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二次成長期

「ところで良さんよ。式神に対するって人数がかなり多いんだが、全員でブルムの旦那の店に厄介になるのかい?」

「それは……宿泊予定でお世話になる者と、ドランさんを送るヴァルトラウテさん以外は、時間をずらして移動して夕方までに集合、って感じでしょうか」


 京には外国人が全くいないという訳では無いのだが、それにしたってグリムゲルデ以外のワルキューレ八人が同時に行動していたら、異様に目立ってしまうだろう。


 一応、全員分の認識阻害効果のあるフード付きマントを作ろうかとは思っているので、分散移動すれば幾らかは目立つのを避けられる……と思う。


「お昼は御主人の御飯食べられる?」

「昼までに笹蟹(ささがに)屋に来られるのなら、いいよ」


 黒ちゃんが子供達との予定を入れたりしていないのなら、笹蟹(ささがに)屋で御飯を食べるのになんの問題も無い。


「やったー! それじゃあたいは、お昼までに店に行くね!」

「俺は念の為に、夕方まではここに残ろう」

「助かるよ」


 何も心配は無いと思うのだが、ギリギリまで白ちゃんが里の様子を見守ってくれるというのなら、かなり安心感が増す。


「それでは私は奥方様を愛馬にお乗せして、良太様に御同行致しますね」

「……宜しくお願いします」


 重要人物である雫様を、部下任せにせずに自分で……という考えではきっと無いのだろうと、ブリュンヒルドからの熱い眼差しが饒舌に主張している。


「そういう訳ですから、ここに残るグリムゲルデと、ドラン様をお送りするヴァルトラウテ以外のあなた達は少しずつ時間をずらして移動を。夕方までにブルム様の店舗に集合するようになさい」

「「「はっ」」」


 リーダーであるブリュンヒルドの指示に、ワルキューレ達は一斉に返事をしながら頭を下げた。


「兄上! 余は母上のお世話がありますから、兄上と御一緒で宜しいのですよね?」

「そうだね。夕霧さんはどうしますか?」


 雫様の身の回りの世話は、頼華ちゃんと夕霧さんのどちらかが常に離れないでするという事になっているのだが、逆を言えば片方が傍にいればもう一人は休んでいても大丈夫なのだ。


「あたしはぁ、お昼はここで済ませようかと思いますぅ。みんなが出ちゃうとぉ、支度も大変でしょうからぁ」

「あたしも昼飯を作るのと、晩飯の下拵えくらいしてから出ようかねぇ」


 夕霧さんだけでは無く、里の事を考えておりょうさんも出発を遅らせるみたいだ。


「すいません。残るのが私では不安なのですよね……」

「ああ、志乃ちゃん。そういう訳じゃ無くってねぇ……」


 一応は否定しているおりょうさんだが、実年齢では無く見た目年齢が低い志乃ちゃんに任せっきりにするのが、本当は不安なのだろう。


「あ」

「良太お兄さん、何か?」

「いや、貯蔵庫とかにある食材は何を使ってもいいんだけどね」

「?」


 俺の言葉に、志乃ちゃんが首を傾げる。


「肉にはちゃんと、火を通してね?」

「も、もうっ! それくらいはわかってますってばぁ!」

「いや、志乃ちゃんも生の方が好きなのかと思って……」


 天がこれまでに何度か、肉類の生食に関して言及しているので少しだけ心配になったのだが、 どうやら個人的な嗜好であって志乃ちゃんは違うらしい。


「志乃。生のお肉には味わいが……」

「き、嫌いでは無いですけど……でも、そのまま食べるよりも、お料理した物の方がおいしいに決まってます!」

「それは確かに、良太様のお料理はおいしいですけど……」


 生肉の良さをアピールしたかった天だが、志乃ちゃんの剣幕に負けて渋々ながらも引き下がった。


(おりょうさん……)

(わかってるよぉ……)


 この場では引き下がった天だが、明日になってから年の功で志乃ちゃんを丸め込む事も考えられるので、おりょうさんにアイコンタクトでフォローを頼むと、無言で頷き返してくれた。


 魚の刺身はともかく、子供達が鹿や猪の肉を生で食べる天を見て、自分たちもとか言い出したら大変だ。


「じゃ、じゃあ、式神に関する話し合いはこれくらいで。京に行く皆さんも残ってくれる皆さんも、明日は宜しくお願いします」


 役割分担などは伝達し終えたし、俺の所為でもあるんだが話の流れがおかしな方に行きかけているので、ここで終了する事にした。


「これで終わりかい? なら良さん、頼みがあるんだがよ」

「なんですか?」

「さっき白嬢ちゃんが喰ってた、イカの肝を焼いたのを作っちゃくれないか」

「ああ、あれですか。いいですよ」


 イカの肝焼きは、塩を振ってある程度まで水分が抜けるのを待たなければならないので、本来なら言われてからすぐに作れる料理では無い。


 しかし、イカの肝だけというのはあまり使い途が無いので、白ちゃんに不評なら自分で食べれば良いと思って、残った分にも塩を振って水分は抜いてあったのだ。


「正恒の旦那。嬢ちゃんは勘弁してくれ」


 嬢ちゃんと呼ばれるのは腹に据えかねるのか、白ちゃんは口をへの字に曲げて正恒さんに抗議した。


「ん? それじゃ俺も良さんみたいに、白ちゃんとでも呼べばいいのかい?」

「いや、それは……白と呼び捨てで構わんよ」

「了解だ。白ちゃんって呼び方は、良さんだけの特別なんだよな?」

「……まあ、な」


 素っ気ない態度ではあるが、白ちゃんは正恒さんの言葉を完全には否定しなかった


「皆さんも召し上がりますか?」


 この場にいる人間は酒を飲める年長者ばかりなので、念の為に訊いてみた。


「あたしは酒と合わせて、喰ってみたいねぇ」

「一口でいいので、余も食べてみたいです!」

「私にも是非」

「あたしも頂きたいですぅ」


 おりょうさん、頼華ちゃん、雫様、夕霧さんは即答だった。


「私にも頂けますかな。出来れば酒も」

「私にも」

「良太様。イカはお刺身では頂けないのですか?」

「て、天様……」


 ドランさんとブルムさんは当然のように御所望だが、やはり生で食べたいらしい天を、志乃ちゃんが窘めている。


「新鮮だから、刺し身でも出しましょうか」

「良太お兄さん……」


 俺が言うと、志乃ちゃんが心底ホッとした表情で頭を下げてくる。


「……良太様がお作りくださるのなら、私も食べるべきでしょうか」

「ブリュンヒルド様。刺し身はともかく肝の方は、イカの見た目は残っていませんから大丈夫かと」


 悲壮な雰囲気を身に纏いながら決意を口にして、肝焼きにチャレンジしようとしているブリュンヒルドを、オルトリンデが激励している。


「わかりました。少しお待ち下さい」


 夕食時に白ちゃんが食べているのを見て気になっていたのか、結果的には全員が希望してきた。


「あ、良太お兄さん。お手伝いします」

「そう? 助かるよ」

「あたしは酒の支度をしようかねぇ」

「姐さん、手伝おう」


 手伝いを申し出てくれた志乃ちゃんと、おりょうさんと白ちゃんと連れ立って厨房に向かった。



「んー……人数が多いから、刺し身と焼き物を五杯ずつくらい作ろうかな?」

「夕食の後ですけど、確かに人数が多いですからね」


 俺と並んでイカから脚と内臓を引っ張り出しながら、志乃ちゃんが苦笑する。


「イカの肝に刺し身に焼き物……ぬる燗かねぇ」


 徳利に酒を注いで湯の沸き立つ鍋に入れながら、おりょうさんは独り言ちる。


「姐さん、燗が付いたのから持って行っていいのか?」

「そうだねぇ。料理が出来るまで、軽く引っ掛けて間を持たせようか」

「承知した」


 燗の付いた徳利と酒杯、箸や小皿などを盆に載せた白ちゃんは、おりょうさんに了解を得て食堂に運んで行った。


「良太。料理の方を手伝うよ」

「有難うございます。それじゃおりょうさんは、イカを焼いて肝を絡めて下さい」

「身に肝を? あんまり聞かない料理だねぇ」

「難しくは無いですよ」


 底の浅い鉄の小鍋を用意して、先ずは皮付きのまま切り身にしたイカとゲソを入れて焼く。


 焼けたら切り離しておいた肝を小鍋に扱き出し、イカの身に絡めて火が通れば出来上がりだ。


「良太お兄さん、あたしは?」

「志乃ちゃんには、普通に網で焼いて貰おうかな」


 志乃ちゃんには、姿のままで切り身にしていない皮付きのイカとゲソを、こんがりと焦げ目がつくまで網で焼いて貰う。


 姿のままで焼いたイカを食べ易い大きさに切ってゲソと一緒に盛り付けたら、摩り下ろした生姜を添える。


「こんな感じに」

「や、やってみます」


 お手本に一杯焼いてみせると、早速志乃ちゃんはイカを網の上に載せた。


 二人に焼き物を任せている間に、俺の方は皮を剥いてエンペラを外し、薄皮も取ったイカの身を糸造りにした。


 ゲソの方は吸盤を擦り取って数本ずつ切り離したが、あまり細かな切り身にはしない。


 刺し身が引き終わったらリクエストを受けた、塩をして水分が抜けて締まっている肝を焼いた。


「出来たよぉ」

「あたしも出来ました」

「うん。おいしそうに出来ましたね」


 お世辞では無く、おりょうさんの肝を絡めた方も、志乃ちゃんが作ったイカ焼きも実においしそうだ。


「さあ、運びましょうか」

「うん」

「はい」


 肝を使った二品は熱い内に食べるに限るので、おりょうさんと志乃ちゃんと手分けをして、食堂に料理を運んだ。



「良さん、姐さん、それにお嬢ちゃん。悪いけど先に始めさせて貰ったぜ」


 軽く酒杯を掲げた正恒さんは、そのまま口に持っていって飲み干した。


「お待たせしました」


 おりょうさんが作った肝を絡めた焼き物、志乃ちゃんが作ったイカ焼き、刺し身の皿が五杯分ずつ並んだ。


 肝に塩をして焼いた物は夕食時に白ちゃんに二杯分出したので、今回は下拵えをしてあった八杯分を作ったのだが、新たに刺し身やイカ焼きを作る時に十杯分の肝が残ったので、いずれまた何かに利用しようと思う。


「おっ。それじゃ早速頂くぜ。ん……っはぁ。白の姉さんの言ってた通り、こいつの苦味とコクは、酒に良く合うなぁ」

「そいじゃあたしも。ん……こっちの肝を絡めて焼いたイカも濃厚な味がして、そこに酒を……っかぁー。こいつは堪えらんないねぇ」


 正恒さんもおりょうさんも、イカの肝の料理と酒の取り合わせを味わって御機嫌だ。


「うぅん。焼き物もおいしいですけど、やっぱり生にも良さがありますねぇ」

「て、天様……」

「刺し身もおいしいですよね」

「良太お兄さん……」


 天の言葉に肩身が狭そうな志乃ちゃんに軽くフォローを入れると、安堵の表情を浮かべた。


「くっ! こ、この脚が、クラーケンを思い出させて……」

「ブリュンヒルド様。憎きクラーケンだと思って、喰って復讐するんですよ」


 切り分けられてはいるが元の姿に近い形に盛り付けられている焼かれたイカを見て、何かを思い出しているのかブリュンヒルドが冷や汗を浮かべているのだが、その隣でオルトリンデが無責任な事を言いながら、焼けたゲソに醤油と生姜を付けて大きく開けた口に放り込んだ。


「おりょうさん。後は任せていいですか?」


 一口ずつ全ての料理の味見をした俺は、杯を重ねているおりょうさんに小声で囁いた。


 こういう場では飲めないと、どうしても間が保たなくなるのだ。


「うん。夕食だけじゃなくて、酒の肴まで用意させちまって悪かったねぇ」

「お安い御用ですよ。それじゃ皆さん、俺はこの辺で」


 何よりの御褒美であるおりょうさんに労いの言葉を貰った俺は、立ち上がって一同に立ち去る事を告げた。


「おう。俺らはもう少し呑ませて貰うよ」

「程々に楽しんで下さいね」

「努力するよ」


 ニヤリと笑う正恒さんに、俺は苦笑するしか無かった。


「兄上。余も御一緒します!」


 ひょいひょいと肝焼きや刺し身を口に運んだ頼華ちゃんは、口をもぐもぐさせたままで箸を置いて立ち上がると、俺の隣に駆け寄った。


「雫様に付いていないでいいの?」


 お行儀の悪さは見逃す事にして、頼華ちゃんに尋ねた。


「昨日の夜は余がお世話しましたので、今宵は夕霧の番なのです!」


 どうやら当事者である頼華ちゃんと夕霧さんの間で、お世話に関する取り決めがされているようだ。


「ならいいんだけど。それじゃ皆さん、おやすみなさい」

「「「おやすみなさい」」」


 まだ本当に寝る訳では無いのだが、一同に就寝の挨拶をして頼華ちゃんと共に食堂から立ち去った。



「兄上。お部屋にお邪魔しても?」


 俺の腕にぶら下がるようにして歩いている頼華ちゃんが、上目遣いに訊いてきた。


「構わないけど、俺の部屋は人を迎えられる程の調度が整って無いから、寛ぐんなら応接の部屋の方にしない?」


 整うどころか、俺の部屋には布団の上下と枕くらいしか無いから、貧乏学生の下宿の部屋以上に殺風景だ。


「余は兄上が居て下されば、気にしませんが?」

「そうは言ってもね……」


 床に敷くラグっぽい物や座布団くらいならば、即興で幾らでも作れるのだが、ちょっとしたテーブルや茶器も無い部屋よりは、応接スペースの方がかなりましだろう。


「兄上がそう仰るなら……でも、今宵は一緒に床に入っても?」

「まあ、いいよ」


 昨晩はおりょうさんと一緒に就寝したから、公平に扱うという意味でも今夜は頼華ちゃんと、という理由にはなる。


「むふふ♪」


 俺が了承の意を示すと、頼華ちゃんは含み笑いを浮かべながら腕に込める力を強めた。



「おおーっ! こうしてじっくりと見ると不思議な光景ですね!」

「そう?」


 既に持っている人間以外の分の、認識阻害効果を付与した外套を作るのを見ながら、俺の膝の上に座った頼華ちゃんが楽しそうにはしゃいでいる。


「……」

「どうされました、兄上?」


 作業の手を止めて少し考え込んでいると、頼華ちゃんがこちらの方に振り返りながら訊いてきた。


「……頼華ちゃん、少し重くなった?」

「ッ! あ、兄上! ちょっと琵琶湖を一周してきます!」

「ああ、御免ね。太ったって言いたかったんじゃ無くってね」


 少しでもカロリーを消費しようと考えたのか、頼華ちゃんは膝の上から飛び降りて里の外へ向かおうと必死にもがいているのだが、俺は逃さないように抱きしめながら宥めた。


「で、では!?」

「うん。初めて会った頃に比べて、背が伸びたんだと思うよ」

「おおっ!」


 一般的に男子よりは女子の方が二次成長期が始まるのが早く、頼華ちゃんは年齢的にそういう時期にも差し掛かっているので、背が伸び始めたのだと思われる。


「むむ! 言われてみれば、先程兄上と腕を組んだ時に、お顔を見上げる角度が少し浅くて済んだような気がします!」

「ああ、成る程」


 俺は気が付かなかったが、頼華ちゃんは自身の目線が変化している事を感じ取ったのだろう。


「兄上。背と同じく、胸の方も母上や姉上のように成長するのでしょうか?」

「なんでそれを俺に訊くのかな……」


 非常に返答にデリケートさを要求される質問を、頼華ちゃんがしてきた。


「何を仰っしゃいます! いずれは心だけでは無く余の身体の方も、兄上の物になるのですよ!?」

「えーっと……ありがとう」


 既に自分の心の方は俺の物になっていると、頼華ちゃんは言ってくれているのだ。


「博識な兄上ならば、女性の胸を大きくする方法というを御存知なのではないですか?」

「そう言われてもなぁ……」


(胸に刺激を与えるとかは、良く言われてるけど……)


 根拠の無い噂レベルの方法くらいなら聞いた事はあるが、実行するには様々な困難と問題が伴うし、何よりも結果が出るかどうかが不明だ。


「あ」

「な、何か思いつかれましたか!?」

「思いついたって程じゃ無いんだけど……グラビアアイドルってわかる?」

「向こうの世界の雑誌類に、やたらと面積の少ない衣類を着けて載っていた女子の事ですね?」

「……間違ってはいないか」


 頼華ちゃんの言う通りグラビアアイドルと呼ばれる人達は、確かに季節はお構い無しに水着となどの肌の露出の多いでファッションで紙面を飾っている事が多い。


「以前にそういう仕事をしていた女性が言っているのを、テレビで観たんだけどね。学生の時に運動をしていたんだけど、やめたら途端に胸が大きくなり始めたんだって」

「ほぅ? それは興味深い話ですね!」


 その女性は陸上部に所属していたらしいのだが、部活動などで筋肉が鍛えられて土台が出来上がり、引退するとこれまでは運動で消費されていた分のエネルギーが胸に集まり、その結果……という事らしいのだ。


 何人かの元グラビアアイドルが同じ内容を語っているので、全く根拠の無い話という訳でも無さそうなのだ。


「しかしその方法を行うには、余が剣術を捨てるという事に……」

「そうなんだよね」


 身体を鍛えるという事に関しては、既に頼華ちゃんは人一倍行っている。


「そ、そんなのは嫌です!」


 最近は以前程には好戦的では無くなったが、頼華ちゃんの剣術に掛ける情熱は一向に衰える気配を見せない。


 おそらくは里の子供達に剣術を教える事によって頼華ちゃん自身も何かを学び、更に精進しようと思ったのだろう。


「勿論、やめる必要なんか無いからね?」

「でも、それでは胸が……」

「なんか胸に拘るね……」


 見た目にもションボリしながら、頼華ちゃんは自分の胸元に視線を落とした。


「超えたいとまでは申しませんが、せめて姉上と同等くらいの胸がなければ、兄上がお愉しみになれないと……」

「お愉しみって……あの、俺は別に胸の大きさで好きになったり嫌いになったりしないからね?」


 そんなに大きな胸が好きというアピールをした覚えは無いのだが、頼華ちゃんは俺が巨乳至上主義だとでも思っているらしいので、念の為に否定しておく。


「無論、兄上がそんな方では無いというのはわかっておりますが……」

「なら、気にしないでいいよ。仮に今のままでも、俺は頼華ちゃんが好きだから」

「兄上……」


 微笑んだ頼華ちゃんは、身体から力を抜くと俺の胸に頭を預けてきた。


 実際、頼華ちゃんは実家が領主なお姫様であり、その領主家は歴史上の人物から連なる血筋で、手にしている武器も伝承で語られるような物なのだ。


 その上で、幼いながらも美しいと言っても誰からも文句が出ない美貌に、お陽様のような溌剌とした性格と、現代風に言うならば属性を盛り過ぎなくらいだ。


「それに、実際に頼華ちゃんの胸が大きくなると、剣術の邪魔になると思うんだよね」

「む……それは困りますね」


 胸が大きくなると当然ながら身体が重くなるし、剣術の構えなどにも差し支えが出てくる。


 思案顔になった頼華ちゃんは頭の中で、自分が理想としている体型と、本当にそうなった場合の不自由さというジレンマと戦っているのだろう。


「凄く極端な例だけど、バレエっていう外国の舞踊をしていたある女性は、大きくなった胸を切除しようと考えたらしいよ。実行には移さなかったけどね」

「そ、それは……」


 演目によっては男性にリフトアップをされたりもするので、バレリーナは細い体型を維持する事が望まれている。


 その為の食事制限などは普通に行われていたと思うが、多分だがその女性は遺伝か体質で、節制の効果も無く胸が大きくなってしまったのだろう。


 伝説レベルの話では、弓を射るのに邪魔になるので胸を切除してしまったというアマゾネスの逸話などもあるが、これに関してはドラマティックにする為に研究家が書き足したいう説が有力だ。

年内最後の更新となります


今年は多くの方にお読み頂けて感謝です!

来年も宜しくお願い致します!


では、良いお年を!

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