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桜飯

「あ、あの、姉上……」

「ん? どうしたんだい頼華ちゃん?」


 会話に区切りがついたところで、頼華ちゃんがおりょうさんに、何やら申し訳無さそうに話し掛けた。


「あの、姉上のそれもですね、出来ましたら味見を……」

「ああ。そういえばそういう話になってたんだったねぇ。遠慮しないでいいのに……はいよ」


 口調はいつも通りの伝法な物だが、おりょうさんは慈愛の込もった表情で、モンブランの載った皿を頼華ちゃんの前に置いた。


「ありがとうございます! で、では……やや控えめな甘さですが、そのお陰で栗の風味を感じますね。でも、焼き栗などに比べると、風味は薄いような?」

「それはあたしも感じてたんだよねぇ。良太、そもそも今の時期に栗ってのはどういう事なんだい?」

「えっと、冷凍や冷蔵での保存か、外国からの輸入ですかね。その両方かもしれませんが」


 秋の味覚という事で、秋になると我が家でも栗ご飯が食膳に上がるが、店売りの栗おこわや、栗は使った菓子類は、こっちの世界では一年中出回っている。


「和栗を使ったモンブランを売りにしている店もありますけど、そこも一年中出してるって事は、冷凍でしょうね」


 その店は、和栗の風味を活かす為に、客の注文が入ってからマロンクリームを作り始めるらしいのだが、そこまでするのに栗の実が穫れる時期だけに出すという事にはなっていない、というのは不思議な話ではある。


 味の評判はかなりいいのだが、お茶とのセットで甘味のパラダイスとあまり変わらない料金なので、おりょうさんと頼華ちゃんが行こうと言い出さなければ、多分だが俺には縁の無い店だろう。



「さあさ。御飯にしようかねぇ」


 お茶を終えて暫く三人でのんびり過ごしてからスイッチが入れられ、やがて炊飯器からいい香りがしてきたところで、おりょうさんが立ち上がった。


「手伝いますよ」

「そいじゃ良太には、刺し身を引いて貰おうかねぇ」

「わかりました。切ってあるのを買ってこなかったんですね?」

「うん。皮付きのが欲しかったんだけど、そしたら、下ろして無い奴になっちまってねぇ」


 苦笑しながらおりょうさんが冷蔵庫から取り出したのは、三枚に下ろして骨をすき取ってある鯛だ。


「皮付きって言うと、松皮造りですか?」

「おや、さすがに知ってるねぇ。あたしは鍋の面倒をみるから、そっちは任せたよ」

「はい」


 おりょうさんがガスコンロで料理をし始めたので、俺は受け取った鯛を持って流しに移動した。


「姉上。余も何かお手伝い出来る事はありますか?」

「そいじゃ頼華ちゃんには、この料理の皿と、食器類を運んでおいて貰おうかねぇ」

「はい!」


 おりょうさんの指示に従って、頼華ちゃんは既に出来上がって温め直された料理を盛り付けた皿が運ばれる。


「湯は……ポットのでいいか」


 電気保温ポットから小鍋に湯を汲んで、傾けた俎板に置いた鯛の皮の部分に、少しずつ流し掛けた。


 湯を掛けた事によって皮が縮んだ鯛を、用意しておいた氷水の中に素早く入れて締める。


 湯を掛けた事によって縮んだ皮が、まるで松の樹皮のようになった鯛の身を、通常の刺し身よりはやや厚めに切って皿に盛り付ければ、鯛の松皮造りの出来上がりだ。


「おりょうさん、こっちは出来上がりましたよ」

「こっちも終わったよ。そいじゃ飯にしようかねぇ」


 おりょうさんがコンロの火を止めながら、俺の方に振り返った。


「良太は悪いけど、炊飯器を持ってきてくれるかい」

「わかりました」


 炊きあがりと蒸らし終了を確認してからコンセントを抜いた炊飯器と、鯛の松皮造りの皿を持った俺は、リビングの方へ向かった。



「そいじゃ、頂きます」

「「頂きます」」


 おりょうさんの号令で夕食を始めた。


「目を楽しませてくれた桜に敬意を評して、桜飯にしてみたよ」

「この色から、桜飯って言うんですか?」


 茶碗に盛られた、出汁で薄く紅色に染まった御飯を見ながらおりょうさんに尋ねた。


「この色もそうなんだけど、どうやら蛸の脚を切った断面が、桜に似てるって事らしいんだよねぇ。でもあたしには、桜ってよりは梅に見えるんだけどねぇ」


 薄切りになっている蛸の脚の断面は確かに花びらのように見えるのだが、おりょうさんも言っているように、縁が丸い形状的に梅の花の方に近いように思える。


「形と色の両方で、桜飯って事なんでしょうね」

「そうなんだろうねぇ」


 味の方には桜っぽさは皆無だが、蛸の風味と弾力のある歯応えと、出汁で炊かれた御飯の組み合わせは絶品だ。


「ううむ。この刺し身は普通の物よりも弾力があって、何よりも皮から旨味が感じられますね。凄く山葵(わさび)が合います!」

「生と火を通したのとの、いいとこ取りだからねぇ。勿論、良太の腕がいいんだけどねぇ」

「鯛が良かったんですよ」


 褒められて嬉しいのだが、多分だが養殖物ではあるが産卵期の前の味が落ちていない鯛は、頼華ちゃんの言う通り、皮の旨味と歯応えを感じる。


「あんまり高くなかったんで、味の方はどうかと思ってたんだけど……うん。兜煮も吸い物も、まあまあだねぇ」


「まあまあなんて事は。兜煮も吸い物も、凄く旨いですよ」

「そ、そうかい?」


 おりょうさんは謙遜しているが、頭を縦割りにして甘辛く煮込んだ兜煮も、骨やアラから出汁を取った吸い物も、味加減が絶妙で実に美味だ。


 おいしいだけでは無く、素材を無駄遣いしていない献立の組み立ても、さすがはおりょうさんである。



「ね、ねえ、良太……」

「どうかしましたか?」


 共同で食後の片付けを終えて、俺がお茶を淹れて落ち着いたところで、おりょうさんがもじもじしながら話し掛けてきた。


(なんだろう……俺が帰ってきてから幾らでも話すタイミングはあったのに、今になってっていう事は、余程の重大事か?)


 気軽に返事を返したが、俺は軽く腰を浮かせて座り直してから、おりょうさんに向き直った。


「あの、ね……」

「な、なんですか?」


 上目遣いで俺を見たおりょうさんは、もじもじしながら言葉を口にしたが、すぐに視線を逸した。


「うー……」

「……」


(こっちの世界での生活に不満があるのかなぁ……はっ! もしかして、安いケーキなんか買ってきたから怒っちゃったのか!?)


 小さく唸るだけで、相変わらずもじもじしているだけのおりょうさんの姿を見て、様々な推測が頭の中を駆け巡る。


「そ……」

「そ?」


 やっと、絞り出すように口にしたおりょうさんの、次の言葉を待った。


「そ、蕎麦打ちの道具買っていい?」

「……は?」


 向こうの世界の品川宿で蕎麦店を経営していたので、意外という事は無いのだが、どうしておりょうさんがそんなに言い難そうにしていたのかがわからずに、俺は間抜けな受け答えをしてしまった。


「別に、買ったらいいんじゃないですか?」

「余も、姉上にそう言ったのですが」


 何が問題なのかがわからずに俺が言うと、予め話を聞いていたのか、頼華ちゃんが同意してくれた。


「で、でもねぇ。欲しい物を揃えると、結構な値段になっちまうみたいなんだよねぇ」

「あー……」


 俺も詳しくは調べた事が無いのだが、確かに蕎麦を打つ為の道具というのは意外に種類が多いので、揃えると高額になるのかもしれない。


「えっと……蕎麦打ちの道具って言うと、こね鉢にのし棒、蕎麦切り包丁に駒板ってとこですか?」


 記憶を頼りに、俺は蕎麦打ちの道具を列挙した。


 粉を量る枡や(ふるい)なんかは向こうの世界でも買える。


「でも、向こうでも蕎麦切り用の道具ってあったんですよね?」

「そりゃ、あったけどぉ……」


(あれ? この反応って、向こうで使ってた道具に何か不満でもあったのかな?)


 品川宿の竹林庵や、旅に出てからも何度かおりょうさんに打って貰った蕎麦はいつも旨かったので、何か問題を抱えているのかなどは気にも留めていなかった。


「あたしは出汁は江戸風にしてたけど、蕎麦打ちは故郷の家庭料理から始まってるんで、ちゃんとした道具なんかは使ってなかったんだよ。しかも向こうには、蕎麦打ちの道具の専門店なんざ無かったからねぇ」

「あー……」


 蕎麦打ち専用の道具を使っている職人も、もしかしたらいるのかもしれないが、その場合でも職人自身が形状などを指示して作られたワンオフの道具になるのだろう。


 自分が鰻屋の大前の開店を手伝う時に、鰻を裂く為の専用の包丁を発注に行った事があるのに、そういう事がすっかり頭から抜け落ちていた。


(そういえば俺って、竹林庵でおりょうさんが蕎麦を打ってるのって見た事が無かったんだな……)


 竹林庵では、向こうの世界での最初の食事である天ぷら蕎麦を食べて、その後は暫くの間居候をして食事の世話にもなったのに、おりょうさんが蕎麦を打っているのを見たのは旅に出てからだ。


「蕎麦をこねるのには大きな焼き物の鉢を使って、のし棒は近所の大工に言って削って貰ったのを使ってたんだよ。切るのは故郷で使ってたのと同じ、菜切包丁だったしねぇ」

「それは……逆に凄いですね」


 ちゃんとした道具が揃っていなくても、創意工夫と技量でカバー出来るという典型例がおりょうさんだったようだ。


「でも、今回は資金も比較的潤沢な訳ですから、特に気にしないで買ってもいいんじゃないですか?」


 おりょうさんと頼華ちゃんは、三週間は俺の家で寝泊まりするのだから、その間に食事などに行ったり、向こうの世界に持ち帰る予定の物をある程度まで買ったとしても、それなりに金額に余裕はあるはずだ。


「そうかもしれないんだけどぉ……材質によっては、向こうに持って帰っても取り上げられちまうかもしれないから、その辺を吟味して買わなきゃならないし、そうなるとこね鉢なんか漆塗りになっちまうんだけど、これがお安く無くってねぇ。ほら、これなんだけど」

「うっ……た、確かに安くは無いですね」


 俺が学校に行っている間にネットで調べたらしく、おりょうさんがタブレット端末でサイトを開いて見せてくれたのだが、こね鉢は元々が大きいので安い物でも数万円するのだが、高い物になると十万円近くする事が判明した。


「これは……高いのは天然木に漆を使ってあるんですね。安い方は特に表記してないけど、合板に漆じゃ無くて塗料だろうなぁ」


 漆塗りのこね鉢の方は実用的なだけでは無く、見た目にも高級感がある。


 安いこね鉢の方も形は整っているし表面処理も綺麗だが、気の所為だとは思うのだが、どことなく量産品っぽい安っぽさを感じる。


「ちょいと買ってみようか、って感じの値段じゃ無いだろぉ?」

「そうですね……」


 財布の紐を俺が握っている訳では無いのだが、おりょうさんが相談をしてからにしようと考えた気持ちも良く分かるくらいには高価だ。


「あ。今のおりょうさんの話を聞いて、子供達用に買って帰ろうかと思ってた包丁は、百均のは駄目な事に気が付きました」

「えっ!? そいつはどうしてだい?」


 自分の言葉の何がそうさせてしまったのか、という表情でおりょうさんが俺に問い詰めてきた。


「百均で売っている包丁の材質はステンレスっていう錆び難い鉄なんですけど、そのステンレスは大掛かりだったり科学的な炉じゃないと、基本的には作り出せないんですよ」


 ステンレスは高炉や電気炉などを使って鉄にクロムやニッケルなどを混ぜて作るので、向こうの世界での再現が難しい素材だと言えるだろう。


 元素を抽出出来るドラウプニールならば、向こうの世界でもステンレスを再現出来るかもしれないが、そこまでするなら鋼で打って包丁を作る方が簡単だろう。


「そ、そいじゃ、包丁は土産には出来ないって事かい?」

「えっと……そこそこの値段で鋼の包丁が売っているので、数は少なくなっちゃいますけど、向こうよりは安く買って帰れそうです」


 『包丁』『鋼』で検索をかけて調べてみると、鋼の刀身と木の柄の包丁が二千円台で売っているのが確認出来た。


 このくらいの値段ならば、数本まとめ買いすれば通販でも送料を無料に出来そうだし、探せば店頭でも同じくらいか、もっと安い物もあるかもしれない。


「買って帰る包丁は五本くらいあればいいかと思っていたので、それ程は予算を圧迫しないでしょう」

「そんならいいんだけどねぇ」


 俺の説明を聞いて、おりょうさんは安堵の表情を浮かべた。


「それで、話を戻しますけど。最高級の物とかじゃ無ければ、蕎麦打ちの道具は買ってもいいんじゃないですか?」

「そ、そうかねぇ……」


 良さそうな物をセレクトすると、総額がかなりの額になるので、おりょうさんはまだ遠慮している。


「写真も出てますけど、現物を見ないと使い勝手もわからないでしょうから。どうです、今度の週末に見に行くのは?」

「見に行くって……専門店にかい?」

「ええ。こっちの浅草の近くには、蕎麦打ちだけじゃ無くって、色んな料理の厨房用品の店が集まっている場所があるんですよ」


 その場所とは浅草の、かっぱ橋道具街と呼ばれている一帯だ。


「で、でもぉ。あたしの為に良太の休みの日を潰しちまうってのは……」

「あの、俺はおりょうさんの、その……こ、恋人なんですから、今更そういう遠慮は無しにしましょうよ」


 どうにも口に出すのは照れくさいセリフだったが、他ならぬおりょうさんが関わる一件なので、なんとか喉の奥から言葉を絞り出した。


「っ! りょ、良太がそこまで言ってくれるのなら……買うかどうかは後で決めるとして、行ってみようかねぇ」


 顔を真赤にしながらも、やはり蕎麦打ち道具の現物を見てみたいのか、おりょうさんは俺の提案を受け入れてくれた。


「そうしましょう。厨房用品を扱っているだけあって、もしかしたら包丁なんかも、安い掘り出し物があるかもしれませんしね」


 取扱品が多いだけあって、不良品や傷物なども多く出るので、都合良く包丁があるかはわからないが、店によっては食器や調理器具の掘り出し物があったりするのだ。


「お話を聞いているだけでも、面白そうな場所ですね!」

「うん。道具類だけじゃなくって、店を開く時に必要な物を扱ってる色んな店があるから、見て回るだけでも飽きないと思うよ」


 調理器具などを見て回るだけでも十分に面白そうだが、最近では外国人観光客に人気のある食品サンプルなどを扱っている店もあるので、食べられはしないのだが頼華ちゃんにも楽しんで貰える事だろう。


「でも道具を買う前に、どうですか、こっちの世界の蕎麦を食べに行くっていうのは」

「そいつは素敵だねぇ!」


 道具を買うのには遠慮がちだったおりょうさんだが、蕎麦を食べるという話題には、いち早く食いついてきた。


「で、どういう店に行くんだい? 勿論、こっちの名店なんだろ!?」

「そ、そうですね……」


 瞳を輝かせたおりょうさんは、俺に覆い被さるようになりながら問い質してきた。


「本当は六本木辺りに行きたいところなんですけど、家からだと変なルートになっちゃうんですよね……」


 蕎麦の御三家と言われている内の更科系の名店は六本木に集中しているのだが、地元からだと実際の時間はそれ程掛からないのだが、乗り換えが多くなって行くのが面倒だったりする。


「そうですね……芝に神田、後は上野か浅草の店に行くって感じですか」


 物が蕎麦なので、大盛りにしたりしなければ三軒くらいは回れると思うが、満腹になってしまったら浅草に直行してしまえばいいだけの話だ。


「浅草かぁ。だったら、こっちの浅草寺にも詣でようじゃないか」

「いいですね。向こうで旅に出てから、御無沙汰しちゃってますしね」


 里の祠で、定期的に観世音菩薩様に供え物をしたりはしているのだが、ここ最近は何故か伊勢神宮や伏見稲荷などの神社に縁がある出来事ばかりで、寺に詣でていなかった。


「こっちの浅草寺も、門前は向こうに負けずに賑わってますよ」

「おや。そいつは楽しみだねぇ」

「早く週末になって欲しいですね!」


 どうやらおりょうさんも頼華ちゃんも、今から期待が高まっているようだ。


「おりょうさん。話のついでなんですけど。手打ち蕎麦の道具意外にも、こういうのもあるんですよ」

「ん? どれどれ?」


 俺がタブレットで検索したサイトを、おりょうさんが覗き込む。


「製麺機なんて、便利な物があるのかい!?」

「蕎麦は勿論ですけど、うどんや、こっちでは良く食べられているラーメンなんかには、家庭だけでは無く店でも使ってますね」


 俺がおりょうさんに見せているのは手動式だが、高価だが楽に大量に作れる電動式の製麺機もある。


「こっちの名店では、大勢の客を捌く為に製麺機を使っているところは多いんですよ」


 手打ちでは提供出来る量に限界があるので、客が多く来る店では蕎麦を打つ職人を増やすか、必要に迫られて機械を導入する。


 旨い蕎麦を出す為では無く、ただ単に楽をするのに導入している店もあるが……。 


「あー……なんとなくこういうのを使うのは味気無く感じちまうけど、蕎麦打ちは重労働だからねぇ」

「そうですね。でも、こね鉢での作業までは手でっていう、ちゃんとした店もありますから」

「ああ、水回しは大事だからねぇ」


 画面に映っている製麺機の写真を興味深そうに見ながら、おりょうさんが呟く。


「……延しと切りを、機械がやってくれるってのは、確かに楽そうだねぇ。意外に安いし」

「そうなんですよね」


 金額的には数万円はするのだが、蕎麦打ちの道具フルセットと比べると、決して高くは思えない。


「あの……もしかして欲しくなったりしてますか?」

「こっちで買おうって程じゃ無いけど……でもこれって、正恒の旦那辺りに頼めば出来るんじゃないのかい?」

「ど、どうでしょうね……」


 金属のフレームと歯車の組み合わせなので、製麺機自体は構造的には難しくは無いだろう。


 鍛冶師の正恒さんに作れるかと言うと話は別なのだが……あの人の腕前ならば、図面でもあれば再現してしまいそうな気はする。


「蕎麦やうどんが楽に打てる……って言っちまっていいのかわからないけど、あれば便利だと思うし、あたし以外にも欲しいって人は多いと思うよ」

「そうですか?」


 正恒さんにお願いすれば、手が空いている時なら請け負ってくれそうな気はするのだが、おりょうさんの言うように需要があるのだろうか?


「うどん打ちは家庭でもやるけど、手間だからねぇ。でも製麺機があれば、粉を水で練っておけば、食べる直前に延ばして切ればいいだけだろぉ?」

「それはそうですけど」

「家庭以外でも、こいつがあれば安くうどんや蕎麦を店で出せるんじゃないかなって思ってね」

「あっ! 言われてみれば……」


 職人気質の店主には受け入れられないかもしれないが、材料と製麺機さえ揃えれば均質な、ある程度以上のレベルのうどんや蕎麦を作れるので、安く腹を満たしたいという客を相手にする店ならば、受け入れられるかもしれない。

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