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志乃

「おはようございますぅ」


 黒ちゃん、白ちゃんと連れ立って、笹蟹(ささがに)屋の表戸を開けると、柔らかな笑顔を浮かべた夕霧さんが立っていた。


 どうやら今日は夕霧さんのローテーション日らしいので、明日はおりょうさんという事になる。


「おはようございます。もしかして待たせちゃいましたか?」


 自分の寝坊で朝食の時間がずれ込んだので、もしかしたら店先で待たせてしまったのかもしれない。


「いいえぇ。いま着いたところですよぉ」


(ああ、和むな……)


 頼華ちゃんにかなり癒やされたとは言え、まだ昨晩の一連の行為のダメージが全て無かった事にはなっていないので、通常営業の夕霧さんのほんわかとした笑顔と語り口調は、実に心を和ませてくれる。


「おはよう夕霧。俺達はこれから戻るところだ」

「おはようございますぅ。あれぇ? 白ちゃんと黒ちゃんだけですかぁ?」


 夕霧さんは、この場に自分と入れ替わりに里へ戻るはずの頼華ちゃんがいないのに気がついたみたいだ。


「おう! 頼華はまだ寝てるから、あたい達だけ先に帰る事にした!」

「まだ寝てるってぇ、頼華様ぁ、どこか具合でもぉ?」

「昨晩、少しありましてね……その辺はお話しますから、先ずは中にどうぞ」


 早朝だが人通りが皆無とは言えないので、昨晩の結界破壊の事を口にする訳には行かないので、夕霧さんを中に入るように促した。


 そもそも夕霧さんも、山道を下ってここまで歩いてきたのだから、いつまでも立ち話をさせるのも気の毒だ。


「そうですねぇ。でもぉ、聞いていた印象よりも大きなお店でぇ、驚きましたぁ」


 笹蟹(ささがに)屋の店構えを見上げて、感心したように夕霧さんが呟いた。


「それでは主殿、俺達は行くぞ」

「御主人、またねー!」

「うん。また里で」


 夕霧さんと入れ替わりに出ていった白ちゃんと黒ちゃんは、何度も振り返って手を振りながら、東洞院(ひがしのとういん)大路を歩み去っていった。



「主人ー! 安徳天皇って死んじゃったんですかー?」

「うーん。生存説もあるんだけど、入水して亡くなった事になってるねぇ」


 実のところ、安徳天皇が入水する時に所持していた、三種の神器の草薙の剣が、どういうルートを辿って元の世界の現在の皇室に渡ったのかは謎ではある。


「主人ー! なんで義経様って、実のお兄さんに追手を掛けられたんですかー?」

「う、うーん……斬新な作戦を立てたり、一騎当千の人だったらしいけど、ちょっと常識とは違う事をしちゃう人だったから、かな?」


 中世のヨーロッパなどもそうだったのだが、近代以前の戦争や合戦では、色々とお約束があった。


 例えば夜明けに銅鑼を鳴らしてから開戦し、夕暮れに同じ様に銅鑼を鳴らして双方が引き上げるというような感じだ。


 こちらの世界で武人以外の者が戦争に参加しないというのは、この辺のお約束を突き詰めた物なのだろう。


(戦う人は命懸けだけど、庶民にとっては良い制度ではあるよな……そう考えると、頼朝が義経を疎んじたっていうのも、わからなくは無いけど)


 現在のなんでもありの戦争行為、例えば壇ノ浦で非戦闘員の船の漕手を殺してしまうなどの行為を行った義経には、敵味方双方が呆れ返ったと思われる。


 しかし、戦なのに何故義経を責めるのかという家臣が相当数いたようなので、最終的には弟に対する頼朝の疑心暗鬼と保身から、決裂に至ったのでは無いかと考えられる。


「主人ー! これなんですけど!」

「ん? どれどれ……」


 思考に沈んでいる間も無く、子供達から新たな質問が寄せられた。

 

 今のところは質問に答えられているが、日に日に知力が向上していく子供達に対して、自分の知識が追い抜かれてしまう日も遠くは無さそうだ。


「里でも良太さんの教本でみんなお勉強してますけどぉ、驚いちゃうくらいの吸収力ですねぇ」


 真剣に教本を読みながら、次々に質問をしてくる子供達に、夕霧さんが目を丸くしている。


「一人ずつブルムさんに付いて、商売の方の勉強もさせて貰ってるんですけど、そっちの方も凄く飲み込みが早いんですよ」

「ふぇぇぇ……あたしなんかすぐに抜かれちゃいそうですねぇ」


 お姉さんとしての矜持みたいな物の危機を感じているのか、夕霧さんが半泣きな表情をしている。


「うーん……それはどうでしょうね?」

「ほぇ? どういう事ですかぁ?」

「教わった事を完璧に覚えたからといって、それが物事をちゃんと習得した、という事にはなりませんよね?」

「んー? そうなの、かなぁ?」


 まだちょっと説明が足りないようで、夕霧さんは首を傾げている。


「えっと、例えば夕霧さんが覚えた礼儀作法なんかは、先生から合格を申し渡されていても、仕事先では調整が必要ですよね?」

「それはぁ……例えばぁ、鎌倉の源屋敷なんかの場合にはぁ、お世話するのが頭領様と頼華様ではぁ、対応が違いますねぇ」

「要するに、そういう事ですよ。勉強で身に着けた物は、あくまでも実践前の練習でしか無くて、夕霧さんみたいに色々と経験している人に追いつくには、純粋に時間と、同じくらいの経験が必要でしょう」


 知識が豊富なのは役に立つし、無駄になる事は無いのだが、それを活かせるかどうかとなると話が変わってくる。


 夕霧さんの得意な接客や人の世話とかは、知識以外に客や世話をする人の観察の能力なども要求されるのだ。


 尤も夕霧さんの一番の武器は、安心させてくれるような雰囲気と人柄だと思うので、こればっかりは知識を積み重ねても接客の技能を磨いても、どうにもならないかもしれないが……。


「鈴白さん、お客様ですよ」


 あれこれ考えていると、廊下に面した障子を開けて入ってきた、ブルムさんに呼び掛けられた。


「お客様って、俺にですか? あ……」


(さて、どっちかな……)


 京での知り合いは少ないので、心当たりは二人くらいだ。


 二人の内の片方は絶対に合う必要があるのだが、色々と追求されそうなので、出来れば設けた期限いっぱいは会いたくないのだが……。


「綺麗な女性の方ですよ。髪の色からすると、この国の方では無いようですが」

「あー……わかりました。夕霧さん、ちょっと失礼します」


(もう一人の方だったか……)


 心当たりは両方共綺麗な女性なのだが、髪の毛の色の違いでどちらが来たのかはすぐにわかった。


「はいはぁーい。子供達はぁ、あたしが見てますねぇ」


 予想していた二人の内の、当たり障りの無い方だったので、俺は内心で胸を撫で下ろしながら立ち上がると、店の入口の方へ向かった。



「あ。おはようございます、貴方様!」


 陽の光で金髪を輝かせながら、女の子を三人連れた、作務衣姿の白面金毛九尾が軒先に佇んでいた。


「おはようございます。ちゃんと出入り出来たようで、安心しました」


 昨晩、俺が抱えて白面金毛九尾が京に入れる事は確認したのだが、その後にちゃんと眷属達と一緒に出て、更には入って来る事が出来るのかと少しだけ心配していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。


「えっと……お連れの方の二人は見覚えがありますけど、そちらは?」


 白面金毛九尾が連れている女の子の内、一人は俺を京の南の関所まで案内してくれた子で、もう一人は関所から茶屋まで案内してくれた子だ。


(……頼華ちゃんと同じか、少し年上ってくらいかな?)


 もう一人は初めて見る子で、他の二人と比べるとやや年長の、多分だが十二、三歳くらいだと思える。


(なんか容姿と雰囲気がちぐはぐな子だな) 


 長い黒髪をひと纏めにして右の肩から身体の前に流している、整っているが小柄で幼い容姿のその少女は、切れ長のツリ目と笑みを湛える口元が、妙に大人びているように見えた。


「初めまして、では無いのですが。志乃と申します。お見知りおきを」


 明るく朗らかな口調で自己紹介をした志乃という少女は、やはり容姿にそぐわない大人っぽい所作で、丁寧に頭を下げた。


(ん? 初めてじゃ、無い?)


 白面金毛九尾と話をした茶屋でも見かけた覚えは無いし、志乃という名前にも心当たりは無かった。


「あ……もしかして」

「おわかりになりましたか? 昨晩、お助け頂いた狐の一匹でございます」


(って、わかる訳が無いよ!)


 両方の形態を見せてくれた白面金毛九尾や案内をしてくれた子達にしたって、毛色や体格の違いでも無ければ、見分けが付くかは怪しいところなのに、志乃と名乗った狐の(あやかし)の人間形態は初めて見たのだ。


 (エーテル)のパターンは違うのかもしれないので、目を凝らして見ればとも考えたが、それも昨晩の時点で確認していないので無意味だ。


「覚えていらっしゃるかどうかわかりませんが、私は尻尾が二本に分かれていた狐でございます」

「あー……はい。特徴があったので覚えてますよ」


 毛色や体格以外の決定的な身体的特徴の差異を教えてくれたので、志乃と名乗る少女の昨晩の姿をきちんと思い出す事が出来た。


「あの、立ち話もなんですから、宜しければ中にどうぞ。と言っても、俺もこの店の居候なんですけどね」


 昨晩の事はブルムさんも知っているし、今後も付き合いがありそうな相手なので、紹介しておいた方がいいだろう。


「宜しいですか? それではお邪魔させて頂きますね」

「お邪魔致します」

「「……」」


 志乃という少女は白面金毛九尾に続いて言葉を口にしたが、小さな女の子二人は、会釈はしたが相変わらず無言のままだ。


(京の結界の関係とかで喋れないのかと思ってたけど、違うのかな?)


 気になりつつも、白面金毛九尾を始めとする四人の客を、笹蟹(ささがに)屋の中へ迎え入れた。



「どうぞ、粗茶ですが」

「ありがとうございます。頂きます」


 見た目は外国人っぽいが、綺麗な姿勢で正座をしている白面金毛九尾は、ブルムさんが淹れた番茶をおいしそうに飲んだ。


「しかしまぁ、こんなに綺麗なお嬢さん達が、狐の(あやかし)とは……里の子供達や黒殿達で少しは慣れておりますが、俄には信じられませんなぁ」


 里の子供達や黒ちゃん達と過ごしたから、それとも様々な経験からなのか、 狐の(あやかし)という事で驚いてはいるようだが、ブルムさんの表情にも言葉にも、動じたり忌避していたりする感じは見受けられない。


「うふふ。わたくし達は少しだけ長生きしているだけの、ただの狐ですので。そちらにいらっしゃる鈴白様に比べれば、取るに足らない存在でございますわ」

「えー……」


 良くも悪くも、絵物語に出てくるような(あやかし)にこんな風に言われるような存在では決して無いと、自分では思っている。


 多分だが、傍から見た俺は、世にも嫌そうな顔をしている事だろう。


「ううぅ……」

「夕霧さん? どうかしたんですか?」


 同席して貰っている夕霧さんが、白面金毛九尾の方を見ながら、何やら唸っている。


「どうかってぇ……おりょうさんや頼華様にぃ、唯一優位に立てていると思っていたのにぃ……なんですかあの胸はぁっ!」

「ひぃっ!?」

「ちょ、夕霧さん!? お客さんなんだから指差しちゃ駄目ですよ!?」


 余程胸に据えかねたのか、腰を浮かせた涙目の夕霧さんに指を差されて、白面金毛九尾が何事かと小さく悲鳴を上げた。


「はっ!? つ、ついぃ、我を忘れてしまいましたぁ……」


 自分の言動と行動を恥じているのか、夕霧さんは頬を染めて俯いてしまった。


「鈴白さん。お客様もいらっしゃったし、そろそろお昼にしませんか?」


 夕霧さんに助け舟を出すかのように、ブルムさんがそんな事を言い出した。


「そうですね。では……」

「あ、そんな……今日は御礼を言いに伺っただけですのに」

「そうです。私共はお助け頂いた立場ですので、本来は客というのも……」


 ブルムさんと俺の言葉が予想外だったのか、白面金毛九尾と志乃という少女が目に見えて狼狽えた。


 二人の小さな女の子は、保護者の立場の二名がわたわたしているのを、呆然と見ている。


「ははは。そんな遠慮をしないで下さい。それに、鈴白さんお料理はおいしいですよ?」

「そ、それは存じておりますが……」

「そうなのですか?」


 白面金毛九尾の言葉に、志乃という少女が以外そうな表情で俺を見てくる。


「「……」」

「そ、そうなのね」


 小さな女の子二名の無言の訴えに、志乃という少女はとりあえず納得したようだ。


「夕霧さん、ちょっと手伝って貰えますか?」

「あ、はぁい」

「主人! あたしもお手伝いします!」


 夕霧さんと中庭に面した廊下に出ると、勉強中だったお朝ちゃんが顔を出した。


「じゃあ、お朝ちゃんもおいで」

「はいっ!」


 嬉しそうな笑顔のお朝ちゃんは、てててっと走り寄ってきた。


「お朝ちゃぁん。あたしと一緒にお手伝いしましょうねぇ」

「はい♪」


 夕霧さんが差し出した手を取ったお朝ちゃんも一緒に、俺達は厨房へと向かった。



「良太さぁん。お昼は何にするんですかぁ?」

「この頃気温も上がってきましたし、素麺(そうめん)にしようかと思います」

「あぁー、いいですねぇ。冷たくてぇ、あっさりしててぇ」


 夕霧さんは頭の中で、オーソドックスな素麺(そうめん)を想像しているみたいだ。


「いえ。素麺(そうめん)自体は冷やすんですけど、これから作るのはあっさりとはしていないんですよ」

「えぇー? あっさりとしてない素麺(そうめん)ってぇ、想像出来ないんですけどぉ……」


 どうやら素麺(そうめん)に関しては、こっちの世界ではあまり食べ方のバリエーションは無いみたいだ。


 冷やさずに温麺(うーめん)として食べたりとか、精々が出汁の種類を変える程度っぽい。


「口に合わない場合も考えて、普通のつゆも作りますから、試してみて下さい」

「りょ、良太さんがそう言うならぁ……」


(慣れている以外の食べ方をするってのは、意外とハードルは高いよな)


 関東と関西でもおいしいと思うポイントが違うので、夕霧さんに無理強いをするつもりはこれっぽっちも無い。

 

 それでも、なんとなく腑に落ちていない様子ではあるが、夕霧さんは試しに食べてはくれるみたいだ。


「じゃあ夕霧さんには、素麺(そうめん)の茹で上げと水洗いまでをお願いしちゃっていいですか?」

「はぁい。あたしにお任せですよぉ」


 いつものほんわかした笑顔で、夕霧さんが腕まくりをする。


「お朝ちゃんには、こっちの鍋でつゆを作るのを手伝って貰おうかな」

「は、はいっ!」


 素麺(そうめん)を食べる際に、つゆは味を左右する重要な位置づけとわかっているのか、お朝ちゃんの表情には緊張が漲っている。


「じゃあ、昆布を入れて水から煮立てるから、鍋の中から出てくる泡が大きくなってきたら教えてくれるかな」

「は、はいっ」


 俺の言う事に頷いたお朝ちゃんは、まだ水の状態の鍋を、真剣な表情でじーっと覗き込んでいる。


「……」


 真剣なお朝ちゃんには悪いと思いながらも、その微笑ましい姿に苦笑しながら、俺は具と薬味になる食材を取り出して、手早く切り始めた。


「あ……主人! 泡が大きくなってきました!」


 具材を切り終わったくらいのタイミングで、お朝ちゃんから報告が来た。


「うん。それじゃお朝ちゃん、この鉢に入ってる鰹節を、鍋に入れて」


 水から煮ていた昆布を箸で取り出しながら、お朝ちゃんに指示を出した。


「えっ!? こ、これ全部ですか?」


 鉢には削った鰹節が山盛りになっていて、その量にお朝ちゃんは驚いている。


「これくらい入れないと、つゆの強い風味が出ないんだ。さあ、入れちゃって」

「は、はいっ! えいっ!」


 一声気合を入れたお朝ちゃんは、小さな手で持った鉢を逆さまにして、大量の鰹節を鍋に投入した。


「よし。じゃあ火から下ろして濾そうね」

「えっ!? も、もういいんですか?」

「お蕎麦屋さんなんかだと、厚く削った鰹節を長時間煮込むんだけど、家庭料理ならこれで十分だよ」


 薄削りの鰹節を用いて長時間煮込まないのは、つゆでは無く煮物や吸い物用の技法なのだが、コクや深みには欠けるが風味は十分に出る。


 とは言え、人数が多いので使う鰹節の量も増えていて、家庭料理にしては贅沢な作り方をしているのは確かだ。


「それじゃあ、出来た出汁に醤油と酒と味醂と砂糖を入れて」

「はいっ!」


 予め器に用意しておいた調味料をお朝ちゃんに渡し、次々と鍋に投入していく。


「……うん。溶け合ったな。じゃあ少し分けて、こっちは冷まして」


 オーソドックスな配合のつゆを別の鍋に分け、鍋ごと炎の能力の温度調整で冷やしておく。


「こっちはいいな……じゃあこっちの鍋には、砂糖を追加で入れて、薄切りにした生姜と、これも薄切りにした猪の肉を」

「えぇー! い、猪のお肉とぉ、素麺(そうめん)なんですかぁ!?」


(……まあ驚くよな)


 まだこっちの世界ではポピュラーとは言い難い肉と、素麺(そうめん)という組み合わせに、夕霧さんが面食らっている。


「お朝ちゃんは、このまま鍋を見ててね」

「はい! あの、主人は?」

「うん。つゆに少し具の追加をね」


 別の鍋を熱して多めの胡麻油を流し入れ、薄くスライスした茄子を炒める。


「えぇー……お肉だけじゃ無くってぇ、胡麻油で炒めたお茄子までぇ……」


 暑い日に、冷たくあっさり食べる素麺(そうめん)の食べ方を根底から覆すような俺の調理に、夕霧さんの表情がどんどん曇っていく。


 それでも適度に茹で上げて、水洗いをして素麺を引き締めるところまでを、夕霧さんはきっちりやってくれた。


「ちゃんとこっちに、普通のつゆも用意してあるから安心して下さい」

「そうなんですけどぉ……でも良太さんの作る物はぁ、おいしいんですよねぇ」


 胡麻油で炒めた茄子をつゆに入れるのを、あからさまに訝しい表情で見る夕霧さんに苦笑する。


「それじゃ夕霧さんは器類と薬味を。お朝ちゃんにはつゆの鍋を運んで貰おうかな」

「はぁい」

「はいっ!」


 夕霧さんは器と薬味なんかを載せた盆を、お朝ちゃんは冷たいつゆの入っている鍋を任せた。


「最後の仕上げ、っと……」


 夕霧さんが水で洗って締めてあった素麺(そうめん)に、俺は最後の仕上げを施してから、熱いつゆの入った鍋と一緒に運び出した。

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