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カリフラワー

「ん? 主殿、水はたっぷりあるのに、湯を用意するのか?」


 取り出した鍋で水を汲み、(エーテル)を込めて湯を沸かし始めたのを見て、白ちゃんが首を傾げている。


「肉を洗ったり血抜きをしたりには水でいいんだけど、解体する刃物を洗うのにね」

「ああ、成る程な」


(煮沸しての消毒の意味もあるけど、消毒って意味がわからないかもしれないんだよな)


 公衆浴場なんかがそこら中にあるし、歯磨きや洗顔などは習慣付いているので、民族的にも綺麗好きな感じではあるが、衛生面を考えての事なのか、それとも爽快感を得る為の行為なのかは不明だ。


「解体の前に、ちょっと待っててね」

「ん? その包丁は見慣れないな?」


 取り出して研ぎ始めた小出刃を見て、白ちゃんが呟いた。


「黒ちゃんが正恒さんから預かってきてくれたんだ」

「ああ、そういう事なのか。あの御仁も見た目によらず、気が利くな」

「見た目によらずって……」


(でもまあ、白ちゃんの言う通りかな)


 山の中で隠者のような生活をしている割には、決して人嫌いという感じでも無いし、まだ付き合いの浅い俺達に対しても実に親切だ。


(頼華ちゃんは本能的にその辺を感じ取って、懐いていたのかもしれないな)


 正恒さんの人のいい笑顔を思い出し、思わず苦笑した。


「こんなもんかな。それじゃ順番に手伝って貰うけど、まずは大雑把に解体するから見ててね?」


 念の為の滑り止めに、柄に布を巻き付けた小出刃を、子供達に示しながら言った。


「「「はい!」」」


(みんな、物怖じしないんだなぁ……)


 今はなんとも思わなくなったが、最初の頃は手で肉を切り開く感じや流れ出す血などに、少なからず忌避感があった自分と違って、子供達はみんなして興味津々だ。


「じゃあ白ちゃん、ここに出して」

「うむ」


 水場の、一番外側の洗い物などに使われる槽の脇を示すと、白ちゃんがドラウプニールから大きな牛を取り出した。


「……本当に、角と皮は取ったんだね」

「う、む……しかもかなり雑にだな」


 貰う時にちゃんと確認しなかったのか、おそらくは鋸で切られた左右の角と、前後の脚の辺りに微妙に剥ぎ残されている皮の状況を見て、白ちゃんが顔を顰めた。


「なんというか……すまん、主殿」

「ま、まあ、皮以外はちゃんと処理されてるみたいだし」


 皮の剥ぎ方はいい加減だが、ちゃんと放血処理はされているようだし、直後に白ちゃんに渡されたらしいから、肉や内臓の状態自体は悪く無さそうだ。


「んー……脚の皮はこのままにしておいて、先に解体をしちゃおうか」


 剥ぎ残しの皮は膝関節の下辺りに残っているので、先に切り離してしまった方が作業が楽そうだ。


「それじゃ扱い易くするのに、四肢を切り離しちゃおうかな。白ちゃん、軽く持ち上げておいて」

「承知した」


 白ちゃんに支えて貰っておいて、先ずは後肢の付け根部分に刃を入れた。使っているのは獲物の解体専用の刃物などでは無く柳刃だ。


「すげぇ! 簡単に切れちゃうんですね!」


 支えられている事もあって、スムーズに肉を切り裂きながら進む刃の動きを見て、(こう)くんが少し興奮気味だ。


「関節の位置がわかれば、意外と力も要らないんだよ。それじゃ教えるから、やってみようか」

「えっ!? 上手く出来るかなぁ……」


 興奮気味だった様子から一転。自信が無さそうに(こう)くんが俯いた。


「誰でも最初はあるんだよ。失敗しても別に構わないから、やって御覧。勿論、失敗する気でやっちゃダメだよ?」

「は、はい! よーし……」


(うん。包丁を握って力が入ってる幼児というのは、中々危ない感じがするな)


 瞳を輝かせながら小出刃を握りしめ、牛に向かい合う(こう)くんの図は、ちょっとビジュアル的に危険だ。


「それじゃ前脚側をやってみよう」

「はい!」


 失敗すると肉の質が落ちる事を気にしていたのでは無く、もしかしたら俺が怒ると思っていたのか、実際の作業を始めてみると(こう)くんの手捌きは、初心者らしからぬ繊細にして大胆な物だった。


「こ、こんな感じでいいでしょうか?」


 骨に突き当たって時折、包丁の動きが止まったりするが、(こう)くんの包丁の入れ方には躊躇が見られないので、作業の進行は早かった。


「うん。上出来だね」


 お世辞では無く、慣れてない人間が行うと荒れてしまう切り口が、実に滑らかに仕上がっている。


「それじゃひっくり返して、反対側を……」


 柳刃と小出刃を、血と脂を落とす為に沸かしておいた鍋の湯に漬けながら振り返った。、


「はい! 次は俺がやります!」

「いや、俺が!」

「俺も!」

「俺も!」

「えっと……」


 俺が呟くと、見学していた子達から後の作業の志願が殺到した。


(ははは……みんな本当に積極的だなぁ)


「それじゃあ永久(とわ)くんと(はるか)くんは、俺と一緒に反対側の脚を切り落とそうか」

「「はい!」」


 凄くいい返事をした二人は、俺の方へ近づいてくる。


久遠(くおん)くんと(ゆう)くんで、脚に残ってる皮を剥いでもらおうかな。白ちゃんはこいつをひっくり返したら二人を見てあげて。(こう)くんはどちらの方でもいいから、しっかり見学を。いいかな?」

「「「はい!」」」

「それじゃ……よいしょっと」


 みんなの役割分担を終えたので、白ちゃんと協力して牛をひっくり返した。


「それじゃ永久(とわ)くんから先に、後ろ脚をやってみようか」

「「はい!」」


 血と脂の落ちた柳刃を持って、二人と一緒に牛に向き合った。


「白ちゃん。膝下はあんまり食べる場所が無いから、そんなに丁寧にやらないでも大丈夫だから」

「承知した」


 鍋から小出刃を取り出した白ちゃんは、少し離れた場所で切り離した牛の後肢の前にしゃがみ込んだ。久遠(くおん)くんと(ゆう)くんも続く。


 (こう)くんは俺達の背後に立って、作業を見守っている。



「うーん……予想はしてたけど、かなり肉質が硬いな」


 元々が食肉用では無い牛なので、皮下にも肉自体にもあまり脂が無い上に、かなり筋張っている。


「では、全然食えないのか?」

「そのまま食べるには、ちょっと厳しいかな」


 四肢を解体した後、身体の中心部の方も記憶を頼りにロースやランプなどの部位ごとに切り分けた。


 腿の骨などは肉に切れ目を入れて抜いたが、肋骨周辺は左右片側ずつ肉をつけたまま残した。


 今はみんなで取り出した内臓類を水で洗って血抜きをしたり、内容物を出して綺麗にしたりしているところだ。


「でも、内臓類は大丈夫だし、煮込んで柔らかくしたりすれば、大半は食べられるよ」

「それは良かった」


 持ってきたはいいが、食べられなかったらと、白ちゃんは考えていたのだろう。


 白ちゃんにしては珍しく、と言っては失礼かもしれないが、目に見えて安堵の表情を浮かべている。


「さて、どうやって肉を……あ。あれが使えるか」


 テレビで肉類を柔らかくして旨味を増すのに、舞茸を使っているというのを思い出したが、こっちの世界では栽培は確立されていないので、初夏になりつつある今の時期の入手は困難だ。


 しかし、手近にある素材で肉を柔らかくする効果がある物があったのを思い出した。


(肉の為にと思って作った訳じゃ無いんだけど、思わぬところで役に立ちそうだな……)


「なんだ? 何か浮かんだのか?」

「うん。上手くすれば煮込みとか挽肉にとかにしなくても、美味しく食べられるかもしれない」


 ついこの間、パンやホットケーキの為にと思って塩水から合成した重曹が、肉を柔らかくするのに使える事を思い出したのだ。


「とりあえず、脛と筋はこれから下茹でしちゃおうかな」

「そんなに急ぐのか?」


 夕食を終えたばかりというのもあるだろうが、急に俺が言い出したので白ちゃんが訝しんでいる。


「脛と筋って、一時間くらい下茹でしてから、更に煮込まないと食べられないんだよ」


 これは年老いた牛だからという訳では無く、脛と筋という部位的な特性によるものだ。


「それは……中々に大変なのだな」

「その代りに、凄くおいしくなるんだけどね」


 硬くてアクも出る脛と筋は、茹でこぼさないと歯が立たないし、風味も良くない食材だ。


 しかし、しっかり下茹でをすればどちらも柔らかくなるし、ゼラチン質の抽出された煮汁は味も良く、身体にも良い。


「主人! これはどうしますか?」

「それは……」


 (こう)くんの言うこれとは、下顎と頬肉などの表面の肉と舌を外し終わった、牛の頭蓋骨だ。


「これの中って食べられないんですか?」

「いや、一応は食べられるけど……」


 頭蓋骨の中。要するに脳だ。


「食えないのか?」

「いや、食べられはするけど……俺は食べた事が無いんだよね」


 白ちゃんに問われたが、元の世界で俺が行った事のある店では取り扱いが無かった。


 無論だが、自分の家でも食卓に上がった事は無い。


(牛とか羊の差はあっても、元の世界では脳を食べる地域は多いみたいなんだけど……)


 日本では肉を食べる歴史が浅い所為か、牛の部位の細かな分け方なども最近になって普及され始めたのだが、まだ脳はポピュラーな食材とは言い難い。


「主人! 食べてみたいです!」

「えっ!?」


(なん……だと?)


 久遠(くおん)くんが瞳をキラキラさせながら、とんでもない事を言い出した。 


「ダメ、ですか?」

「うっ……」


 俺が驚いた顔をすると、久遠(くおん)くんが悲しげな表情になったので、物凄い罪悪感に襲われた。


(……興味を示しちゃったんなら、仕方がないか)


 ここは自分の拒否感や忌避感よりも、子供達の想いを優先してあげるべきだろう。


「はぁ……初めて料理するから、味は保証出来ないよ?」

「「「はい!」」」


 承諾した俺に、五人が喜びを顕にする。


(問題は調理法だな……)


 身体が大きいので、比例して大きな頭に入っている脳も大きいから、各自に軽く一皿程度の量はある。


(骨ごと地面に埋めて蒸し焼きっていうのを、聞いた事があるけど……)


 この場にいる子達と白ちゃんは、丸ごと焼いた頭蓋骨を割って、中身をほじくり出して食べる事にも躊躇は無さそうだけど、他の子達もそうだとは限らない。


(特に、おりょうさんがな……)


 牛の肉という時点で難色を示していたおりょうさんが、脳に対して食欲が湧くという事は無いだろう。


「……じゃあ中身を取り出すか」


 俺は意を決して、牛の頭蓋骨に向き合う事にした。


「……」


(なんか、睨まれているような……いや、気の所為だ)


 既に眼球も存在しない牛の頭蓋骨がこっちを見ているような錯覚に襲われたが、そんな訳が無いと軽く頭を振る。


 今まで猪や鹿の頭は、舌や肉を取り除くと廃棄していた部位なので、初めて取り組む所為だと心の中で、自分に言い聞かせる。


「……」


 固い頭蓋骨が相手なので、柳刃では無くドランさんから貰った戦斧(バトルアックス)に持ち替え、軽く合わせ目を叩く。


「……よし。割れたな」


 頭蓋骨の合わせ目を割り開いて脳を露出させると、表面の膜に切れ目を入れて、崩さないように気をつけながらそっと取り出した。


「……」


(話には聞いてたけど、確かに似てるな……)


 何に似ているのかと言うと、野菜のカリフラワーだ。


 知り合いの話とかでは無く、本当に聞いた事があるだけの話なのだが、脳外科で手術の助手をしている看護師の人が、見た目が似ているのでカリフラワーが食べられなくなったと言う。


(こっちの世界の日本には、まだカリフラワーは無さそうだけど……)


 仮にカリフラワーが既に渡来していたとしても、赤茄子(トマト)のように外国人向け以外に取り扱われてるとは考え難いので、意図的に探さなければお目に掛かる事も無いだろう。


 頭蓋骨を割り開くのに精神力をかなり使ったので、心の中で小さく溜め息を付きながら白ちゃんに声を掛けた。


 脳の方は蜘蛛の糸の布で包んで、汚れを洗い落とした戦斧(バトルアックス)と共に、速やかにドラウプニールに仕舞った。


「悪いけど白ちゃん。肉を少し処理するから、この後も少し手伝ってくれるかな?」


 内臓類は洗って仕分けをしたので、後は料理をするまでドラウプニールの中で鮮度を保っておけばいいのだが、肉の固い部位は切り分けて下処理をして、ある程度熟成も進めなければ食べられない。


「承知した」

「廃棄する箇所は……俺達で運べばいいか。それじゃこれで終わりにするから、みんなは風呂に入っておいで。血と脂を念入りに落とすように」

「「「はい! ありがとうございました!」」」


 笑顔の子供達は俺たちに向けて一礼すると、踵を返して走り去っていった。


「それじゃ白ちゃん、俺達も行こうか」

「うむ」


 子供達とは別方向のコンポストを目指して、俺と白ちゃんも水場を後にした。



「これは、何かの(まじな)いなのか?」


 コンポストに剥ぎ取った皮や状態の良くない肉などの廃棄する部位を入れ、土を被せているのを見て、白ちゃんが不思議そうに呟いた。


「お(まじな)いじゃないよ。どう説明したものかな……」


 微生物や菌というのを説明して、白ちゃんが理解してくれるのかはわからない。


「えっと……排泄物なんかを、畑の肥料にしてるのはわかるよね?」

「うむ」

「あれは実は、そのまんまじゃダメで、他の物と混ぜたりして時間が経過して、性質が変わらないとダメなんだ」

「そうなのか?」


(やっぱり、白ちゃんもか……)


 ある程度の世間一般での知識は、妖怪である白ちゃんにもあるみたいだが、こっちの世界ではまだ科学技術が発達していないので、微生物による分解や発酵という概念は知らないようだ。


(権能や加護、魔法なんかが、科学や技術の発達の妨げにもなっているんだろうなぁ……)


 里に関しても天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)様から豊作を約束されているので、耕したり追肥したりというのを疎かにしてしまいそうになるが、手を掛けた分は確実に収穫量に繋がるので、加護を得ているから努力をしないで良いという事にはならない。


「この瓶の中では、その性質を変えるのと同じ事を、食べられない物を利用してやってるんだよ」

「難しい事は俺にはわからんが……主殿がそう言うのならそうだろうし、言いつけには従おう」

「いや、そう盲従しないで……それに疑問を感じたら聞いてくれた方が、俺も確認になって助かるんだよ」


 自分にとっての普通や当たり前が、相手にとってもそうとは限らないので、指摘をされるのは非情にありがたい事だ。


「そうか。主殿が鬱陶しいと思わないのなら、これからも質問をさせて貰おう」

「うん。そうして」


 絶対的に従わせるのが本来の主従関係なのかもしれないが、主殿と呼ばれてはいるけど、俺自身は白ちゃんも黒ちゃんも従者とは思っていない。


(時折、仕事を押し付け過ぎかなとは思うけど、ブラックにならないように報いてるから……報いてるよね?)


 ちょっと自信が無くなったので、今度白ちゃんと黒ちゃんに聞き取りをしてみよう。


「では次は、厨房だな」

「うん。そうだね」


 俺と白ちゃんは連れ立って歩き始めた。


「まだ頼華と黒は、遊び呆けているんだろうか?」

「……さすがに風呂に入ってるんじゃないの?」


 大丈夫とは言いきれず、白ちゃんの呟きに明確には返事を出来なかった。


「だと、いいんだがな……」

「ははは……」


 源平碁やジェンガが気に入ってくれるのは嬉しいが、頼華ちゃんや子供達が、元の世界のゲーム中毒みたいになってしまうのは困る。


(まあ、おりょうさんもいるから大丈夫だろう)


 楽観的になった俺は、白ちゃんと歩きながら牛、特に脳をどう調理するかという方向に思考を切り替えた。



「……嫌な予想が的中したようだな」

「……そうだねぇ」

「あははー! また崩れたー!」

「次はあたしの番ー!」

「俺もー!」


 厨房に直行では無く、隣接する食堂の入り口の木戸を開けると、中は源平碁やジェンガで遊ぶ子供達で大盛り上がりになっていた。


(こう)くん達は風呂に行ったみたいだね」

「そうだな」


 食堂内の人数が少なく見えたが、それは一緒に牛の解体を行った(こう)くん達五人がいないからだと気がついた。


 血と脂で汚れたままの格好でここで遊んでいたら五人を怒らなければならなかったけど、さすがに風呂に直行したようだ。


「おりょう姐さん、やりました!」

「お糸ちゃんも上手になったねぇ」


 おりょうさんの膝の上に座ってジェンガで遊んでいるお糸ちゃんは、上手い具合に抜いた木片を天辺に載せられて非常に御満悦だ。


「えーっと……おりょうさん?」

「お、おや、良太に白。早かったんだねぇ」


 俺と白ちゃんの姿を見て、ちょっと顔色が変わったところを見ると、おりょうさんも夕食から結構時間が経過している事に気がついたようだ。


「切のいいところで終わって下さいね?」

「うっ……わ、わかったよ。みんな。この後で誰かが失敗したら、そこで終わりにして風呂にはいるよ?」

「「「はーい!」」」


 熱中はしているようだが子供達はちゃんと、おりょうさんの言う事に対して返事をした。


「……ん?」

「くくく……頼華よ、どう出る?」

「ぬぅ……ここは、こうだぁ!」

「おおっ!?」


 そんな中、黒ちゃんと頼華ちゃんは我関せずと一騎打ちを続けていた。


 少し前に夕霧さんに対して行っていた、一番下の真ん中だけ残すという抜き方をした黒ちゃんに対し、なんと頼華ちゃんはダルマ落としというかテーブルクロス抜きというか、そんなテクニックを使って上のタワーを崩さずに、一番下の木片を抜いてみせたのだった。


「ふえぇ……そんな抜き方も出来るんですねぇ」

「ふふふ。夕霧も精進するがいい」

「盛り上がってるところ悪いけど、お風呂に入って寝る時間だよ?」


 得意満面に、夕霧さんに向かって胸を張る頼華ちゃんに告げた。


「えー……まだ黒との勝負がついていないのですが」

「もうちょっとであたいが勝つのに!」


 頼華ちゃんも黒ちゃんも相当に熱中しているのか、俺が注意をしても不満そうにしている。


「ふぅん。じゃあ暫くの間、源平碁も自演我(ジェンガ)も禁止ね」

「「「えっ!?」」」


 この場にいた、俺と白ちゃん以外の人間が、一斉に動きを停めた。


「あ……兄上!?」

「ご、御主人!?」

「源平碁も自演我(ジェンガ)も、あくまでも息抜きにやる物だよ? その辺をわからないって言うなら……」


 顎の下に手を付け、少し芝居掛かった動きで俺は食堂内を見回した。


「わ、わかりました! 皆の者! 風呂に入るぞ!」

「みんな! 御主人の言う事は絶対だ! 行くぞ!」

「「「はーい!」」」


 頼華ちゃんと黒ちゃんの号令一下、遊んでいた子供達が我先にと食堂を出て行った。


(ある意味、物凄いリーダーシップだよな……)


 頼華ちゃんや黒ちゃんが名付けた以外の子達、おりょうさんの膝の上にいたお糸ちゃんの姿がいつの間にか消えていた。夕霧さんの隣りにいた麗華ちゃんの姿も見えない。


「……ちと厳し過ぎるんじゃないのかい?」

「そうかもしれませんけど、こういうのは少し厳しいくらいがいいと思うんですよ」


 おりょうさんの、子供達を可愛がりたいという気持ちもわからなくは無い。


 そんなおりょうさんの膝の上からは、お糸ちゃんの姿も消えている。


「うむ。主殿の言う通りだな。姐さん、どこかで歯止めは必要だ。」

「言われてみれば、そうなのかねぇ」


 白ちゃんの言う事に、おりょうさんも一応は納得してくれたようだ。


「全くするなって言ってるんじゃ無いので、この辺はわかって下さい」


 鍛錬や食事の時間の合間にやるのは大いに結構なのだが、寝たり風呂に入ったりする時間を犠牲にしてまで、となると話は別だ。


「わかったよ。これからはあたしも気をつける」

「お願いします」

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