更科と太打ち
「こんにちはー」
「いらっしゃいませー! お好きな席にどうぞ!」
そして特に波乱も無いままに週末を迎え、俺達は地元駅から京浜東北線を使って浜松町まで出て、歴史のある更科系の蕎麦店の、その日の口開けの客になった。
好きにという事なので、先に立った俺は奥の方に歩いて四人掛けの席に着いた。
「さてと……俺は御膳せいろにしますけど、おりょうさんと頼華ちゃんは?」
最初からこれにしようと決めてきたので、俺は店の代表的な蕎麦を選んだ。
「あたしは、そうだねぇ……色々試したいけど腹を一杯には出来ないから、この三色蕎麦にしようかねぇ」
生粉打ちのせいろと言うかと思ったが、季節の変わり蕎麦の入っている三色蕎麦を選ぶとは、さすがはおりょうさんという感じだ。
「余はこの、野球というのにします!」
「……そう来たか」
何軒か回るので、大盛りや具の大きな種物はやめようと、三人で申し合わせておいたのだが、頼華ちゃんは程々の大きさの様々な具材が載った、この店の独特な一品である野球蕎麦を選んできたのだった。
「御膳せいろ、三色蕎麦、野球蕎麦ですね。お待ち下さい」
蕎麦屋では花番と呼ばれる女性店員が、お茶の湯呑を置きながら注文を確認して立ち去った。
「どんなのが出てくるのか、楽しみですね! 兄上、野球というと、あのてれびでやっていた競技ですよね?」
「あれ? どんな物か知らないで頼んだの?」
てっきり、頼華ちゃんはネットで野球蕎麦を調べて頼んだのだとばかり思っていたが、どうやら見た目も由来も知らないようだ。
「他の種物と比べて安かったので、具材の量も多くないと思って注文したのですが、いけませんでしたか?」
「ああ、そういう事か」
天ぷら蕎麦などと比べると、野球蕎麦は半額くらいなので、頼華ちゃんは具材が少ないと見当をつけたようだ。
「でも面白い名前ですね。野球といえば先行と後攻で軍勢が攻め合う競技と記憶していますが」
「軍勢って……」
(でも、間違ってはいないのか)
プロ野球のチームは軍と呼ばれる事もあるし、レギュラーを一軍という言い方もしているのだから、頼華ちゃんも、あながち間違ってはいない。
「それにしても老舗だって聞いてたけど、古さは感じさせない洒落た店構えだねぇ」
「そうですね」
店内は落ち着いた調度で整えられているが、採光の良い大きなガラス窓など、トータルでは現代風にアレンジされている。
「着物で来ようかとも思ったんだけど、そこまでしないで良かったねぇ」
「おりょうさんの着物姿は、それはそれで見たかったですけどね」
「っ! も、もう……」
俺の言葉に照れている今日のおりょうさんは、天気予報の予想最高気温が少し高めだった事もあって、白地に黒のピンストライプの、ノースリーブのスタンドカラーシャツに、チャコールグレーのコットンパンツ、クリーム色の麻の一つボタンジャケット、靴は濃紺のローヒールのパンプスという装いだ。
「お参りもあるという事ですから、予も、もう少しきちっとした格好をしてくるべきでしたか?」
「別にいいんじゃないかな。そのままで十分に可愛らしいし」
「っ! あ、ありがとうございます……」
頬を染めて俯く今日の頼華ちゃんは、白いパフスリーブのブラウスに赤を基調にしたチェック柄のジャンパースカート、焦げ茶のコインローファーという、上着無しだが十分にちゃんとした格好に見える。
俺はネイビーのジャケットとパンツの上下に麻のワイドカラーのシャツ、ブラウンのモンクストラップの靴という、特筆する点の無い感じにまとめた。
「お待たせしました。御膳せいろ、三色蕎麦、野球蕎麦になります」
おりょうさんと頼華ちゃんが俯いてしまったので、なんとなく無言の時間が過ぎていったのだが、俺達が口開けの客だったのもあって、注文した品は待つ程の事も無く出てきた。
「へぇ。綺麗なもんだねぇ。それにしても、本当に真っ白い蕎麦なんだねぇ」
三色の内の一色、更科の白い蕎麦を見て、おりょうさんが関心とも呆れともつかない言葉を漏らす。
「見ているばかりじゃなくて、食べましょうか」
「そうだねぇ。頂きます」
「「頂きます」」
手を合わせて言うおりょうさんに、俺と頼華ちゃんも続いた。
「む……淡いけど、色の割にはしっかり蕎麦の風味を感じるんだねぇ。それにしてもこのつゆは、ちと甘いねぇ」
「そうですね。でも、甘さが勝っているっていう訳でも無いんですよね」
俗に蕎麦の御三家と呼ばれる内で藪は辛い、更科は甘い、砂場は中間の味のつゆと言われていて、比べてみれば確かにその通りだと思ってしまうのだが、実際には更科のつゆは甘さは感じるが、所謂ベタ甘では無い。
「桜切りからは、ほんのりと桜が香るねぇ」
おりょうさんは目を閉じて、この時期の変わり蕎麦である桜切りを味わっている。
「この茶蕎麦ってのは、鮮やかな色から想像するよりは、殆ど茶の香りってのはしないんだねぇ」
「うーん。この色を出すのに使ってるのは抹茶ですから、高温で蕎麦を茹でる時に飛んじゃってるんじゃ無いですかね?」
口開けの客の一人であるおりょうさんが食べている茶蕎麦は、おそらくは打ってから間も無いので香りが残っているのだと思うが、少なくとも俺が今までに食べてきた茶蕎麦では、鮮やかな色から感じられるような茶の香りを、口に入れて感じた事は無い。
抹茶は八十五度程度の、少し冷ました湯で点てなければ香りが飛んでしまうのだから、普通に考えればグラグラと煮立った釜で茹でられれば、色以外は飛んでしまうというのは簡単に想像出来る。
その上、更科系の蕎麦では繋がり難い粉を湯捏ねと呼ばれる、熱湯で蕎麦掻きを作ってから捏ねるという工程が入るので、他の粉を使った打ち方と比べると、より香りが飛び易いと思われる。
「ううむ。この野球蕎麦というのは、具沢山で中々に旨いですね!」
「先々代の女将さんが野球が好きで、丼の中を球場に見立てたって話だよ」
海老天がバット、茹で卵がボール、半月切りの蒲鉾がグラブ、刻み海苔が外野の芝、若布が観客席を表わしているらしい。
他にも、野球蕎麦では小振りな海老を使って天ぷら蕎麦より価格を下げ、具沢山にして栄養の偏りが無いようにという願いが込められているという。
「頼華ちゃん、一口貰えるかな。熱いつゆも試してみたいんだ」
「どうぞどうぞ!」
「代わりに、こっちの蕎麦をどうぞ」
頼華ちゃんがテーブルの上を滑らせて、俺の方に丼を寄せてくれた。
入れ替わりに俺の方からは、せいろと蕎麦猪口の載った四角い盆ごと、頼華ちゃんの方に押し出す。
「ん……甘汁の方が、出汁の量が多いからか、スッキリした味わいになってるな」
甘汁と言っても、せいろのつゆよりも更に甘い訳では無く、もりやせいろなどを食べる際に使う濃いつゆを辛汁と呼ぶので、出汁で薄めた分だけ辛くないという意味なのだろう。
「む……姉上と兄上が仰っていたように、今まで食べた蕎麦のつゆと比べると、甘くて丸みのある味になっておりますね」
「ああ、その丸みがあるっていう言い方は、的を得ているね」
頼華ちゃんは感じたままに言葉にしたのだと思うが、丸い味というのは、この店のつゆの味を的確に表現している。
「むむ。りょ、良太。更科蕎麦も一度打ってみたいんだけどぉ……」
「はいはい。絶対に言うと思ってましたから、粉の入手方法を調べてありますよ」
更科蕎麦を食べて、そして見れば、この味と色を自分でとおりょうさんが言い出すだろうというのは、容易に想像がついた。
なので既に、ネットで更科の蕎麦粉を扱っているサイトは複数調べてある。
「さっすが良太。あたしの事、わかってるねぇ」
「んー……愛、ですかね」
「っ! そ、そんな事を、良くも恥ずかしげも無く言えるもんだねぇ……」
「いや、恥ずかしいですけどね……」
必死で恥ずかしさを押し殺して口に出した捨て身の言葉の威力は、おりょうさんに対しては抜群だったみたいだ。
その代りに、バックラッシュも凄かったが……。
「むぅ……余への愛は無いのですね!」
「いや、決してそんな事は……」
どうやら疎外感を与えてしまったみたいで、頼華ちゃんがむくれてしまった。
面白く無さそうに、口に運んだ海老天を尻尾までバリバリ食べている。
(ありゃ。後でなんか御機嫌を取らないとな……)
蕎麦屋を出た後でスイーツの店にでも直行して、頼華ちゃんの御機嫌取りをしたいところだが、この後に予約を入れているのでそうも行かないのだ。
「「……」」
視線の合ったおりょうさんと苦笑を交わしながら、とりあえずは蕎麦を食べ切る事にした。
「……」
「頼華ちゃん、機嫌を直してくれないかな?」
移動の為に乗った電車の席で並んで座っていても、頼華ちゃんは唇を尖らせて御機嫌斜めだ。
「……では余にも、何か兄上からの愛情をお示し下さい」
「そう言われてもなぁ……」
(膝の上にでも載せてあげればいいのかな? でも幼くても女性は、子供扱いは嫌がるって聞くしなぁ)
頼華ちゃんくらいの子が相手ならば、電車の中で膝に座らせたり抱き上げたりしても、年の離れた兄妹のスキンシップくらいにしか思われないだろう。
しかし肝心の頼華ちゃんの方が、そういう子供扱いを嫌がって、より一層怒らせてしまうという可能性も否定出来ないので、中々に難しい状況である。
「あ。次で降りますから」
色々と考えている間に、降車予定の神田駅に電車が入線した。
「こいつは……さっきの店とは違って、趣のある構えだねぇ」
「確か国の、登録有形文化財に選ばれてますね」
奇跡的に空襲を免れたクラシカルな店構えの蕎麦屋は、近くの鶏鍋の店や甘味処などと一緒に、国の登録有形文化財として選ばれている。
「予約の時間もありますから、入りましょう」
おりょうさんと頼華ちゃんを促して、入り口の引き戸を開けて中に入った。
「はい、お待ち遠様です。御予約の太打ち、蕎麦掻き、卵焼きになります」
予約を入れていたのでスムーズに席に通された俺達の前に、これも予約しておいた品々が並んだ。
「す、凄く太いんだねぇ……」
その名の通りに、江戸蕎麦では考えられない程に太く打たれた蕎麦を見て、おりょうさんが驚きを隠せないでいる。
「なんでも、打つのに酒を使ってるって話なんですけど、論より証拠。先ずは食べてみましょう」
「そうだねぇ。そいじゃ、頂きます」
「「頂きます」」
予約品以外に頼んだもり一枚と共に、食事を開始した。
「ん……見た目からして、さっきの更科よりも風味が強くて、少しつゆが物足りないかと思ったけど、口の中に入ると丁度良く感じるねぇ」
箸で一摘みしたもりの蕎麦とつゆを味わって、おりょうさんが瞳を輝かせている。
「口に合いました?」
「勿論だよぉ。蕎麦もつゆも、飛び抜けてるって訳じゃ無いけど、ホッと安心する味だねぇ」
量と質、そして価格を維持しながら客に食事をする場所を提供出来るこの店は、おりょうさんの言う通りに非常に居心地も良く感じる。
「はふ……こ、この卵焼き、醤油の味と甘さの加減が絶妙で……おいしいですね!」
小判型の卵焼きの味は、どうやら頼華ちゃんの不機嫌を吹き飛ばしてくれたようだ。
「うん。確かにおいしいね。こっちの蕎麦も食べて御覧」
「はい!」
すっかり気分転換出来たらしい頼華ちゃんは、意気揚々と蕎麦猪口を手に取って、もりを手繰り始めた。
「こいつは……ほんのりと酒の香りが残ってて、太打ちだから噛み締めると、蕎麦の香りが口の中いっぱいに広がるねぇ」
おりょうさんの言うように、太打ちは普通の蕎麦のように数本を一度に手繰って、殆ど噛まずに飲み込むという訳にはいかないので、一本か二本をつゆに付け、良く噛んで食すのだ。
だから歯応えと蕎麦自体の味と香り、そして打つ際に用いるという酒の風味をじっくり楽しむ事が出来るのだった。
「……うん。蕎麦掻きも旨いな」
漆塗りの桶の湯の中に、木の葉の形に作られて浮かんでいる蕎麦掻きは、この店で使っている蕎麦粉の良さを一番感じられる一品と言えるかもしれない。
「ところで良太。ここって御三家とは違う系統なんだよねぇ?」
「そうらしいですね。打ち方も独特で、挽きぐるみの粉に少量の小麦粉と、卵白を入れて打ってるらしいです」
これに関してはちゃんと調べた訳では無く、時代小説の巨匠の先生のエッセイ本の受け売りだ。
「ここの次は、その御三家の藪系の店に行こうかと思ってますけど、お腹の具合はどうですか?」
決して重たくは無いが、ここの前に立ち寄った店の分から合わせると各自が二人前以上の蕎麦と料理を食べている事になる。
「あたしはもう少しは食えるけど、蕎麦は十分に味わったよ」
「余も、まだまだ食べられますが、少し口直しをしたい感じではあります」
「それじゃあ、浅草に移動してから考えましょうか」
この店の近くに藪系の老舗があるので、はしごしてもいいと考えていたが、とりあえずそのルートは無くなった。
移動してからその気になったら浅草にも藪系の名店があるので、特に問題は無い。
「うわぁ……良太が言ってたけど、こっちの浅草寺も凄い人出だねぇ」
「賑わってますね!」
神田の蕎麦屋から少し歩いて地下鉄に乗って、浅草まで移動した俺達は雷門の前に立っていた。
おりょうさんも頼華ちゃんも、浅草の観光客の多さに目を丸くしている。
「先ずはお参りをしましょうか」
「そうだねぇ」
「そうしましょう!」
俺達は連れ立って、大きな提灯の下を潜り、仲見世に足を踏み出した。
「頼華ちゃん、そんなにお賽銭を!?」
他の参拝客に混じって浅草寺の賽銭箱の前に並ぶと、頼華ちゃんが財布から千円札を取り出したので、思わず訊いてしまった。
「小銭はありますが、余がこちらの世界に来られたのも神仏の思し召し。ならば感謝の意を捧げませんと」
「そうかもしれないけど……」
手持ちの中に小銭はあるはずなのだが、頼華ちゃんは最初から少ない金額を賽銭にするつもりは無かったようだ。
「……そいじゃあたしも」
「……そうですね」
最年少の頼華ちゃんが神仏への感謝を賽銭でと言い出したので、おりょうさんと俺としても同額以下は出せないような状況になってしまった。
(でもまあ、確かに観世音菩薩様には、向こうの世界に行って早々にお世話になったしな)
自分の事以外でも、おりょうさんに加護を授けて貰ったりと本当に世話になっている。
おまけに、この間話題にもなったのだが、浦賀から旅に出てから仏教系の寺院に詣でていなかったので、まとめてと言っては失礼だが数回分の賽銭と考えれば、それ程高額という訳でも無い。
「……え? こ、こいつはどういう訳だい?」
「な、何が起こったというのですか!?」
賽銭を入れて合掌して一礼したところで、周囲の喧騒が掻き消えた。
(そうか。二人は初めてだったな)
俺は何回か経験し、なんとなく予感もあったので驚かないが、おりょうさんと頼華ちゃんは周囲の時の流れが停まった隔絶の状況に戸惑いを隠せないでいる。
「娘達よ、慌てるでない」
いつも通りに柔らかな後光を纏い、威厳を感じる声を語り掛けながら、観世音菩薩様が降臨された。
「久し……くは無いか、鈴白よ」
「そうですね」
里の整備をし始めた時に降臨されたので、参拝は久しぶりだが観世音菩薩様様と最後にお会いしてから一ヶ月は経っていない。
「りょ、良太、もしかしてこの人……御方は?」
「訊くまでも無く神々しさが溢れておりますが……兄上?」
おりょうさんと頼華ちゃんは、直接問い質すのが不敬だと感じているのか、俺に答えを求めてくるが、その視線は観世音菩薩様から外せないでいる。
「多分、二人の想像通りだと思いますけど、こちら、この浅草寺に祀られていらっしゃる観世音菩薩様です」
「「や、やっぱり……」」
想像通りではあるが俺からは別の答えが聞きたかった、そう、おりょうさんと頼華ちゃんの表情が物語っている。
「あああ兄上。もしや観世音菩薩様直々にお出ましという事は、何か余は罰せられてしまうのでしょうか!?」
「なんでそういう風に思うのかな……」
何か罰が当たるような悪い事をした心当たりでもあるのか、いつも勇ましい頼華ちゃんが、顔を蒼白にして小刻みに震えている。
「ははは、別に罰なんぞ当てんよ。しかし源氏の姫よ。最近はちと、想い人である此奴の優しさに甘え気味では無いかのぅ?」
「む……」
(これは……さっきの一件を言ってるのかな?)
観世音菩薩様様に言われて頼華ちゃんが押し黙ってしまったのは、この件に関しては自分なりに思うところがあるからだろう。
「その方は偶のヤキモチ以外は、行動が鈴白への愛の情が溢れておるのぉ」
「えっ!? は、はい……」
自分に振られて焦りを見せたが、真っ赤になりながらもおりょうさんは否定をしなかった。
「むぅっ! よ、余も兄上への愛情でしたら、失礼ながら姉上にも負けません!」
さっきまでの弱気な態度はどこかへ吹き飛んだらしく、頼華ちゃんは神様に対してでも強気に言い放った。
「おうおう。可愛らしいのぉ。本当に鈴白は果報者じゃな」
「それは……はい」
恥ずかしくて仕方が無いのだが、当事者の二人と神様相手に取り繕っても仕方が無いので、俺は心の内を素直に口に出した。
「善哉善哉。で、あるならお主達、まだ若いのであるから少しくらいの間違いや気持ちのすれ違い程度で腹を立てず、お互いを想う気持ちを大切にするが良い」
「「「はい」」」
さすがは神様というところか、少しギクシャクしていた感じの俺達を、全て納得した上で円満にしてくれた。
「ところで、天照坐皇大御神がしみったれた事をしたので、ちと飲み食いや向こうへの土産の代金の捻出に苦心しておるのであろう?」
「しみったれ……いえ、決してそんな事は」
俺達の考えなどはお見通しなのだとは思うが、観世音菩薩様が言う程には、天照坐皇大御神様から授かった行動資金が少ないとは思っていない。
「いやいや。お主に伊勢で厄介事を始末させたのだから、奴ももっと、ドーンと振る舞ってやれば良いのじゃよ」
「そうは仰っしゃいますが、蜘蛛達の里の件では凄く助けて頂きましたし」
天照坐皇大御神様が天の沼矛の機能の一部を使わせてくれなければ、蜘蛛達の里は未だに不便な事が多かったろう。
「ふむ。まあお主がそう言うのならば、そういう事にしておこう」
真意は計りかねるが、観世音菩薩様様は言いたい事は言ったという感じで満足したようだ。




