牛ヒレステーキ
「あ! 兄上っ! おかえりなさいっ!」
子供達に剣術を教えていたのか、木の棒を持って打ち合い、というよりは一方的に攻撃を受けて流していた頼華ちゃんが俺に気がついて、一直線に走ってきた。
「ただいま、頼華ちゃん。もうすっかり元気だね」
「はい!」
右手は大地くんと繋いでいるので、笑顔の頼華ちゃんは空いている左腕にしがみついてきた。
「姉上と大地も、おかえりなさい!」
「ただいま。何も変わりは無かったかい?」
「ただいまです、頼華姐様!」
俺の腕は離さずに、頼華ちゃんはおりょうさんと大地くんとも挨拶を交わした。
「特には何も無いです。とりあえずブルム殿と天は、食堂の方へお通ししておきました!」
「そいじゃあたし達も、食堂へ行こうかねぇ」
「そうですね」
「はい!」
お客さんのおもてなしというのもあるが、食堂の隣の厨房で、今夜の食事の支度もしなければならない。
「大地くんは夕食まで、好きに過ごしていていいよ」
「はい!」
俺が言うと、大地くんは他の子供達が集まっている方へ駆け出していった。
「頼華ちゃん、剣術の稽古をしてたみたいだけど、そっちの方はいいの?」
歩き始めても俺の腕を離そうとしないので、頼華ちゃんに尋ねた。
「そろそろ日も暮れ始めますので、いいのです!」
「そ、そう?」
「はい!」
傍から見ると中途半端で稽古を終わらせてしまっているようにも見えるのだが、頼華ちゃんが元気いっぱいに返事をしてくるので、それ以上は追求しない事にした。
「おお、鈴白さん。お先にのんびりさせて頂いておりますよ」
「良太さん、おかえりなさぁい」
「あ、貴方様! お邪魔させて頂いております」
「良太お兄さん、お邪魔になってます」
「「……」」
「「「主人! おかえりなさい!」」」
食堂の木戸を開けると、ブルムさん、夕霧さん、天、志乃ちゃん、ゲームに興じていた十人程の里の子供達からの挨拶を受けた。
糸目の女の子達は相変わらず無言だが、揃って頭を下げてくる。
「さて。俺は夕食の支度をしますから、お客様の相手はおりょうさんと頼華ちゃんにお任せしますね」
「えっ!? あたしは手伝うつもりだったんだけど?」
「余もです!」
「夕食の仕込みはある程済んでるから、俺だけで大丈夫ですよ」
京で買ってきた食材は別に仕込まなければならないが、メインの食材は京への出発前に、八割程度までは仕込みを終えているのだ。
「でもぉ……」
「ブルムさんと天さん達を、放置する訳にもいきませんし、子供達の相手をさせるのも……」
「そ、そうだねぇ……」
「そうですね……」
おりょうさんと頼華ちゃんが手伝いに来ても、一応は年長組の夕霧さんが残るのだが、どちらかと言えば夕霧さんも、まだ里の住人よりはお客様の方に入るだろう。
「その代り、俺はお茶とかも淹れませんから、その辺も合わせてお任せしますから」
「わかったよ」
「それじゃあこれは……って、夕食前だから出さない方がいいですかね?」
帰りに立ち寄った茶屋で水無月を買ってきたのだが、茶請けとして出すには微妙な時間帯である。
「食後か明日に回した方が、いいんじゃないのかねぇ」
「そうしますか」
「お菓子ですか!?」
耳聡くお菓子というワードに、頼華ちゃんが食いついてきてしまった。
「今、食後か明日にしようって決定したところだよ」
「えー……」
目に見えて頼華ちゃんが残念そうにしている。
「まあまあ。その代りって訳じゃ無いけど、今日の夕食はちょっと凄いよ」
「誠ですか!? で、では我慢します……」
くー……
頼華ちゃんの期待の大きさなのか、お腹の虫が可愛らしく自己主張した。
「……いい具合に柔らかくなったな」
「本当に。凄いです!」
重曹を溶かした液に漬けておいた肉の柔らかさを俺と一緒に確認して、お糸ちゃんが驚きの声を上げた。
遊んでいてもいいと言ったのだが、お糸ちゃんはまた食事の支度の手伝いを申し出てくれたのだった。
「それじゃお糸ちゃんには、肉を軽く洗って貰おうかな」
「はい!」
「量が多いから大変だよ?」
漬けておいた肉を全部使う訳では勿論無いのだが、里のフルメンバーに加えて天達お客さんもいるので、総量はそれなりになる。
「お任せ下さい!」
「そ、そう? じゃあ大変そうなら呼んでね」
妙に気合の入っているお糸ちゃんに肉を任せ、俺は他の食材の下拵えに取り掛かった。
「……明日の分も少し仕込んでおいた方がいいかな?」
肉と一緒に使う食材の仕込みを終え、今は三枚に下ろした鱸をやや厚めの刺し身にしながら、氷を浮かべた水の入っている器に落としている最中だ。
(鱸の残りは塩焼きにして……やっぱり明日の仕込みもするか)
「主人! お肉洗い終わりました!」
「早かったね。じゃあお糸ちゃんは、後は休んでていいよ」
「えー……」
「なんで残念そうなのかな!?」
いつの間にかワーカホリックになってしまったのか、お糸ちゃんの表情が、もっと仕事を寄越せと語っているように見える。
「もっとお料理教えて下さいっ!」
「いいけど、一度にあれこれ教えても身に付くかどうか……」
実践をすれば技能が身に付く世界なのだが、習得速度にも限界があるだろうし、まだお糸ちゃんを始めとする里の子供達は成長途上なので、焦る事は無いと考えている。
(うーん……本人が望んでるし、疲れてはいないみたいだからいいのかな?)
計算や文章の異常な飲み込みの良さのように、小さな体格というハンデを物ともしないで、巧みに包丁や鍋を操るお糸ちゃんを見ていると、俺の心配は杞憂に思えてくる。
「よし。じゃあ鱸の洗いの残りと塩焼きは、お糸ちゃんに任せようかな」
「はいっ!」
これまで以上に元気良く、そして嬉しそうに返事をしたお糸ちゃんは、背の高さをカバーする踏み台を俺に隣まで運んできてから、勢いよく飛び乗った。
「いいかい。洗いは刺し身を引いて氷水に入れて身を締めるんだけど、お糸ちゃんが今使ってる包丁じゃ短いから、これを使って」
「しゅ、主人の包丁をですか!?」
「そうだけど?」
(なんでこんなに驚いてるんだろう?)
柄の方を持って柳刃を差し出したのだが、何故か硬直したように動かなくなったお糸ちゃんは、手を出してこようとはしなかった。
「そ、そんな恐れ多い……」
「いや、包丁は只の道具だから……それに恐れ多いなんて言われると、困っちゃうなぁ」
「も、申し訳ありません!」
「いや、そこまでしなくてもいからね?」
お糸ちゃんは作業台に頭を打ち付けんばかりに、直角に腰を曲げて頭を下げた。
「俺はお糸ちゃんと料理をしてると楽しいから、恐れ多いなんて言わずに一緒に楽しんで欲しいんだけどなぁ……チラッ」
「う……主人、ズルい、です……」
わざとらしくチラッ、とか言ってみたら、さっきの恐れ多いというのとは違う種類の感情で、お糸ちゃんが困っている。
「さあ補助するから、やって御覧」
「あ……は、はい」
背後から腕を回して柳刃を握らせると、そのまま途中まで刺し身に引かれた鱸に、お糸ちゃんを向かわせた。
「こう、ね。左手で抑えながら、包丁の長さを使ってスーッと引いて」
「はわぁぁぁぁぁ……」
一応は俺の補助の通りに包丁を使っているのだが、何故か顔を真赤にしたお糸ちゃんからは熱くなった体温が伝わってきて、頭がグラグラしている。
「お糸ちゃん、なんか具合が悪そうだから、ここまでに……」
体調が良くないまま刃物を扱わせるわけにはいかないので、お糸ちゃんに添えた手を止めながら囁いた。
「だだだ大丈夫ですっ! も、もう補助はいりませんので……」
「そ、そう? あんまり無理しないでね?」
「はい……」
(ま、いいか……)
鱸を洗いにするのは殆ど終わっているので、仮にこれ以上お糸ちゃんが作業を進められなくても、残りはすぐに終わらせる事が出来るだろう。
真っ赤な顔を俯かせるお糸ちゃんの言葉を信じて、俺は他の料理の下拵えを始めた。
「うう……お腹減った」
「もう少し待っててね」
どの料理もそろそろ完成というところで、空腹に耐えられなくなったのか、お腹の辺りを押さえた黒ちゃんが厨房に入ってきた。
「御主人、帰ってきてたの!?」
「うん。結構前にだけど」
「お、お出迎えしないでごめんなさい!」
「いや、別に気にしてないよ?」
空腹だった事など忘れたかのように頭を下げる黒ちゃんを、気にしないようにと宥める。
「んーん! あたしがお出迎えしたかったの!」
「そういう事か」
無礼を働いたとか考えていた訳では無く、黒ちゃんは純粋に俺をお出迎えしたかっただけらしい。
「おかえり主殿。何か手伝う事はあるか?」
「ただいま白ちゃん。そうだなぁ、出来上がるからそろそろ運んで貰おうかな」
黒ちゃんの背後から白ちゃんが姿を現したので、丁度良いので仕事を頼んだ。
「むー! あたいがまだ、おかえりなさい言ってないのに!」
「それはお前が悪いだけだろうに……主殿、この辺から持っていって構わないな?」
「うん。お願い」
「無視すんなー!」
料理の盛りつけられた器を持った白ちゃんは、黒ちゃんの文句を華麗にスルーして、食堂の方へ歩み去った。
「うー……」
「まあまあ。良かったら黒ちゃんも手伝ってくれるかな?」
料理を手伝ってくれていたお糸ちゃんも一生懸命に動いてくれているが、小柄なので一度に多くは運べないので厨房と食堂を、忙しそうに行ったり来たりしている。
「おう! っと、その前に!」
「ん?」
食器類を満載した盆を軽々と持ち上げ、厨房から出ていこうとした黒ちゃんが急停止して振り返った。
「御主人、おかえりなさい!」
「うん。ただいま、黒ちゃん」
「おう♪」
「あ、そんなに急がないでも……」
にっこり笑った黒ちゃんは、ちょっと心配になる程にガッチャンガッチャンと音を立てながら食器を運んでいった。
「そいじゃみんな。お天道様と、作ってくれた良太とお糸ちゃんに感謝して、頂きます」
「「「頂きます」」」
おりょうさんの号令で夕食を開始した。
卓上には鱸の洗いと塩焼き、じゃが芋と人参も入れた牛のモツ煮込み、水菜のナムルが並んでいる。
「くぅーっ! この歯に滲みるような冷たさの洗いは堪らないねぇ! さ、ブルムの旦那、天さん、飲んだ飲んだ!」
「おっとっと」
「りょ、りょう様! ゆっくり頂きますので!」
上機嫌になって酒を注ぐおりょうさんに、ブルムさんと天が圧倒されている。
「兄上」
「ん? 口に合わなかった?」
箸は動いているし、さっきお腹が鳴ったくらいなので食欲はある筈なのだが、頼華ちゃんの表情が微妙に冴えない。
「その……出ている料理はどれもおいしいのですが、これが凄いのですか?」
「ああ、その事ね。実は今日の料理は、これで終わりじゃ無いんだよ」
「そうなのですか!?」
「じゃあ少し早いけど、持ってこようか」
「はいっ! あ、お手伝いします!」
期待に瞳を輝かせる頼華ちゃんは、手伝いは好意で申し出てくれていると思うのだが、早く料理を見たいという気持ちがあるのだろう。
「おお! こ、これは!」
石窯から引っ張り出した天板に載っている料理を見て、頼華ちゃんの目がクワッと見開かれた。
「熱いから気をつけてね?」
「はい!」
以前に作った蜘蛛の糸のミトンを頼華ちゃんに渡してから、自分も装着して天板を持った。
「はーい。おかずの追加だよ」
「「「わぁ!」」」
四つの天板に分けて焼かれた牛の肋骨付きの肉を見て、皆が歓声を上げた。
醤油と蜂蜜と酒で作ったタレが肉汁と混じって焦げた匂いが広がり、これ以上無いくらいに食欲をそそる。
(やっぱり料理って、見た目も重要だよな)
食べ易さを考えれば骨から肉を剥ぎ取った方がいいのだが、それだと大きな塊、しかも骨付きの肉のインパクト、そしてワクワク感は味わえない。
猪や鹿なら次回もあるのだが、こっちの世界の日本では貴重な牛の肉には、もしかしたら二度とお目に掛かれないかもしれないので、出来るだけおいしく、しかも印象に残るような料理にして出したかったのだが、どうやら正解を導き出せたようだ。
「ん?」
ごくり……
肉好きだというのは予め聞いていたが、天と志乃ちゃん、そして糸目の女の子達の肉の載った天板を見つめる視線と表情が尋常では無い。
「あ、貴方様! これは頂いても宜しいのですわよね!?」
「簡単に切り分けますので、少し待って下さい」
「ぅ……」
待ちきれないと言わんばかりに手を伸ばそうとした天が、お預けを食らった犬のように、しゅんと項垂れた。
(そんなにもか……)
里の子供達も味への期待に表情を輝かせていはいるのだが、天達の場合には本能的に肉を求めている感じだ。
「お待たせしました。さあどうぞ」
「「「わぁ!」」」
一本一本切り分けた大きな骨を、皿に半分くらいの長さに切断してからゴーサインを出すと、皆が一斉に手を伸ばした。
「骨付きじゃない肉はまだあるから、食べ終わったら持ってきますね」
「あ、貴方様! お代わり下さいませ!」
「え、もう?」
言われて見ると、天とその身内で囲んでいる卓に置かれた天板だけ、いち早く肉が消失していた。
慌てて厨房に、スライスして焼いた肩や腿やロースと、買い込んできた賀茂茄子や万願寺唐辛子を焼いて盛り合わせた皿を取りに行った。
「……凄いな。絶対に余ると思ったんだけど」
「びっくりです!」
手伝ってくれたお糸ちゃんも、俺が指定した量が多いと思っていたのか、ほぼ食べ尽くされた料理の皿と空になったお櫃を見て驚いている。
「旨かったけど、あたしはこの鱸の方がいいねぇ」
牛肉と野菜の料理も食べてくれたが、おりょうさんには鱸の洗いと塩焼きの方が口に合っているらしく、今もゆっくりとしたペースで口に運びながら、合間に酒盃を傾けている。
「はぁ……牛の肉というのは、おいしいものでございますねぇ」
「本当に。良太お兄さん、お糸ちゃん、おいしい物をありがとうございます」
「「……」」
満足の溜め息を漏らす天も志乃ちゃんも、無言の女の子達も感謝の意を表している。
「出来れば生でも頂いてみたいのですが」
「な、生はちょっと……」
天から生肉のリクエストが来たが、子供達もいるので生食を提供するのは遠慮したい。
「そうでございますか……」
「生に近い食べ方で良ければ出せますけどね」
衛生面には気をつけているので、ベリーで無いレアのステーキくらいなら問題は無いだろう。
「本当でございますか!? ぜ、是非食べたいのですが……」
(かなり本気だな……)
黙っていれば理知的な感じの美人の天は、俺の話を聞いて口の端を緩め、涎を垂らさんばかりの表情をしている。
「構いませんけど、もしかして今すぐにですか?」
天は頼華ちゃんや黒ちゃんと同じくらいの量の肉を食べていたはずだ。
「あ、貴方様にはお手間をお掛けしてしまいますが……出来れば少しだけでも」
両手を合わせて瞳を潤ませた天は懇願、と言うよりは哀願してきている。
「……志乃ちゃん達も食べる?」
「す、少しだけでいいので、食べてみたいです」
「「……」」
天程では無いが、それでもかなりの量を食べているはずの志乃ちゃんと、糸目の女の子達も同意を示している。
「……少しだけですよ?」
「「あ、ありがとうございます!」」
心の中で小さく溜め息を付きながら、心から嬉しそうな笑顔を浮かべる天と志乃ちゃんと女の子達の視線を受けて、仕方なく折れる事にした。
「あ、良太。酒の代わりと、まだ鱸の洗いはあるかい?」
「少しお待ちを」
持ち上げた徳利をぶらぶら振るおりょうさんに、苦笑しながら返事をしてから厨房に向かった。
「あれ? みんなは風呂かな?」
出来上がった料理と酒を持って食堂に戻ると、いつもなら食後に談笑したりゲームに興じたりしている風景が広がっているのだが、今は閑散としていた。
(俺が不在の間に、パターンが変わったのかな?)
小さく首を捻りながら、おりょうさんと天達の前に皿や徳利なんかを置いた。
「りょう殿、どうぞ……何やら黒殿と白殿の主導で、お客様の天殿達以外の、特に女性は風呂を済ませるようにと言っておりましたよ」
「黒ちゃんと白ちゃんがですか?」
徳利からおりょうさんの酒盃に酒を注ぎながら、ブルムさんが状況の説明をしてくれた。
「わたくし共にも、食後は速やかに入浴をと申しておりましたが……」
「はぁ……」
「おお! これは旨そうですね!」
天達に出す肉料理が気になったのか、ちゃっかり頼華ちゃんもこの場に残っている。
「ただ焼いただけだよ。ちょっと工夫をしてあるんだけどね」
頼華ちゃんに説明した通りに、少し厚めに切って叩いたヒレ肉を、牛脂を溶かした鍋でニンニクと塩と胡椒で味付けして焼き、仕上げに酒でフランベしただけの料理だ。
「まぁ……なんという鮮やかな切り口の色」
一口サイズに切り分けていると、薔薇色の中心部からグラデーションになっている断面を見て、天が料理に対してとは思えないような、艶めかしい溜め息を漏らした。
「良ければ、おりょうさんとブルムさんもどうぞ」
余れば自分で食べればいいと思って二枚焼いておいたので、切り分けた内の二切れを小皿に移して、おりょうさんとブルムさんの前に置いた。
「せっかくだから頂こうかねぇ」
「このような焼き色の肉は始めてですが……」
おりょうさんは気楽に箸で肉を摘んだが、ブルムさんは一見すると火が通っていないように見える肉に、少し警戒心を抱いている。
「ちゃんと火は通ってますから、大丈夫ですよ」
「そうですか? では……むぅ!? 確かに鈴白さんの言う通り、表面はカリッと焼けていて、中心部はほんのりと温かい。そして微かに感じる血の風味と一緒に、口の中に肉汁が溢れ出してくるとは……」
表面を焼き締めて肉汁を閉じ込め、粗熱を取った鍋に蓋をして低温で中心部まで火を通したステーキの味に、ブルムさんが目を見張った。
「はぁぁ……貴方様! これは焼いた肉と生の肉との、いいとこ取りでございますね!」
「おいしぃぃぃぃ……」
「「……」」
天と志乃ちゃんと女の子達は、目を閉じて肉の旨味をじっくりと味わっている。
「うむ! 兄上、これは塩味だけでは無く、山葵醤油などでもイケそうですね!」
「ああ、そうかもね」
レアに焼いたステーキなのだが、知らない頼華ちゃんには鰹などでやるタタキと同じような料理に思っているだろうから、そう言い出したのだろう。
「このまんまでも酒に合うけど、山葵醤油ならもっと良さそうだねぇ」
「今度やってみますね」
どうやら牛肉を食べるのに凝った味付けよりは、シンプルな方がおりょうさんの口には合うようだ。




