記念撮影
「……」
「おりょうさん、どうかしましたか?」
俺が身体を支えて頼華ちゃんを座らせるのを、おりょうさんが黙って見続けていたので、気になって訊いてみた。
「ど、どうもしやしないんだけど……おでこにとは言え男の人の唇が触れるって行為は、恥ずかしいけど愛情を感じるねぇ」
「そ、そうですか」
俺が頼華ちゃんのおでこにキスをしているのを見ていたのは、おりょうさんにとっては恋愛物の映画とかを観ている時の心境に近かったのかもしれない。
しかし、少し前に自分の身に起こった行為でもあると思いだしたのか、おりょうさんは顔を赤くしながら額を抑え、もじもじしている。
「頼華ちゃん、大丈夫?」
「ひゃっ!」
茹でられたみたいに真っ赤になっている頼華ちゃんの額に、結露しているアイスティーのグラスを当てると、冷たさに驚いたのか可愛らしい声が上がった。
「あ……ひんやりして、気持ちがいいです」
「落ち着いたら、喉の渇きも癒やしてね」
「はい!」
まだ少し熱に浮かされたようになっているが、徐々に頼華ちゃんはいつもの調子と表情を取り戻してきている。
「どうせなら撮影とかもしたかったけど、頼華ちゃんの具合が良くないし、今日はこれで……」
「何を仰っしゃりますか兄上! 余達の輝かしい記念の日なのに、記録に残さないでどうすると!」
「輝かしいのかなぁ……」
記念日というのは理解出来るのだが、この辺は男女で受け取り方に相違があるのかもしれない。
「あたしも、花嫁衣装で良太と一緒の写真は撮りたいと思ってたんだよ」
「まあ、そういう事なら……」
正直言えば、あまり写真に撮られるのは好きでは無いのだが、ここはおりょうさんと頼華ちゃんの意向に従っておくべきだろう。
「それじゃ俺とおりょうさん、俺と頼華ちゃんで撮って、最後は三人で撮りましょうか」
スマートフォンのカメラモードにはセルフタイマーもあるので、集合写真も撮れる。
「あ。どうせなら、動画も撮影しておきましょう」
「ちと恥ずかしい気もするけど、それもいいねぇ」
「そうしましょう!」
打ち合わせの結果、俺のスマートフォンを写真撮影用にして、おりょうさんと頼華ちゃんのスマートフォンは少し離した違う角度から撮影出来る場所にセットして、集合写真の撮影が終了するまで放置という事になった。
撮影の経過を全て記録出来るというのは悪くないと思うのだが、場合によっては面白映像になってしまうので、中々に気の抜けない状況だ。
「では姉上、お先にどうぞ!」
「ま、またあたしが先かい!?」
どちらが先かは話し合って決めるつもりだったのか、頼華ちゃんに振られて、おりょうさんが目に見えて動揺している。
恐らくは確信犯の頼華ちゃんは、おりょうさんに問い掛けられて、さっと目を逸らした。
「動画の撮影はそれ程長時間は出来ませんから、写真を撮っちゃいましょう」
「そ、そうだねぇ」
プリペイドのスマートフォンのストレージの容量は決して多く無く、とりあえず通話などに使えればという事で購入したので、メモリーカードで容量の追加とかもしていない。
おりょうさんと頼華ちゃんはそんなに容量を使ってはいないと思うのだが、元が少ないので撮影出来る動画の録画時間は決して長くは無いのだ。
「えっと……先ずは指輪を嵌めている格好でもしましょうか」
「う、うん」
俺はおりょうさんの左手を取り、右手を指輪に添えてからヴェール越しに瞳を見つめる。
「おおお! お二人とも、なんとも良い雰囲気で、まるで一枚の絵画のようです!」
「あはは……」
「……」
無論、頼華ちゃんのお世辞だとは思うが、おりょうさんと良い雰囲気に見えるというのは嬉しい。
そのおりょうさんは、ヴェール越しにもわかるくらいに真っ赤になって俯いている。
「姉上! 下を見ないで顔をお上げになって、兄上の方を御覧下さい!」
「う……わ、わかったよぉ」
(綺麗だなぁ……)
恥じらいながら上げられたおりょうさんの潤んだ瞳を見ていると、吸い込まれそうな錯覚を起こす。
「兄上! 次は額への口づけを!」
「えー……」
「そ、それは良さないかい?」
人前での再度のキスが恥ずかしいのは俺だけでは無さそうで、おりょうさんは口の端を引き攣らせながら、明らかに怯んでいる。
「兄上、姉上! 一生の思い出ですよ!」
「そうかもしれないけど……」
(まだ本番は、先なんだけどなぁ……)
ドレスのプレゼントと撮影は、あくまでも本番前の行為であり、盛大にするつもりは無いが式は別に挙げようかと考えている。
今日は今日で頼華ちゃんの言う通りに、思い出の日なのは間違い無いのだが……。
「……それじゃおりょうさん。遠目には唇をつけてるように見える程度に、顔を近づけるだけにしておきますから」
寄り添っているおりょうさんにだけ聞こえるように、小声で囁いた。
「……いいよ。おでこに、しておくれ」
「えっ!?」
どういう心境の変化なのか、おりょうさんがおでこへのキスを要求してきた。
「い、いいんですか?」
「ど、どんと来いやぁ!」
一転して、妙に気合の入ったおりょうさんは、胸を張りながら俺に言い放った。
「わかりました。それじゃ……」
「……」
俺の気力が衰えない、そしておりょうさんの気が変わらない内に、ヴェールを跳ね上げて露出させた額に、顔を近づけた。
チュッ……
確かにキスをしたというのを証明する為に、多少わざとらしく音を出して、おりょうさんの額にキスをした。
カシャッ!
電子的に作られたシャッター音が鳴り響いたので、どうやら頼華ちゃんは決定的な瞬間の撮影に成功したようだ。
仮に撮影に失敗していても、二箇所からの録画が行われているので、良くも悪くも映像は残る。
「はにゃぁぁぁぁ……」
「おりょうさん!? 大丈夫ですか?」
一気に腰砕けになって、座り込みそうになるおりょうさんに、肩を貸して支えた。
「あ、ありがとう、良太」
「どういたしまして。そうだ、ついでにこんなのも」
「ひゃぁぁっ!?」
支えるついでに、おりょうさんの膝の裏側に手を差し込み、お姫様抱っこをした。
「おおおおっ! あ、兄上っ! それは余にもして下さいますよね!?」
「勿論、構わないよ」
頼華ちゃんから、撮影時のお姫様抱っこのリクエストが来た。
「それじゃ、おりょうさんとの撮影はこんなもんですか」
「そ、そうだねぇ……」
頼華ちゃんが撮影していた近くまでお姫様抱っこのままで運んだおりょうさんは、俺のスーツの胸元を掴んで、中々降りようとしない。
「ささ。姉上、撮影を宜しくお願いします!」
「あ……うん」
おりょうさんの心境を察しているのかいないのか、頼華ちゃんはカメラモードになったスマートフォンを渡すと、さっさと撮影される位置に歩いて行った。
「それじゃ、お願いします」
「うん……」
俺が両脚をそっと床に下ろすと、名残惜しそうにおりょうさんは立ち上がった。
「じゃあ、指輪を嵌める真似からだね」
「はい!」
指輪を嵌めるポーズの時に恥ずかしそうにしていたおりょうさんとは対照的に、頼華ちゃんはヴェール越しにキラキラと瞳を輝かせているのが見える。
カシャッ、カシャッ!
何度かシャッター音が聞こえたので、俺は手を離して頼華ちゃんのヴェールを跳ね上げた。
「……」
やや緊張気味に身体をプルプルと小刻みに震えさせ、頬を染めているが、頼華ちゃんは俺の目を真っ直ぐに見据えて逸らそうとはしない。
「それじゃ、するね?」
「は、はいっ!」
顔を軽く挟んだ両手に頼華ちゃんの震えが伝わってくるが、本人の意志を尊重し、俺の恥ずかしさは棚上げにしておでこに唇をつけた。
おりょうさんの時のように音は立てなかったが、ほんの数秒間ではあるが時間的には長めになった。
「ふみゃぁぁぁ……」
「おっと」
「にゃっ!?」
意味不明の言葉と共に全身から力が抜ける頼華ちゃんを、事前に言われていたようにお暇様抱っこにすると、何故か猫みたいな声を上げた。
「うふ……うふふふふ……」
「頼華ちゃん?」
俺の腕の中で、頼華ちゃんが妙な笑いを始めた。
「兄上……良太さんの逞しい腕と胸……うふふふふふ……」
「……」
頼華ちゃんは俺の腕や胸の辺りをペタペタ触りながら、怪しい笑顔を浮かべている。
「むぅ……良太っ! 今度は三人で写真を撮るんだよねっ!」
「そ、そうですね」
「そいじゃ頼華ちゃん、とっとと下りようね」
小さい子を受け取るような感じで、おりょうさんが俺に抱かれている頼華ちゃんを、ひょいと抱き上げてから床に下ろした。
「むむ……兄上の力強さは堪能したので、この辺で我慢しておきますか」
頼華ちゃんが少し未練の残る視線で俺を見ながら、口の中でブツブツと呟いている。
「それじゃ俺がスマートフォンをセットしてからそっちに向かいますから、二人は動かないで下さいね」
「「はーい」」
三人で入ってもはみ出さないようにフレームを調整してから、セルフタイマーをセットした俺は二人の元に早足で移動した。
「……え?」
てっきり、三人並んだポジションで撮影するだけだと思っていた俺の腕に、右からはおりょうさん、左からは頼華ちゃんが腕を絡めてきた。
「良太。ちゃんと前をお向き」
「そうですよ兄上! 変な顔で映ってしまいますよ」
「……」
後で写真を見るのが怖いが、混乱する現状の中で自分なりに精一杯に表情を作っている内に、セルフタイマーの警告音が鳴った。
カシャッ!
続けて鳴ったシャッター音が、撮影の終了を告げた。
「二人共、お疲れ様です」
「良太もね」
「兄上も、お疲れ様です!」
お互いに撮影の労をねぎらいながら、置いてある各自のスマートフォンを回収した。
「……」
(これは……厳重に封印しなければならないな)
両サイドの花嫁さんは非常に華やかで艶やかで、とても俺のプロポーズを受け入れてくれたとは信じられないくらいなのだが、間に挟まれている緊張感溢れる表情の男、要するに俺が写真の中で異彩を放っている。
(スマートフォンを、向こうの世界に持ち込めないのだけが救いだな……)
おりょうさんと頼華ちゃんのスマートフォンにデータを転送するのは仕方が無いにしても、それを向こうの世界の知り合いに見られないで済むというのは、俺の精神安定状に非常に助かる。
「じ、自分が抱き上げられたりするのを見るってのは、変な気分だねぇ……」
「兄上……なんという力強さ……うふふふふふ……」
おりょうさんと頼華ちゃんは、それぞれのスマートフォンで録画した映像を確認しているが、反応には温度差があるようだ。
「兄上! 写真の方も見たいです!」
「えーっと、どういう風にデータのやり取りをしようかな……二人共、ちょっとスマートフォンを貸して下さい」
「「はい」」
映像を見るのを一時中断して、おりょうさんと頼華ちゃんは自分のスマートフォンを差し出してきた。
(これが手っ取り早いだろ)
俺の使ってるリンゴマークのスマートフォンなら、端末固有の機能でデータのやり取りが出来るのだが、二人のプリペイドの端末は機種もOSも違うのだ。
両機種で使えるネット上のストレージを使えるソフトを、二人のスマートフォンにインストールして、そのソフト上で共有出来るフォルダを設定してから、先ずは俺の端末で撮影したデータをアップロードした。
続いて、二人の端末から撮影した動画を共有フォルダにアップしたのだが、さすがにデータ量が多いので、自宅のWi-Fi経由ではあるが、それなりにアップロードもダウンロードも時間が掛かった。
「はい。これで撮影した物は全部観られるようになりましたよ。でも、大分バッテリーを使ったから、充電した方がいいと思います」
撮影は勿論だが、ネットストレージのアプリのダウンロードやデータのやり取りでも、かなりの電力を消費しているので、共有したデータを観ている間にバッテリー切れを起こす可能性が高い。
「じゃあ、暫くは観るのはお預けだねぇ」
「充電ケーブルを繋げば大丈夫ですけど、バッテリーの寿命を縮めちゃうので、あんまりオススメは出来ないんですよね」
ケーブルで充電しながらならば電源断によるデータの消失の危険は減るが、バッテリーに負担が掛かるので使い方としてはあまり良くない。
「で、でも、我慢出来ないから、ちょっとだけ……」
「よ、余も……」
おりょうさんと頼華ちゃんは、少し離れた電源タップに充電ケーブルを挿すと、端末も繋いで操作し始めた。
「それじゃ俺は、風呂に入ってきちゃいますから」
二人が写真と動画を楽しみ始めたので、丁度いいタイミングだと思って俺は風呂場に向かおうと……。
「「待ったぁっ!」」
思ったところで、おりょうさんと頼華ちゃんに両サイドからインターセプトされた。
「今日は良太の背中を、流させておくれよぉ」
「え……でも、おりょうさんと頼華ちゃんは、もう入浴は済ませたじゃないですか?」
申し出の内容自体は非常に魅力的なのだが、髪の長いおりょうさんと頼華ちゃんの入浴には、凄く手間が掛かるのは良く知っている。
「兄上! 旦那様のお世話は新妻である余と姉上の努めなのです! それを拒むと仰っしゃいますか?」
「新妻って……」
(新妻って響きは、凄くいいけどなぁ……)
婚約であって結婚では無いので、まだおりょうさんも頼華ちゃんも新妻にはなっていないのだが、凄く耳と心に響く。
「あたしと頼華ちゃんは湯には浸からずに、良太の身体を洗う手伝いを出来りゃそれでいいんだけど……駄目?」
「う……」
ちょっと甘えたような声と上目遣い、プラスしてウェディングドレスという要素盛り盛りで、おりょうさんのおねだりは強烈だ。
「はぁ……二人共、濡れても大丈夫な格好で、お願いします」
「「はぁーい♪」」
半ば押し切られる形で、背中を流される事になってしまった。
「……頼華ちゃん。確かに濡れても大丈夫な格好だけどさ」
「いけませんでしたか? 元々この衣類は、泳ぐ為の物だと聞いておりましたが」
ウェディングドレスは着るのが大変だが、脱ぐのにもそれなりに手間と時間が掛かるので、先に俺が湯船に浸かって温まっている事になり、汗が出たところで頼華ちゃんが風呂場にやってきたのだが……。
「頼華ちゃんも、それを着て動くのは厳しいって言ってなかったっけ?」
「それはそうなのですが……でも、兄上と姉上にしか見られる事は無いので、大丈夫です!」
「ならいいけど」
頼華ちゃんが着てきた濡れても大丈夫な衣類とは、ゲームの牛若丸のコスチュームの一つである、かなりきわどいデザインの水着だった。
おりょうさんにやって貰ったのか、頼華ちゃんは長い髪の毛をシニヨンに纏めているので、水着と相まってかなり印象が変わって見える。
「おりょうさんも、そんな格好で……」
「あ、あたしの手持ちで、濡れた床に脚をつけても大丈夫な服ってぇと、これしか無いんだよぉ……」
おりょうさんも頼華ちゃんと似たような、ワンピースの水着に近い衣類を身に着けているのだが、極端では無いがそれなりにハイレグであり、ストラップレスで背中の大きく空いたその衣類は、バニースーツだった。
さすがにウサ耳や襟カラーやカフスなどは着けていないが、それでも水着とはなんとなく違うそのデザインのバニースーツは、浴室内で異様に強い主張をしているように思える。
おりょうさんも濡らしてしまわないようにという対策だろう、髪の毛を夜会巻風に結い上げてある。
「さあ兄上。お気を楽に、余と姉上に全てをお委ね下さい!」
「えっと……うん」
頼華ちゃんに促されるままに、俺は湯船から出て風呂用の椅子に腰を掛けた。
「うふふふ♪ 良太ぁ。かゆいところとかあるかい?」
「兄上。お背中痛かったりしませんか?」
「凄く気持ちいいですよ」
おりょうさんに頭を、頼華ちゃんに背中を洗われている今の自分の状況に、全く現実感が無い。
「はぁーい。そいじゃ流すよぉ」
「背中の泡も流しますね!」
「はい」
おりょうさんはシャワーで頭を、頼華ちゃんは手桶に汲んだ湯で背中を流してくれた。
「そいじゃお次は前だねぇ」
「前ですね!」
「あー……はい」
いつもなら徹底抗戦なのだが、狭い浴室内で二人を傷つけずに逃げ出すのは難しそうなので、今日のところはあっさり引き下がった。
「「♪」」
何がそんなに楽しいのか、おりょうさんと頼華ちゃんは鼻歌混じりで俺を洗ってくれている。
「さぁて頼華ちゃん、仕上げだよぉ」
「姉上、お任せ下さい!」
「あっ……」
女性の入浴でもここまで念入りじゃ無いと思える程に、詳しくは言えないが俺は身体の色んな所を洗われたのだった。
「はぁい良太ぁ。冷たいお茶だよぉ」
「兄上! 果物は如何ですか?」
「ああ、はい……」
湯上がりに丁寧に身体中を拭いてくれたおりょうさんと頼華ちゃんは、俺がパジャマに着替えている間に、さっきウェディングドレスと一緒に渡したチャイナドレスを身に着け、俺の両脇に侍って甲斐甲斐しく世話をしてくれている。
「良太が酒を飲まないのが、本当に残念だねぇ」
「兄上……じゃ無かった。旦那様にお酌をするのは、将来の楽しみに取っておきましょう!」
「そうだねぇ」
俺を間に挟みながら会話を擦るおりょうさんと頼華ちゃんは、完全に通じ合っているようだ。
「さ、さて、そろそろ寝ましょうか?」
非常に嬉しい状況なのだが、二人からの圧が凄過ぎて寛ぐとかからは程遠い。
「そいじゃ布団を敷くから、良太はここで待っときな」
「えっ!? 俺は自分の部屋で……」
「あにう……旦那様。今宵だけは御一緒に」
「う……」
パジャマの裾を頼華ちゃんがギュッと握り、濡れたような瞳で見つめてくるので、俺にはそれ以上の反抗を封じられた。
「良太。多分だけど今夜が、三人で過ごせる最後だろぉ?」
「あ……そうですね」
布団を敷きながらのおりょうさんに言われて、その事を思い出した。
明日の夕方には両親が帰宅するので、まだこっちの世界には滞在出来るのだが、少なくともこの家で三人で過ごせるのは今夜が最後なのだ。
「良太、頼華ちゃん、布団が敷けたよぉ」
リビングに戻ってきたおりょうさんから、寝る支度が出来たのを告げられた。
「それじゃ」
「ふぁっ!?」
予備動作無しで立ち上がった俺は、同時に頼華ちゃんを抱え上げた。
「っと、その前に。頼華ちゃん着替えるよね?」
「大丈夫です!」
俺の腕の中の頼華ちゃんがドラウプニールを操作すると、チャイナドレスから一瞬で貫頭衣の寝間着姿になり、結ばれていた髪の毛も解けた。
(成る程……こういう使い方も出来るのか)
装備品を登録すると、頭の天辺から爪先まで一気に切り替わるのは知っていたが、髪型までが変化するとは思っていなかった。
これは自分が男なので気が付かなかっただけなのだが、シチュエーションによって髪型を変えたりする女性にとっては、かなり便利な機能だろう。
「じゃあ布団まで運ぶね。おりょうさんは、そこで待ってて下さい」
「あ……はいっ!」
「待ってるよぉ」
(……予想通りか)
おりょうさんが敷いた二組の布団には、真ん中辺りに枕が三つ、密着するように並べられていた。
片手で頼華ちゃんの身体を支えながら掛け布団を捲って、敷布団の上に優しく横たえた。
「少し待っててね」
「はいっ!」
掛け布団を戻し、その上から頼華ちゃんのお腹の辺りを軽く手でポンとすると、おりょうさんの待つリビングへ戻った。




