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ガラスペン

「むむ……きゃ、客観的に自分の姿を見ると、かなり恥ずかしいですね」


 水着バージョンと、着替えて通常バージョンの牛若丸のコスチュームの撮影も終えて、今は二人でベッドに並んで腰掛けて、写真の出来栄えをチェックしているところだ。


「このコスチュームは、ちょっとね……」


 そんな事は無いと否定してあげたいところだが、ゲームの画像の時点で相当に際どい牛若丸のコスチュームは、頼華ちゃんという装着者を得る事によって、これ以上は無いというくらいにインパクトを増したのだった。


 俺の隣に腰掛けている頼華ちゃんは薄緑は仕舞ったのだが、着替えてはいないので、現在も牛若丸の第一段階のコスチューム姿だったりする。


「それにしても肖像画などとは違って、このように一瞬にして人や風景を記録出来るというのは、何度見ても凄いものですね!」

「そうだね。でもここまで高精彩で撮影と記録を出来るようになったのは、つい最近なんだけどね」

「そうなのですか?」

「うん。技術っていうのは日進月歩してるよ」


 携帯電話の爆発的な普及で、技術的な競争が起きて裾野が広がり、初期はかなり粗かった写真や動画の撮影機能が向上し、それに伴って映し出すディスプレイも、より高解像度になっている。


 そして気がつけば、当初は電話に様々な機能が搭載されていたのが、いつの間にかメディア端末に通話機能がある、みたいな形態になってしまったのがスマートフォンだ。


「写真技術も凄いですが、すまーとふぉんの色々と調べられる機能も凄いですよね!」

「そうだね。あ、そうだ……その事で頼華ちゃんに、お願いしたい事があったんだ」

「なんですか?」


(……非現実感が凄いな)


 受け答えする頼華ちゃんの声も表情もいつものままなのだが、首から下は幾つかの布のパーツが張り付いているだけの、半裸と言っても大袈裟では無い格好なのだ。


 姿勢によっては布のパーツが身体から浮いて、本来は隠れるべき胸の辺りが視界に入りそうになって危ないので、真面目に話をする時の態度とは違う意味で、頼華ちゃんの目を見て話すように気をつける。


「あのね、向こうの世界ではあまり知られてない技術なんかが、ネットで検索するとわかるでしょ?」

「そうですね」

「そんな、役に立ちそうな情報を持って帰りたいので、俺が選んだ物と、頼華ちゃんやおりょうさんが気がついた物なんかがあったら、記録して欲しいんだよ」


 神仏によって工業的や自動化による発展が望めない向こうの世界だが、こっちの世界では常識だったり、確立されている技術などによって、生活の役に立ったりする物は数多い。


 頼華ちゃんに記録をして欲しいのは、そういった様々な情報だ。


「おお! それは良い考えです! ですが、どのような方法でしますか?」

「それなんだけど……」


 手っ取り早いのは丸ごとプリントアウトしてしまうという手段なのだが、現代の技術で作られた紙やプリンターで出力された物は、持ち帰りが許される事は無いだろう。


「紙の方は少し高く付くだろうけど、和紙を買ってくるからそれに」


 一枚の価格が上質紙などと比べるとかなり高額になってしまうが、昔ながらの製法で作られる書画などに使われる和紙は、入手自体は難しくない。


「わかりました! では、方法は筆写ですか?」

「そうなるんだけど、さすがに量が多くなると大変だよね?」


 文章量が多くても、必要な部分だけを抜書き出来るのだが、俺が持って帰りたいと考えている情報だけでも膨大な量だ。


「いえ。そんな事は無いですよ」

「そうなの?」

「領主の娘の嗜みとしまして、写経などは散々やらされましたので」

「ああ、成る程ね」


 紙が高価なのは、イコールで書籍もという事なので、経済的に余裕のある層、例えば頼華ちゃんの父親の頼永様のように、領地からの収入があるような人で無ければ購入は難しいと思える。


 版画や、もしかしたら活版印刷の技術くらいはあるのかもしれないが、まだ広く普及はしていないだろうから、書籍の持ち主か関係者が写本を作り、多くの人の手に渡らせるのが文化の普及には必要になってくるのだ。


 嗜みと頼華ちゃんは言うが実利の面もあって、御両親から写経を叩き込まれたのだろう。


「ただ……」

「ただ、何?」


 筆写そのものには問題は無さそうな事を言ったのに、頼華ちゃんは表情に難色を示している。


「筆による作業ですと、一度墨をつけて書ける文字数が少ないので、どうしても集中力が妨げられるのです」

「あー……」


 書道で半紙に書く程度でも、文字数によっては何度も墨をつける必要があるので、頼華ちゃんの言っている事は良く分かる。


(うーん……初期のタイプの万年筆なんかは向こうの世界でも開発されているかもしれないけど、現代とはインクの成分が違う可能性が高いんだよな)


 万年筆自体は現代の主流のカートリッジ式じゃないタイプは、江戸時代の末期には日本に入ってきていて、国産の製品も開発されていた。


(となると、インクの代わりに墨を使うのが良さそうだけど、つけペンじゃ筆とあんまり変わらないしな……)


 つけペンは構造も簡単で、細かな文字が書けるので筆を使うよりはマシかもしれないが、一度に書ける文字数で考えると、筆とそれ程は変わらない。


「……あ。あれがあったか」

「あれ? 兄上、あれと申されますと?」

「うん。多分売ってるだろうから、明日の帰りにでも買ってくるよ。それで試して貰って良さそうなら、向こうへのお土産にもしよう」


 以前にテレビで見た、自分は使う事は無さそうだと考えていた、ローテクで便利な筆記具を思い出した。


「なんだかわかりませんが、兄上の思いつきならば間違い無さそうですね!」

「いや、そこまで無条件に信じられると困るんだけど……」


 信頼されるのは嬉しい事なのだが、あまりにも行き過ぎていると信頼では無く信仰なんじゃないかと思ってしまう。


「と、ところで兄上……」

「ん?」


 何やら頬を染めた頼華ちゃんが、落ち着かない様子で俺の方をチラチラと見てくる。


「さ、昨晩、姉上がなさっていたように、その……兄上のお膝の上に座っても、宜しいですか?」


 いつもは、座っている俺の脚の間に自分の居場所を求めてくる頼華ちゃんだが、上に乗るとなると少しは遠慮があるようだ。


「なんだ、そんな事か。よっ、と」

「ひゃあっ!?」


 両脇に手を入れて頼華ちゃんの軽い身体を持ち上げると、予想していなかったのか変な声を上げた。


「くすぐったかった?」

「い、いえ。そうでは無くてですね……急だったので驚いただけです」


 横向きに脚の上に載せた頼華ちゃんは落ち着きは取り戻したようだが、頬は赤く染まったままだ。


(……角度的に、さっきよりは心を安静に保てるな)


 脚や胸に頼華ちゃんの柔らかさと体温を感じてドキドキはするのだが、現在のポジションだと横や下側から胸が見えたりするという心配は無さそうなので、ある意味安心出来るのだった。


(とか思ったりもしたけど……)


 落ち着いたところで我に返って気がついたのだが、膝の上の頼華ちゃんは胸は隠れているが、自分の素肌と触れ合っている部分からの体温を感じて、半裸同然の姿なのだと意識させられる。


 そして胸元は隠れているのだが、夕食をたっぷり食べた割には綺麗にくびれている、切れ長のおへそまでが剥き出しの頼華ちゃんのウェスト周りの肌の色は、非常に目に毒だ。


「……頼華ちゃん、撮影も終わったし、話も一段落したから、そろそろ着替えたら?」


 意識しないようにすればする程、視線が行ってしまうので、元から断ってしまうようにと頼華ちゃんに話を向けてみた。


「おや? この格好の余は、兄上のお気に召しませんか?」

「いやいやいや。どんな格好でも、中身は頼華ちゃんだし。そういう事じゃなくて……ほら、あんまりお腹とか出しっ放しにすると、身体に良くないよ?」


 目の毒だからとか言うと、逆に頼華ちゃんが勢いづくんじゃないかと思ったので、一般論を口にした。


「ははは。兄上、それは鍛えていない者の話です! この頼華、兄上程ではございませんが、身体も(エーテル)も鍛えておりますゆえ!」

「それは知ってるけどね……」


 俺の一般論は、頼華ちゃんに一笑に付されてしまった。


(向こうの世界の武人は、一糸纏わない姿でも問題は無いんだったな。言い方を間違えた……)


 向こうの世界の武人は肉体だけでは無く(エーテル)も鍛えられているので、個人差はあるが物理的には勿論、風雪や高温、魔法的な攻撃など、外的な要因からはかなりの強度で護られている。


 当然ながら武人、その中でもトップクラスに連なる頼華ちゃんは強力な(エーテル)を保有しているので、その護りも恐ろしく強固だというのは百も承知なのだが……。


「その、ね……頼華ちゃんのこういう格好は、俺にとっては魅力的過ぎて、まだ正式に婚儀を交わしていないのに、良く無い事を考えちゃいそうなんだよね」


 一般論は通用しなかったが、遠回しな言い方だと尚更、頼華ちゃんには伝わらないかと思ったので、ここは正攻法で攻める事にした。


「っ!?」


 俺の言葉がそれ程の衝撃を与えたのか、身体を硬直させた頼華ちゃんはポカンとした表情で見つめてくる。


「わ、わかりました! まだこの格好は早いという事ですね!」

「わかってくれた? って……まだ?」


 頼華ちゃんの『まだ』というのが良くわからないが、とりあえずは言う事に耳を貸してくれたようで、膝の上に座ったままだが、ドラウプニールを操作して牛若丸のコスチュームから、いつもの貫頭衣の部屋着に着替えた。


「兄上との初めての時には、義経様の装束で……正に鵯越(ひよどりごえ)の如く、まっしぐらに!」

「あの……何を言ってるのかな?」


 頼華ちゃん自身は小声で俺に聞こえないように呟いているつもりのようなのだが、夜という事もあって周囲が静まり返っているので丸聞こえだ。


 そして頼華ちゃんの呟きの内容からは、非常に危険な香りがしてくる。


「はっ!? な、なんでもございませんよ? いざとなったら怖気づくかもしれない兄上を、決して逃さないような作戦などは、全く考えておりません!」

「……考えてるんだね」


 本人は隠しているつもりのようだが、元々がそういうのが得意じゃない頼華ちゃんなので、考えがダダ漏れになっている。


 いざその時になって怖気づいたりはしないと思うが、絶対と言い切れない自分がいるので、本心を吐露している頼華ちゃんを責められないのは、我ながら情けないところである。



 この後、一緒に寝る、寝ないで一悶着合ったのだが、なんとか頼華ちゃんを丸め込んで、独り寝の自由とネットゲームのログインボーナスを獲得するのに成功した。



「ただいまー」

「おかえりなさいっ!」

「おっと! ただいま」


 寄り道をしてたので少し遅く帰宅したからか、玄関で靴を脱ぐ前に頼華ちゃんに飛び掛かられるという、熱烈歓迎を受けてしまった。


「おかえり良太。着替えたら、すぐに夕食にしようかねぇ」


 奥からはエプロン姿のおりょうさんも出てきて、俺を迎えてくれた。


「遅くなってすいません。捜し物に時間が掛かって」

「別に構わないよ。さ、着替えといで」

「はい」


(頼華ちゃんは、言った事を守ってくれたみたいだな)


 おりょうさんの穏やかな笑顔からすると頼華ちゃんの宣言通りに、冷戦は昨日限りで終了したようだ。


 朝食の時点から和やかな雰囲気に戻ってはいたのだが、学校に行って帰宅したら元通りという事態も想像していたので、良い意味で期待を裏切られた。



「そいじゃ、頂きます」

「「頂きます」」


 湯気を上げる椀を手に取って顔に近づけると、魚の出汁の良い香りが食欲を刺激する。


「ん……出汁の味が濃いけど、すっきりした味で旨いですね」

「いい鯵が売ってたんでねぇ。身をつみれにして、出汁も鯵の頭で取ったんだよ」

「成る程」


 どうやらつみれや出汁は、おりょうさんが尾頭付きの鯵を三枚に下ろして作った、手間の掛かった物のようだ。


「余も、つみれを作るのを手伝いました!」

「そうなんだ。道理で滑らかに出来てる訳だね」

「ありがとうございます!」


 三枚に下ろした身を細かく叩いて、味付けの材料などと一緒に擂り鉢で混ぜるのだが、手間と同時に中々の重労働だ。


 しかし、この手間と力仕事が口当たりの良さや、つみれの味の決め手になるので、料理長のおりょうさんと同じくらいに、頼華ちゃんの手柄は大きいだろう。


「中骨も勿体無いんで焼いてみたけど、どうだい?」

「つみれ汁が程良い味なので、焼き物は塩が効いてて旨いですよ」


 多めの塩を振って、臭みを取ると共に余計な水分を抜いてから焼かれた中骨周辺の鯵の身は、香ばしくて御飯のおかずには最高だ。


「このところ外でも家でも、味付けが濃いめの料理が多かったんでねぇ。あたしがこういうのが食べたくなったんだけど、良太と頼華ちゃんには物足りないんじゃないのかい?」

「そんな事はありません! このわかめとわけぎのヌタなど、実にホッとする味です!」


 茹でたわかめとわけぎに、卵黄と酢と味噌と辛子を、アルコールを飛ばした酒で延ばした酢味噌を掛けたヌタは、地味ではあるが非常に手の掛かった料理であり、頼華ちゃんの言う通りに一口食べると心が落ち着くような味だ。


「そうですね。こういう料理は毎日でも食べられますけど、俺は庶民だから、毎日御馳走だと飽きちゃいますよ」

「そんならいいんだけどねぇ」


 今日の夕食は俺からも頼華ちゃんからもリクエストが無かったので、おりょうさんが自分で考えた物を用意してくれたのだが、外食で食べた焼肉や、カレーやパスタなどと比べると、受けが悪いと考えていたようだ。


 しかし今夜の献立は素朴ではあるが、おりょうさんの料理はいつもながらに調味料や火の加減が絶妙なので、素材の持ち味を活かした豊かな味わいを感じられる。



「そいで、遅くまで掛かった捜し物で買ってきたのはなんだい?」


 食後に、久々の純和食だったのでコーヒーでは無く、静岡県牧の原の深蒸し茶を淹れて、一息ついてからおりょうさんが訊いてきた。


 牧の原の深蒸し茶は一見すると濃い緑色で濁っているので、洗練されていないように感じてしまうが、口にすると深くまろやかな甘さと香りを感じる。


「これです」

「こいつは紙と……なんなんだい?」

「なんなのですか?」


 俺が和紙と一緒にローテーブルに出した、細長い棒状のプラスチックと、先の尖ったピーナッツくらいの大きさの透明な塊を見ていたが、正体がわからずにおりょうさんと頼華ちゃんが俺に尋ねてくる。


「これは筆記具なんですよ。こうやって、連結して使います」

「「筆記具?」」


 既に鉛筆やボールペンやサインペンなどはおりょうさんも頼華ちゃんも知っていて、日常で使ってもいるのだが、俺が眼の前でプラスチックの部分に透明な部品を連結させて見せても、筆記具には思えないらしい。


 見た目の形状はボールペンなどに似ているのだが、文字や線を書く為のボールペンのボールのペン先も、サインペンなどのチップに該当する部分も見当たらないので、二人が筆記具に思えなくても無理はない。


「ちょっと用意するので待ってて下さい」

「うん……」

「はい……」


 おりょうさんと頼華ちゃんは俺が用意の為に立ち上がると、半信半疑の目で買ってきた物を観察している。



「それは……墨に硯ですよね?」

「そうだよ」


 中学校の書道の授業で使っていた道具類の入ったバッグを持ってリビングに戻り、取り出した硯で墨を擦り始めた俺を見ながら、頼華ちゃんが首を傾げている。


 中学の書道の授業では擦らなくてもいい墨汁を使っていたのだが、いま俺が擦っている墨は、今日買ってきた油煙墨だ。


「この筆記具は、ぼーるぺんのような見た目とは違って、筆と同じ使い方をするのですか?」

「そういう認識でいいと思うよ。こんなもんでいいかな? 頼華ちゃん、試しにそれで書いてみて」


 俺は墨の溜まった硯を頼華ちゃんの近くに置くと、買ってきた和紙を一枚広げた。


「で、では……おお!? こ、これはなんとも滑らかで、しかもかなり小さな文字もはっきりと書けますね!」


 さらさらと、頼華ちゃんは平仮名でいろはを書いていく。 


「うん。でもそれだけかな?」

「それだけでは無いのですか?」


 頼華ちゃんに試し書きをして貰っているのはガラスペンという、その名の通りガラスをペン先に使っているので書き味が滑らかなのだが、利点はそれだけでは無いのだ。


「そうだなぁ。一度墨をつけ直して、覚えている物でいいから、経典と同じ内容でも書いてみてくれるかな」


 例文に適当な物が思いつかなかったので、頼華ちゃんが筆写するのに馴染みがあるだろうと、題材に経典を挙げてみた。


「えっ!? 般若心経でも、それなりの文字数ですよ!?」

「うん。書けるところまで書いてみて」

「わ、わかりました」


 頼華ちゃんが驚くのも無理はなく、経典の中では短めとは言え、摩訶般若波羅蜜多心経という題名の部分から始めると、その文字数はを加えると二百七十六あるのだ。


「こ、これは……かなり画数の多い文字ばかりの般若心経を、終わり近くまで書けるとは、なんという驚異的な筆記具なのでしょう!」

「頼華ちゃんの方が驚異的だと思うけど……」


(般若心経を全部覚えているとは……もしかしたら、他の経典や作品なんかも!?)


 てっきり、スマートフォン辺りで原文を検索して見ながら書くのかと思っていたのだが、頼華ちゃんは暗記しているらしい般若心経を、迷い無く見事な筆致で和紙に書き込んだのだった。


「兄上、こ、これは!?」

「それはガラスペンって言ってね、正面から先端を見ると窪みが幾つもあるでしょ?」

「はい!」


 俺に言われるままに、頼華ちゃんは寄り目になりながらガラスペンの先端を見つめている。


「その窪みにインク……この場合は墨が溜まって、書く時に少しずつ出ていくので、筆の何倍もの文字数が書けるんだ」


 般若心経は画数の多い漢字が殆どなので、最後まで書き切る事が出来なかったが、一般的にはガラスペンは一度インクに浸すと、葉書一枚分くらいの分量の文字を書けると言われている。


「これだったら、そう頻繁につけ直さないでいいから、集中が途切れないんじゃないかな?」

「兄上の仰る通りです! それに細かな文字が潰れませんから、一枚の紙に大量の文字情報を書き込めます!」


 原理的には単純なガラスペンなのだが、その使い心地に頼華ちゃんは興奮を隠せないでいる。


「こいつは凄いもんだねぇ……」

「良ければおりょうさんも、試し書きをどうぞ」

「うん……はぁぁ。こいつは本当に滑らかな書き心地だねぇ」


 滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ


 確か百人一首の一つだったと思う歌を、おりょうさんが物凄い達筆でガラスペンで書き上げた。

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