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ガン見

「とりあえずは、こんなもんかな」


 脛肉とスジ肉と大腿骨、四種の胃と肺と腸、尻尾(テール)、背骨を、それぞれ別の鍋で水から茹でている間に、ロースやランプなどの部位を、ファミレスで出るステーキ程度の大きさに次々にスライスする。


「主殿。どの鍋も沸騰したようだが」

「うん。それじゃ、いま鍋に入ってる煮汁は全部捨てちゃって」

「承知した」


 鍋の番を白ちゃんに任せている間に、蜘蛛の糸で水を通さないように密に織った布を袋状にして、その中にスライスした肉と、重曹と塩を水に溶かした物を流し入れた。


「それはどうなるんだ?」


 もうもうと湯気を上げながら鍋の中身を笊に開けていた白ちゃんが、俺の作業を見ながら不思議そうな顔で尋ねてきた。


「ん? ああ。この袋を使って空気を抜くと、少ない量の漬け汁で全体に行き渡らせられるんだよ」


 元の世界での、ファスナー付きビニール袋と同じ使い方だ。


「ふむ。良くわからんがそれで硬い肉が食えるようになるのか……我が主殿は相変わらず、妙な事を知っているのだな」

「妙な事って……でもまあ、そうかな」


(内燃機関どころか外燃の蒸気機関も無い世界だから、まだ重曹を大量に工業生産は出来ないと思うし、多分だけど天然物しか存在しないんだろうな)


 重曹の成分が地面に露出したり、染み出して溜まった湖などが外国にあるが、日本にも重曹の成分が溶けている温泉は存在する。


 しかし、少なくともこっちの世界の日本では、天然の重曹が現代のような使い方がされているのは、ここまでの旅路では見た事が無い。


「あ、そうだ。白ちゃん、別に急がないんだけど、ここの周辺で米を作ってる農家から、米糠を譲って貰ってきてくれないかな」

「米糠? そんなのはお安い御用だが……ここで糠漬けでも作るのか?」


(まあ普通はそう考えるか)


 白ちゃんの反応は、ごく一般的な物だろう。


「米糠から、石鹸を作ろうと思ってね」

「せ、石鹸とは、あの風呂で使ってるアレか?」


 いつもクールな白ちゃんが、珍しく驚いた顔をしている。


「うん。そうだけど」

「あ、あれが米糠から作れると言うのか!?」


(いま使ってる石鹸も、油と灰から作ってあるのって、知らなかったんだっけ?)


 俺も詳しい製法自体は知らないのだが、江戸でドランさんに聞いた限りでは、ここで使っている石鹸はオリーブオイルと海藻の灰から作られているという事だ。


「多分だけど、上手く行くと思うんだ」


 湯屋なんかでは米糠を袋に入れた物で身体を洗うのが一般的で、汚れが落ちて肌の艶を増すのだが、同じ材料で洗浄力が強い石鹸を作れるとは、白ちゃんには思えないらしい。


「むぅ……作るのは、出来れば俺がいる時にしてくれ」

「いいけど……興味があるんだ?」

「それはな」


(白ちゃんと黒ちゃんは実際には石鹸で汚れを落としてる訳じゃ無いと思うんだけど……純粋に興味があるって事なのかな?)


 白ちゃんも黒ちゃんも、俺が作ったり買ったりした服以外は、身体も含めて外見は(エーテル)で構成されているだけだ。


 (エーテル)で構成されている身体がどれだけ汚れていても、一度非実体化してから新たに実体化すれば完全にクリーンな状態になる。


 白ちゃんと黒ちゃんにとっては、食事同様に入浴に関しても、必要だからでは無く趣味嗜好の範囲の物なのだ。


「構わないけど、見た目や泡立ちなんかが、今使ってる石鹸とは少し違うからね?」


 米糠と重曹、オリーブオイルと海藻の灰という違いがあるので、色も変わるのは当たり前なのだが、予め言っておかないと、石鹸として認識してくれないかもしれないくらいには差があるので、念の為だ。


「そんなに違うのか?」

「うん……泡立ちが殆ど無いから、入浴用よりは手洗いや食器洗い、洗濯用かな?」


 米糠と重曹で作れる石鹸は、水分が抜けると塊になるので、見た目にはそれっぽくなる。


 成分的には使ってもなんの問題も無いのだが、泡が立たないし糠の粒が残るので物として石鹸というよりはクレンザーに近く、手拭いにつけて肌を洗うのは少し厳しいだろう。


「それでも、袋に入れて擦るだけの糠と比べれば凄い事だろう。わかった。漬物以外に糠にそんなに使い途は無いだろうから、何軒か当たれば譲ってくれるだろう」

「頼むよ。そうだな……とりあえずは、これで買えるだけ」


 椿屋さんから収入があったので、米糠を買うには多過ぎるかもしれないが、銀貨を一枚渡しておく。


(物凄い量になっちゃいそうな気もするけど……利用法はあるから構わないか)


 勿論、漬物を作ってもいいし、あんまり出ない廃棄食材の代わりに、コンポストに投入して堆肥の材料にする手もある。


「それと、もしも猪や鹿、鳥なんかの害に悩まされているとかがあったら、駆除を引き受けるって言っておいて」

「成る程……それなら、獲物の肉を少し持っていくか?」

「ああ、それはいいね。貯蔵庫に吊るしてある猪でも鹿でも、適当に持って行っていいよ」


 大きな街の管理下や近郊にある農地ならば、害獣はある程度駆除されているだろうと思うが、少し離れた場所にある場合は自衛する必要がある。


 害獣以外に妖怪などのモンスターが出没したりするこっちの世界では、農夫でもかなりの戦闘力を持っていると思われるが、それは農作業中に遭遇した相手を撃退出来るという意味で、現代のように機械化、自動化されている訳では無いので、常時田畑を巡回したりする程の人手は割けないだろう。


 元の世界よりも山から出てくる害獣などが多くは無いかもしれないが、逆に皆無という事も考え難いので、もしも被害があって要請があれば、近所に住んでいるこちらでなんとかしましょう、という申し出だ。


「米糠の件を別にしても、肉を持って挨拶に行くのはいいかもね」

「そうだろう? ではこの件は、俺に任せてくれ」

「うん。任せた」


 獲物の肉があるという事は、害獣への対処の実績があるというのを形として見せられるし、近くに住んでいるが害は無いですよ、というのを態度で示す事にもなる。


 自分達はともかく、子供達は今後もこの里に住み続けるのだから、ご近所付き合いは重要だ。


「こっちはこれで良し、と。白ちゃん、後は俺一人でも大丈夫だから、風呂に行っちゃっていいよ」


 ロースなどの一般的な食用部位だけとは言っても、猪や鹿と比べて大きな牛の事なので数十キロ単位である。


 それでもなんとか、柔らかくする為の漬け汁の入っている袋へ肉を入れ、口を糸で縫い合わせて密封する作業が終わった。


「まあ、ここまで付き合ったのだから、最後まで手伝うとしよう」

「そう? 悪いね。じゃあ脛肉とスジ肉と内臓と尻尾はそれぞれ別の鍋に、素材が浸るくらいの水を入れてくれるかな」

「承知した」


 白ちゃんの御好意に甘えて、後日料理する予定の煮上がった大腿骨と背骨をドラウプニールに仕舞ってから、別の鍋で大きな舌を茹で始める。


 袋に入れて漬け込んだ肉は時間を経過させる必要があるので、ドラウプニールには仕舞わずに冷蔵庫に入れた。


「明日の朝は、尻尾(テール)(スープ)にしようかな」

「あまり味が無さそうに思うのだが……」

「牛の尻尾は結構動く場所だから、あっさりしてるけど深い味が出るよ」

「ほほぅ。それは楽しみだ」


(何よりも、全員に行き渡るのがいいよな)


 牛の尻尾(テール)が大きいとは言っても、可食部はそれ程多く無いので、里にいる全員分の惣菜として考えると少し心許無い。


 しかし軟骨から良い出汁が出るので、尻尾(テール)はスープとその具材と考えると非常に優秀だ。


「それじゃあ、後は放っておけばいいから、風呂に行こうか」


 薪や炭火では無く、鍋底に(エーテル)を送り込んで加熱しているから、沸騰しない程度の温度を維持して煮込むという、電磁調理器並みのかなり微妙な調整が可能になっている。


(ここには誰もいないから、ひっくり返ったりって事も無いだろう)


 火を使っていないので火事の心配は無いし、入浴を終えて戻ってくるくらいの間なら、蒸発して湯が減り過ぎてしまう事も無い。


「うむ。た、確か主殿は、今日は女湯に入るのだったな?」

「そうだけど……」

 

 俺の様子を伺うように、白ちゃんがチラッと視線を送ってくる。


(……もしかして、だから白ちゃんは俺と一緒に行動してのかな?)


 昨日は男湯で子供達を洗ってあげたのだが、男の子だけずるいと言われてしまったので今日は女湯にという事になったのだが、直前で俺が怖気づいて逃げるとでも、白ちゃんに思われたのかもしれない。


「で、では主殿、行こうか?」

「うん……」


 俺の逃亡するような動きを警戒しているという感じでは無いのだが、白ちゃんの妙に熱の込もった視線が少し気になる。



「主殿、そっちは男湯だぞ」

「わかってるけど、ちょっとだけ……玄! いるか?」

「は、はいっ!? なんでしょうか主人!?」


 浴場の入口から声を掛けると、入浴で赤くなった身体から湯を滴らせた玄が、慌てて駆けてきた。


「ああ、ごめん。湯に浸かってたんだな」

「い、いえっ! それで、何か?」


(……まあ、男同士だからいいんだけど)


 緊張感も(あらわ)に直立不動の姿勢を取る玄は、当然ながら前も隠していない。


「今日は俺は女湯の方に入るから、男の子達の面倒を頼むな」


 昨日は俺だけでは無くブルムさんもいたので、手分けして子供達を洗ったりと面倒を見る事も出来たのだが、今日は男湯には年長者が玄しかいないのだ。


(やっぱり、俺は男湯の方に入るべきだよなぁ……)


 するいと言われてしまったので女湯に入るのを承諾してしまったが、面倒を見てくれる年長者が女性陣に偏っているのは間違い無い。


(でも、おりょうさんや夕霧さんに男湯にって、進言する訳にもいかないしなぁ……)


 あっさり承諾してくれそうな気もするのだが、多分だが女の子達からの猛烈な反発があると予想される。


「はい! お任せ下さい!」


 結果として、俺の前にいる玄に皺寄せが来る事になるのだが……。


「そんなに気合を入れなくてもいいから……しっかり身体を洗って、のぼせないように気をつけてくれればいいよ」

「わかりました!」

「それじゃ」


(ちょっと心配だけど……みんな普通の子供とは違うから、大丈夫かな?)


 些か玄の気合が空回り気味な感じがするが、竹垣を隔てたすぐの場所にいるので、いざとなったら対処は可能だ。


(明日は黒ちゃんにでも、男湯の方に入ってくれるようにお願いしておくかな)


 黒ちゃんが名付けたのは、(ほむら)くんを筆頭に男の子だし、男湯に入るのを気にする事も無いだろう。


 そんな事を考えながら視線で白ちゃんを促して、俺は女湯の入り口にある垂れ幕を跳ね上げて中に入った。



「あー! 主人ー!」

「「「主人ー!」」」

「わあっ!? み、みんな、出てこなくてもいいからね?」


 俺の姿に気づいた子供達が、脱衣所へ駆け込んできた。


(小さいとは言え、女の子ってだけで圧迫感が凄いな……)


 昨日は男湯で子供達に囲まれたが、今のような圧力を感じなかったのは、この子達が小さいながらも女性だからだろう。


「はやくー!」

「主人ー!」

「わかった。わかったから。引っ張らなくてもすぐに入るからね?」


 俺に言われて殆どの子は浴場内に戻ったが、諦め悪く俺の脚元に逗まっている子がまだいる。


(この辺も、男女の差なのかなぁ……)


 男の子達は聞き分け良く、服を脱ぐまで待ってくれていたが、群がった女の子達は中々許してくれない。


(仕方無いなぁ……)


 裾を引っ張られて脱ぐ事が出来ないので、ドラウプニールを操作して作務衣を一気に収納した。


「「ふぇっ!?」」

「おっと!」


 手掛かりにしていた作務衣が消え去ったので、引っ張っていたお朝ちゃんと陽華(ようか)ちゃんがひっくり返りそうになったが、予想の範囲だったので一瞬早く二人の身体を支えた。


「お前ら、主殿の言う事が聞けないのか?」

「「っ! ご、ごめんなさい!」」


 作務衣を脱いで下着姿になっている白ちゃんが軽く睨むと、お朝ちゃんと陽華(ようか)ちゃんが、俺の手の中で身体を縮こまらせた。


「まあまあ、白ちゃん……でも二人共、あんまり自分勝手はしちゃダメだよ?」

「「はーい!」」

「うん。いい子だ」


 頭に手を置きながら注意すると、二人は手を挙げながら返事をした。


「主殿は子供には甘いな……」

「白ちゃんには、そんなに厳しくしてたっけ?」


 お朝ちゃんと陽華(ようか)ちゃんが大人しく待ってくれている間に、俺は服を脱いで手拭いを腰に巻いた。


「い、いや、そんな事は……いい、主人だぞ?」

「それは良かった。さあ、お風呂に入ろうか」

「「はーい!」」

「うむ」


 お朝ちゃんと陽華(ようか)ちゃんの手を引き、白ちゃんと一緒に脱衣所から洗い場へ歩いた。



「おや良太。遅かったねぇ」

「すいません。そんなに遅かったですか?」


 洗い場ではお糸ちゃんが、おりょうさんに身体を洗って貰いながら、気持ち良さそうに目を細めている。


「お糸ちゃんを洗って自分も洗ったら、出ちまおうかと思ってたところさ」

「あー……じゃあ俺が、背中を流しますよ」


 手早く作業したつもりだったが、食肉用では無いにしても、牛は猪や鹿と比べて身体が大きいので、体感していた以上に時間が掛かってしまっていたようだ。


「えっ!? そ、そうかい? じゃあ、お願いしようかねぇ……」

「いっ!? おりょう姐さん、痛い、痛いです……」

「ふぁっ!? ご、ごめんね、お糸ちゃん……」


 何やら力んでしまったらしく、おりょうさんに洗われていたお糸ちゃんが、悲鳴にも似た声を上げた。


「は、はぁい、終わったよぉ。お糸ちゃん、温まっといで」

「はい」


 桶の湯で石鹸の泡を流されたお糸ちゃんは、立ち上がって湯船に向かった。


「そ、それじゃ、お願いするよ……」

「はい……」


 おりょうさんが頬を染めながら、俺に背を向けて座った。


「失礼します」

「んっ……」


 濡らした手拭いに石鹸を擦り付け、泡立ててから背中の滑らかな肌に触れると、おりょうさんが妙に色っぽい声を出した。


「「「……」」」


(なんなんだ、この緊張感は……)


 近くで雪華(ゆきか)ちゃんの身体を洗ってあげている頼華ちゃんや、何人かの子供達と湯船に浸かっていた黒ちゃん、何もしないで近くに立っている白ちゃん、そして全ての子供達の視線が、俺とおりょうさんに集中している。


「……」

「……」


 俺もおりょうさんも無言で、手拭いを動かす音と湯の流れる音だけが、やけに大きく耳につく。


「は、はい。終わりましたよ」

「それじゃ前も……」

「前は勘弁して下さいよ……」


 おりょうさんが振り返って前もと言いだしたが、二人だけの時ならともかく、こんな針のむしろのような状況では御免願いたい。


「むー……」

「そんな顔をされても……」


 あからさまに不満そうに、おりょうさんが口を尖らせる。


(こういう顔をされても、可愛く見えるのは困っちゃうな)


 惚れた弱みだが、可愛らしい仕草に、つい言う事を聞いてしまいそうになる。


「わかったよぉーだ」

「またの機会という事で」

「きっとだよ?」


 一応、次の機会があると匂わせたので、おりょうさんは再び背を向けて、鼻歌交じりに自分で身体を洗い始めた。


「兄上っ! 次は余をお願いしますっ!」

「ああっ!? ずるいぞ頼華!」


 おりょうさんが終わったと見なした頼華ちゃんが、すかさず立ち上がって手を挙げた。


 負けじと黒ちゃんが湯船から飛び出して、こちらも手を挙げる。


「では主殿の背中は、俺が流そう」

「そう? 悪いね」


 どうしたものかと考えている間に、白ちゃんが思わぬ申し出をしてきてくれた。


 その白ちゃんが頼華ちゃんと黒ちゃんに向かってニヤリと、物凄く人の悪い笑顔を浮かべた。


「「ああっ!?」」


 白ちゃんの笑顔を見て、頼華ちゃんと黒ちゃんのどん底に突き落とされたような表情に変わった。 


「白め、策士だな……」

「その手があったか……」


 頼華ちゃんと黒ちゃんは、二人して少し俯きながら、何かぶつぶつと呟いている。


「俺はどっちが先でもいいんだけど……その前に湯船に浸かってもいいかな?」


 頼華ちゃんも黒ちゃんも、勇んで挙手した割には動きを停めているので、そんなに急いでいる訳では無いと判断した。


「そいじゃ良太。丁度あたしも洗い終わったから、一緒に入ろうかねぇ」

「俺もお供しよう」

「じゃあ、そうしましょうか」

「「えっ!?」」


 おりょうさんと白ちゃんに両方の腕を取られた俺を見て、頼華ちゃんと黒ちゃんが顔を上げて目を丸くしている。


「良太さぁん。こっちが空いてますよぉ」

「じゃあせっかくだから。おりょうさん、白ちゃん、腕を……」


 麗華ちゃんと並んで、湯船の奥の方で入浴していた夕霧さんが手招きするので、腕を開放してもらった俺は掛り湯をして手拭いを取ると、脚からゆっくり湯に浸かっていく。


「ふぅ……」


(この、自然に息が出る感じがいいな……)


 女性に取り囲まれているし、子供達から視線が集まっているが、今のところは緊張感よりは、風呂のリラクゼーション効果の方が上回っているようだ。


(それにしても……)


 ガン見しないように気をつけてはいるのだが、目を閉じなければ視界に入るおりょうさんと夕霧さんの胸に、どうしても意識が行ってしまう。


(本当に、浮くものなんだなぁ……)


 肩近くまで湯に浸かっている、おりょうさんと夕霧さんの丸い胸の膨らみの一部が、風呂の水面に顔を出している。


 夕霧さんの胸は一部だけしか見えていないのだが、その見えている部分からだけの推測でも、隣で湯に浸かっている麗華ちゃんの顔と、同じくらいのサイズがあるように思える。


「おい、夕霧」

「ふえ? なんですかぁ、白ちゃん?」


 気持ち良さそうに、目を閉じて湯に浸かっていた夕霧さんが、白ちゃんに声を掛けられて瞼を開いた。


「主殿が姐さんとお前の胸に御執心だから、ちょっと立ち上がって見せてやってくれ」

「なぁっ!?」

「えっ!?」

「ひゃあっ!?」


 見ていた事を指摘された俺と、見られていたおりょうさんと夕霧さんの驚きの声が重なった。


「そ、そうなのかい?」

「……そ、そうなんですかぁ、良太さん?」

「……」


 気不味くなった俺は、無言で顔を少し逸した。


「うむ。俺の貧相な胸ならいくらでも見せてやるのだが、主殿の視線は、おりょう姐さんと夕霧の胸から動かないんでな」

「白ちゃん……」


 男のチラ見は女のガン見と言われているが、どうやら俺の視線の先に何があったのかはバレバレだったようだ。


「な、なんだい……早く言ってくれればいいのに……」

「わあっ! おりょうさん、立ち上がらないでいいですから!」


 少し目を伏せながら、おもむろにおりょうさんが立ち上がろうとするが、実行されると目の高さに、胸よりもやばい風景が映り込んでしまう事になる。


 俺は慌てておりょうさんの両肩に手を置いて、なんとか思い留まらせた。

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