マイ刀
「いいお湯でしたねぇ♪」
「そうですね……」
(吸血鬼に血を吸われた後って、こんな感じなんだろうか……)
まだ経験が無いのだが、献血後はこんな感じにクラクラするのではないかと思う。
クラクラすると言っても軽いもので、気分が悪くなったりはしていないし、足が地についていないなんて事も無い。
「あ、良太さぁん。お背中お拭きしますねぇ」
「あ、はい」
普段なら断るところだが、日常に行える事が面倒臭く感じる程度には不調なので、夕霧さんの申し出をありがたく受ける事にした。
「♪」
甲斐甲斐しく世話をしてくれている夕霧さんは、鼻歌なんか歌いながらご機嫌で、湯上がりにほんのり上気した頬は、つやっつやだ。
「ありがとうございます。それじゃ行きましょうか」
「はぁい」
俺も夕霧さんも着替えに時間の掛からない作務衣なので、手早く身に着けてから居間へ向かった。
「戻りました」
「戻りましたぁ」
「「「おかえりなさーい!」」」
居間に戻ると、子供達の声で迎えられた。
「おかえりなさい。ちょっと長めでしたね?」
「ええ。後で説明しますけど、ちょっとありましてね」
「ふむ?」
何か勘繰っているという感じでは無いが、ブルムさんは俺の言葉に興味を惹かれたようだ。
「おかえりなさいませ。それでは貴方様もお戻りになりましたし、わたくし共はそろそろ……」
「ええ」
天がそう言うと、志乃ちゃんも続いて立ち上がろうとした。
「いやいや。もう遅いですし、どうですか、今日はもう泊まっていかれたら」
軽く手を挙げて、ブルムさんが天と志乃ちゃんと、腰を上げようとした糸目の女の子達を制した。
「で、ですが、これ以上お世話になりますのは……」
「そう仰るが、夜道を女性達だけでお帰りになるのも、心配ですしねぇ」
(並の女性じゃ無いし、人間ですら無いんだけど……)
天を始めとする、帰ろうとしていた女性陣は全員人間じゃ無いのだが、それはブルムさんも知っている事なので口には出さなかった。
「あなた方が決して弱くないといのは存じておりますが、繁華街以外で女性が夜道を歩かれると、目立つのでは?」
「それは……そうでございますね」
ブルムさんの意見を聞いて天が口籠った。
(確かに、ブルムさんの言う通りだよな)
天自身が言うには、術などを駆使して戦うスタイルらしいが、先日行った治療とドラウプニールで補充した気で、状態は万全に近いだろう。
必ずしも騒動や戦闘に巻き込まれたりといは言えないが、いざそうなった場合に志乃ちゃんは戦えるのかもしれないけど、糸目の女の子達という護る対象がいるので、敢えて決して明るくない夜道を帰る必要も無いだろう。
「貴方様……」
「家主のブルムさんがこう言っているんだから、いいんじゃないですか?」
救いを求めるように天が俺を見てきたが、帰るにしても俺が送っていくというのが前提になるだろう。
「天様。ここはブルム様と、良太お兄さんのお言葉に甘えても」
「そ、そうかしらねぇ……それでは図々しいですが、今晩はお世話になります」
これ以上固辞するのも失礼と受け取ったのか、志乃ちゃんがダメを押して、最終的には天が折れた。
二人共手を付いて深々と頭を下げ、糸目の女の子達も続いた。
「まあまあ。そう畏まらないで下さい。おう、そうだ。天殿には後で一杯お付き合い頂きましょうかな」
「そんな事でしたら、お安い御用で御座いますわ。幾らでもお付き合い致しましょう」
(俺が飲まないから、助かるなぁ)
黒ちゃんと白ちゃんがいる時は飲んでいたし、今夜のように天を誘うという事は、どうやらブルムさんは一人酒が好きじゃないのだろう。
俺が飲めるのなら相手をするのだが、まだ積極的に酒に手を出す気にはなれない。
「お姉ちゃん達、お泊りするの?」
俺達の話を聞いていたお朝ちゃんが、志乃ちゃんの袖をくいくいと引っ張った。
「そうですよ。今夜はお世話になりますね」
「じゃあ、まだ遊んでくれますか?」
「ええ。喜んで」
「「「やったー!」」」
志乃ちゃんの言葉に、子供達が一斉にバンザイした。
「それじゃお姉ちゃん、源平碁しよー!」
「えー。みんなでやれるし、自演我がいいよー!」
外見年齢が低いので親しみ易いのか、志乃ちゃんがモテモテだ。
「ははは。みんな、仲良く遊ぶんだよ」
「「「はーい!」」」
喧嘩に発展する事は無いと思うが、俺が注意する前にブルムさんが先手を打ってくれた。
「主人! 御本読んで下さい!」
「うん。約束だもんね」
「はい!」
嬉しそうに大地くんが、本を持って俺の膝の上に飛び乗ってきた。
「主人! フレイヤ様が欲しがったブリジンガメンって、そんなに凄い物なんですか!?」
「うーん……物の価値って人それぞれだからなぁ」
(現物を俺が持ってるって教えたら、驚くだろうなぁ……)
元々そういう機能が備わっていたのかは不明だが、気のパターンを登録して、装着者の意思で一瞬で強固な武装に変化するブリジンガメンは、現在はフレイヤ様から一時的に預かって俺が持っている。
「女の人は宝石とか宝飾品が好きだから、欲しかったんじゃないかなぁ」
大地くんにこう説明はしたが、俺には宝石や宝飾品の魅力はイマイチわからない。
(ドヴェルグに、身体を差し出してまで欲しいっていうのは、ちょっと俺には……)
(しくしく……)
(あ、なんかすいません……)
心の声に何やら反応があったので、とりあえず謝っておいた。
「そうなんですか? じゃあ、おりょう姐様や頼華姐様も好きなんでしょうか?」
「うーん……おりょうさんは嫌いでは無いと思うけど、頼華ちゃんはどうだろう?」
(おりょうさんも頼華ちゃんも似合いそうではあるけど、どうなんだろう?)
おりょうさんは自分自身で着飾るのも嫌いでは無さそうだが、出会ってからこれまでに、あまり華美な着物や装飾品を身に着けているのは見た事が無い。
頼華ちゃんの場合は元々が源家のお姫様なので、色々と持っているだろうし身に着けた事もあるだろうけど、好きかどうかと訊かれたら、多分否定するだろう。
(頼華ちゃんは宝飾品よりも刀や弓を喜びそうだし、派手で高価な着物とかよりは動き易い衣類の方を好みそうだよな)
頼華ちゃんは初対面の時から、騎乗に向いた袴姿だったので、似合うかどうかでは無く好みという事なら俺の推測で間違っていないだろう。
(あれ? そういえばこっちの世界の日本では、外国の宝石の類は流通してるのかな? でも流通してても、研磨技術が発達してないだろうけど……)
日本にも数は少ないが宝石の産出地はあるし、こっちの世界は鎖国はしていないので、外国で産出された宝石なども入ってきている可能性は高い。
しかし宝石の価値は、大きさや透明度だけでは無く、多面構成に研磨されたカットにも大きく影響されるので、機械工学の発達が妨げられるこっちの世界では、ブリリアントカットみたいな物は出来ないだろう。
必然的に宝飾品は、加工が比較的容易な金や銀の細工と、現代から見ればかなり荒削りな宝石という事になる。
「主人はどんな物が好きですか?」
「俺? 俺はそうだなぁ……調理器具とか、刀とかの武器かなぁ」
両親が共働きなので、それなりに料理スキルが向上すると、食材や器具にも興味が出てきた。
しかし自分一人の食事を作る為に、マイ包丁やマイフライパンなどを買うのは無駄が多過ぎるので、ネットで品定めをしたり、休日に専門店街を巡って眺めたりする程度で我慢していた。
武器の方も、現代の日本ではキャンプで斧やナタを使うくらう程度しか実際に使う機会は無いので、こちらもネットで調べたり、秋葉原でレプリカを扱っている店を覗いたりしていただけだ。
(こっちの世界に来て、マイ包丁やマイ刀を入手出来たのは、本当に嬉しかったな……)
包丁と刀に関しては入手しただけでは無く、自らの手で鍛えられたというのも得難い経験だった。
妙な力が働いて、刀の巴に関しては尋常な品では無くなってしまったのだが……。
「主人! 俺も自分用の刀とか欲しいです!」
「えっ!? うーん……まだ大地くんの体格じゃ、刀は向いてないかなぁ」
(そもそも刀って、刀身だけじゃ駄目なんだよな……)
刀で最も重要なのは言うまでも無く刀身なのだが、柄や鞘や鍔など、構成するパーツは多岐に渡り、しかもパーツごとに職人が存在する、分業によって完成するのだ。
巴を打った際には、鎌倉の頼永様任せで仕上げて貰ったが、さすがに何度もお世話になる訳にはいかない。
「えー……」
「いや、気持ちはわかるんだけどね」
俺自身が、使いもしないのに刀やロングソードなんかのレプリカの購入を真剣に考えていたし、実際に自分で打って手にした時の感動は忘れられないので、大地くんの気持ちは痛い程良く分かる。
「山での狩りで使うのに、止め刺し用の刃物は作ろうと思ってたから、一本は大地くんに優先的に渡すよ」
「本当ですか!? やったー!」
(約束しちゃったからには、鍛冶小屋の設備を整えないとな……一度正恒さんのところに言って、アドバイスを受けるか。今のところは俺にも、止め刺し用って巴しか無いしな)
レンノールから鉄材は入手しているし、正恒さんが融通してくれた道具類の中に金槌やヤットコなどの鍛冶用具もあるので、後は木炭とふいごがあれば鉄製品を打つ事は出来る。
「主人! あたしは包丁が欲しいです!」
「はいはい! 俺は弓が欲しいです」
「俺もー!」
「あたしもー」
「ああ、うん。みんなの分も順番にね……」
普段はあまり我儘を言わない子供達なのだが、大地くんの次にお朝ちゃんが包丁を所望すると、堰を切ったように自分の要求を告げてきた。
(うーん……そんなに本格的な構造の物じゃなければ、ある程度の量産は可能かな?)
止め刺し用の刃物は相手と斬り結ぶ刀のような強靭さは要求されないので、ある程度の長さと切れ味を追求すれば要は足りる。
包丁に関してはあくまでも練習用であり、ある程度まで身体が成長してから本格的な作りの物に切り替えればいい。
現代でも七輪を使って鋼材を熱して、刃物を作るという技法はあるので、自分が使っているような刀と同じ構造の柳刃のような物じゃ無ければ、現状でも比較的容易に作る事は可能だ。
(いずれにしても、焼入れ用の粘土と炭は必要だな)
同一鋼材での鍛造なので、刃紋を入れるための粘土は必要無いかもしれないのだが、見た目のそれっぽさというのはあった方がいいだろう。
炭に関しては、焼き入れや焼戻しの際の温度管理を炎の術で行えばいいのだが、子供達に技術を教える事を考えると、オーソドックスな方法と素材を使った方が良いように思える。
(まあいきなり鍛冶作業をさせるのは無茶かもしれないけど、研いだり柄を作ったりするのは、やらせてみてもいいな)
鍛冶作業には体力も要求されるので、子供達に現段階で全てをやらせるのは無茶だろう。
しかし、柄を自分の手で作ったりすれば達成感を得られるだろうし、研いだり手入れをしたりすれば、より愛着も湧くだろう。
(明日、里に戻ったら、状況次第では一度鎌倉方面に足を伸ばしてみてもいいかもしれないな……)
また正恒さんに甘える事になってしまうが、専門家では無い自分があれこれ考えるよりは、技術の確かに人物に教えを請う方が確実だろう。
「……ん?」
「……」
暫くして、大地くんが本の内容などについて話し掛けてこなくなったと思ったら、小さな頭が前後に揺れている。
「寝ちゃったのか……」
「貴方様。うちの子達も、おねむのようでございます」
大地くんを起こさないように俺が小声で囁くと、天の連れてきた糸目の女の子達も、源平碁の駒やジェンガの木片を握ったまま力尽きていた。
「ブルムさん、天さん、志乃ちゃん、夕霧さん。布団を敷いちゃいますから、少しの間子供達をお願いします」
「「「はい」」」
眠ったり、眠りそうになっている子供達を退避させて貰っている間に、手早く数組の布団を敷いた。
「えっと……女の子達には、寝間着にこれを」
「お気を遣わせてしまって……」
里の子供達が身に着けているのと同じ貫頭衣風の寝間着を二人分、天と志乃ちゃんに渡した。
頭からすっぽりと被せるだけなので、着替えさせるのは容易だし、天も志乃ちゃんも見た目よりはずっと力があるみたいで、女の子達を軽々と扱っている。
「良ければ、御二人の分も用意しますけど?」
「宜しいですか?」
「助かります」
(湯上がりに用意しておくんだったな……)
子供達を着替えさせている天と志乃ちゃんを見ながら思ったが、入浴を終えた時点では泊まっていくと決まっていた訳では無かったので、これは言っても仕方のない事ではあるのだが……。
「志乃ちゃん。頼まれてる衣類程の性能は無いけど、ごく普通の物だったらすぐに用意出来るよ」
気を目一杯に注ぎ込んだ最高品質の物で無ければ、ドラウプニールを使わずにこの場で作る事は可能だ。
夕霧さんに吸収された分はまだまだ回復しないが、寝間着と合わせて制作する程度なら問題は無いだろう。
「本当でございますか!? で、では良太お兄さんの御負担にならないのなら、お願いしたい、です……」
女の子を着替えさせて布団に寝かせた志乃ちゃんは、丁寧に頭を下げてきた。
「勿論、構わないよ」
(ああ、本当にいい子だなぁ……)
志乃ちゃんからは申し訳無さや感謝の気持ちが伝わってくるが、変に遠慮ばかりをして自分の気持ちを隠したりはせずにちゃんと要求を伝えてくるし、その上で礼儀正しいので、自分的に非常に好感度が高い。
「……なんか貴方様の態度が、わたくしの時とは違うように思えるのですが」
「むー……良太さぁん。今度はこの子なんですかぁ?」
「別にそういう訳じゃ……って、夕霧さん。今度はってなんですか!?」
天は自分の持って回った話し方に関しては無自覚なのか、俺の対応を厳しい物だと受け取っているようだ。
夕霧さんが何を言いたいのかは、俺には全くわからない。
「子供達も眠ってしまいましたし、ここであまり騒がしくするのも良くないでしょう。どうですか、私の部屋へ行くというのは?」
「そうしましょうか」
「それでは」
「ええ」
「はぁい」
すぐに寝てしまいたいところだが、天の分の寝間着作りと、志乃ちゃんからの依頼をこなすまではそうもいかないので、年長組はブルムさんを先頭にして居間から移動した。
「これでよし、と。志乃ちゃん、天さんに作った衣類程は強度が無いから、普段使いだけにしておいてね?」
ブルムさん私室に場所を移してから天の寝間着と、志乃ちゃんの寝間着も含んだ衣類を手早く作り上げた。
「はい! 良太お兄さん、ありがとうございます!」
貫頭衣の寝間着に下着を上下三セット、必要無いかもと思ったが、橙色の作務衣を作って志乃ちゃんに渡すと、嬉しそうに胸に抱きながらお礼を言ってきた。
「この品質で良ければ、俺がいない時でも良一が作れるから」
「「良一がですか?」」
良一という名前を聞いて、天と志乃ちゃんが揃って首を傾げる。
「あの顔がのっぺりした、大きなのでございますね? そして本を作った。衣類まで作る事が出来るのですか?」
「のっぺり……まあ、そうです」
(顔の造作も追加した方がいいのかなぁ……)
不気味だとかのっぺりだとか言われると、もっと人間っぽい外見にした方がいいのかと考えてしまう。
しかし、等身大の人形を人間に似せると、それはそれで不気味な感じがしないでもない。
「良一は俺の分体が仕込んであるので、一度作った事があるそこそこの品質の物なら、指示すれば作れるんですよ」
この辺はパソコンのコピペみたいな物だと自分では認識している。
コピペなのに最高品質の物が作れないのは、単純に分体の良一では、マシンパワーが足りないからだ。
「まあ! そんなに便利な事に!?」
「もしも必要になりましたら、お願いに上がりますね」
天も志乃ちゃんも、驚きながらも説明に納得したようだ。
「では、早速!」
「では、わたくしも……」
「ちょ!? 二人共、この場で着替えるのはやめて下さいよ!」
言うが早いか、立ち上がった志乃ちゃんに続いて、天までシュルシュルと衣擦れの音を立て始めたので、慌てて制止した。
「「ええー……」」
「なんで不服そうに……いいから、子供達が寝てる部屋か、風呂場の手前の脱衣所で着替えてきて下さい!」
「「はーい!」」
何故か俺に注意されているのに嬉しそうな表情で、天と志乃ちゃんはブルムさんの部屋を出ていった。
「それじゃあぁ、あたしも着替えてきますねぇ」
「はい」
着物程は締め付けのない作務衣ではあるが、やはり貫頭衣が楽なのだろう、夕霧さんも天達に続いて着替えに出ていった。
「ブルムさん、今夜はお飲みになるんでしたよね? 何かツマミでも作って来ましょうか?」
「おお、それはそれは。鈴白さんがお手間じゃ無ければ、お願い出来ますか?」
「お手間なんて……それじゃちょっと用意してきます」
ブルムさんを一人で取り残してしまうのは気が引けるが、俺は酒肴を用意する為に厨房へ向かった。
「はぁぁ……貴方様のお陰を持ちまして、心配事が無くなりましたので、今宵のお酒は格別においしいですわねぇ」
「天殿はいける口ですな。どれ、もう一献如何ですか?」
「あら、ありがとうございます。ではわたくしからも御返杯を」
「おお。これは嬉しいですな」
ブルムさんと天は俺が用意した、夕食の時よりもにんにくを控えめにした水菜のナムルと、葱をさっと茹でた物と刻んだ油揚げのおひたしを肴に、御機嫌で酒を酌み交わしている。
「良太お兄さん、このお菓子、冷たくって生姜の風味が冴えていて、最高です!」
「良太さん、旅に出られてからぁ、こんなに色々とお菓子を作っていたんですねぇ」
志乃ちゃんと夕霧さんは飲まないという事なので、子供達には内緒でお茶と一緒に、伊勢で作った生姜のシャーベットやキャラメルを出した。
無論、夕食後であり就寝前なので、量自体は控えめにだ。
「良太さぁん」
「ん? どうかしましたか?」
夕霧さんが小声で、耳元に囁いてきた。
「あの二人、いい雰囲気じゃありませんかぁ?」
「……言われてみれば、そうだね」
夕霧さんが目立たないように、ブルムさんと天を指差す。
「ううむ。美人のお酌の酒は旨いですなぁ」
「ま、お上手な。ささ、もう一献どうぞ」
「これはかたじけない」
酔っているからか、相好を崩したブルムさんは天に酌をされた酒を、気分良さそうに飲み干した。
(金髪美人の天と、この国の人じゃないブルムさんは、確かに外見的にもお似合いだな……)
金髪の天と焦げ茶色の髪と髭のブルムさんは、日本にはあまりいない外見的特徴の持ち主同士なのもあって、並んで座っているのが実に自然に映るのだ。




