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フィッティング

「じゃあ、本当にいいですね?」


 下着のフィッティングという行為は、俺の方でもかなり抵抗があるので、最期の確認をおりょうさんにとった。


「い、いいよ……なんたって、未来の旦那さんだからねぇ」

「っ!」


 恥ずかしさの中に笑顔を混じらせる複雑な表情をしながら、おりょうさんは両手の力を抜いてだらりと垂らした。


(だ、旦那さんって表現は、かなり心に来るものがあるな……)


 おりょうさんに言われた瞬間に心臓が高鳴ったが、なんとか平静を装えた。


「で、では……」

「う、うん……」

「……」


 俺とおりょうさんの緊張感が伝わったのか、頼華ちゃんまでが表情を引き締め、固唾を呑んで見守っている。


「ん……」

「はひゃぁぁぁぁぁ……」


(うぉぉぉぉ……す、すべすべで、なんて柔らかさ!)


 変な意識を入れずに作業的にフィッティングを行うと思っていたが、その目論見はおりょうさんの柔肌に触れた瞬間に消し飛んだ。


「うっ……くぅ」


 脇の方からスポブラもどきの中に手を突っ込むと、くすぐったさと悲鳴を堪えようとしていると思われる、意味不明の声をおりょうさんが漏らした。


(いかんいかん! おりょうさんも我慢してくれているんだから、俺も真面目にやらなきゃ!)


「こう、背中やお腹の方から、寄せていって……」


 軽く頭を振って雑念を追い払い、スポプラもどきに差し入れた手を、肌に這わせたまま引き寄せる。


「ひぃやぁぁぁぁ……」


 おりょうさんは必死に声を抑えようとしているみたいだが、俺が手を動かすとどうしても我慢出来ないようだ。


(まあ無理もないけど……)


 知っている相手とはいえ、異性である俺に素肌を弄られているのだから、声を出したり暴れたりしない方がどうかしている。


「今度は反対側をやりますね」


 向かって左側を寄せ終わったので、スポプラもどきから手を引き抜いた。


「う、うん……」


 ふーっ……ふーっ……


 声が出ないようにと、おりょうさんは涙目になりながら手で口元を抑えているのだが、指の隙間からは荒い息が漏れ出ている。


「では……」

「んふぅっ!」


 再度、スポブラもどきの向かって左側に手を突っ込むと、息が鋭く吐き出されると同時に、身体が大きくビクンと震えた。


 ふーっ……ふーっ……ふーっ……


 おりょうさんの息はどんどん荒くなり、直接手で触れている肌からは灼けつくような熱を感じる。


「で、出来ましたよ。お疲れ様でした」


 おりょうさんから伝わる熱と吐息に、大きく心を乱されながらだが、なんとか作業を終えた。


 風呂から上がったばかりだというのに、滅多にかかない汗で背中が濡れているのを感じる。


「……お、終わったのかい?」

「っと……」


 俺が手を引き抜くと、おりょうさんがもたれ掛かってきたので受け止めた。すっかり身体の力が抜けてしまったようだ。


「あ、姉上!? 兄上が直して下さる前と比べて、凄く胸が大きくなっているように見えますよ!?」

「……本当かい?」


 頼華ちゃんの言葉に敏感に反応したおりょうさんは、俺に支えられたまま自分の胸元へ視線を送っている。


「!? こ、こんなに谷間が……良太の手は魔法の手なのかい!?」

「そんな馬鹿な……」


 どっかでそういう漫画もあったような気がしないでも無いが、俺はそんな能力は御免だ。


(でも確かに、直す前と比べて、谷間が深くなったようには見えるな……)


 おりょうさんが俺にもたれ掛かっているので、間近に見える胸の谷間は、寄せられて頂きが高さを増したので、より奥深くなっていた。


「おりょうさんは元々、その……豊かな胸なんですけど、着物の着付けの関係で押し潰されるようになっていただけなんですよ」


 谷間の深さだけでは無く、寄せられてはち切れんばかりに内容量も増したので、全体的にふっくらと丸みや柔らかさも帯びている。


「そ、そうなんだ……」

「俺はそれを、元の場所へ戻したのであって、それが本来のおりょうさんの胸の形です」


 俺の作ったスポブラもどきは、材質の特性で伸縮性には乏しいが、立体的にボディラインに沿った形状になっているので、寄せられた胸をホールドする力が高い。


 とは言っても、当たり前だが無から有は作れないので、形良い胸が見事な谷間を作っているのは、おりょうさん自身のプロポーションが元から優れているからである。


(さっきまでは、男の俺の目から見ても、着け方が良くなかったからなぁ……あれじゃさらしと変わり無い)


 初めてなので着方がわからなかったのだろうけど、おりょうさんは被って腕を通しただけというスポブラもどきの着け方をしていた。


 その所為で伸縮性が少ない素材を使っているスポブラもどきは、おりょうさんの胸の周辺の肉を、各方向に分散させてしまっていたのだ。


「りょ、良太。もう大丈夫だよ」

「そうですか? じゃあ身体を離しますね」

「あ……」


 自分から言いだしたのに、俺が身体を離すとおりょうさんは、少し名残惜しそうに声を出し、手を彷徨わせた。


「ふぉぉ……そうやって真っ直ぐ立たれると、本当に大きく見えます! 羨ましいです!」


 頼華ちゃんの言う通り、背筋を伸ばして立ったおりょうさんの胸は、元ある形にスポブラもどきのカップの中に収まったので、非常に優美な曲線を描いている。


「や、やだ……恥ずかしいよ頼華ちゃん」


 女性同士なのに垂涎と言った感じで頼華ちゃんが顔を寄せて胸を注視するので、おりょうさんが恥ずかしそうに身を捩る。


(……それは逆効果だと思うなぁ)


 本能的におりょうさんは、胸を隠そうと両腕を上げたのだが、傍から見ると両サイドと下側から寄せ上げて、より胸を強調するようなポーズになってしまっている。


(……うん。それなりに揺れは抑えられてるみたいだな)


 おりょうさんが腕でリフトしながら身を捩っても、それ程極端に胸が揺れていない。どうやら立体的な形状とフィッティングの効果で、しっかりとホールドされているようだ。


「あ。兄上! 余も姉上のように大きくして下さい!」

「えー……」


 俺の方に向けて、頼華ちゃんが背を反らして胸を突き出すようなポーズをしてくる。


(困ったな……余計なって言うと聞こえが悪いけど、頼華ちゃんには寄せられるお肉なんか無いじゃないか)


 スリムな肢体の頼華ちゃんには、良くも悪くも無駄な肉が無いのだ。大食漢と言っていいレベルに御飯を食べるのに、本当に不思議な話ではあるが。


「うぅ……姉上にはやってくれても、余には……」


 頼華ちゃんは潤んだ瞳で、俺をじっと見てくる。


「いや、別に差別しようって訳じゃ無くてね……」


 物理レベルで材料が足りないので、効果が期待出来ないから躊躇しているのだが、その辺が頼華ちゃんにはわかっていない。


「良太。本人に気の済むように、しておやりよ」

「はぁ……」


 良い結果は出そうに無いのだが、おりょうさんの言う通り、それしか無いかという気は俺もしている。


「……じゃあ、やってみるけど」

「お願いします!」


 ぱぁぁ、っと、とびっきりの笑顔になった頼華ちゃんは、腰に手を当てて胸を張った。


(はぁ……)


 心の中で大きく溜め息をつきながら、俺は頼華ちゃんの脇の方に手を伸ばした。


「ふひゃぁぁぁぁ……」


(……まあ、こうなるよな)


 自分から要求してきたのに、スポブラもどきに手を差し込んだ瞬間に頼華ちゃんは、ぷるぷると身体を震わせながら、長く尾を引く奇声を発した。


「……やめようか?」


 元々、俺の方は気が進まなかったので、手の動きを停めて頼華ちゃんに訊いてみた。


「っ! も、申し訳ありません! 今度こそ覚悟を決めましたので、もう声は出しませんっ!」

「覚悟って……」


(そこまで決意してやる程の事じゃ無いと思うんだけどなぁ……)


 そう思ったのだが、火が点いたように感じる程に身体を熱くする頼華ちゃんが、ギリリと音がしそうなくらいに奥歯を噛み締めているので、どうやら言う通りに続けるするしか無さそうだ。


「……じゃあ、続けるね」

「……」


 大きく目を見開いた頼華ちゃんがコクコクと頷いた。歯を噛み締めたままなので、声を出せないのだ。


「んんっ! んぅっ……」


 背中側から脇に掛けて手を動かすと、必死に堪えている頼華ちゃんが、喉の奥からくぐもった声を漏らす。


「んんっ! んんんっ……」


(……あれ?)


 脇から胸元に俺の手が移ると、頼華ちゃんの漏らす声の質が変わった気がした。


(なんかちょっと声が色っぽく……なってきたような?)


 心なしか頼華ちゃんの表情や仕草にも、艶が含まれてきた気が……いや、気の所為では無いかもしれない。


「は、反対側をやるね?」

「……」


 コクコクと、素早く頷く頼華ちゃんの瞳からは「早く続きを」と、訴えてきているように感じる。


「じゃ、じゃあ……」

「ふぅんっ!」


 今度の声には明らかに、くすぐったいとか恥ずかしいというのとは性質が違う、気持ちの良さとか悦びのような成分が含まれている。


「んっ! ふぅっ! んんんっ……」


(これはあれだ……そうだ、楽器だ)


 俺の手や指の動きに従って、頼華ちゃんは甘美な音楽を奏でる楽器と化していた。


(……いやいや! 遊んでる場合じゃ無いだろ!)


 あまりにも頼華ちゃんが敏感に俺の手に反応するので、つい面白くなってしまっていた。


(これ以上は良くないな……)


 俺の手が触れている頼華ちゃんの肌はすっかり汗ばみ、膝がガクガクと震えている。


「……はい、おしまい」

「あ……」


 俺が停めた手をスポブラもどきから引き抜くと、緊張の糸が途切れたらしい頼華ちゃんが、くたっと倒れ込んできた。


「御免ね。ちょっとやり過ぎた……」

「い、いえ……最初はくすぐったかったのですが、その……途中から凄く、気持ち良くなってしまって……」

「……」


(もしかして、妙な物を目覚めさせてしまったのだろうか……)


 幼気(いたいけ)な少女の中に眠っていた何かを、どうやら俺の手で覚醒させてしまったようだ。


「と、とりあえず座ろうか」

「そ、そうですね。立っているよりは……わわっ!」


 頼華ちゃんは声を上げたが、俺にされるがままに抱え上げられ、そのまま床に下ろすと座り込んだ。


「ちょいと……」


 頼華ちゃんが座ったのを確認したところで、頭の両サイドをおりょうさんに手で挟み込まれた。強引に後ろを向かされる。


「な……なんでしょうか?」

「……随分と念入りに、頼華ちゃんの胸をこねくり回していたじゃないか?」

「こ、こねくり回してなんか……」


 そこまで言って、完全には否定しきれないと俺は思ってしまった。


(最後の方は、ちょっと楽しくなってきちゃってたからなぁ……)


 今までは頼華ちゃんには、爽やかな色気を垣間見ていた程度だったのだが、さっきまで俺の手に翻弄されていた姿には、完璧に女性を感じていた。


(プロポーズで、お互いの心境に変化があったのかなぁ……)


 おりょうさんに詰問されている状況だというのに、妙に冷静な脳の一部分で、そんな事を考えてしまった。


「おお! 兄上! 姉上! 見て下さい! なんとも見事に谷間が出来ておりますよ!」

「「……え?」」


 変な緊張感が漂っていた俺とおりょうさんの間に、弾んだ頼華ちゃんの声が割り込んで、一気に場の空気が変わった。


「ほらほら! 指が入りますよ!」

「そ、そうかい?」

「よ、良かった?」


 呆気にとられる俺とおりょうさんの前で、満面の笑顔の頼華ちゃんが自分の指を、確かに出来ている胸の谷間に差し込んでいる。


(最初から、あれくらいはあったような気もするんだけど……)


 鍛えられた胸筋の土台がある頼華ちゃんの胸は、小振りではあるが形良く盛り上がっていたので、しっかりとは言えないまでも谷間は形成されていたと思う。


「兄上も姉上も、指を入れてみて下さい!」

「「えっ!?」」


 左右の手でおりょうさんと俺の手を掴んだ頼華ちゃんは、自分の胸元に誘導しようと引っ張ってきた。


「あ、あたしは……」

「俺は別に……」

「そう仰らずに、是非どうぞ!」


 自分の胸の谷間への承認欲求がそんなにも大きいのか、頼華ちゃんはがっしり掴んだ手を離してくれそうに無い。


「じゃ、じゃあ……えいっ」

「にゃあっ!」


 どうしても開放してくれないと悟ったのか、おりょうさんが一声気合を入れて指を差し込むと、頼華ちゃんが猫みたいな声を上げた。


「へぇー……本当に、指が挟めるくらいに谷間が出来てるねぇ」

「あ、姉上。そんなに激しく指を動かされると……」


 おりょうさんが興味深そうに差し込んだ指を動かすので、頼華ちゃんが頬を染めながら身体を震わせている。


「あ! ちょ、ちょいと調子に乗っちまったみたいだねぇ……ごめんよ頼華ちゃん」

「い、いえ! 入れて下さいと言ったのは余ですので! じゃあ次は、兄上の番ですよ!」

「えー……」


 おりょうさんで懲りたのかと思っていたが、頼華ちゃんは俺にも指を入れるように要求してきた。


「さあ!」

「はぁ……わかったよ」


 どうしても勘弁してくれそうに無いので、溜め息をつきながら、頼華ちゃんに導かれるままに指を差し入れた。


「ど、どうですか? 兄上のお陰で、こんなに立派な谷間が出来上がったのですが……」

「う、うん……」


(確かに俺がやったんだけど……立派?)


 直ぐ側に、これ以上無いってくらいの立派な谷間の持ち主がいるので、どうしても頼華ちゃんが見劣りしてしまう。


(頼華ちゃんも将来性はバッチリなんだけど、現時点では……まあ数えで十一歳だしな)


 頼華ちゃんのお母さんの雫様は、俺の知り合いの女性の中では夕霧さんと並んで大きな胸の持ち主だ。


 そんな雫様の娘であり、良く動いて良く食べる頼華ちゃんは、数年もすれば誰もが羨むプロポーションの持ち主になるだろうと予想出来る。


「じゃ、じゃあ二人共、今後は下着を着ける時には、俺がやったみたいにして下さいね!」

「あ……」

「わ、わかったよ」


 俺が暖かな胸の谷間から指を引き抜くと、頼華ちゃんは名残惜しそうに手の行方を目で追い、おりょうさんはフィッティングの時の事を思い出したのか、朱に染まった頬を手で抑えた。


「あの、すいませんけど……」

「なんだい?」

「なんですか?」

「ちょっと汗をかいちゃったんで、風呂に入り直してきます」


 神経を使っていたからか、それとも冷や汗なのかはわからないが、自覚できる程の汗が出ていたのは間違いないので、短時間の内に三度目になるが風呂に浸かりたくなった。


「そいじゃまた、みんなで入ろうかねぇ」

「えっ!?」

「それは良い考えです! 実は余は少し汗をかいてしまいまして……」


(し、しまった。自分から退路を絶ってしまうとは……)


 おりょうさんは元々風呂好きで、日に何度も入浴するのは当たり前だし、頼華ちゃんが汗をかいているのは、手から伝わった情報で確認済みだ。


(出来れば一人で、落ち着いて入りたかったんだけどなぁ……)


「「~♪」」


 おりょうさんも頼華ちゃんも鼻歌交じりに、フィッティングしたばかりの下着をいそいそと脱ぎ始めている。


「ささ。兄上も、早くお脱ぎになって下さい!」

「上着を預かろうかねぇ」

「あ、はい……」


 前に回った頼華ちゃんが合わせの結び目を解き、背中側のおりょうさんが作務衣の上着を脱ぐのを手伝ってくれる。


 強引に脱がそうとかする訳でも無いし、風呂に入るというのは俺から言い出した事なので、手伝ってくれているだけの二人に対して変に抵抗する事も出来無い。


「じゃあ行こうかね♪」

「はい♪」

「……」


(……ま、いいか)


 風呂はおりょうさんと頼華ちゃんの為に作ったと言っても過言では無いので、二人が喜んで使ってくれるのならば本望である。


 おりょうさんと頼華ちゃんに両側から挟まれた俺は、苦笑しながら浴場へ足を踏み入れた。



「……ん?」


 入浴を終えて一休みした俺達は、すぐにゲルで就寝したのだが、寝入って少し経った頃に違和感を感じた。


 目が覚めて身体を起こして周囲を見回すと、両隣で眠りについたおりょうさんと頼華ちゃんはそのままなのだが、微かに聞こえるはずの小川のせせらぎや、水場の音が聞こえない事に気がついた。


「これは……隔絶?」


 周囲で起きている異変はどうやら明晰夢では無く、神仏が降臨する際の隔絶に似ている気がする。


「正解です!」

「わっ!? って、フレイヤ様!?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、輝くような姿のフレイヤ様がちょこんと座っていた。


「こんばんは! 良太さんの事をおはようからお休みまで見守っている、愛の女神です♪」

「あー……こんばんは」


 神様らしい威厳のある波動みたいな物が伝わって来るのだが、挨拶の言葉からはそんな物は微塵も感じさせない。


(まあ、フレイヤ様らしいと言えばらしいけど……)


 ヴァナと名乗っていた最初の出会いの頃から、気さくな接し方をしてくれていて、愛の女神のフレイヤ様だとわかってからもそのスタンスを崩さないというのは、ある意味ではありがたかった。


「あの、それで何か?」

「えー……良太さんに会いに来るのに、理由なんか必要なんですかぁー」

「そりゃ必要でしょう……」


 フレイヤ様の熱心な信者であっても、頻繁に降臨なんかしないんじゃとは思うのだが、もしかしたら違うのかもしれない。


「コホン……冗談はさて置き」

「冗談だったんですね……」

「そ、そこは聞き流して下さい! えっと……祠をお作り頂いた事に関しまして、私が代表として謝辞をお伝えに参りました」

「そ、それは御丁寧に……でも、まだ未完成ですよ?」


 一応は里の四方に祠を建てはしたが、まだ屋根と扉が無いし、予定していたフレイヤ様の受肉の残留物による塩を用いての清めも、まだ行っていない。


「ちゃんとした屋根とかがあるに越した事は無いのですが、こういうのは気持ちが大事なのです。既に祠としての機能は働いているようですし」

「えっ!? そ、それってどういう事ですか!?」

「あら。お気付きでは無かったのですか?」


 何気無く発せられたフレイヤ様の言葉には、幾つか思い当たる物があった。


「あの……もしかして植物類の異常な発育状態なんかは」

「ええ。でもあれは、祠の設置に関係無く、この里では必ず豊作になるという加護による効果だと思いますよ」

「そ、そうなんですか……」


 俺はてっきり、農作の神でもある天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)様と、愛の女神でもある


と同時に、兄のフレイと同様に豊穣を司っているフレイヤ様の祠の効果かと思っていたのだが、どうやら違ったみたいだ。


「もしかして、祠による後押しがあった訳では無くて、お互いに正直になられただけですか?」

「お互いに正直って……あ! も、もしかして!?」

「ええ。御二人にプロポーズなさったのは、てっきり私の祠からの、愛の波動を受けてだと思っていたのですけど」


(……元々好いてはくれていたけど、頼華ちゃんが妙に積極的だったのはその所為なのかな?)


 普段から頼華ちゃんは積極的にスキンシップをしてくるタイプだったが、言われてみればいつも以上だったようにも思える。


「勘違いなさらないで頂きたいのですが、私の愛の波動は、好きでもない相手と強制的に結ばれるようになる


ような、無粋な代物ではありませんからね?」

「そ、そうですか……」


 フレイヤ様の言葉を信じるのなら、祠から放たれる愛の波動とやらは、誰彼構わず愛欲に耽ってしまうようなヤバイ代物では無さそうだ。


「あの、出来ればその波動とやらは、停めて頂けると有り難いんですが……」

「えっ!?」

「なんでそんなに意外そうなんですか……」


 俺が停めろなんて言うと思っていなかったとばかりに、フレイヤ様が驚きを現している。


「そ、そんな……これしか能の無い私に、何もするなと仰るのですか!?」

「それしか能が無いとか、神様なんですから嘘は言わないで下さい!」


 フレイヤ様が愛だけでは無く、豊穣や魔術も司っているのは知っている。


「……ちっ」

「露骨に舌打ちされた!?」


 美しい顔を台無しにするようなやさぐれた表情を浮かべ、フレイヤ様は俺が見ている前ではっきりと舌打ちをした。


「これからここに住む者達が、愛欲に溺れたりはして欲しく無いんですよ」


 元は蜘蛛の妖怪なのだが、現在の外見は幼児な里の住人達がそういう事をするには、外見的にも成長して社会経験を積んでからにして欲しい。


「でもでも、自由恋愛ではないですか!」

「あの、里の子達の殆どに、俺は好かれていると思うんですが……」


 フレイヤ様が食い下がるが、無碍に扱えない子供達が、男女問わず俺に迫ってくるとか、考えるだけで恐ろしい。


「そ、それはそれで……」

「幾ら愛の女神様でも、それは問題発言でしょ!?」


 小さい子を可愛いとは思うが、それは愛欲の対象とは違う意味だ。加えて俺には衆道はわからない。


「わ、わかりました……良太さん達からは、随分と良い物を頂きましたので、ここは引き下がりましょう」

「……良い物?」


 フレイヤ様が、何か聞き捨てならない発言をした。


「あ! 私ったらもう……」

「……それは、なんですか?」

「あ、あははは……」


 明らかに俺の何かがフレイヤ様のお気に召したようで、今回降臨したのも、そこら辺に関連しているのだろう。


「あ、あのですね……良太さんとそちらの御二方との間の愛情が、素晴らしくおいしくてですね……」

「お、おいしい?」


 二人へのプロポーズに関連しているのでは無いかとは思ったが、フレイヤ様のおいしいという言葉は予想外だった。

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