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方策

「さっぱりしたー♪」

「うむ。いい風呂だった」

「そうだね……」


 結局、白ちゃんとお結ちゃんがどうしても俺を洗うって聞かないので、思いの外長い入浴時間になってしまった。


 居間に使われている部屋では、ブルムさんと子供達が『(クアルト)』に興じていた。


「長い風呂でしたね。のぼせていないか心配でしたが」

「まあ、ちょっと……」


 俺の言葉とお結ちゃんと白ちゃんの様子から何があったのかを察したブルムさんは、肩を竦めながら苦笑している。


「それはそうとブルムさん、陽華(ようか)ちゃんの勉強の方はどうでしたか?」


 ブルムさんが優勢っぽいプレイを眺めながら、俺は腰を下ろした。


 すぐ傍に白ちゃんも座って、お結ちゃんの髪の毛を梳いてあげている。


「おお。その事ですが、いや驚きましたよ! っと、(フィーア)

「と、言いますと?」


 あっさりとクアルトの勝負をつけた、やや興奮気味のブルムさんが、プレイしている場から離れて俺の近くに来て座った。


陽華(ようか)ちゃんは教えれば教えるだけ覚えましてね。取引相手の名前さえ読めるようになれば、即戦力です」

「そんなにですか……」


(予想通りどころか、予想以上だったな……教える方針を変更したのは、どうやら間違ってなかったみたいだ)


 とにかく読み仮名付きの本を読ませて、文字を覚えるという方向にシフトしたのは正解だったようだ。


「教本は出来る範囲で更新を早めますので、字は徐々に覚えていくと思いますけど、ブルムさんの方でも取引先の店名や人の名前なんかを、教えてあげて下さい」

「心得ております。しかし……」

「何か気になるところでも?」


 ブルムさんが少し寂し気な表情をしたのが気になった。


「いえね。出来の良い相手に教えるのは、こちらも楽しくあるのですが、あまりにも出来が良過ぎると、今度は劣等感も抱いてしまいましてね」

「あー……」


 俺自身も、学校の勉強の成績が決して良いと言える部類では無かったので、このブルムさんの気持は凄くわかる。


「でも、ブルムさんの知っている商売というのは、記帳の仕方を教われば終わりという物では無いですよね?」

「それはまあ……何よりも信用と、多少のハッタリも必要ですからなぁ」

「あはは。その辺は教わったとしても、覚えられるかわかりませんね」


 向き不向きというのもあるが、商売をする上で数字に強いというのは武器にはなっても、それだけでやっていける程甘い物でも無いというのは俺にもわかる。


「とにかく、明日以降も指導するのが楽しみになってきました」

「俺よりも優秀そうだなぁ」


 こっちの世界に来る際に再構築された身体は、記憶力は多少優秀になっているが、専門的な用語や計算のやり方が頻出する帳簿の付け方は、説明を受けただけで理解出来る自信が無い。


「主殿と同じ事を、俺も思っていたぞ」

「♪」


 俺と同じ考えらしい白ちゃんに髪を梳かれ終わっても、お結ちゃんはゲームに参加せずにピッタリと寄り添っている。


「ところで鈴白さん。日中に席を外していたようでしたが、どちらに? いえ、行動を咎めているとかでは無いのですが」

「ああ、その事ですが……ブルムさんにも無関係という事では無いので、お話しておきましょう」

「ほう?」


 俺の言葉に興味を惹かれたブルムさんが、少し身を乗り出して来た。



「ふうむ……京がそんな事になっていたとは。確かに関所を通る際に、変な感じはしましたが」


 行商人ではあるが、それだけでは世界を渡り歩く事は出来ないので、ブルムさんも江戸のドランさんと同じように、腕も覚えはあるようだ。


「現実問題として、なんとか出来そうなんですか?」

「それは……白ちゃん、どうなの?」

「そういえば洗われたり洗ったりで、その話が途中だったな」

「♪」


 膝の上のお結ちゃんのほっぺたを突っついたりして相手をしながら、白ちゃんが思い出してくれた。


「ほう? 白殿には、何か方策が?」

「方策と言えるのかどうか……要するに、ほんの僅かでも結界の線を切り離してしまえばいいのだ」

「それは巴で? でも街中で振り回すのはなぁ……」


 巴による呪術的な結界の破壊は俺も考えたが、事情を知らない人間がその姿を見たら、テロだと思ってしまうだろう。


「まあ聞け。別に巴の届く場所で無くとも、外套を羽織って路地の影辺りからやればいいのではないか?」

「それじゃ届かない……いや、待てよ?」

「うむ。頼華に聞いたのだが、里で木を伐採するのに、薄緑の刃を(エーテル)で延長したそうではないか」


(成る程……確かに往来の壁の前で巴を振り回せば目立つけど、物陰から(エーテル)で刀身を伸ばしせば届く、か)


 答えがわかってみれば、届かないポイントに仕掛けを投げ込む為に長い釣り竿を使うのと同じ事だった。


「うーん……でも、そう上手い具合に行くかどうかも考えて、計画しないとダメそうな気がするなぁ」

「このやり方に、穴があるか?」


 白ちゃんなりに自信がある方法だったようで、お結ちゃんを構う手を止めて俺に訊いてきた。


「うん……人目は気にしないで済むかもしれないけど、それと立ち位置から壁の間に人が入らないかどうかっていうのは別の話なんだよね」

「「あー……」」

「?」


 状況を想像したのか、白ちゃんとブルムさんが揃って声を上げた。


 白ちゃんの膝の上のお結ちゃんは、何が起きたのかわかっていない様子で俺達を見ている。


「万全を期すなら、人に見られない、斬撃の線上、これは壁の向こう側というのも含んで、安全が確保されている、っていうのが理想だなぁ」


 結界の線が切れればいいので、それ程刀身を延長する必要は無いのだが、京を護っているくらいの強度なので、(エーテル)自体は相当に注ぎ込む必要があると考えている。


 その場合に、自分と壁までの間は勿論、壁の向こう側に人がいたりすると、相当に不味い事になってしまう。


「……やっぱり、沖田様に頼んで許可を得た上で、人払いとかをするし無いのかな」


 説明をするにしてもかなり面倒な上に信じて貰えるのかが怪しいので、出来ればこっそりと済ませてしまいたいというのが本音ではある。


「その安全に関しての事なのだが」

「ん? なんかいい案がある?」

「♪」


 俺達の会話の内容がわからなくて、退屈そうにしていたお結ちゃんを肩車した白ちゃんには、何かアイディアがあるらしい。


「京の街中だから目立つというのなら、壁の外からやってみてはどうなのだ?」

「あっ! そ、そうかっ!」


 壁の外側も全く人通りや人の目が無いとは言えないが、内側と比べれば確実に少ないはずだ。


(少なくとも外ならば、タイミング次第では人の目が無くなる事はありそうだよな)


 仮に夜間等ならば、壁の外側を行き来する人間は殆どいないだろう。


「内側の安全を確保しながら、外から……うん。上手く行きそうだね! 白ちゃん、ありがとう!」

「主殿の役に立ったのなら、何よりだ」


 少し頬を染めて微笑んだ白ちゃんは、お結ちゃんを肩から下ろして抱き直した。


「♪」


 母親に甘えるように、お結ちゃんは白ちゃんの胸に嬉しそうに顔を埋めている。


「そうなると……安全確保用にもう少し人数が欲しいな」


 実行要員の俺と、見張り役の白ちゃんで最低限は足りているが、不慮の事態が発生した場合に備えて、もう何人か必要だと感じる。


「では黒を呼んではどうだ? それと、依頼主である白面金毛九尾は使えないのか?」

「ああ、それもそうか」


 依頼主だから使ってはいけないという事は無いし、壁の中には入れないにしても、外での見張りとかなら協力を要請出来るかもしれない。


「黒ちゃんと……念の為に頼華ちゃんにもいて欲しいかな」


 抜群の機動力を発揮する頼華ちゃんは、いざという時を考えて傍にいて欲しい。


 逆におりょうさんは、拠点防御の壁役としてはこれ以上無いというくらいに安定するが、今回のようなシチュエーションには不向きだ。


「明日は頼華が来る番なので、その点は大丈夫だ」

「そうなの? となると、黒ちゃんを呼べばいいだけか。そうだな……里で夕食を済ませたくらいに、黒ちゃんと一緒にここに来てくれればいいよ。白ちゃんには何度も里と行き来をさせて悪いんだけど」


 頼華ちゃんと入れ替わりに里に帰る白ちゃんと、順番じゃない黒ちゃんにも出向いて貰うのは申し訳ない気がするが、もしもの備えとしては必要だ。 


「そんな事くらいで遠慮をするな。俺と主殿の仲ではないか」

「ああ、うん……」


 クールビューティーな白ちゃんらしからぬ、と言っては失礼かもしれないが、妙に慈愛の込もった笑顔を俺に向けてくる。


 腕の中にお結ちゃんを抱いているのが母性を感じさせるので、余計にそんな風に思ってしまう。


「……なんにせよ、明日の話だね」

「うむ。ところで主殿。白面金毛九尾の元へ向かうのは日中か?」

「そのつもりだけど、何かある?」

「ふむ……では俺も同行しよう」

「そりゃ構わないけど、里には帰らないの?」


 里の防備はほぼ万全と言えるが、監督役の年長者があんまりいなくなると、一人当たりの負担が増えてしまうのが心配だった。


(里の子供達は聞き分けはいいんだけど、それでも一人で十人とかに目を行き届かせるのはなぁ)


 (エーテル)の使い方にも長けてきているおりょうさんがいれば、ちょっとした怪我や病気程度は気にしないで大丈夫だと思うが、白ちゃんと黒ちゃんに加えて頼華ちゃんまで京に来るとなると、緊急事態が発生した場合に、界渡りで駆けつけられる者が里にいなくなってしまうのだ。


 些か考え過ぎな上に過保護だと言われてしまそうだが、この辺は性分なので仕方が無い。


「前言を翻す事になってしまうが、朝の内に里に戻って、黒に夜来るように伝えたら帰ってくる」

「……白ちゃんには面倒を掛けるけど、そうして貰おうかな」


 白面金毛九尾のところに同行すると言うので、てっきり白ちゃんはずっとこっちにいて、夜になってから黒ちゃんを呼びに行くのかと思ったら、そうでは無いようだ。


 行ったり来たりで負担になってしまうだろうが、これだと里に白ちゃんも黒ちゃんも不在なのは数時間程度になるので、あまり気苦労もしないで済みそうだ。


「なぁに、この程度は何でも無い。では、今度こそ寝るとするか」

「そうだね……お結ちゃんは、もう寝ちゃってるみたいだけど」

「む? もぞもぞしなくなったと思ったら、眠っていたのか」


 お結ちゃんは白ちゃんに身体を寄せた格好で眠っているが、右の腕は力無く垂れ下がっている。


「ありゃ。良く見れば他の子達も……」

「む。話が長引いてしまったからな……」


 クアルトやジェンガに興じていた子供達だが、声が聞こえなくなったと思ったら、畳や遊技盤の上に力尽きたように突っ伏していた。


「おやおや。これは大変だ」

「ブルムさん、俺が布団を敷きますから、遊具の片付けをお願いします。白ちゃんは子供達を一時的に端に寄せて」


 さっさと布団を敷いて子供達を寝かしてやりたいが、部屋の中央に遊具が散乱しているし、その周辺に子供達が寝っ転がっているので、ポジションの変更をしないとどうにもならない。


「はいはい」

「承知した」


 家主であるブルムさんを使ったり、白ちゃんからお結ちゃんを離すのは申し訳ない気がするが、文句も言わずに協力してくれる二人に感謝して、押し入れを何往復もして手早く布団を敷いた。



「それでは私はこれで。おやすみなさい」

「おやすみなさい、ブルムさん」

「おやすみ、ブルム殿」


 大人用布団二組に子供達五人を並べて寝かせ終わったので、ブルムさんは自室に戻っていった。


「じゃあ、俺達も寝ようか」

「うむ……あ、主殿っ!」

「ん? どうかした?」


 ドラウプニールを操作して、貫頭衣型の寝間着に着替えた俺に、薄っすらと頬を染めた白ちゃんが、妙に上ずった声で話し掛けてきた。


「その、だな。こいつらは先に寝てしまった事だし……い、一緒に寝てもいいだろうか?」

「あー……まあ、いいよ」


 昨日は黒ちゃんと寝たいという子の意見を尊重して、俺も残った子達の面倒を見たのだが、今夜は既に寝入ってしまっているので、特に気にする必要も無いだろう。


「明日は白ちゃんに面倒を掛けるから、先に労っておくよ」

「労うなどと……いや、そうだな。労って貰うとするか」


 いつもの調子で俺に気にしないように言おうといていたようだが、それだと俺が一緒に寝ないと思ったのか、白ちゃんはすぐに言い直した。


「それじゃ寝るよ?」

「う、うむ……」


 子供達の分とは別に布団を二組敷いておいたのだが、仕舞うのは面倒なのでそのままにして、子供達の寝ている間に一組布団を挟んで、白ちゃんと一緒の寝床に入った。


「もし(エーテル)を消耗しているようだったら、俺から補充しても構わないからね?」

「なんとも大盤振る舞いだな」

「別に、この程度ならいつでも……」


 元々、白ちゃんと黒ちゃんは人間形態では(エーテル)の消耗が激しいと聞いているので、明日に万全の状態で臨む為にも、ネガティブな部分があるのなら消しておきたい。


 最近は人間形態にも慣れて、大分燃費も向上したようだし、いざとなったら無限に(エーテル)を供給してくれるドラウプニールもあるのだが、使用すると目立ってしまう恐れもある。


「話してても仕方が無いし、寝るよ?」

「そうだな……おやすみ、主殿」

「うん。おやすみ、白ちゃん」


(……今夜は、変な夢を見ませんように)


 昨夜の狐の夢は別に悪夢という訳でも無いのだが、こっちの世界に来て夢を見ると、大概の場合は良くない事の予知のような内容なので、出来れば心穏やかに眠りたいので、そんな事を考えながら目を閉じた。



「……」


(で、こうなるのか……自分でフラグ立てちゃったかな?)


 明らかに現実では無い夢の中の世界では、夜の京の街を見下ろしている、憤怒の形相の巨大な二人の男性の姿があった。


(こっちは……百鬼夜行か)


 地上の京の通りには、道を埋め尽くすよう数の異形の者達が闊歩している。


(良くない方向に、備えているのが役に立っちゃいそうだな……)


 夢を見るだけでもうんざり気味なのに、念の為にと考えていたあれこれが、もしかしたら不足なんじゃないかと思えてきた。


(いっそ、寝直しちゃおうかな……)


 ここで見ている風景がオフになったら、目が覚めてしまうのだが、いっその事二度寝を決め込んでしまおうかと思ったくらいには、酷い夢の内容だ。



「……朝か」


 二度寝してしまおうかとも思ったが、これからの出来事がそれ程変化するとも思えないし、何よりも子供達と白ちゃんとブルムさんがお腹を減らしてしまう。


「……」


 俺に寄り添ったまま眠っている白ちゃんや、子供達を起こさないように気をつけながら、寝床と部屋をそっと抜け出した。



「昨日は出来なかったからな……」


 御飯と味噌汁、惣菜の用意をしてから、昨日は騒がしくなって取りやめになってしまった馬歩の姿勢を取る。


(消耗は感じてないけど、念には念をだな……)


 一日分の鍛錬と(エーテル)の蓄積がどれくらいの効果があるかは怪しいが、とりあえず燃料タンクは満タンにしておいた方が安心感はある。


 俺はなるべく雑念を払うようにしながら姿勢を維持し、規則正しい呼吸を続ける。


「ある……」


 俺達が寝ていた部屋の障子が開いて、白ちゃんが顔を出した。


 俺の姿を確認して主殿と、いつものように声を掛けようとしたみたいだが、そのまま言葉を飲み込んで中庭に出てくると、隣に並んで馬歩の姿勢を取った。


(この辺は、個性が出るよなぁ)


 昨日の、最終的にはブルムさんの安眠を妨げる結果に発展した黒ちゃんの行動と、今朝の白ちゃんの行動を比較して、思わず苦笑する。


「あ! おは……」

「……」


 白ちゃんと並んで馬歩を続けていると、暫くして障子を開けて大地くんが顔を見せた。


 大地くんが元気良く挨拶をしようとしたが、白ちゃんが無言で自分の唇の前に人差し指を立てると、意味を察して頷いた。


「あ! おは……」

「しーっ……」


 暫くの間、俺と白ちゃんを見つめていた大地くんの背後から、目を覚ましたお結ちゃん達も出て来て朝の挨拶をしようとしたが、今度は大地くんが声を出しそうになっていたみんなを制してくれた。


「「「……」」」


 やがて、見ているだけなのに飽きたのか、お互いに目配せをした大地くん達は中庭に出てくると、俺と白ちゃんを挟むような配置で馬歩の構えを取った。


(さて、どれくらい保つかな?)


 既に自分は十分以上。白ちゃんも五分以上は姿勢を保っているが、子供達がどれくらい維持出来るか、鍛錬の成果が楽しみだ。


 ただ、鍛錬をしていると言っても幼児なので、過大な期待をするつもりは無い。


「……ーっ! も、もう駄目です」

「あ、あたしも……」

「脚痛い……」


 お糸ちゃんが地面に尻餅をつくのと同時に、お結ちゃんと陽華(ようか)ちゃんも後を追うように座り込んでしまった。


「お前ら、だらしないぞ!」

「そうだそうだ! 主人の前で恥ずかしくないのか!?」


 (こう)くんと大地くんが、先にリタイアした女の子達を責めるが、その二人にしたって膝がガクガク震えている。


(そろそろ限界っぽいな)


「それじゃ今朝は、これくらいにしておこうか」

「うむ」

「「……はぁー」」


 なんとか最後まで付いてきていたが、(こう)くんも大地くんも俺と白ちゃんに続いて構えを解くと、大きく息をついて心底ホッとした表情をしている。


(こう)くんも大地くんも良く付いてこれたけど、慣れるまでは膝が震え始めたら終わりにしていいんだからね?」


 馬歩は足腰の鍛錬や(エーテル)の増加や純化に効果的ではあるが、何よりも長期に渡って続けるのが寛容なので、無理は禁物だ。


「はい! でも、少しでも主人の役に立てるように、鍛えたいので!」

「俺もです!」

「気持ちは嬉しいんだけどね……」


 こういう気持ちは良い方向に持っていければ上達に繋がるのだが、強過ぎると無理をしてしまうので注意が必要だ。


「お前ら、主殿は俺よりも遥かな高みにいるのだから、一足飛びに追いつけるなどと考えずに、言われたとおりに毎日伸ばしていけばいいんだぞ」

「そ、そうでした!」

「白姐様よりも、遥かに……」

「「「……」」」

「あの、そんなに大した事無いからね?」


 無理をさせない為に、少し脅しの意味で言っているのはわかるのだが、俺と白ちゃんの戦闘力に、それ程の差があるとは思えない。多分。



「主殿。俺は朝食を終えたら、早速里へ行ってくる」

「ん? 頼華ちゃんが来てからじゃないの?」


 御飯と大根の味噌汁、出汁巻き卵と焼いた鰯という朝食の席で、白ちゃんが言い出した。


「うむ。出来るだけ早く戻るので、一緒に白面金毛九尾の元へ向かおう」

「それでも、昼までに戻ってくれればいいよ?」


 夜になって色々と動くつもりではあるが、午前中は子供達の勉強もあるし、俺達の都合で食事のペースを乱す気も無い。


「俺は本来は里に戻ったら、そのままこっちに帰ってこないつもりだったので、もしかしたら何か仕事を用意されているかもしれないしな」

「それもそうか」


 おりょうさん、頼華ちゃん、夕霧さんには子供達に様々な事を教えて貰っているし、その上で食事の支度などもある。


 俺がこっちに来ている事の影響で、白ちゃんや黒ちゃんに雑用や力仕事なんかが割り当てられるというのは考えられる。


「まあ、白面金毛九尾のところに行くのは、早くても昼食後だから、里で何かあるようなら、済ませてからでも十分だと思うよ」

「うむ。それでも、なるべく早くは戻るつもりだ」

「あ、でも、黒ちゃんにもお願いしたけど、戻る前に食材とかを適当に買って行ってくれるかな」

「承知した」


 箸を下ろした白ちゃんは、俺から銀貨を受け取った。

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