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凛華ちゃんの涙

「それじゃ話はまとまったから、そろそろ寝ましょうか」

「という事だ。紬、おしまいにするぞ」

「ぐぬぬ……」


 俺の言葉が聞こえているのかいないのか、白ちゃんに手も足も出ない紬は源平碁の盤面を睨みながら、毎週やられる悪の女幹部みたいな唸り声を上げている。


「し、白様っ! もう一回だけお願いします!」

「貴様……主殿の言う事に逆らうというのか?」

「ひいっ!?」


 それまで穏やかな白ちゃんの口調に、刃のような鋭さが現れた。


 白ちゃんの身体の内からも静かに、しかし明確な極低温の殺気が湧き上がり、紬に向けられる。


「ふぁ……うわあぁーんっ!」

「り、凜華っ!?」

「凛華ちゃん!?」


 唐突に、凛華ちゃんが火のついたような勢いで泣き始め、レンノールの腕の中で暴れだした。


「しゅじんー! こわいぃー!」

「凛華ちゃん……」


 レンノールの元から離れた凛華ちゃんは、助けを求めるように俺に駆け寄ると、胸に飛び込んできた。


 どうやら凛華ちゃんは自分達の最上位者である俺の傍が、一番安全だと本能的に感じて逃げ込んできたようだ。


「あぁーんっ! あぁぁーんっ!」

「ああ、よしよし。怖かったね……白ちゃん、少し気をつけないと」


 必死に俺にしがみつく凛華ちゃんをあやしながら、おそらくはこうなった原因、殺気を発した白ちゃんに注意をした。


(とは言え、俺も似たような事をやったんだけど……)


 江戸の鰻屋の大前の二階座敷で、頼華ちゃんに害が及ぶと勘違いして、徳川家の頭領である家宗様に対して全力で殺気を放ってしまった前科が俺にはある。


 幸いな事に家宗様は無事だったが、傍に控えていた黒ちゃんと白ちゃんは失神寸前になるし、一階の客や従業員にも、多数の被害者を出してしまったのは苦い思い出だ。


「あー……すまん、主殿」

「いや、俺じゃなくてね……」


 白ちゃんがバツが悪そうな顔で謝ってくるが、困っているのは確かだけど、謝る相手は俺の腕の中だ。


「そうだな……すまんな、凜華」


 ベンチに座っている俺の横に跪いた白ちゃんが、そっと凛華ちゃんの頭に手で触れた。


「っ!」


 手が触れた瞬間、凛華ちゃんの身体がビクっと跳ね、俺の服を掴む手に更に力が込もった。


「凛華ちゃん、白ちゃんがごめんなさいって」

「うぅー……し、白姐様、もう怒ってない?」


 声が聞こえたのか、凛華ちゃんはおっかなびっくりという感じではあるが、涙で濡れた顔を上げて俺と白ちゃんの様子を伺っている。


「ああ。怒ってはいない。怖がらせて悪かったな、凜華」

「うぅ……怖かったのぉ」


 俺の腕の中から抜け出ようとはしないが、凛華ちゃんは跪いている白ちゃんに向けて手を伸ばした。


(白ちゃんでも、泣く子には勝てないか……)


 凛華ちゃんが伸ばした手を、両手で包み込むようにしている白ちゃんは、困ったような微笑を浮かべている。


「凛華ちゃん。泣き止んだんなら、お顔を綺麗にしようねぇ」

「はーい!」


 凄い切り替えの早さだが、おりょうさんに顔を拭かれている凛華ちゃんには、もう笑顔が戻っている。


「そいじゃ今日は、白が凛華ちゃんの面倒を見てやんな」

「ああ、それはいいですね。はい、白ちゃん」

「参ったな……」


 おりょうさんの鶴の一声で、今夜の凛華ちゃん当番は白ちゃんに決定した。


 俺が抱き上げた凛華ちゃんを差し出すと、面倒そうな顔をしながらも、白ちゃんが受け取って抱き寄せた。


「姐様! 何か面白いお話聞かせて下さい!」

「むぅ……では黒にそっくりな、焼き物の話でも」

「待ったー!?」


 凛華ちゃんにせがまれて、渋々と白ちゃんが話しだそうとしたが、黒ちゃんが割って入って必死に止めようとする。


「駄目か? では夕霧が、主殿の頼もしさに……」

「し、白ちゃあん!?」


 普段からおっとりしている夕霧さんが、珍しく必死の形相で立ち上がった。


 どうやら白ちゃんの面白い話というのは、誰かの不本意だったり恥ずかしかったりする思い出になってしまうらしい。


(白ちゃんに面白さを求めると、こうなるのか……)


 言葉に悪意が込もる事は少ないのだが、それでも白ちゃんは普段から辛辣というか毒舌な方だから、こういう風になるのは当然といえば当然かもしれない。


「では頼華が、食い過ぎで動けなくなった時の事を……」

「白っ! 表に出ろっ!」

「頼華ちゃん。殺気を放つと、また凛華ちゃんが泣いちゃうからね?」

「うっ……」


 頼華ちゃんが腰にセットした薄緑の鯉口を切り、明確に殺気を放とうとしたところで、なんとか思い留まらせた。


「白ちゃんも、あんまり人の悪口は……」

「凜華が面白い話と言うものだから、ついな……では面白いかどうかはわからんが、伊勢の代官所で、おりょう姐さんが俺も含めて四人抜きした時の話でも」

「……まあ、それくらいなら」


 自分が負けた時の話なので、まだ少し頼華ちゃんは不服そうだが、他ならぬおりょうさんの武勇伝という事で、仕方無く許すようだ。


「りょう姐様のお話ですか!? 聞きたいですっ!」

「そうかそうか……」


 おりょうさんの話と聞いて、凛華ちゃんの食いつきが凄い事になっている。


 白ちゃんの方も、凛華ちゃんへ話をする候補を幾つか出したのに、みんなから否定されていたものだから、やっと決定した事にホッとしている様子だ。


「ちょ、ちょいと白ぉ。あんまり話を盛るんじゃ無いよ?」


 白ちゃんが要らぬ脚色をしないかと不安らしく、おりょうさんが釘を刺す。


「姐さん安心してくれ。俺はそれ程器用では無い」

「ならいいんだけどねぇ……」


 まだ少し不安はあるようだが、何より凛華ちゃんが期待に満ちた表情をしているので、おりょうさんも強く止める事は出来なくなっている。


「むぅ……白が何を言い出すか不安だから、余は近くにいるぞ!」

「あたいもだよっ!」

「あたしもですぅ!」

「あたしも、そうしとこうかねぇ……」


 女性陣は白ちゃんを放置すると安心出来ないらしく、大きな集団を形成してゲルで就寝する事になりそうだ。


「では手狭になるでしょうから、私は久遠(くおん)くん達と、寮という建物の方で寝ましょうかね」

「そういう話になっていたんですか?」

「ええ。入浴中に、旅の話をしれくれとせがまれましてね」


 俺がおりょうさん達との話を終えるまでに、一緒に入浴していた子供達とブルムさんは打ち解けたらしい。


「俺も(いつき)くん達と、寮で寝ようかな……」


 ブルムさんに倣うという訳では無いのだが、今夜のゲルでは男は肩身の狭い思いをしそうなので、寮の方へ避難するのが正しい判断のような気がする。


「……ん?」

「……」


 一人だけ会話に全く加わらなかったレンノールが、真っ青を通り越した真っ白な顔をして俯いている。


「り、凜華が……私を頼って……くれなかった……」


 小声でぼそぼそと、やっと聞こえる程度に呟やいている内容からすると、自分の元を離れて俺を安全地帯として、凛華ちゃんが求めてきた事がショックだったらしい。


「もう、俺が怖くはないか?」

「すきー!」


 まだ少し不安があるのか、立ち上がりながら白ちゃんが尋ねると、凛華ちゃんは満面の笑顔で抱きついた。


「くっ……」


 その凛華ちゃんと白ちゃんの姿に、更なるショックを受けたらしいレンノールは、がっくりと項垂れてしまった。


「お、俺達も行きましょうか」

「そうですなぁ……」


 女性陣が厨房から出ていくのを追って、落ち込むレンノールに掛ける言葉がみつからない俺とブルムさんもゲルへと向かった。


「あ、おりょうさん。明日の朝は、池田屋さんが作ってくれた味噌汁と、米が研いでありますから、炊けば朝御飯になりますよ」


 朝食に添える漬物や、ちょっとした惣菜類は買ってあるので、朝食のメニューになら十分に間に合う。


「おやそうかい? なら明日は、少し楽が出来るねぇ」


 里に戻ってから、やらなければならない事や、話さなければいけない事が多かったので、危うく伝え損なうところだっったが、寝る前に思い出す事が出来て良かった。



「主人! 何かお話して下さい!」


 寮の部屋の一つに落ち着いた途端に、大地くんが興奮した様子で俺にせがんできた。


 板張りの床には敷布団代わりに、ゲルに敷き詰めてある厚みと反発力のある物と同じ布を、俺が作って敷いてある。


 寮の別の部屋には白ちゃんが名付けた男の子達とブルムさんがいるが、そこにも同じように、床に敷く布を作って置いてきてある。


「お話かぁ。そうだなぁ……」


 大地くんを始めとする、黒ちゃんが名付けた子供達が、期待の込もった視線で俺を見てくる。


「それじゃあ、俺が黒ちゃんと白ちゃんと出会った時の話でもしようか」

「黒姐様と白姐様のお話ですか!? 聞きたいです!」

「「「……」」」


 大地くんが声を上げると、他の子達も同意を示して何度もうんうんと頷いている。


「それじゃあ……あれは、俺がおりょうさんと頼華ちゃんと、藤沢の鍛冶職人さんの家に泊まった夜の、夢の話からになるんだけど……」


 既に子供が起きているには相当に遅い時間になっているが、みんな瞳を輝かせて、俺の話を聞き漏らすまいとしてくれている。



「主人! もっと聞きたいです!」

「「「もっとー!」」」

「困ったなぁ……」


 話を面白がってくれるのは嬉しいが、中々寝ようとしてくれないのには本当に困ってしまった。



 この夜。厨房に取り残されたレンノールと、女性陣にゲルから追い出された玄が、どこで寝たのかは定かでは無い……。



「……おりょうさん」

「な、なんだい?」

「何か妙に視線を感じるんですけど」

「奇遇だねぇ。あたしもだよ」

「「「……」」」


 おりょうさんもという事は、どうやら俺の気の所為では無さそうで、子供達が朝食の箸を動かしながらも視線を送ってきて、その視線には今まで以上に尊敬の念が込められているように思える。


「……どういう事なんですか?」

「それがねぇ……伊勢の代官所での事を白が話して、あたしがそこまで強くなったのは、良太が施術してくれたからだって」

「あー……」


(俺の施術っていうのは、別に間違ってはいないんだけど……)


 伊勢の代官の朔夜様の、体内の(エーテル)の流れに滞りがあったので、それを直すと劇的な効果があった。


 しかしおりょうさんの場合には、確かに施術はしたのだが元々それ程滞りは無く、その後に考えついた新たな戦術というか戦法の「透過」と「反射」が、バッチリ嵌ったというだけだ。


「あたしに戦い方を教えろってせがまれてるんだけど、どうしたもんかねぇ」

「投げ技や固め技は、構わないんじゃないですか?」


 おりょうさんの習得している柔術や合気道などは、相手の力を利用しての技が多い。


 里の子供達は力はあるが体格的に劣るので、柔術は向いているように思える。


「そんくらいはいいんだけど……」

「じゃあ、ある意味丁度良かったかな?」

「そいつは……どういう事だい?」


 俺の呟きに、おりょうさんが箸を停めて問い質してきた。


「黒ちゃんと白ちゃんにはお使いを頼む予定で、俺は頼華ちゃんと一緒に、ブルムさんの店探しに付き合っった後で、伊勢に行ってこようかと思ってまして」


 ブルムさんの店探しに関しては、今日だけで決まるとは限らないのだが、その場合でも利用する宿を知っておけば、連絡がつけ易くなる。


「伊勢にかい?」

「ええ。椿屋さんに依頼された着物を届けてきます」


 そろそろ椿屋さんから預かった着物の蜘蛛の糸による複製が、依頼されてから一週間になる。


 本当は頼華ちゃんは、黒ちゃんか白ちゃんのどちらかと一緒に鎌倉へ行って貰おうかとも思っていたが、その前に一度短い距離で界渡りを経験させておいた方がいいだろうという判断で、俺と一緒に伊勢にという事にした。


 実際には伊勢の代官所にも寄る予定なので、頼華ちゃんが一緒だと朔夜様に対して睨みが効くから、という理由もあるのだが……。


「昼はお任せする事になりますけど、なるべく早く帰って来ますから、夕食の支度は俺がしますよ」

「そういう事なら、仕方がないかねぇ……」


 一応は俺達にちゃんとした理由があり、おりょうさん自身が里の外に出る用事も無いので、どうやら納得してくれたようだ。


「そういう訳だから、黒ちゃん、白ちゃん、お使い宜しくね」

「おう!」

「任せてくれ」


 二人共食べる手を停めて、俺に返事をしてくれた。


「ブルムさん。そういう訳ですので、京にお供します」

「私としてはありがたいですが、申し訳ないですなぁ」

「ブルム殿は余と兄上がお護り致しますので、大船に乗った気分でいて下さい!」


 立ち上がった頼華ちゃんは、自分の胸をドンと叩いた。


「ははは。これは頼もしい」

「……」


(各地を遍歴してるブルムさんに、護衛が必要だとは思えないけど……)


 頼華ちゃんがやる気になっているし、ブルムさんも乗り気な様子を見せてくれているので、俺の方で敢えて水を差すような事はしないでおく。


「御馳走様でした」


 俺は手早く残っていた朝食を食べ終わり、食器を重ねて立ち上がった。


「良太。そんなに急いでどうしたんだい?」

「お使いに行ってくれる黒ちゃんと白ちゃんに持っていって貰う、手紙を用意しようと思いまして」

「ああ、そういう事か……そいじゃ片付けはあたしがやっとくから、さっさと行きな」


 察しのいいおりょうさんは、俺の意図を汲んでくれた。


「すいません。なんか伊勢でお土産でも目についたら、買ってきますから」

「そんな、あたしに気を使わなくていいんだよぉ。だって、その……つ、妻なんだから」

「っ! で、でも、なんか目についたら、買ってきますね!」

「むぅ……」


 俺とおりょうさんの、ままごとみたいなやり取りを、面白く無さそうな顔で見ながら頼華ちゃんが小さく唸った。


「じゃ、じゃあブルムさん。少し出掛けるのは、お待ち下さいね」

「わかりました」


 頼華ちゃんからの視線にいたたまれなくなった俺は、ブルムさんに言い置くと逃げるように食堂を後にした。



「それじゃこれは黒ちゃんに」

「おう!」


 出発の準備を終えて里の出口近くに集まった俺達は、最期の打ち合わせを始めた。


 俺達の周囲には、おりょうさんと子供達、夕霧さんとレンノールが見送りに来てくれている。


 黒ちゃんには鎌倉の源家と、藤沢の正恒さんの家に行って貰う事にした。


 渡したのは頼永様と雫様への衣類と、前回に要望された蜘蛛の糸を用いた糸と綱、そして漁網だ。他には源平碁の試作品も一組作っておいた。


 したためた手紙には近い内に頼華ちゃんを帰省させるという事と、生産が順調ならば塩を買い入れたいという旨を記しておいた。


 藤沢の正恒さんの分は、作業中に使える衣類一式と厚手の手袋だ。


「これが白ちゃんの分ね」

「承知した」


 白ちゃんには江戸の徳川家の家宗様、鰻屋の大前の嘉兵衛さん、薬種問屋の長崎屋さん、萬屋(よろずや)のドランさんの分の衣類を預けた。


 家宗様と長崎屋さんには源平碁の試作品も持って行って貰い、家宗様には牛乳を、長崎屋さんには香辛料を譲って欲しい旨を手紙に書いておいた。


「二人共、急ぐ必要は無いからね? なんなら泊まってきても構わないから」


 明るい黒ちゃんはともかく、クールビューティーの白ちゃんも不思議と江戸で見知っている人達には受けがいいので、誰か引き留めようとするだろうからと思って許可を出しておく。


「まあ、親父殿に言われたらそうするか……」

「あたいも、鎌倉と正恒の用事済ませたら、ドランのとーちゃんのとこ行っていい?」

「勿論いいよ」


 二人にはそれぞれ、何があるかわからないので購入資金とお小遣いという事で、銀貨を十枚ずつ渡しておく。


「それじゃ、二人に限っては何も無いと思うけど、気をつけて」

「おう! むぎゅーっ!」

「ちょ!? 黒ちゃん!?」


 妙な擬音を口にしながら、黒ちゃんが俺に抱きついてきた。


「む。では俺も」

「白ちゃんまで!?」


 一見すると無表情のまま、白ちゃんも黒ちゃんに負けじと俺に抱きついてきた。


 しかし長い付き合いの俺には、ほんの僅かではあるが、白ちゃんの口角が上がっているのがわかった。


「「「黒姐様、いってらっしゃーい!」」」

「「「白姐様、いってらっしゃーい!」」」

「「「主人ー! いってらっしゃーい!」」」

「みんな、少し落ち着こうね!?」


 黒ちゃんと白ちゃんの行動に触発されたのか、子供達が津波のように俺達に押し寄せてくる。


「いってらっしゃぁーい」 

「夕霧さんまで便乗しちゃって……」

「んもー。いいじゃないですかぁ♪」


 俺が嗜めても無礼講と言わんばかりに、夕霧さんまでもが抱きついてきた。


「お前達もか……」

「最近、主人が冷たいから、機会を逃したくないのですわ!」

「……いけませんか?」


 紬と玄が、遠慮がちに近づいてきたので、苦笑しながら頭を撫でてやると、二人共仔猫みたいに目を細めた。


「……気をつけてね?」

「行ってきます。って、なんで一生の別れみたいな雰囲気になってるんですか?」


 みんなが落ち着いたところで、最後に歩み寄ったおりょうさんが、そっと俺の腕に触れて送り出してくれた。


「だってぇ……みんなが出掛けてあたしだけ留守番てのは、初めてだよ?」

「まあ、そうですね」


 おりょうさんと頼華ちゃんは、単独行動にならないように必ず俺か黒ちゃんか白ちゃんが、傍にいるように気をつけてきた。


 それでも里の霧による防御機構のによって、各自が分断されてしまったのだが……。


「ここにいる限りは安全ですから、俺も安心して行ってこられるんですから」

「わかってるんだけどぉ……でも、早く帰っておいでね?」

「う……わかりました」


 指先で俺の腕をグリグリしながら、上目遣いにおりょうさんにお願いされてしまっては、拒否する事など出来る訳が無い。


「えー……鈴白さん。良い雰囲気のところ申し訳ありませんが、そろそろ出発しませんか?」

「っ! そ、そうですね! 行きましょうか!」


 呆れたような口調でブルムさんに言われ、俺は声を裏返らせながら返事をした。


「そうです! 兄上、早く参りましょう!」

「おう! 御主人、行くぞー!」


 今まで静観していた頼華ちゃんと黒ちゃんが、不服そうに頬を膨らませながら俺の腕を取って歩き始めた。


「え? ちょっと、頼華ちゃん!? 黒ちゃん!? じゃ、じゃあみんな、行ってきます!」

「「「いってらっしゃい」」」


 力負けはしないのだが、別に逆らっても仕方がないので、二人に連行されながら顔を後ろに向け、おりょうさんや子供達に別れを告げた。


 俺達の後をブルムさんと白ちゃんが、苦笑しながら付いてくる。 

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