来訪者
「おりょうさん。蕎麦の製粉なんかに使うのに、水車を作ろうかと思うんですが」
「ああ。もしかしてその為の木なのかい?」
「他にも使い途はあるんですけど、そうです」
水車小屋が作れる程度の木材は手持ちで間に合うのだが、各施設に置く棚類などを考えると足りなくなる。
「水車は頼華ちゃんが戻ってから設置するとして……」
「鈴白さん。言い遅れましたが竹の追加を持ってきました。あと鉄もです」
さて何をしようかと考えていたのだが、レンノールが素材を持ってきてくれたらしい。
「里を出たところに置いてあります」
「じゃあ取りに行きましょうか」
「そうだねぇ」
竹と鉄の総量が不明なので、三人揃って里の出口に取りに行く事にした。
「これは随分と沢山持ってきてくれたんですね」
束ねてある長い竹は、三十本くらいはありそうだ。
「鉄は用途がわかりませんでしたので、銑鉄と鋼をそれぞれ十キロずつ用意しました」
「あ、これは気を使って頂いて」
刀剣などの強靭さが求められる物には鋼を用いるが、生活用品などには加工のし易い銑鉄を使うのが一般的だ。
当然ながら、普通なら銑鉄の方が使う割合は多いのだが、里はゼロからスタートしているので、今の段階では鋼で製作する物も少なくない。
(鉄はもっと欲しいけど……これだけの量でも、山の中から運んでくるのは大変か)
レンノールには福袋のような運搬手段は無さそうなので、あまり多くを求めてはいけないだろう。
「ところでこの鉄ですが、お幾らくらいお渡しすれば?」
製品になっている包丁などは店で見た事があるが、加工前の銑鉄と鋼が幾らくらいなのかは、俺には見当もつかない。
「そうですね……それぞれ銀貨三十枚というところでしょうか」
「それは、かなりお安いのでは?」
雑器用の銑鉄はともかく、刀にも使える鋼がキロあたり銀貨三枚というのは、相場を知らない俺でも破格な気がする。
「ははは。原料は全て山で調達しますので、ほぼタダみたいなものですから。価格は純粋に手間賃ですね」
確かに原料の砂鉄は川から採集するし、木炭も山の木を伐採して作るのだが、たたら製鉄によって形になるまでに膨大な時間と手間が掛かるので、収益に換算するのは難しいのかもしれない。
「でしたら、もっと金額を高くしても……」
安い分には有り難いのは確かだが、隣人とも言える人達の財政を圧迫するのは心苦しい。
「その辺は、前に鈴白さんが仰ってた、ここを交易の中継点に使わせて頂ければ、すぐに元は取れますので」
「そうかもしれませんけど……」
この里を鉄や鋼の交易の窓口にすれば、レンノール達にとっても助かるというのはわかるのだが、それにしたってこちら側に益が多いように感じる。
「実のところ、季節によっては山の恵は多くなり過ぎるので、そういった物をこちらに卸して、お互いに共存繁栄出来ればと思っています」
「ああ、成る程……」
特定の時期になると、大量に採れ過ぎて困る類の物というのが存在する。例えば山だと春の筍や山菜、秋のキノコなどである。
あまり保存や加工の技術は発達していないようなので、畑などで栽培されている作物に関しても、収穫の時期には同じ野菜が連日食卓に並ぶ事も少なくないのだろう。
食卓に並ぶ物から季節感を味わえるというのは、有り難い事なのかもしれないが、これが連日になってくると……レンノールの言いたいのはそういう事のようだ。
「山菜やキノコの中には、入手困難な物も少なくありませんが、我々にとっては食べ飽きている場合もありますので」
「まあ、そうでしょうね」
例えば松茸にしても、連日食卓に並べば有り難みも少なくなるだろう。しかし街中では珍重されるのだ。
「そんな物を利益に出来ますし、こちらで必要な物の調達もして下さるんでしょう?」
「その予定です。円滑に事が運べば、ですけど」
交易に関する金銭や物品の管理などは子供達だけではどうにも出来ないだろうから、暫くは俺達で手伝って軌道に乗せようと考えている。
しかし俺や頼華ちゃんは、店の手伝いはした事はあっても金勘定となると素人なので、この辺はおりょうさんを頼りにするしか無い。
(後はあの人が来てくれれば……ん?)
「良太」
「誰か来たみたいですね」
里を護る霧の発生する辺りを、行ったり来たりしている人の反応がある。俺と同じく管理権限を持つおりょうさんも、どうやら気がついたみたいだ。
「ここにいて下さい。俺が様子を見てきます」
「良太、あたしも」
俺が里の外へ向かおうとすると、おりょうさんもついてこようと歩み出してきた。
「おりょうさんは、万が一に備えてて下さい」
俺は軽く身振りで、動き出そうとしたおりょうさんを制した。
「で、でも!」
俺の身を案じてくれているのか、おりょうさんが食い下がってくる。
「頼りにしてますから」
「う……わ、わかったよぉ」
心配をさせないように笑顔で語り掛けると、何故かおりょうさんが顔を赤くしている。
(いざとなったら、里の中に逃げ込めばいいんだしな)
とりあえず来訪者は、霧の護りを自力突破出来無さそうだから、然程の脅威では無いだろう。楽観は禁物だが。
里と外との境界である霧の中に踏み出すと、ぼんやりと浮かび上がる人影があった。
小柄なので迷子の子供かと思ったが、その人影はガッシリとした体格で、鍛えられた大人の男性を縦方向に圧縮したような、異様な等身をしている。
「……もしや、ブルムさん?」
「おお! やっと再会出来ましたな、鈴白さん!」
独特の体型なのも当たり前で、霧の中から歩み寄って来たのは、那古野で知り合ったドワーフの商人、ブルムさんだったのだ。
「これはまた……少し伺った話からは、何も無い寂れた場所を想像してましたが、なんとも立派ではないですか」
里の中に招き入れたブルムさんが、キョロキョロと物珍しそうに周囲を見回している。
「まあ……その辺は、後で説明します」
里の説明を一言でするのは難しいので、腰を落ち着けてからまとめて話す事にした。
「良太、お知り合いかい?」
「ええ。那古野で知り合った商人の方です」
俺の無事な姿と、ブルムさんと親しげに話す様子を見たのだろう、おりょうさんがレンノールと一緒に近づいてくる。
「お初にお目に掛かります。りょうと申します。良太がお世話になったそうで」
おりょうさんが品良く、ブルムさんに挨拶をする。
「おお、これはお綺麗なお嬢さんだ。こちらこそはじめまして。商人のブルムと申します」
おりょうさんが綺麗なのはその通りなのだが、さすがブルムさんは商売人だけあって口が上手い。
「む? そちらの方はもしや……」
「はじめまして。ええ、御推察の通り、エルフのレンノールと申します。そちらももしや?」
「はじめまして。ドワーフのブルムです」
(……友好的、だよな?)
エルフとドワーフが仲が悪いという定説の発端はどこだったか知らないが、お互いに会釈しあっているレンノールとブルムさんの間に、特に険悪な空気は感じない。
「えっと……こちらのおりょうさんは、俺が将来を約束した人でして……」
自分からこういう事を説明するのは気が引けるのだが、後からだと余計に面倒な事になると思ったので、最初にブルムさんに話した。
「それはそれは。めでたい事ではないですか!」
「まあ……ありがとうございます」
「……」
適当な返事をブルムさんに返すと、俺に寄り添ってきたおりょうさんが、頬を染めながら服の袖を掴む。
「鈴白さん。頼華殿が不在なのが残念ですね」
「あー……でも、そろそろ」
「兄上ー! 木を切って参りましたよ!」
噂をすれば。良い木を持って帰れたのか、頼華ちゃんが意気揚々と歩いてきた。
「おや、お客様ですか? はじめまして! 頼華と申します!」
さすがはお姫様だけあって、頼華ちゃんの挨拶には元気な中にも気品を感じられる。
「ブルムです。鈴白さんには那古野でお世話になって、図々しくもここまでやって参りました」
「おお! ではもしや、玉蜀黍などの珍しい食材を提供してくれた御方では!?」
那古野でブルムさんから仕入れた食材には、赤茄子や玉蜀黍などの特徴的な物が多かったので、頼華ちゃんの印象に強く残っていたのだろう。
「その通りですが……お気に召しましたか?」
「ええ、凄く! 無論、食材を兄上が最高の料理に仕上げてくれたからこそ、ですが!」
「兄上? こちらは鈴白さんの妹君で?」
(顔貌が似てるわけじゃ無いしなぁ……)
頼華ちゃんが俺を兄と呼んでいる事に、ブルムさんが戸惑っている。
「本当の兄妹という訳では無くてですね、兄と慕ってくれているんです」
「ああ、そういう事ですか」
俺の説明で、ブルムさんは納得の顔になった。
「ところで姉上は、どうして兄上の服を掴んでいるのですか?」
「えっ!? こ、これはねぇ……」
頼華ちゃんからの質問に、おりょうさんが狼狽している。しかし掴んだ袖は離さない。
多分、おりょうさんの行動はナチュラルな物なので、上手く説明が出来ないのだろう。
「頼華殿はりょう殿の妹君で?」
「えーっと……それも違うんですけど」
だんだんと説明がややこしくなってきた。
「でも、もうじき本当の妹になります!」
「えっ!?」
「……」
頼華ちゃんの言葉にブルムさんが目を見開き、おりょうさんは更に強く俺の袖を掴んでくる。
(……第一夫人と第二夫人は、姉妹になるのかな?)
半ば現実逃避をしながら、俺は心の中でそんな事を考えていた。
「なんとまあ、頼華殿も鈴白さんの許嫁とは……」
場所を厨房に移し、湯呑の置かれた作業台を挟んで、やや複雑な人間関係をブルムさんに説明した。
「ははは……今後は俺同様、二人の事も宜しくお願いします」
「「……」」
俺が頭を下げると、右隣のおりょうさんは相変わらず羞恥に頬を染めたまま、左隣の頼華ちゃんは堂々たる態度で、揃って頭を下げた。
「ところで鈴白さん、那古野でお会いしたお嬢さん二人と、女の子と男の子はいらっしゃらないので?」
那古野で引き合わせた四人の姿が見えないのを不審に思ったのか、ブルムさんが尋ねてきた。
「黒ちゃんと白ちゃん、紬と玄は、今は京に行ってます」
「他にも子供さんがいるというお話でしたが、その子達もですか?」
「ええ。てっきりブルムさんも、京の池田屋の方に来るとばかり……」
里の所在地も教えてはおいたが、霧のおかげで正確な場所を説明する事が出来なかったので、まさかブルムさんがこっちの方に来るとは思っていなかった、というのが俺の本音だ。
「陸路で移動すると、京よりもこちらに直接伺った方が早かったので」
「ああ、そういえばそうでした」
俺達が伊勢からの移動に使ったのと同じルートを使うと、琵琶湖畔から京へ向かう事になるのだが、都の中心部よりは少し北上した位置にある里の方が、確かに距離的に近い。
「ところで、話は変わりますが……」
ブルムさんは荷物の中を漁りだして、何かを探している。
「お預かりしたこちら、染め物の職人に試させてみましたが、どうやら大丈夫なようです」
ブルムさんが取り出したのは俺がサンプルに渡しておいた、少し質の落ちる蜘蛛の糸の布だった。
「おお! これは凄い!」
白無地だった布には、鮮やかな花の柄が描かれたり、絞り染めされたりしている。
「この品質の布ならば、ちゃんと染まるという事ですね?」
「ええ。職人に言わせれば、絹よりは強度があるし滑らかなので、扱いは楽だという事ですよ」
「そうですか……布の出処に関しては?」
布が染められる事がわかってホッとしたが、出処を詮索されると、里とそこに住まう子供達の事を知られてしまう。
いずれは知られてしまうにしても、出来るだけ時間を掛けて世の中に浸透させ、元は妖怪だとしても害は無いという事を、人々に理解して貰わないと子供達の身が危ない。
「あ、そうだ。話の途中ですけど、これ、ブルムさんとレンノールさんへ差し上げます」
「なんですか?」
「なんでしょう?」
疑問顔の二人の前に、普段着ている服の複製品と肌着を三セット、風呂敷代わりの無地の布に包んだ状態で置いた。
「これは……な!? なんという軽さ!?」
「むぅ……この肌着の、腰回りの伸縮する素材は!?」
早速包みを開いて、中の衣類を取り出して各部のチェックをしながら、ブルムさんとレンノールが唸っている。
「今の所、俺が出来る最高品質で作り上げました。良ければ役立てて下さい」
ブルムさんとレンノールの反応は微妙に違うが、概ね気気に入っては貰えたみたいだ。
「し、しかし! これは驚くべき価値を持っていますよ!?」
「鈴白さん、あんまり御自分の技術を安売りするのは……」
「レンノールさんとブルムさんの分だけじゃ無く、お世話になった方々、それぞれの分を作ってありますから。例えばこんなのを……」
俺は説明しながら二つの包みを取り出して開き、中に入っていた男性用と女性用の和装の一揃えを示した。
「もしかして、遅くまで作ってたのはこれかい?」
「ええ、まあ……」
これが寝坊の原因なので、おりょうさんに問われて声が小さくなってしまった。
「兄上。もしやこれは、余の父上と母上のですか?」
「うん。政務の時に着てくれたら、危険が少なくなると思ってね」
まさか領地の鎌倉での政務の最中に襲われるような事は無いだろうが、外交に出向く事などもあるだろうから、そういう際の安全策にと考えて、普段着では無い衣類にした。
「あ、兄上……そこまで父上と母上の事を……」
「まあ、ね……義理の父親と母親になってくれる人達だし、ね」
頼華ちゃんのように側にいて護ってあげられない、なんて俺が偉そうな事を考えなくても、武人として強い御二人なので心配は無いと思うのだが、念には念をだ。
(……まだ直接、許可を得た訳じゃないけど、大丈夫だよね?)
俺にその気が無かった時期に、頼永様と雫様は頼華ちゃんを娶るように積極的に話を持ち掛けてきたのだが、いざとなったら反対、なんて事は無いと信じたい。
「鈴白さん、早速着させて頂きたいのですが、どこか着替えの出来る場所をお借りできますか?」
お気に召したのか、ブルムさんがやや興奮気味に俺に訊いてくる。
「今は俺達しかいないので、どの建物でも使って頂いて構いませんけど……どうせなら風呂で、汗を流されてから着替えては?」
「ああ、そりゃいいねぇ」
少し落ち着いたのか、おりょうさんが頷きながら同意を示してくれた。
「ここには風呂があるのですか?」
「ええ。後で説明しますが、住人の数が多いので造りました」
ブルムさんが相手なら、管理権限者によるコンストラクトモードに関して話しても大丈夫だろう。
「兄上! 余が御案内して参ります!」
「そう? じゃあ俺はその間に、昼の支度をしようかな」
俺が立ち上がりかけたら、頼華ちゃんが案内を申し出てくれた。
「お任せ下さい! ではブルム殿、こちらです!」
「それでは有り難く使わせて頂きます」
「鈴白さん、私も宜しいですか?」
「どうぞ御遠慮無く」
頼華ちゃんの案内で、ブルムさんとレンノールは浴場へ向かった。
「ブルムさんとレンノールさんがいるから、昼は洋風にしましょうか」
「いいんじゃないかい。あたしも支度を手伝うよ」
おりょうさんが腕まくりをしながら立ち上がった。実に頼もしい。
「只今戻りました!」
二人を風呂に送り届けた頼華ちゃんが、厨房に戻ってきた。
「兄上、姉上! 余もお手伝い致します!」
「そう? じゃあこれに、油を少しずつ入れながら掻き混ぜてくれる?」
揚げ物用のソースにと思い、その前の段階のマヨネーズ作りを頼華ちゃんにお願いした。
「お任せ下さい! うぬぬぬぬ……」
「そんなに力いっぱい掻き混ぜなくてもいいからね?」
電動のハンドミキサーでも無ければ、手で撹拌するマヨネーズ作りは中々重労働なのだが、頼華ちゃんなら大丈夫そうだ。
「ぱんをこういう風に使うんだねぇ……」
揚げ物を任せたおりょうさんは、パンをほぐして作ったパン粉を、捕ったばかりのイワナの切り身にまぶしながら、不思議そうな顔で呟いた。
「今日は魚ですけど、本当は猪の肉を揚げる時にもこれを使うと、歯応えのいい食感に仕上がるんですよ」
「そりゃ旨そうだねぇ」
猪カツの載った咖喱が好物のおりょうさんは、俺の説明で食欲を刺激されたのか、小さく出した舌で唇を舐めた。
「近い内に作りますよ」
「うん! 楽しみにしてるよ!」
(本当に好きなんだな……)
おりょうさんは期待感に満ちた、凄くいい笑顔をしている。
「五人分だから……これでいいな」
眼の前の料理に意識を戻し、パン粉を少量入れた鹿の挽き肉に、微塵切りにしたラードと炒めた玉ねぎを加えて捏ね、楕円形では無く円形にして五枚作った。
「兄上、こんな物で宜しいですか?」
頼華ちゃんの撹拌していたボールの中身は完全に混ざり、白く滑らかになっている。
「うん、上出来だね。後はこれを加えて、軽く混ぜてくれたら完成だよ」
水に晒した微塵切りの玉ねぎと、細かく潰した茹で卵を加えて混ぜれば、自家製タルタルソースの完成だ。
「じゃあ俺の方も仕上げを」
鉄の平鍋に丸めた肉を並べ、やや高めの温度で焼いていく。同時に別の鍋では、人数分の卵を焼き始めた。
「これは、この間食べた料理ですか?」
数日前に食べた目玉焼き載せのハンバーグを覚えていた頼華ちゃんが、鍋を覗き込みながら訊いてきた。
「似てるけど、ちょっと違うかな? 出来てからのお楽しみだよ」
「はい! 楽しみです!」
朝からしっかり食べているのに、恐るべし頼華ちゃんの食欲である。
「タレを絡めて、こっちは良し、と」
焼き上がったハンバーグにテリヤキソースを絡め、焼台から下ろすと、網を置いて輪切りにした丸パンを並べた。
「戻りました。いやぁ、素晴らしい風呂ですな!」
「戻りました。まったく、何度入っても気持ちのいい風呂です!」
ブルムさんとレンノールが、上機嫌な様子で風呂から戻ってきた。
「風呂も良かったですが鈴白さん、この素晴らしい衣類は、本当に頂いても宜しいんですか?」
「それは私も思っていました。これは見た目は普段着ですが、その実は伝説に語られるような人物や、王侯が着るような服ですよ?」
「そんな大袈裟な……」
諸方を遍歴しているブルムさんや、永い時を生きているレンノールの評価が高いのは嬉しいが、幾ら何でも褒め殺しだ。
「いやいや。この服でしたら密林でも砂漠でも、肉体を保護してくれるでしょう」
「自然だけでは無く、様々な外敵からの攻撃も防いでくれるでしょう。顔を保護する覆面を用意して下さったら、竜の炎にすら耐えられるのでは?」
「そんな馬鹿な……」
耐熱や耐寒が付与されているとは思うが、所詮は夏や冬を快適に過ごせるという程度だろう。幾ら何でもドラゴンのブレスは……。
「なまじな鎧よりは強度がありそうですから、重たい装備を着けないで済むでしょうな」
「その分だけ俊敏に動けますから、まともに攻撃を受ける必要はありませんね」
「それならわかりますけど……」
蜘蛛の糸の服に強度があって、仮に本当にドラゴンの炎を受けても大丈夫だとしても、まともに喰らえば無事では済まないだろう。
防御力は高いがガチガチに固めた鎧とは違い、軽量の蜘蛛の糸なら避けるという選択肢を取れる、という事ならば理解出来る。
「しかしこんな凄い装備を着けると、若い頃を思い出して、冒険に出たくなりますなぁ……」
「私もですよ……」
ブルムさんとレンノールが、遠い目をしている。




