はぁい。御覧の通りですよぉ」


 リクエストに応えての雷を使っての肩や首筋辺りへのマッサージだが、夕霧さんが大丈夫だと言うのでガラス器を造りながらになった。


 実際に手で触れて形を造ったりする訳では無いので、雷の筋肉への刺激で歪んだりしないとは思うのだが、夕霧さんの気持ち良さそうな声は僅かに震えている。


 しかし作業に慣れたからなのか、(エーテル)を送り込まれて形作られているガラスの器には、夕霧さんが言うように歪みなどは見られない。


「夕霧さん。こんなもんでいいですよね?」

「えぇー。もう少しぃ」

「いや、結構長い事やってますよ?」


 夕霧さんに施した雷によるマッサージは十分程の間ではあったが、胸を支えるのに酷使されていた首や肩の筋肉は解れたと思える。


「按摩はやり過ぎるのも良くないんですよ」


 別に俺が疲れたからやめたい訳では無く、マッサージの類は物足りないくらいのところでやめておくのが良いとされている。


 実際、雷のマッサージで消費する程度の(エーテル)は問題にならないので、続けるだけならば何十時間に渡っても大丈夫だ。


「夕霧さんの次には、天さんにもしてあげたいですし」

「うっ……わ、わかりましたぁ。でもぉ、またして下さいねぇ?」

「夕霧さんも雷を使えるようになったから、自分でも出来るんですけど……わかりました」


 マッサージをするのが嫌な訳でも無いし、夕霧さんが気持ち良さそうにしているのを見ていると俺も和むので、苦笑しながら承諾しておいた。


「天さん。少しビリっとして、筋肉が引っ張られる感じがしますけど、危険は無いので力を抜いて下さいね」

「わ、わかりました」


 夕霧さんの様子を見ていたら危険が無いのは天にもわかると思うのだが、電気による未知の刺激を味わう事になるので、流石に少し緊張気味だ。


(不公平にならないようにやるけど……そもそも天さんは肩凝りとかするのかな?)


 天の本来の姿は九本の尻尾を持つ狐であり、どういう原理で今の姿をしているのかは不明なのだが、黒ちゃん達と同じ(エーテル)で構成されているとしたら、見せかけだけであって筋肉が疲労したりはしない筈だ。


 しかし、ワルキューレ達のように仮初めの肉体を得て活動をしている可能性も有り得るので、とりあえずは胸を支える筋肉が疲労しているという前提でマッサージを行う事にする。


「……あっ。こ、これが雷の按摩なのですね」

「強くないですか?」


 予告はしたが初めての雷のマッサージの感覚に驚いたのか、天は軽く頭を逸した。


 それでも変に力んだりする事も無く、目を閉じた天は雷の(もたら)す刺激に身を任せている。


「す、凄ぉい……肩と首が緊張と弛緩を繰り返して、何とも言えぬ気持ち良さですわぁ」

「そ、そうですか……」


(恐ろしく色っぽいな……)


 吐息混じりに呟く天の姿は、思わず見惚れてしまいそうになる程の凄絶な美しさがある。


「ふわぁ……」


 それは男の俺だけでは無く、同性である夕霧さんもすっかり魅了されて見入ってしまっている。


「こ、これくらいでやめておきましょうね」

「あら。もうですの?」


 俺が天にマッサージの終わりを告げると余程気持ち良かったのか、あからさまに不満そうな表情をした。


「さっき夕霧さんにも言いましたけど、あまりやり過ぎるのは良くないですから」

「それならば、仕方がございませんわね。貴方様、有難うございました」

「いえいえ」


 まだ多少不満そうではあるのだg,それでも天は感謝の意を示しながら俺に頭を下げた。


「ところで。お礼に造る物を何にするのかは決まりましたか?」

「あっ!」


(まだ悩んでたのか)


 夕霧さんに苦無(くない)をあげるのに、自分には何も無いのは不公平だと言い出したのは天であり、俺がリクエストに応じると言ってからそれなりに時間が経過しているのだが、マッサージの心地良さですっかりその事を忘れていたようだ。


「とりあえず、清酒用の酒器を一揃と、あと一つ、おまけを付けましょうか」


 清酒用の硝子の徳利と猪口ならば、天の使用機会が多いだろう。


「おまけとは、どんな物なのでございますか?」

「そっちから先に造っちゃますね。ん……こんな感じですけど」

「こ、これは! もしや、わたくしなのでございますか?」

「ええ」


 俺が造って差し出したのは、九尾の狐モードの天の姿をそのまま小さくして所謂お座りポーズをした、ガラス製の像だった。


 ガラス製なので細かな表現は出来なかったのだが、それでも特徴のある九本の尻尾で、天は直ぐに自分の姿を模した物だとわかったらしい。


「まあぁ……自分の姿の像を気にいるなんて、普通に考えたら自己愛が強過ぎに思えますけど、貴方様がお造り下さったこれには、なんとも言えない愛着を感じますわ」

「そ、そうですか」


(失敗したかなと思ったけど、大丈夫そうだな)


 まだ存命の内に銅像とかを造ってしまう人の意識に関しては、俺も天と同感なのでプレゼントとしては失敗したかと思ってしまった。


 だが可愛らしい小さなサイズと、モールドが甘くなるガラスという素材のお陰か、彫像というよりは現代風のフィギュアっぽくなったのが、天のお気に召したようだ。


「むぅ……」

「あの、夕霧さん。念の為にお聞きしますけど、まさか自分の硝子像を造れとか言いませんよね?」

「そ、それはぁ……うぅ、一瞬思っちゃいましたけどぉ、やっぱりいいですぅ」

「そうですよね」


(夕霧さんが思い留まってくれて良かった……まあ、天さんみたいな特殊な例を除けば、自分のフィギュアなんか普通は欲しがらないよな)


 俺にデザインの才能は無いが、天のガラス像のように夕霧さんの見たままを形にする事は可能だ。


 その上で夕霧さんが欲しいと言えば造っても良かったのだが、天のように九尾の狐というもう一つの姿ならともかく、そのまま自分の姿を立体にしてしまうのには抵抗があるようだ。


「うふふふ。これは寝台の脇に飾って、毎日寝る前に拝ませて頂きますわ」

「その辺は、天さんの好きにして下さっていいですけど」


 ベッドサイドにぬいぐるみとかを飾るのは良くあるので、別に天がそうしても構わないとは思うのだが、自分の似姿のガラスの像はどうなんだろうとは思ってしまう。


(壊れたとしても、俺が直せがいいしな)


 天は眷属の女の子と一緒にベッドで眠っているので、誤って落下、そして破損なんて事も有り得るのだが、ガラス器も陶磁器も作り方だけでは無くて修復も出来るので、拝むと言っているが気軽に扱って欲しい。


「じゃあ俺は天さんの分と椿屋さんの分の酒器を造っちゃいますけど、御二人に造るのをお願いしたい物があるんですが」

「なんですかぁ?」

「なんでございましょう?」

「見本を造りますから、同じ物を幾つかお願いします。こんな感じで……」


 俺は二人の見本になるキッチン用品の見本を、陶土と陶石に(エーテル)を送り込んで造り上げた。

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