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飛行訓練

「ん……な、なんか、身体がふわっとするねぇ……」

「もしかして気分が悪いとかですか?」


 顔色は変わらないが、長湯で火照った時のような表情をおりょうさんがしたので、少し心配になって尋ねた。


「あ、そういう訳じゃ無いんだよ。上手く言えないんだけど、なんかこう……身体の中から力が湧き上がってくるみたいな」


 おりょうさんは自分の手を見つめ、何かを確かめるようにギュッと握り締めた。


「余も同じような感じです」


 特に不調という事では無さそうだが、頼華ちゃんもどことなく違和感があるようで首を傾げている。


(能力とかスキルが開放がされたのに、実際にはそこまで達していないからという理由での違和感かな?)


 開放されている能力やスキルが、実際にはまだ使った事が無かったり、使える物でも大幅に範囲が広がったりしたので、精神と身体がビックリしているのかもしれない。あくまでも推測だが。


「畑仕事の前に、少し練習をしてみましょうか」


 どの程度やるかまでは決めていないが、翼を使っての飛行などは危険も伴うので、俺が一緒にいる時にやっておいた方がいいだろう。


「そうだねぇ」

「是非! 剣術と炎や雷の組み合わせを試してみたいです!」

「……程々にね?」


 おりょうさんが俺の提案に同意してくれたのは、新たな能力に慣れる為だと思うのだが、頼華ちゃんの方はもっと積極的に戦闘に役立てようとしているみたいだ。


(少し注意しないとな……)


 俺も人の事は言えないが、戦闘が関連すると頼華ちゃんはやり過ぎる可能性がある。



「この辺でいいかな」


 朝食の後片付けをした俺達は、里の北の端の果樹を植えてある辺りにやってきた。


 果樹の前には、まだ何も植えられていない耕作地が広がっているだけなので、仮に何か起こっても被害は少なく収まるだろう。


「先ずは部分变化(ぶぶんへんげ)を試してみましょう。最初は……黒ちゃんの虎の脚からかな」


 いきなり背中側の翼だと、感覚的にもイメージ的にも難しいだろう。


「こうです」


 俺は右手を部分变化(ぶぶんへんげ)させ、引っ込んでいた爪を伸ばしてみせる。


「こ、こうかい?」

「出来ました!」


 俺よりも手が小さいので当たり前と言いたいところなのだが、サイズがどうとかよりも、おりょうさんも頼華ちゃんも、なんか可愛らしいデザインにアレンジされている気がする。


(黒ちゃんのはもっと猛々しい、野生の虎の前脚そのまんまだったけどなぁ……)


 辛うじて虎の縞模様は变化(へんげ)した毛皮に現れているのだが、言われなければ虎猫の脚のように見える。


「えーっと……爪は出せますか?」

「こ、こう?」

「こうですか?」


 一応、二人共爪の出し入れは問題無さそうだ。やはり虎というより猫っぽいので、戦闘に使うとかになると少し不安を感じるが。


(この辺はイメージの問題かなぁ)


 おりょうさんも頼華ちゃんも、実際の虎なんか見た事が無いだろうから、頭の中でイメージするのに限界があるのかもしれない。


「それじゃ次は翼ですけど……おりょうさんも頼華ちゃんも、一度見てますよね?」


 浦賀から舟に乗る際に、海に落ちそうになったおりょうさんを、俺が翼を生やして助けたのを頼華ちゃんも見ていた。


「こういう風に……」


 二人に背を向けてから、俺は翼を展開した。


「……何度見ても不思議な光景だねぇ」

「御使様のようです!」


不思議なのは間違いないのだが、頼華ちゃんのように目を輝かせながら見られると照れる。


「じゃあ二人共やってみて下さい」

「ん……で、出来てるかい?」

「んしょ……出てますか?」


 おりょうさんも頼華ちゃんも、自分の背中を見ようとして見えないので、勢い余ってその場で半回転している。


「っくく……」

「おお! 姉上! 綺麗な羽が生えておりますよ!」

「おやまあ。頼華ちゃんも綺麗だねぇ」


 自分の背中を見ようとして苦心している二人の姿を眺めながら俺が笑いを堪えていると、お互いを見合えばいいと気がついたらしい二人は向かい合わせになって、羽を引っ張ったり撫でたりしている。


(……二人共、天使みたいだな)


 無邪気な笑顔で仲睦まじく互いの羽を撫でたりしている二人の姿は、地上に舞い降りた天使のように見える。

 

「じゃあ今度は飛んでみましょうか。先ずはおりょうさんから」

「う、上手く出来るかねぇ……」


 俺が両手を取ると、おりょうさんは緊張感を顕にしながら固唾を呑んだ。


「いざとなったら俺が支えますから、そんなに緊張しないで下さい。こう背中から、(エーテル)を少しずつ吹き出すように頭に思い浮かべて……」


 おりょうさんに言い聞かせながら、俺は翼から(エーテル)を噴出させて、三センチくらいの高さでホバリングする。


「ん……で、出来てるかい? って、きゃっ!?」

「おっと!」


 元々は存在しない身体器官なので加減を間違えたのか、ふわりと浮かび上がるのでは無く、一気にブワッと噴出した(エーテル)によって急上昇しそうになったおりょうさんを、掴んだ手を引いて地上に留めた。


「大丈夫ですか?」


 加減が出来なかった事もだが、一気に(エーテル)」が噴出したので、おりょうさんが消耗していないかという意味でも尋ねた。


「だ、大丈夫だよ。ちょっと驚いちまったけどね」

「んー……絞って浮かぶだけの方が難しいのかな。おりょうさん。俺が手助けするから、好きに飛んでみて下さい」


 自転車と同じで、低速の方がテクニックが必要そうだと思ったので、おりょうさんには好きな噴射量で飛んで貰って、俺がフォローする事にした。


「消耗を感じたら教えて下さいね」

「わかったよ」

「それじゃ失礼します」

「りょ、良太っ!?」


 羽が邪魔になるので正面から、脇から手を入れて抱きしめると、おりょうさんが真っ赤になって声を上げた。あくまでもフォローの為なのだが……。


「……ちゃんと抱いてないと、落としちゃいますから」

「そ、そうだねぇ……」


 理由は説明したのだが、抱き締めているおりょうさんから、早い鼓動と高い体温が伝わってくる。


「むー……兄上! 後で余にもやって下さるんですよね!?」

「……当たり前でしょ?」


 空中で二人を一度にフォローするのは難しいので、先ずはおりょうさんから始めただけで、別に頼華ちゃんを仲間外れにしている訳では無いのだが、納得していない表情をしている。


「それじゃあ、いつでもどうぞ」

「う、うん。行くよ!」


 さっき程の勢いでは無いが、それでもフワッと言うよりは、スーッと宙に浮き上がった。


 おりょうさんの飛行の負担にならないように、俺も(エーテル)を噴出させているが、方向転換などの邪魔をしないように、最低限浮かび上がる程度の出力を絞っている。


「ほ、本当に自分の力で飛べるんだねぇ」


 五メートルくらい浮き上がり、果樹の頂きが上から見下ろせるくらいになったところで、おりょうさんは不思議そうに呟いた。少し要領が掴めたのか、一点でホバリングしている。


「疲れていませんか?」

「大丈夫だよ」


 無理をしている感じはしないので、本当に大丈夫そうだ。


「じゃあ俺は手を離しますから、一人で飛んでみて下さい」

「ええっ!? ひ、一人でかい!?」

「俺はおりょうさんの下側を飛びますから、安心して下さい」


 五メートル程度でも落ちれば只では済まないので、いきなり突き放すような事をするつもりは無い。


「じゃあ、離しますよ?」

「う、うん……」


 徐々に身体を後退させていく俺に、少し不安そうな表情だったおりょうさんの手が、遂に離れた。


「何かあったら絶対に助けますから、自由に飛んでみて下さい」


 少しずつ高度を下げ、おりょうさんの下側のポジションについた。


(……作務衣にしておいたのは賢明だったな)


 何気無く下側のポジションを取ったが、おりょうさんが昨日までの着物姿だったら大変に眼福……もとい、目に毒な状況になっていたところだ。


「……よぉし! えいっ!」


 どんっ!


「……え?」


 一気に空気が圧縮されたのか、ちょっとした爆音と言ってもいいくらいの派手な音を立てて、おりょうさんがロケットのように高空に飛翔した。


「無茶するなぁ……」


 フォローを宣言した俺は、翼から(エーテル)を噴出させて後を追った。


(思いっきりが良過ぎだろ)


 俺は苦笑しながら、まだ上昇を続けるおりょうさんを追った。既に高度は千メートルを超えていると思える。


(どこまで上昇する気なんだろう……)


 翼から(エーテル)を噴出するさせながら上昇を続けるおりょうさんは、まだ停まる気配が無い。


「ふわぁ……なんて景色なんだろう!」

「おりょうさん、あんまり無茶しないで下さいよ……」


 推定で二千メートルまで上昇したところで、おりょうさんはホバリングしながら景色を眺め、目を丸くしている。


(俺もこの高さまで上がったのは初めてだけど、絶景だな)


 那古野に行くのに飛行した際でも、五百メートルくらいまでしか上昇しなかったので、ここまでの高さから地上を見下ろすのは初めてだ。


「あれは琵琶湖かねぇ」

「そうですね……でかいなぁ」


 高所なので向こう岸が見えるから湖だとわかるのだが、場所によっては水平線が見えるくらい広いのが琵琶湖だ。


「そろそろ下りませんか? これくらいの高さだと空気も薄いですから」

「そうなのかい?」

「ええ。富士山なんかは人によっては、頂上まで行けない場合もありますから」


 この辺は個人差もあるし、予め加護でも受けておけば大丈夫なのかもしれないのだが、用心に越した事は無い。


「そいじゃ下りようかねぇ。良太、手を取ってくれるかい?」

「ええ。喜んで」


 俺が両手を取ると、おりょうさんは嬉しそうに微笑んでくれた。少しずつ高度を下げていく。


「姉上! 兄上! いきなり凄い勢いで飛んでいってしまったので、驚きましたよ!」

「御免よ頼華ちゃん。ちょいと調子にのっちまったねぇ……っと」

「おっと! 疲れましたか?」


 両足で地面を踏んだと思ったらおりょうさんがよろけたので、軽く手を引いて抱きとめた。


「あ、ありがと……暫く地面を踏んで無かったから、ちょいと感覚が狂っただけだよ」

「そうですか」


 (エーテル)の消耗が激しいとかなら供給する必要があるが、そうでは無いと聞いてホッとした。


「大丈夫とは言っても疲れたでしょうから、おりょうさんは座って休んでて下さい」


 俺は手早く五十センチ四方くらの布を織って、おりょうさんに手渡した。


「ありがたく使わせて貰うよ」

「そういえば二人共、糸も布も出せるようになってますよ」

「そうなのかい?」

「そうなのですか?」


 俺が言うと、おりょうさんと頼華ちゃんは自分の指先をじっと見ている。


「でも糸を出すにも(エーテル)を使いますから、休憩中はやめといて下さい」

「うっ……わ、わかったよぉ」


(俺が言わなければ、やる気だったな……)


 軽く言葉に詰まったところを見ると、おりょうさんは俺と頼華ちゃんが飛び立ったら、糸繰りを試す気だったみたいだ。


「本当に、休んでて下さいね?」

「んもう! わ、わかったってばぁ!」


 頼華ちゃんを抱き寄せながら俺が念を押すと、おりょうさんが可愛らしく頬を膨らませた。


「それじゃ頼華ちゃん、準備はいい?」

「は、はい!」


 普段は物怖じしない頼華ちゃんだけど、足の踏み場の無い空中という事で、少し緊張気味だ。


「それじゃ俺が支えるから、好きに飛んでごらん」

「はいっ! むぅ……」


 戦闘などで(エーテル)を使う事に慣れている所為か、頼華ちゃんはゆっくりと上昇を始め、たまにホバリングで静止しながら様子を見たりしている。


「飛べるというのは凄いですね! 兄上や白は、いつもこのような景色を御覧になっていたのですね!」

「いつもって程じゃ無いけどね」


 白ちゃんはわからないが、俺は界渡りの時くらいしか飛行はしていない。


「義経様も、かつてはこのような景色を見ていたのでしょうか?」

「どうなんだろうね……」


 天狗と言われた鬼一法眼(きいちほうげん)に師事したという、牛若丸こと源義経だが、八艘飛びのエピソードは有名ではあるが、空を飛べたのかまではわからない。


(でも弁慶と戦った時の驚異的な跳躍力とか、元の世界でも超常的なエピソードの多い人だから、こっちの世界では空くらいは飛んだかもなぁ)


 何せ鵺が本当にいるくらいなので、術か加護で飛行出来る人間くらいはいても不思議では無いだろう。


「じゃあ離れるから、頼華ちゃんの思い通りに飛んでみて。でも、おりょうさんみたいな無茶はしないでね?


「うっ! わ、わかりました!」


(……やる気だったのか)


 おりょうさんを好いている頼華ちゃんなので、どうやらさっきの垂直上昇をお手本にするつもりだったみたいだ。


「で、では兄上、空中で軽く手合わせ願えませんか?」


 どうやら頼華ちゃんは、空中でどれくらい自在に動けるかの検証がしたいみたいだ。


「んー……無手ならいいよ」


 空中で切り結んで火花が散るようだと、さすがにおりょうさんを心配させてしまうだろうと思ったので、無手ならばと頼華ちゃんの提案を受ける事にした。


「あと、里の範囲からは出ないって事で」


 あまり周囲に迷惑を掛ける訳にはいかないし、範囲を広げ過ぎて途中で頼華ちゃんの(エーテル)が尽きたりしても大変だ。


「わかりました!」


 取り決めをしたので、俺は頼華ちゃんから五メートルくらい離れた位置でホバリングする。


「では、参ります!」


 弾丸のような勢いで、握り締めた拳を前に頼華ちゃんが突っ込んできた。単純ではあるが、それだけに威力の込もった攻撃である。


「おっと!」


 俺は身体を軽く捻って半身になり、拳を躱しながら右の掌底を頼華ちゃんの胸に放った。


「くぅっ!」


 迫る俺の掌底を、頼華ちゃんは後方に身体を倒しながら避け、そのまま高度を少し下げる。地上では有り得ない動きだ。


「驚いたな。もう空中での動き方を覚えたの?」


 地面の上なら倒れ込んでも追撃を受けてしまうが、空中ならば少し高度を下げるだけで体制を整える事が可能だ。


「元々余は、飛んだり跳ねたりする動きが得意ですから!」

「そういえばそうだったね」


 短い太刀を用いて敏捷性を活かすのが、鬼一法眼(きいちほうげん)から義経が習得した京八流の特徴らしいが、まさに頼華ちゃんの戦い方そのままだ。


「まだやる?」

「無論です! はぁっ!」


 通じなかった事など気にしていないのか、頼華ちゃんの攻撃は外連味の全く無い真っ向からの拳だった。


(単純な攻撃だから、読み易いとか避け易いってのは嘘だよな……)


 得意技とか言うくらいなので、その技はその人にとって最も自信のある技という事である。


 当然、弱点なんかも承知の上で使ってくるのだから、目の前の頼華ちゃんも俺を倒すのに最適と考えて突きを放ってきているという事だ。


(しかしっ!)


「んっ!」


(頼華ちゃん相手に、まだ負ける訳にはいかない!)


 昨日、兄から恋人にクラスチェンジしている俺としては、頼り甲斐のあるところを見せたいので、ここは余計に負けられないシーンである。


「あっ!?」


 突いてくる右腕に自分の左腕を下から、巻き込むようにしながら軽く弾くという太極拳の技を使うと、頼華ちゃんがバランスを失った。


「捕まえた」

「ひゃぁっ!?」


 地面なら転ぶところなのだが、空中なので複雑なスピンをしてしまいそうになる頼華ちゃんを、左手も伸ばして抱え込んだ。


「うぅー……負けました」

「初めての空中でこれだけ動けるんだから、頼華ちゃんは凄いよ」


 抵抗はしないが不服そうな頼華ちゃんを、褒めながら抱き寄せて頭を撫でてあげた。


「これなら少し訓練すれば、自在に飛べるようになりそうだね」


 最高高度や最高速なら俺も負けないと思うが、京八流が身についている頼華ちゃんの三次元機動は見事と言える。今日初めて自力で飛んだとは信じられない程だ。


「本当ですか!? えへへぇー」


 不満そうだった表情は一気に消え失せ、腕の中の頼華ちゃんは目を細めながら、仔猫のように俺の胸に頬を擦り付けてくる。


「じゃあ、そろそろ下りようか?」

「はい!」


 元気良く返事をする頼華ちゃんを抱えたまま、少しずつ高度を下げていく。


「っと。頼華ちゃん、お疲れ様」


 身長差の関係で俺の方が先に着地したので、抱えていた頼華ちゃんをそっと地面に下ろした。


「空を飛ぶのは気持ちいいですね! 癖になりそうです!」

「当分は一人で飛んじゃ駄目だよ?」


 新たに出来るようになった事を色々試したい気持ちもあるだろうけど、おりょうさんも頼華ちゃんも思ったよりも無茶をする事が判明したので、ここは釘を刺しておく。


「はい! 飛びたくなったら兄上にお願いに上がります!」

「うん。手が空いてる時は、勿論いいよ」


 飛行に関しては俺ももう少し慣れておきたいので、頼華ちゃんの申し出を快諾した。


「そんときゃ、あたしも一緒にお願いするよ」

「勿論です。さあ、頼華ちゃんも一休みしよう」

「はい!」


 おりょうさんの隣に即席で織った布を敷いて、俺と頼華ちゃんは腰を下ろした。



「二人共、疲労感はどうですか?」

「感じるほどは疲れちゃいないなねぇ」

「余も大丈夫です!」

「そうですか」


 冷たい麦湯を飲みながら二人の様子を伺うが、表情からも、目を凝らして見た(エーテル)の色や輝きからも、特に異常は感じられない。


「じゃあ今度は座ったままで、炎と雷を使ってみましょうか」

「う、上手く出来るかねぇ……」

「最初はどちらからですか?」

「そうだなぁ。先ずは炎からにしようか」


 日常生活に火は欠かせないので、おりょうさんも頼華ちゃんも雷よりはイメージし易いと思う。


「いいですか? こう、手の平の中に……」


 俺は手の平に、少し太めの蝋燭で灯せる程度の炎を生み出した。


「この炎を見ながら、自分の手の平に出してみて下さい」


 最終的には頭の中で思い浮かべるよりだけで出せるようにしなければならないが、、最初は目の前の炎を見てイメージを強めた方がいいだろう。


「うーん……わっ!? で、出た!?」


 少し唸っていたおりょうさんの手の平に、小さな炎が灯った。


「ふぬっ! で、出来ました!」


 妙な気合を発した頼華ちゃんも、炎を灯す事に成功した。


「じゃあ今度は、少しずつ(エーテル)を込めていって下さい。慎重に」

「ん……わわっ!? 手の平は大丈夫なのに、すっごい熱を感じるよ!?」

「おおっ!? こ、これは当てられたら、かなりの手傷を負いそうですね!」


 炎を出す事に成功した二人に、強化は簡単だったようだ。色が赤から黄色みを帯び、徐々に肌で感じる温度が増していく。


「出来ましたね。それじゃ消して下さい」

「うん……へぇ。嘘みたいにあっという間に消えちまうんだねぇ」

「おおー! これは凄いですね!」


 飛行と同じく、自分の力で炎を灯したり消したり出来る事に、おりょうさんも頼華ちゃんも純粋に驚いている。


「炎には他に、灯りに使う熱くない物と、清めに使える物があるんです。清めの方は俺も使った事が無いんですけど」


 今の所、俺が出会った中で一番禍々しかったのは、調伏前の白ちゃんだったりするので、使う必要が無かったというのが正しい。


「熱くない炎ってのは難しそうだねぇ」


 詳しくはわからないが、炎を出現させている場所自体は熱くならない。


 まあ仮に熱かったりしたら、途端に扱いが難しくなるので、この辺が普通の炎と権能などの違いなのだろう。


「飛ぶのも熱い炎を出すのも出来たから、大丈夫だと思いますよ」

「そうです姉上! まずはやってみましょう!」

「そうだねぇ……で、出来た?」

「むむ……おお!? 見た目は同じなのに熱くないです!」


 悩んでいた割には、二人共あっさり成功したようだ。頼華ちゃんは炎に手を突っ込んで、熱くないのを直接確認している。


「二人共、炎は大丈夫みたいですね。じゃあ次は雷ですけど……ちょっと体感してみましょうか」


 自然現象の(かみなり)は見た事があるだろうけど、どういう物なのかという事は理解していないはずだ。


「「体感?」」


 俺の言っている意味がわからなくて、二人の疑問の声が重なった。


「夕霧さんやレンノールさんに試したので、危険は無い事は確認してあるんですが、ごく軽く雷を身体に放つと、按摩の効果があるんですよ」

「「えぇー……」」


 凄く疑わしい視線で、おりょうさんも頼華ちゃんも俺を見てくる。


「そ、そんな……」


 確かに、知らない人間からすれば眉唾な話だと思うだろうけど、おりょうさんと頼華ちゃんを相手に、俺が騙すような事を言っていると受け取られた事がショックだった。


「ち、違うんだよ!? 良太を疑ってる訳じゃ無くって!」

「そそそそうですよ! さあ兄上! 余の身体に存分に雷を放って下さい!」


 俺の沈んだ表情を見て、おりょうさんと頼華ちゃんが慌ててフォローを入れてくる。

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