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女神の涙

「貴方様、ごちそうさまでした。もう少し食べたい気もしますが」

「そ、そうですか……」


(この肉への食欲が、体型に反映してるのかなぁ……そのうち志乃ちゃんも?)


 そんな事を考えながら、いけないと思いつつもつい、天の母性の象徴である部分にチラッと視線が行ってしまう。


「では片付けをしましたら、お風呂を頂きますね」

「あ、片付けは俺がしますから、どうぞ行って下さい」


 天や志乃ちゃんは自分だけでは無く、女の子達の面倒も見るのだから大変だろうと、使い終わった器や箸を纏めだしたのを見て軽く制した。


「そこまで甘えますのも……」

「今日はお客様だから、いいんですよ」

「天様。良太お兄さんもこう仰ってるんですし、固辞しますのは……」

「そうねぇ……では貴方様、お言葉に甘えさせて頂きます。さ、行きますよ」

「「……」」


 申し訳無さそうな表情をしながらも、志乃ちゃんの言葉に背中を押された天は、女の子達を促しながら立ち上がった。


 天達はしきりに恐縮しながら食堂を出て、浴場へと向かった。


「あれ、頼華ちゃんは行かないの?」


 特に追い出そうという意図は無いのだが、レアに焼いたステーキの味見も済ませたのに、頼華ちゃんがまだ座っているのを見て声を掛けた。


 というのも、いつもなら頼華ちゃんは嬉々として子供達の入浴の面倒を見ているし、先に入っている夕霧さんが長い髪を洗うのを手伝ってくれるので、食後にここに逗まっているのが不自然に感じたのだ。


「それが……黒と白が、兄上が入浴するまでは来るな、と」

「黒ちゃんと白ちゃんが?」


(なんでそんな事を言い出したんだろう?)


 頼華ちゃんと黒ちゃんと白ちゃんは、たまに口喧嘩くらいはするが非常に仲がいいので、別に意地悪とかでは無いとは思うが、逆に心当たりが全く無いので気になってしまう。


「では、私もそろそろ風呂に行きますか」

「え。ブルムの旦那、もう少しいいじゃ無いですか」


 酒盃を置いたブルムさんを、おりょうさんが止めようとしている。


「もう十分に頂きましたよ。りょう殿もこの後で風呂に入るのでしたら、それくらいにしておいた方がいいですよ」


 俺がおりょうさんに言いたかったが、好きに飲ませたいという気持ちが勝ってしまって口に出来なかった事を、ブルムさんが代弁してくれた。


「う……そ、そうですねぇ」


 少し飲み過ぎていた自覚があったのか、ブルムさんに言われて、おりょうさんは酒盃を置きながらそっと目を伏せた。


「コホン……良太、片付けを手伝うよ」


 ちょっとわざとらしく咳払いをしたおりょうさんは、席を立ちながら俺に手伝いを申し出た。


「兄上! 余もお手伝いします!」

「それじゃ、手早く片付けちゃいますか」


 食器や酒器を纏めた俺は、腕捲りをするおりょうさんと頼華ちゃんと一緒に厨房へ向かった。



「おりょうさんと頼華ちゃんのお蔭で、洗い物も楽でしたよ」


 三十人以上の分の食器はかなりの量ではあるのだが、水回りが便利な里の流しだと、手分けをした事もあって非常に手早く洗い終える事が出来た。


「作るのは良太とお糸ちゃんに任せちまったから、こんくらいはねぇ」

「兄上を手伝うのは当然です! ですが、ここ最近は洗い物は当番で回していたのですが」

「そうなの?」


 京の笹蟹(ささがに)屋でも、買い物と料理を順番に回していたのだが、誰の発案かは知らないが、里でも似た様なローテーションが出来上がってみたいだ。


「もしかして黒ちゃんと白ちゃんが企んでる何かと、関係があるのかな?」

「兄上、その事についてなのですが」

「ん? 頼華ちゃん、何か心当たりがある?」


 最後の食器を軽く水を切ってから置いて、手を拭きながら頼華ちゃんに尋ねた。


「余達が京で、順番に兄上と買い物や調理や入浴を共にしていたではないですか」

「そうだね」


 江戸を発ってから、同行者の女性達の内の一人だけと行動するという機会は少なかったので、ちょっと新鮮な気分だった。


 尤も、買い物も調理も入浴も、子供達の誰かが一緒ではあったのだが。


「今日が順番の姉上が、兄上と過ごす時間が少ないからという、黒と白の配慮なのでは無いかと思うのですが」

「成る程……でも、その考えで行くと、頼華ちゃんは?」

「兄上にとって、姉上と余は同じ間柄ですから」

「そういう事なのかなぁ」


(でも確かに、頼華ちゃんをのけものにしちゃうのは、おりょうさんも俺も本意じゃ無いか)


 この辺を言い出すと、自分的には黒ちゃんと白ちゃんも一緒だと思うのだが、これは彼女達なりの線引なのだろう。


「そういう事なんだったら、黒と白の好意に甘えようかねぇ」

「余も、それがいいと思います!」

「まあ、そうですね」


 黒ちゃんと白ちゃん、夕霧さんや子供達との生活も実に楽しいのだが、三人だけで過ごした日々も俺にとってはかけがえの無い思い出になっているので、やっぱりおりょうさんと頼華ちゃんの二人は特別な存在なんだなと思う。



「おおっ!? 白っ! 御主人達来ちゃったよ!」

「む! 者共、早く服を着て出るのだ!」

「「「はぁーい!」」」


 浴場の前に陣取っていた黒ちゃんが白ちゃんに呼び掛け、皿に白ちゃんが号令を掛けると、まだ髪の毛が濡れていたり服をちゃんと着ていなかったりする、女の子を中心とした子供達が暖簾を跳ね上げて飛び出してきた。


「みんな、ちゃんと髪の毛を拭いて、服を着るんだよ?」

「「「はぁーい!」」」


 俺達の脇を駆け抜けていく子供達に呼び掛けると、ちゃんと返事はしてきた。


「うぅー。もうちょっとゆっくりしたかったですぅ……」


 いつものふわふわのウェーブの掛かった髪が、まだ濡れているのでペッタリとしている夕霧さんが、小さく呟きながら暖簾を潜って出てきた。


「なんか俺達の所為っぽいんですけど、すいません」

「あ、いいえぇ。黒ちゃんと白ちゃんの言う事もぉ、尤もだと思いますからぁ。それではお先にぃ」


 カラスの行水という程は短く無かったのだとは思うので、ゆっくり浸かれなかったような言葉を漏らしていた夕霧さんも、特に不満という感じでは無さそうだ。


(でも、これで頼華ちゃんが話してたのが、推測じゃ無くて確定か……)


 黒ちゃんと白ちゃんの俺達への気遣いに巻き込まれた形で、子供達や夕霧さんもそれに従ってくれたのだが、入浴くらいはゆっくりさせてあげたかったなと、ちょっと申し訳無く思ってしまう。


「狐ーっ! 早く出ろって言っただろ!」

「そ、そう申されましても……ほら、貴女達、行きますわよ」


 黒ちゃん達に追い立てられて、糸目の女の子達を連れた、まだ作務衣の合わせの紐をちゃんと結び終えていない天と志乃ちゃんが出てきた。


「えっと……」

「あ、貴方様。ちょっと慌ただしかったですけど、広くて良いお風呂ですね」

「きゃっ!」


 俺に気がついた天は、里の風呂を褒める言葉を述べてくれたりしているのだが、志乃ちゃんは真っ赤になって慌てて後ろを向くと、作務衣の前をしっかり合わせて紐を結んでいる。


(天はもう少し、志乃ちゃんみたいな恥じらいを持った方がいいと思うんだけどな……)


 恥じらうどころか、逆に自分の巨大な胸を誇示するかのように、天は作務衣をはだけさせたまま俺に流し目を送ってくる。


「おらっ! さっさと行くよ!」

「あっ! そんな御無体な……」

「りょ、良太お兄さん、ごゆっくり……」


 黒ちゃんに背中を押されて、天と志乃ちゃん達は食堂の方へ歩き始めた。


「主殿、騒がしくて申し訳無い。客は俺達でもてなしておくので、姐さんと頼華とゆっくりしてきてくれ」


 実に穏やかな笑顔の白ちゃんだが、口調には有無を言わせない物がある。


「入浴後は、おりょうさんと頼華ちゃんと過ごすつもりだったけど……」


 女湯の方は黒ちゃんと白ちゃんが全員追い出したみたいだが、走り出てきた子供達の中には男の子の数が少なかったので、男湯の方ではまだブルムさんと男の子達が入浴中なはずだ。


「ゆっくりしてきてくれ」

「……」


 俺の反論を許さないと言わんばかりに、白ちゃんが被せてきた。


「主殿は今更、混浴を恥ずかしがるという事も無いだろう?」

「そうだけど……」


 こっちの世界に来てからの最初の入浴からして、江戸の湯屋でおりょうさんと混浴だったのだが、だからといって慣れたのかと言うとそんな事は無い。


 身内だけとか、逆に全く知らない人しかいない状況だと、混浴でも特に気にならないのだが、知っているが混浴をするような仲では無い、例えば夕霧さんや伊勢の朔夜様のような人と一緒には無理だ。


 夕霧さんには京で押し切られて、一緒に入浴してしまったのだが……。


「兄上。白がここまで申しておるのですから」

「……わかったよ。でも、里のみんなや天さんやブルムさんに迷惑を掛けるようなのは、今回きりでやめにしようね?」

「う……わ、わかった」


 今回の行為に後ろめたい気持ちがあったのか、俺が言うと白ちゃんは苦々しい表情で返事をした。


「そいじゃ話が終わったところで、風呂に入ろうかねぇ」

「そうですね!」

「はい」


 もう逃げる気は無いのだが、おりょうさんと頼華ちゃんが俺の両腕をガッチリホールドして、そのまま女湯まで連行された。



「大陰陽師である安倍晴明の式神がそのままとは、物騒な話ですね!」

「そうでしょう?」

「それで、なんかいい考えはあるのかい?」


 三人で風呂に浸かりながら、京で天から聞いた安倍晴明の負の遺産である、一条戻り橋に封印されたままの式神の件を話すと、歴史上の有名人の事なので、おりょうさんも頼華ちゃんも身を乗り出すようにして訊いてきた。


「うーん……この間の平清盛と菅原道真を自称していた怨霊と百鬼夜行の時にも、手が足りなそうだから黒ちゃんと白ちゃんを呼び寄せたんですけど、今回はかなり強力な式神が十二体なので、ちょっと困ってるんですよね」


 封じられている場所は判明しているので、前回のような分散する形では無く集中配備は出来るのだが、式神の個々の強さが不明なので、出来れば同数以上の人員を揃えるのが望ましい。


 現状では必ずしも戦闘になるとは限らないのだが、ここは念には念を入れて備えておきたい。


「今度はあたしも協力するけど、それでも駄目かい?」

「うーん……おりょうさん、頼華ちゃん、黒ちゃん、白ちゃん、それと俺で、ここまではいいんですけど、あんまり巻き込みたくは無いんですが夕霧さんに、紬と玄を入れてもまだ足りませんね」


 相手が式神なので、戦闘力よりは(エーテル)を扱うのに長けているというのがメンバーに入れる大前提なのだが、夕霧さんと紬と玄は、俺達が最悪な状況になった場合に備えて、出来ればメンバーからは外したいと考えている。


「そんな良太さんに、私が協力しちゃいますよ!」

「えっ!? って、フレイア様!?」


 いつの間にか俺の正面に、北欧系の金髪グラマー美人が湯に浸かっていた。


「良太っ! また新しい女かい!?」

「またってなんですか!?」


 唐突に現れたフレイヤ様に驚くより先に、おりょうさんに妙な疑いを掛けられてしまった。


「怪しい奴め! 名を名乗れっ!」

「頼華ちゃん、怪しい人……じゃ無いから!」


 剣術の達人である頼華ちゃんが相手でも、傷を負わす事など出来るとは思えないが、神様に対してあまり無礼な態度をとると後で何があるかわからないので、とりあえず背後から肩を掴んで宥めた。


「知っている方なのですか?」

「えーっと……説明しちゃってもいいんですよね?」


(神様な事とか、俺とどういう経緯で知り合ったのかとか、話しちゃってもいいのかなぁ……)


 頼華ちゃんの言う人というカテゴリーに属さない存在なので、説明をするにはその辺からになるのだが、打ち明けてしまっていいのかの判断に悩むので、フレイヤ様の方をチラッと見た。


「えっと、本当は良くは無いのですが。良太さん、御二方に御自身の事を話そうとお考えでしたよね?」

「……はい」


 明日にでも鎌倉へ出向いて、頼華ちゃんに婚約を申し込んだ事を頼永様と雫様に報告しようかと考えていたので、その前に黒ちゃんと白ちゃんが作ってくれた、三人だけになった今のタイミングで、俺の素性を説明しようと考えていた。


「良太自身の事と、この金髪のお姉さんが関連してるって……あたしと会う前から女がいたって事なのかい!?」

「そうじゃ無くてですね……」

「ま。そんな、良太さんの女だなんて……」

「あの、ちょっと静かにしていて下さい」


 猛るおりょうさんを見ていると愛されているのかな? とも思うが、これでは話が進まない。


 そしてフレイヤ様が口を挟むと更にややこしくなるので、神様に対して失礼だなと思いながらも釘を刺した。


「説明しますから落ち着いて下さい。頼華ちゃんもいいね?」

「う、うん……」

「はい!」


 俺に掴みかかろうとしていたのか、立ち上がっていたので目のやり場に困っていたおりょうさんと、フレイヤ様に飛びかかろうとしていたので両肩を抑えていた頼華ちゃんも、渋々ながらも腰を下ろして湯に浸かった。


「じゃあ先ずは、俺がこの世界の人間じゃないってところからですね」

「えっ!? じゃ、じゃあ、良太は黒とか白みたいな!?」

「黒ちゃんと白ちゃんはまた違うんですが……正確には、俺は死んでこっちの世界に来たんですよ」

「「ええっ!?」」


 遂に明かしてしまった自分の素性だが、おりょうさんも頼華ちゃんも予想通りに驚愕に目を見開いている。


「じゃ、じゃあ良太は仏さんって事なのかい!? で、でも……温かいよ?」

「それはまあ。どう説明したものかな……」


 おりょうさんが俺の手を取り、体温や脈拍を確かめている中、わかり易く元の世界とこっちの世界の説明を出来るようにと思案する。


「あの、おりょうさんと頼華ちゃんは、人が死ぬとどうなるのかは知っていますか?」

「死んだら? 閻魔様のところに行って審判を受けて、地獄に行ったり極楽に行ったりするんじゃ無いのかい?」

「武人で高みに至ると、神格化されたりもするようですが」


(こっちの世界でも、元の世界と死生観はそれ程は変わらないみたいだな)


 これはこちらの世界の方が神仏との関係が深いし、修練によっての成長がある程度は自覚出来るので、当然といえば当然の話だ。


「おりょうさんの言うのも頼華ちゃんが言うのも正解なんですが、まだ魂の修行が足りない人は、神仏の力があまり及ばない世界に生まれ変わって修行をしてから、こっちの世界に生まれ変わって修行をするというのを繰り返すんです」


 かなりざっくりした説明だが、要点は外していないと思う。


「……も、もしかして、神仏の力が及ばない世界ってのが」

「ええ。実際にはこっちの世界からするとあの世に当たる、神仏の力があまり及ばない世界。俺はそこから来ました」

「「っ!」」


 仏教の思想に輪廻というのがあるので、魂の修行というのは二人共すぐに理解してくれたようだが、俺が自分達から見てあの世から来たというのは想像を超えていたのか、小さく息を呑んだ。


「本来はこっちとあっちを行き来する際に、記憶は持たずに生まれ変わるらしいんですが……」

「ん? もしかして良太は、こっちに生まれ変わった訳じゃ無いのかい?」


 俺の話の内容から推測したのか、おりょうさんが核心を突いてきた。


「実はその……向こうの世界では、あと八十年くらいは生きる予定だったらしいんですが、それをこちらのフレイヤ様が」

「あはは……ちょっと先走っちゃいまして」

「さ、先走って人の命を奪うって、何考えてんだい!」

「姉上の仰る通りです!」

「ひいっ!」


 照れ笑いも怒りを増幅させたらしく、おりょうさんと頼華ちゃんは瞳に明らかな怒りを宿しながら立ち上がったので、その剣幕に女神であるフレイヤ様も気圧されて悲鳴を上げた。


「ちょ、ちょっと待って下さい二人共!」


 フレイヤ様との間に立ち塞がると、おりょうさんと頼華ちゃんは勢いそのままに、俺の胸に飛び込んできた。


 仮にもと言うと失礼だが女神様なので、おりょうさんと頼華ちゃんにフレイヤ様を害する事は出来無いとは思うが、(ばち)が当たったり呪われたりという事は十分に考えられる。


「なんで命を奪われた当事者の良太が、そんなに落ち着いてるんだい!」

「正に姉上の申される通り! 例え相手がどのような者であっても、兄上に不埒な行いをしたとなれば、捨て置く事は出来ません!」

「いやまあ、確かに発端には問題があるんだけど……おりょうさんと頼華ちゃんに会えたのも、その御蔭とも言えるので」


 俺を突破してフレイヤ様に襲い掛かろうと、腕の中でジタバタしている二人を出来るだけ落ち着かせようと、抱きしめながら穏やかな口調で語り掛けた。


(しかし……色々と困った状況だな)


 二人共落ち着きを無くしているので、力任せに前方に突進しようと、俺に向かって柔らかな部分をグイグイと押し付けてくるので、こっちの方が落ち着きを無くしてしまいそうになってしまう。


「む……言われてみればそうなんだけど、良太はそれで納得してるのかい?」

「そうです! 文字通り命に関わるような問題を、笑うような相手ですよ!?」

「う……その点に関しましては、申し開きのしようもございません。良太さん、りょう様、頼華様、この通りです」

「ちょ! フレイヤ様!?」


 湯に浸かったまま、フレイヤ様はその場で土下座をした。


 普通ならば浮力が働いて、おかしなポーズになってしまうはずなのだが、法則に逆らったフレイヤ様は水中で見事な土下座をしている。


「と、ともかく二人共、一度落ち着いて! フレイヤ様っ!? お顔を揚げて下さい!」


 女神様に対して不敬かなとは思いつつも、土下座を継続中のフレイヤ様の背後に回ると、脇に手を差し入れて一気に湯の中から引き上げて立たせた。


「ううぅ……いつも不真面目な態度をしていると思われているでしょうけど、良太さんの事に関しては、本当に申し訳無いと……」

「大丈夫です! 信じてますから!」


 流れ落ちる湯とは明らかに違う、大粒の涙を次々と瞳から(こぼ)しながら、フレイヤ様は身体を震わせている。


「ごめんなさい……本当にごめんなさい」

「わかりましたから、もう泣かないで下さい」


 他に宥める方法を知らないので、不敬と知りつつもフレイヤ様をそっと抱き締めた。


「う……あ、あの、あたしも少し言い過ぎましたから、もうその辺で」

「よ、余も少し言い過ぎました」


 泣く子には敵わないという事か、手で顔を隠したりせずに涙を流し続けるフレイヤ様に、おりょうさんも頼華ちゃんも怯んでしまっている。


 そんな状況だからか、俺がフレイヤ様を抱き締めている事に関して、二人からのお怒りは無さそうだ。

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