狐
「ところでブルムさん」
四に関する件が一段落したところで、話を切り替えた。
「なんでしょうか?」
「明日以降なんですが、こちらに来ている子供達にも、色々と教えようかと思いまして、出来ればブルムさんにもお手伝い頂ければと」
「えっ!? でも、私に教えられるのは、商売に関する事だけですよ?」
里では、おりょうさん、頼華ちゃん、夕霧さんが先生になって、それぞれの得意分野を教える事になっているのはブルムさんも知っているが、京に来ている子供達は遊ばせるだけかと思っていたのか、自分にお鉢が回ってくるとは思っていなかったようだ。
「その、商売に関する事を、教えてあげて欲しいんですよ」
「商売を、ですか?」
「ええ。でも、専門的な事は無理でしょうから、先ずは計算くらいから」
商売というのは人柄なども大事だが、何よりも重要なのは数字をきっちり管理する事だ。
その数字を管理する上で、正確な計算というのが要求される。
「とりあえずは俺が簡単な計算を教えますので、その後はブルムさんの方で、商売に必要な内容を教えて頂ければと」
仕入れ値から利益を算出する際に、何割という概念が出てくるが、せいぜいが算盤くらいしか無いこっちの世界では、これも頭の中で計算する必要が出てくる。
この何割という概念は、四則演算を覚えただけでは理解出来ないかもしれないので、実際の商売の数字の中で教えた方が、子供達にもわかり易いのではないかと思ったので、ブルムさんに習えないかと考えたのだ。
「先ずは俺が帳簿の付け方をブルムさんに教えて貰って、それを子供達に……」
俺は素人だし、簿記の専門用語などもあるのだろうとは思うが、それでも多少は手伝いながら、ブルムさんから習い覚える事は出来るだろう。
「ふむ……この店では商談にそれ程時間は取られないでしょうから、私が直接、子供達に指導しますよ」
「宜しいんですか?」
自分から話を振っておいてなんだが、店主であるブルムさんは開店早々という事もあって多忙だろうから、当然断られると思っていたので、俺が教わる方向で考えていた。
「ただ、店の奥でみんなの前でという訳には参りませんね。一人ずつ、帳場の私の隣でという事では?」
「ブルムさんの御迷惑で無ければ、それでお願いします」
基本的に来客や外出以外で、店主のブルムさんが店頭にいないのは良くないという事なのだろう。
「それと子供達は、午後は自由にさせようと思っていますが、午前中は勉強という形方針で考えていましたが」
「ふむふむ」
「ですが、午後は一人は日替わりでブルムさんに個人指導を受けて、それ以外の子は自由、という形にしましょう」
初日の今日の午後は遊んでしまったので、五人の子供達のうちの一人は免除になってしまうし、週末は夕方から里へ移動するのだが、この辺は仕方が無いだろう。
「ちょっと子供達には、気の毒な気もしますが……」
「でも、必要な事でもありますので……」
外見年齢的に里の子供達は、勉強などを始めるには早そうに見えるのだが、肉体的にも精神的にも早熟傾向にあるので、無理のない範囲で色々と教えていきたいと考えている。
(いつまでも、俺達で面倒を見られるとは限らないからなぁ……)
決して、子供達を見捨てたりとかする事を考えている訳では無いが、いつまでも俺達に依存する関係を続けるのは良くない。
「という訳で、明日から午前中は勉強するし、そろそろ終わりにして寝ようか」
「「「はーい!」」」
「えー……」
「……黒ちゃんはお姉さんなんだから」
子供達は素直に返事をしたのに、黒ちゃんだけが不満そうな顔をしている。
「黒ちゃん、あんまり我儘を言うのなら……」
「っ! わ、わかったよ! 皆の者! 早く片付けて寝る準備だ!」
「「「はいっ!」」」
黒ちゃんの号令一下、子供達は四のセットを部屋の端にひと纏めにして、手分けして布団を敷き始めた。
「まったく……」
「くくく……」
俺とブルムさんは苦笑しながら、いそいそと動き回る黒ちゃんと子供達を見守った。
「それでは、良い夢を」
「「「おやすみなさい」」」
別室で休むブルムさんが夜の挨拶をして出ていくのを見送ってから、俺達は寝間着に着替えた。
「ところで御主人」
「ん?」
黒ちゃんもすっかり気に入っている、貫頭衣風の寝間着の格好になって俺に話し掛けてきた。
「御主人と一緒に寝ていい?」
「いい、けど……」
「「「……」」」
子供達から羨望の込もった眼差しで見られているのを自覚するが、黒ちゃんに向かって異議を申し出るような事はして来ない。
(上下関係が出来上がってるんだなぁ……)
子供達が姐さんや姐様と呼ぶのは敬称というだけでは無く、絶対に超えられない壁という意味も持っているようだ。
「俺は構わないんだけど……黒ちゃんと一緒に寝たい子もいるんじゃないの?」
「うっ……そ、そうなのか?」
「「「……」」」
黒ちゃんの様子を伺いながらの、恐る恐るという感じではあるが、子供達全員が頷いている。
「むぅー……はぁ。仕方が無いなぁ」
溜め息混じりに、黒ちゃんが呟いた。
(成る程……さすがの黒ちゃんも、慕ってくる子達を粗末には扱えないのか)
どうやら黒ちゃんにとっては自分が甘えるよりは、子供達に甘えさせる方が優先度が高いらしい。
「それじゃ大地と陽華、来い!」
「「はいっ!」」
黒ちゃんに呼ばれて、大地くんと陽華ちゃんが、枕を抱えて走り寄る。
「それじゃ、劫くんとお朝ちゃんとお結ちゃんは、俺と寝ようか」
「「「はーい!」」」
大地くん達と同じように、三人が俺も許に駆け寄ってきた。
「とはいえ、どういう配置で寝るかな……」
二人ならば両サイドに寝てもらえばいいのだが、一人だけポジション的に不公平になってしまう。
(俺の上に寝かすって訳にもいかないよな……)
子供達は小柄だし軽いので、俺自身の負担はそんなに無いと思うが、布団としての寝心地は保証してあげられない。
「あたしは、お布団の中で寝ます!」
「中って……そういう事!?」
言うが早いか、枕を脚元に置いたお朝ちゃんは、寝た時に俺の膝くらいの位置になる場所に陣取った。
俺の隣に寝る子の脚元で寝る形になるけど、背が低いので蹴られてしまったりする心配は無さそうだが……。
「あの、中で寝ると暑いんじゃないのかな?」
「大丈夫です!」
「そ、そう?」
俺には罰ゲームのように思えるのだが、当のお朝ちゃん自身は満面の笑顔だ。
(まあ、本人が良さそうだから、いいのかな)
「それじゃ劫くんとお結ちゃんもおいで」
「「はーい!」」
ポジションの問題は解決したみたいなので、劫くんとお結ちゃんを両サイドに寝かせてから、お朝ちゃんが少し気になるが、俺も横になって掛け布団を被った。
すると、劫くんとお結ちゃんがピタッと身体を寄せて来たのと同時に、布団の中のお朝ちゃんが膝の辺りに抱きついてきたのを感じた。
「……」
(これだと寝返りも打てないけど……ま、いいか)
子供達を潰してしまったりしないようにと考えながら、俺は意識をオフにした。
「これは……夢か」
明るくも暗くもない空間に、唐突に自分が立ち尽くしているのを自覚した。
寝る前の室内の風景と明らかに違うし、黒ちゃんや子供達の姿も見えないので、これまでに何度か見ている明晰夢というやつだろう。
(となるとまた、何かの予知かお告げかな?)
これまでに見た明晰夢は、白ちゃんが鎌倉に悪影響を及ぼしているのを警告してくれたり、神仏との出会いを仄めかしたりと、予兆めいた物だった。
「……ん? 狐、か?」
実際に目にした事は無いのだが、知識として知っているフォルムが犬では無い動物、狐だと認識させた。
(でも狐って、こんな色だったっけ?)
こんがり焼けた肉なんかを狐色と呼ぶが、目の前にいる狐はもっと白っぽい体色をしている。
(それにしても狐ねぇ……妖狐か、それともお稲荷様かな?)
里の周辺の山の中で狐と出会ったりはしていないので、今のところは夢の内容に全く心当たりが無いのだが、それはこれまでの明晰夢でもそうだった。
(まあ、特に恨みを買うような事はしてないと思うけど……ん?)
そんな事を考えていると眼の前の狐は、頷いたのか、それとも何かの礼なのかはわからないが、こっくりと頭を下げながら、何やら手招きするように片方の前足を上げて動かしている。
「……やっぱり、夢か」
妙な夢を見た以外は、特に何事も無く一夜が過ぎて、夜が明けかけている気配を感じて目が覚めた。
(……あまり考えても仕方が無いな。何か用があるのなら、勝手に向こうから来るだろう)
特に狐に対して思い当たる事は無いので、こちらから積極的に動いたりとかは考えないで、笹蟹屋や子供達の面倒を見る事を考えて、普段通りに生活していればいいだろう。
(これが狸だったら、幾らかは思い浮かぶんだけど……)
伊勢から京までの道中で、信楽焼の狸に似ていると言われて、黒ちゃんがみんなから散々からかわれたのを思い出して苦笑した。
その黒ちゃんは、掛け布団から少しだけ顔が見える大地くんと陽華ちゃんにピッタリと寄り添われて、穏やかな顔で眠っている。
「……」
俺の両サイドでは劫くんとお結ちゃんが安らかな寝息を立て、膝の辺りにはお朝ちゃんと思われる温もりを感じる。
劫くんとお結ちゃんに服の裾を掴まれていたが、軽く引っ張ると手が離れた。
脚の方のお朝ちゃんも、起こさないように気をつけながら手を離させ、俺が寝ていた場所に寝直させてから、そっと部屋を抜け出した。
夜は明けつつあるがまだ薄暗い廊下から、足音を忍ばせながら中庭に出た。
「ふう……さて、と」
井戸で水を汲んで顔を洗ってから、最近は忙しさにかまけてサボりがちになっていた基礎の鍛錬、両手を前に出して膝を曲げた馬歩の姿勢をとった。
朝の清々しい空気の中で呼吸を整えていると、意識が澄み渡って全身に気が漲っていくのを感じる。
「御主人おはよう!」
「「おはようございます……」」
馬歩を続けていると、障子を開けて黒ちゃんが顔を出した。
黒ちゃんの脚元には、眠そうに目を擦っている、大地くんと陽華ちゃんの姿も見える。
「おはよう。みんな早起きだね」
顔を洗って馬歩を初めて数分経過して、ようやく空が明るくなってきたのだから、黒ちゃん達は十分に早起きの範疇だ。
「先に起きてる御主人に言われてもなぁ……ねえねえ。あたいも一緒にやっていい?」
「いいけど、顔を洗ってからね」
「おう!」
(本人がやりたがってるんだから、別にいいか……)
黒ちゃんに洗顔の必要があるとは思えないが、子供達の手本になるようにという事でするように言ったが、馬歩に関しても鍛錬や気の強化に効果があるのかどうかは疑問だ。
「「主人ー!」」
「ん? どうかした?」
顔を洗った大地くんと陽華ちゃんが話し掛けてきたので、馬歩の姿勢を解いて向き直った。
「俺達も一緒にやっていいですか?」
「勿論いいよ。じゃあ、やって御覧」
「「はい!」」
「二人共、まだ朝早いから、もう少し静かにね?」
「「はい!」」
「いや、だからね……」
元気がいいのは結構だが、まだ寝ていたらブルムさんにも御近所にも迷惑だ。
「お前らー! 御主人が静かにしろって言ってるだろ!」
「黒ちゃん……」
注意をしてくれるのは感心なのだが、その黒ちゃんの声が大きくては意味が無い。
「ご、ごめんなさい! おのれ、貴様らのお蔭で御主人に……」
「「ひぃっ!」」
「黒ちゃん、凄んじゃダメだってば……」
黒ちゃんに睨まれた大地くんと陽華ちゃんは、馬歩の姿勢を解いて震えながら、お互いに縋るように抱き合っている。
「「ご、ごめんなさいぃ……」」
「ああ、二人共、泣かなくてもいいから……」
慰めようと、涙ぐんだ二人に近づいてしゃがむと、必死の力で俺に抱きついてきた。
「黒ちゃん……」
「うっ……ご、ごめんね、二人共」
俺の隣に来た黒ちゃんもしゃがみながら、自らの非を認めて謝った。
「く、黒姐様……もう怒ってない?」
陽華ちゃんが、まだビクビクと身体を震えさせながらも、黒ちゃんの機嫌を伺うように顔を上げた。
「怒ってないよ。ほら」
「うん……」
黒ちゃんが両手を差し出したので、俺にしがみついていた陽華ちゃんは、少し躊躇した後で腕に中に飛び込んだ。
(確か最近、同じような事があったなぁ……)
里で白ちゃんが聞き分けの悪い紬に対して殺気を放ってしまい、凜華ちゃんを驚かせてしまった事件があったが、この辺は姉妹みたいな間柄の二人なので、見た目に反して黒ちゃんも似た行動をとってしまういう事なのだろうか。
「……おはようございます。朝から騒々しいですな」
廊下に面した障子を開けて、寝間着姿のブルムさんが姿を現した。
「ぶ、ブルムさん!? 申し訳ありません!」
「ご、ごめんね、ブルムのおっちゃん!」
「「「あー! 二人だけずるいー!」」」
眠そうなブルムさんに謝っていると、俺と一緒に寝ていた三人も起き出しててきて、俺に抱きついている大地くんと、黒ちゃんに抱きついている陽華ちゃんを指差した。
結局、朝の鍛錬は、有耶無耶の内に中断となった。
「御免」
「白ちゃん? あ、もうそんな時間か」
朝食を済ませ、笹蟹屋の表戸を開けていると、外套を纏った白ちゃんが店の入口の前に立っていた。
「今日は白ちゃんの番なんだ?」
おりょうさん、頼華ちゃん、黒ちゃん、白ちゃん、夕霧さんの一日交代のローテーションで笹蟹屋に厄介になるという事になったのだが、どういう順番なのかまでは俺は聞いていなかった。
「うむ。とりあえず入って良いか?」
外套を脱ぎながら白ちゃんが訊いてきた。
「どうぞどうぞ。朝御飯は?」
「済ませてきた」
「なら、お茶でも淹れようか」
白ちゃんを伴って、俺も店の中に入った。
「あー! 白姐様、おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」
白ちゃんに名付けられた劫くんが、いち早く存在に気づいて挨拶をすると、他の子達も続いた。
「みんなおはよう。黒、交代だ」
「おう! あ、御主人、里に『四』を持って行ってもいい?」
子供達には『四』、ブルムさんには『フィーア』としか伝わっていないが、黒ちゃんは俺と魂が繋がっているからか、正式名称のクアルトを認識しているようだ。
「ああ、そうだね。一組……いや、新しく作るから、全部持って行ってもいいよ」
「おう!」
試作した三セットくらいのクオリティであれば、新たに作っても時間が掛からないので、黒ちゃんに全部持って行って貰う事にした。
「主殿、『四』とはなんだ?」
「新しく作った遊びの道具だよ。後で白ちゃんにも教えてあげる」
「ほう……しかし主殿は、本当に色々と考えつくものだな」
白ちゃんの表情と声には、感心と呆れの成分が半分ずつ混じっている。
「まあ、必要に迫られて、ね……」
元々、俺はゼロから何かを考えたり作ったりするのは大の苦手で、学校の美術の授業なんかでも、モチーフ自由で絵を描けとか造形をしろと言われると、俺はいつまで経っても手を付けられないタイプだった。
しかし何かきっかけがあると、一気に作り上げたり派生を考えたりというのは得意だったので、今回もブルムさんの意見をヒントに考えついたというのが真相だ。
尤も、ここ最近のゲームのデザインなんかは、他人様の商品化されているアイディアをそのまま流用しているだけなのだが……。
「黒ちゃん。里に帰る前に、その辺のお店で食材とかを買っていってね」
「おう!」
俺が銀貨を数枚渡すと、受け取った黒ちゃんは外套を取り出して羽織った。
「それじゃ帰るね!」
「うん。気をつけてね」
黒ちゃんに関しては、気をつける事も無いとは思うが……そこまで考えて、沖田様がいた事を思い出した。
「おう! でもその前に……むぎゅーっ!」
「黒ちゃん!? 仕方無いなぁ……」
名残を惜しむように、黒ちゃんが俺に抱きついてきた。
「……よぉし! 充填完了!」
「何をなのかな……」
黒ちゃんなら、某宇宙戦艦の艦首にある最終兵器くらい、発射してもおかしくは無さそうだが。
しかし、だとするとその兵器のエネルギー源が、俺だということになってしまう……。
「それじゃ、今度こそ行くね!」
「うん。また里で」
「おう!」
最後に元気良く返事をすると、外套の裾を翻らせながら、黒ちゃんがバタバタと駆け出していった。
「騒がしい奴め……さて主殿、何か俺にやる事はあるか?」
「得には無いんだけど……せっかくだから白ちゃんにも、勉強をして貰おうかな」
「勉強?」
勉強が嫌という事では無さそうだが、俺の申し出が以外だったようで、白ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「そう。それじゃみんな、始めるよ」
「「「はい!」」」
先ずは子供達に読み書きと計算を教えるための授業を、白ちゃんも同席して始めた。
「勉強というのは、こういう事か……」
「そう。白ちゃん達にも、出来るって事を教えてなかった気がしてね」
俺と白ちゃんは、子供達と一緒に蜘蛛の糸で布を織っていた。
これは紙の代わりに、文字を書いたり計算をしたりする為の物だ。
「後で教えるけど、白ちゃんにも炎が使えるようになってるからね」
「そうなのか?」
里でおりょうさんと頼華ちゃんについては、炎や雷だけでは無く、ドラウプニールの使い方なども念入りに教えたのだが、逆に念入り過ぎて、すっかり白ちゃんにも教えた気になっていたのだった。
「うん。俺が認めた相手は、使えるようになるんだって」
当然ながら、これは子供達にも適用出来るのだが、炎や雷は扱いが難しいし、仮に使えるようにしてやっても、まだ保有する気の量が少ないので威力も低いだろうし、すぐにガス欠を起こしてしまうだろう。
「なるんだって、って……まるで他人事のように言うな?」
「それはまあ、俺の炎だって授けられた物だから、ね」
炎は不動明王の権能として観世音菩薩様から授かったので、他者に使えるようにしてあげられると言っても、それが自分の力だとは思えない。
「もしや、姐さんや頼華もなのか?」
「うん。もう二人共、かなり使いこなすよ」
特に頼華ちゃんの、元々の戦闘スタイルにミックスするセンスは凄い。
「それは……ますます姐さんが手がつけられなくなるな」
「ははは……」
会話を続けながら布を織る白ちゃんが神妙な表情をするが、俺ははっきりとは答えずに、曖昧に笑って誤魔化した。
「あ。そういえば黒ちゃんにも、新しく使える力については教えてなかったな……」
昨日は開店準備に加え、盗みや人攫いに沖田様の下着作りなどもあったから……というのは、黒ちゃんに教えなかった言い訳にはならないだろう。




