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止まない雨はないと唄って

憎しみを孕むまま、心を繰り返し抉る。




















 第五償【止まない雨はないと唄って】














 君と紡いだ一瞬を、抱いて永遠を願おう。

 思い出の欠片が滑り落ちたなら、足跡を遺す真似をしよう。

 手に入れた力は、何かを奪う為じゃない。

 手に入れた勇気は、誰かを嘲笑う為じゃない。

 残酷な祈りに赦しを乞う涙は、老いて追いかけた感情任せに生きていた。

 漕がれて焦がして、常識外れと笑われて、それでも希望を待って抵抗するのは、見苦しいのだろうか、それとも、美しいのだろうか。

 「モリス、今日は誰狙ってるんだ?」

 「そうだな、昨日がミナミだったから、ヒヨリにでも声かけるか」

 「お前、本当に毎日飽きねぇなぁ」

 ゲラゲラと卑下た笑いかたをしている男。

 少し顔立ちが良いだけの男は、女性を口説く術を沢山持っていた。

 そしてそんなモリスの言葉に、女性たちは簡単に釣られてしまうのだ。

 背も高く、鼻筋も通っており、目をきりっとした二重で、お洒落だ。

 大人しくしていれば、女性の方から声をかけてくることも多い、そんな見た目なのだが、身体の方はだらしない。

 女性が大好きで、小さい頃から色んな女性に手を出し、ちょっかいを出してきたモリスは、それが当然な生活を送っていた。

 彼女なんてきちんとしたものはおらず、ただ遊ぶだけの女を選んでいる。

 親は大物政治家だが、見た目が違うからなのか、それとも名前の印象からなのか、親子と言われることはまずない。

 これまでにも何人もの女性と寝てきたが、それについて何か言われるということもなかったし、多分、モリスに興味すら持っていないのだろう。

 母親は家から出て行ってしまったため、父子家庭のような感じなのだが、家にもほとんど帰らない。

 たまに家に帰るのは、お金が無くなったときだけ。

 父親にお金が欲しいといえば、面倒だけは起こすなといって、束を渡される。

 それでご飯も寝床も、言ってしまえば女もこの手に入るのだから、簡単だ。

 「来た来た」

 今日のお目当ての女性は、たいやき屋でバイトをしている大学生の女性だ。

 ヒヨリといって、少し明るめに髪の毛を染めていて、ボブくらいの長さ、少しぽちゃ、としているのだが、それがまた触り心地が良さそうだ。

 彼氏もいなさそうだし、多分今まで彼氏がいたことがないと思われる。

 偶然を装ってたいやき屋に向かえば、ヒヨリはにっこりと「いらっしゃいませ」と言う。

 「たいやき頂戴。それからヒヨリちゃんも欲しいな」

 「どの種類にしますか?」

 「カスタード。ねえ、明日空いてる?デートしようよ」

 「おまちくださいね」

 まったく無視されているが、モリスのことが嫌いなわけではないことは分かっている。

 なぜなら、可愛いくらいに顔が赤くなっているからだ。

 ニコニコしながら待っていると、ほかほかの焼き立てたいやきを渡される。

 その時、モリスはヒヨリの指にわざと触れるようにして受け取りながら、そのままぐいっと手首を引っ張ると、頬にキスをする。

 「ねえ、明日がダメなら、今日の夜でもいいんだけど」

 離れた唇からそう言葉を告げれば、ヒヨリは顔を赤くしながら、小さく頷いた。

 モリスはヒヨリがバイトを終えるまでずっと待っていて、ヒヨリが着がえてくると、その手を引っ張って行く。

 何処に行くのだろうと思っていると、そこはホテル街で、ヒヨリはようやく慌てたように焦っているのだが、モリスは気付かないふりをする。

 「あの、モリスさん、ここ」

 「ん?何?」

 「何って、あの、こういうことする心算じゃ・・・」

 「今更何言ってんの?」

 適当な部屋を決めて入ると、ヒヨリを投げるようにしてベッドに放りだす。

 身体を起こすヒヨリだが、そこにはすでにモリスがいて、ヒヨリに覆いかぶさろうとしている。

 「たすけっ・・・!!」

 叫んだところで届くはずないのだが、ヒヨリの口を自分のそれを塞ぐと、強引に身体をベッドに縫いつける。

 呼吸もままならなくなったヒヨリは、恐怖で身体が震える。

 ようやく口が離れたかと思うと、今度は服を器用に脱がし始めたのだが、タートルネックにスカートという服装だったため、上は諦めて下だけを脱がされた。

 「やめて・・・」

 「うひょー、肌白ェ。たまんねぇな」

 「おねが・・・いや・・・」

 ぐすっと泣きだしたヒヨリを見て、モリスは機嫌を損ねてしまったのか、ヒヨリの頬を一度叩いた。

 乾いた音が響くと、ヒヨリは硬直してしまう。

 それを良いことに、モリスは着々と作業に取り掛かる。

 ヒヨリの鳴き声など耳に入ってこないかのように、モリスはただ自分の欲求を満たすためだけに、熱を発する。

 「ふー、もういいや」

 呆然としているヒヨリに声をかけることもなく、かといってタオルか何かをかけてあげることもなく、そこに裸のまま放っておく。

 「おい、早く着替えろよ」

 しまいには、急かすようにして服を着ろと言って来て、ヒヨリはシャワーを浴びたいと言ったのだが、却下されてしまった。

 どうやら、これから他の女性にも声をかけるつもりのようで、時間を気にしていた。

 イライラしているのか、ゆっくりと身体を起こしているヒヨリに暴言を浴びせただけではなく、髪の毛を掴んで早くしろと言う。

 ようやく着替え終えると、会計だけ済ませて1人さっさと何処かへ行ってしまった。

 残されたヒヨリは、早く家に帰ってシャワーを浴びなければと、ふらつく足元に力を入れながら、なんとか歩いていた。

 「モリス、ヒヨリと出かけたんじゃないのか?」

 「あ?ホテルならもう行った。終わらせたよ」

 「まじかよ。早くね?」

 「良い女っちゃ良い女だったよ。大人しいから静かにさせるのも簡単だったしな」

 自慢気にそんな話をしていたモリスは、別の女性に声をかけようかと近づいて行く。

 しかし女性は仕事の途中らしく、残念ながら断られてしまったため、他に良い女がいないかと物色していた。

 「あ、俺もう帰るわ。最近おふくろが五月蠅くて」

 「ああ、またな」

 友人が帰ったあと、モリスは1人でフラフラと歩いていた。

 すると、歩き慣れた街のはずが、なぜか霧が濃くなってきて、それでも気にせず歩いていると、仄かな灯りが見えた。

 「なんだこれ」

 看板に書かれた文字は読めないが、占いをしていることは分かった。

 モリスはドアを力づくで開けて中に入ると、そこには誰もいない。

 テーブルの上にカードが数枚置いてあり、モリスはその中の一枚を適当に捲るが、そこには何も書かれていなかった。

 詐欺でもやっているのかと思ったモリスの背後に、急に気配を感じた。

 勢いよく振り返ると、そこには1人の男が立っていた。

 「な、なんだお前」

 「私は占い師をしております、シェドレと申します。貴方は?」

 「俺はモリスだ。なあ、占いって儲かるのか?」

 「どうでしょう。個人差があるでしょうね」

 「へえ、けど、俺、占いとか全然信じてないんだわ」

 馬鹿にしたように言ったかと思うと、モリスはいきなりテーブルを蹴った。

 ガタン、と大きな音を出して倒れてしまったテーブルと、その上に置いてあったカードは散らばり、水晶はなんとか割れずに転がっていた。

 「・・・・・・」

 「お前みたいななよっちそうな男も、嫌いなんだよ」

 火のついていない蝋燭もぶん投げて、カーテンなども引き千切って暴れていた。

 それを静かに見ていたシェドレは、暴れて呼吸を整え出したモリスを見て、散らばってしまったカードを拾っていると、何かに気付く。

 そしてそのカードを持ったままモリスの方を見ると、いつもの笑みを造る。

 「なんだ?文句でもあんのか?」

 「・・・大人しくしていた方が、身のためかと思います」

 「ああ?占いか?それ」

 「ええまあ、助言、とでも言っておきましょうか」

 「うるせぇよ。俺は信じねえって言ってるだろ」

 最後に唾を床に吐いて、満足したのか、モリスはそこから出て行った。

 シェドレはテーブルを直し、水晶とカード、それから蝋燭を拾って定位置に並べると、蝋燭にそっと火が灯る。

 手に持っていたカードをそのまま別にしてテーブルの上に置くと、シェドレは椅子に座って頬杖をついた。

 その頃、霧からも脱出出来たモリスは、見知らぬ女性に声をかけて部屋に泊めてくれと頼んでいた。

 最初は断ったのだが、帰る場所がないと嘘をつけば、渋々承諾してくれた。

 しめた、とモリスは女性の部屋に入るなり、シャワーを浴びさせてもらって、ご飯も食べ、いざ寝るとなったとき、女性の肌に触れた。

 びくん、と波打った女性を見てニヤリと笑うと、そのまま膨らみを包む。

 「ちょっと、そういうつもりで泊めたんじゃないのよ」

 「そう言わないで。御礼だから」

 「御礼って・・・。私、彼氏いるんだけど」

 「残念だなぁ。きっと、彼氏よりも気持ち良くしてあげられるのに」

 「冗談はそこまでにして。私、明日も早いんだから、さっさと寝てね」

 「意地悪だなぁ。でも、そういう女の人って俺好きだよ」

 そう言って、強引に女性を組み敷いた。

 朝になって、気だるげに起きた女性にキスをすると、モリスはさっさと出て行った。

 後ろで女性が自分の名を呼んでいたが、もうそんなことどうでも良い、というよりも、もうその女性に興味はない。

 それからも、モリスは女性を物色していた。

 4か月ほど経った頃、モリスの前に1人の女性が現れた。

 何処かで会ったような感じがするが、どこで会ってどこで抱いたかなど、一々覚えていない。

 適当に挨拶をして素通りしようとしたモリスの耳に、女性はこう告げる。

 「貴方の子供を妊娠しました」

 「は?」

 これまでに、何人もの女性を抱いてきた。

 正直言うと、避妊などまったく考えていなくて、いつ子供が出来てもおかしくはない状況だった。

 だが、これまで抱いてきた女性たちが妊娠したなどと話がなかったため、タカをくくっていた。

 「お前、なに言ってんだ?そんな嘘言って、俺を脅そうとしてるんだろ」

 「嘘じゃないわ」

 女性は、母子手帳を取りだして、モリスにつきつけた。

 「・・・ふざけんな。俺の子供だっていう証拠でもあんのか?どうせ他の男でも遊んだんだろ?」

 「貴方としか寝ていません」

 「んなのわかるわけねぇだろ。つか、なに妊娠してんだよ。まじ有り得ねえ。お前、誰?」

 「・・・・・・」

 そう簡単に妊娠なんかするはずがないと、モリスは女性に背中を向けた。

 女性は悔しそうに目に涙を溜めながら、叫ぶ。

 「ヒヨリです。貴方に処女を奪われた、ヒヨリです」

 「・・・ヒヨリ?」

 確かに、そんな女を抱いたかもしれないが、だからといって自分の子であるわけがないと、モリスは鼻で笑う。

 「なら、親子鑑定をしてもいいです」

 「はあ?!ふざけんなよお前!さっきから何言ってんだよ!!」

 「認知してください。この子の父親は、あなたなんです!」

 「俺じゃねえよ!!仮に俺だとしても、絶対に認知なんかしねぇ。1人で勝手に育てりゃいいだろ。俺を巻きこむんじゃねえよ。だからお前みたいな女って嫌なんだよ。一回抱いてやったくらいで、俺の女気取りか」

 「・・・!!」

 「さっさと消えろ。俺は妊婦に興味ねぇから」

 ヒヨリは、泣きながら走っていった。

 迷惑な話だと、モリスはなんだかどっと疲れてしまったため、極上の女でもいないかと探していた。

 すると、数多の目を惹く女性がいて、モリスは当然声をかけた。

 女性はモリスを見ると怪訝そうな顔をした。

 「え?」

 「あなた、私のこと覚えてないのね」

 「どっかで会ったっけ?こんなに美人なら、忘れないと思うんだけどな」

 「・・・あなたを部屋に泊めたことがあるわ」

 「泊めた・・・?ああ!あの時の!」

 「先日、妊娠がわかったの。きっとあなたの子供よ」

 「は?」

 「時期から考えて、あなたしかいないの。彼とは遠距離でずっとしてなかったし。良かった。話をしたいと思ってたの」

 「・・・ちぇっ。お前もかよ」

 舌打ちをしたモリスは、明らかに不機嫌だ。

 「お前もって何よ?まさかあなた、他の女性にも子供作らせたんじゃ・・・!!」

 「俺はな、ガキなんて作るつもりねえんだよ。お前等だってそうだろ?ただ俺と楽しくしたかっただけだろ?満足させてやったのに、なんだってんだ。産むなら勝手に産めよ。で、1人で育てろ。俺は無関係だ」

 「よくそんなことが言えるわね。私、彼に他の男と寝たことがバレて、別れることになったのよ!?」

 「器の小せぇ男と付き合ったお前の責任だろ?つか、そう簡単に孕むなっての」

 「あなた・・・!!」

 「ならよ、堕ろしゃいいだろ。なんつーんだっけ、中絶?さっさとすりゃいいだろ」

 「・・・中絶出来る時期なんか、とっくに過ぎてるわ」

 「なら残念だが、産むしかねえな。それか、なんとかして流産するかだな」

 「・・・・・・」

 モリスは、笑いながらそう言った。

 女性はモリスを引っ叩くと、背中を向けて歩いていった。

 「あの野郎・・・」

 叩かれた頬を摩りながら歩いていると、純粋そうな女性を見つけた。

 まだ学生か、もしくは新社会人といったところだろうか。

 声をかければ、女性はモリスの誘いにまんまと乗っかって、他の女性同様に貪り喰われていく。

 「一回で妊娠とか有り得なくね?」

 「まじ遊べねえってな」

 「何?俺の遺伝子ってそんなに強い?」

 「けど、その女たちどうするんだ?まじで産むのか?訴えられて裁判にでもなったらどうするんだ?」

 「あ?大丈夫だろ。親父がなんとかしてくれるって。自分の地位だけは、なんとしても守りたい人だからな」

 「それにしても哀れだねぇ。お前に抱かれたばっかりに妊娠するなんて」

 「あれだな。腹でも殴っとけば流産したかな?ハハハハ」

 「それはさすがに事件になるだろ」

 「だから、俺には親父がいるから大丈夫だって。敏腕弁護士がついてるから」

 全く反省の様子のないモリスは、男友達に武勇伝のように話していた。

 時にはその友人と同じ女性を抱いたり、学生かと思って抱いたらまだ未成年だった、なんてこともあったが、金を渡して黙らせた。

 いざとなれば親がなんとかしてくれるだろうという気持ちもあるし、自分が悪戯されたなんて、ほとんどの女性が言わないことも知っているからだ。

 「あー、まじで人生最高」




 「モリス、最近顔色悪いぞ」

 「ああ。なんか気持ち悪くて。風邪か?」

 「ちょっと太ったか?」

 「え?俺太った?」

 「いや、そこまではわかんねえけど、ちょっと腹周りが出てきた気が」

 女性を漁っていた日々が懐かしい。

 あれから2カ月ほど経過しているが、風邪なのか単なる季節の変わり目による体調不良なのか、モリスは女性に声をかけることが少なくなっていた。

 「貧血っぽい」

 「薬局いって薬でも買うか」

 友人と一緒に薬局へ向かい、風邪薬と飲むタイプの鉄を買った。

 それでも身体のだるさが消えないため、無いか食べれば元気なるだろうと、今度はファミレスに向かった。

 「お前は肉だろ?ハンバーグか?ステーキか?」

 「肉・・・はいいや。なんか最近肉食うと気持ち悪くなるんだよなぁ」

 「まじ?病気じゃね?」

 「病気じゃねえとは思うけど。んー、とりあえずサラダでいいや」

 「まじ!?あのサラダ嫌いだったお前がサラダ!?どうなっちまったんだろうな」

 珍しい注文をして水を飲んで待っていた。

 いつもなら、店にいる女性たちを見て、誰がいいかなどとくだらない話しをしているのだが、今のモリスはそれどころではなかった。

 「こちらシーザーサラダと、ハンバーグのBセットになります」

 可愛らしい、しかも胸もある店員が運んできたのだが、モリスはちらっと見ただけ。

 運ばれてきたサラダを口に運ぶと、ゆっくりとした速度で噛んで呑みこみ、また少量を口に運ぶ、と繰り返していた。

 「さっきの子、可愛かったな」

 「んー」

 「名前見たか?真田って書いてあったぜ」

 「んー」

 「おい、本当に大丈夫か?病院行った方がいいんじゃねえか?」

 「んー」

 友人の言葉さえまともに聞いていない様子のモリスに、友人はため息を吐いた。

 風邪ではないことが分かり、友人はモリスを元気づけようと、色んな場所に連れて行く。

 遊園地だったりバーだったり、商店街なども見て回った。

 だが、いつもなら体力が有り余っているモリスが、途中で疲れたと言いだしたため、適当な喫茶店に入って休むことにした。

 水を飲むと、ほっとしたように椅子に全体重をかけて沈みこむ。

 「どうしたんだろうな。しばらく家でじっとしてた方がいいかもな。そのうち気分も良くなるだろうよ」

 「・・・あー、そうだな」

 だが、翌日も、その翌日も、一向に良くならない体調に、モリスは重い病気にでもかかってしまったのだろうかと思った。

 だからといって病院に行くのも嫌で、引きこもりのような日々を送ることになった。

 変化は、突然訪れた。

 「え?」

 朝起きると、モリスのお腹が、膨れていたのだ。

 どうしてこうなってしまったのか、モリスにも分からない。

 一日だけ様子を見ようと思っていたが、翌日はさらに一回り大きくなっていて、モリスはダボダボの大きめな洋服を着て、病院に行くことにした。

 名前を呼ばれるまでドキドキして待っていると、順番が回ってきて、白衣を来た男を前に座る。

 どうしたのかと聞かれ、正直に急にお腹が大きくなってきてしまったことを伝える。

 お腹を見せて下さいと言われ、ダボダボの服を上に上げてみせると、医者も驚いたような顔をしていた。

 顔や腕、足はそれほどではないのに、お腹だけが確かにぽっこりと出ている。

 簡単な問診のあと触診をし、聴診器をあて、医者はとても険しい顔をしていたため、やはり大きな病気になってしまったのかと不安が募る。

 「あの、何か病気すか?」

 「・・・ちょっと、超音波を当ててみましょうか」

 「超音波?」

 そう言われると、横にあるベッドに寝るように言われたため、言われた通り横になると、医者が何か機械をセットし始める。

 お腹にも何かクリームをつけると、そこに冷たい機械をぐるぐると当てた。

 「・・・・・・まさか、こんなことが」

 「え?どういうことです?そんなに珍しい病気なんですか!?」

 「いえ、病気ではありません」

 「え?」

 機械から離れると、医者はシワが寄っている眉間を指でつまみながら、カルテと睨めっこしていた。

 病気ではなかったと言われて安心したのも束の間、この重たい雰囲気は一体何だろうと思っていると、医者が椅子をくるっと回してモリスを見てきた。

 「性転換した、ということはありませんよね?」

 「はあ?ないっすけど」

 「そうですよね・・・」

 「あの、なんなんですか?俺、病気じゃないんですよね?」

 「そうなんですが、その、あまりにも信じられないというか、有り得ないというか」

 はっきりと言わない医者に、モリスは多少いらつきを覚えるが、病気じゃないならそれでいいから早く言ってくれと言うと、医者は覚悟を決めたように口を開く。



 「妊娠しています」



 「は?」

 一瞬、何を言われたのか、理解出来なかった。

 「妊娠?俺が?」

 「ええ」

 「・・・ハハハハ!!医者ってそういう冗談言うんすね。俺は男っすよ?妊娠なんかするわけないじゃないすか」

 「・・・普通は、しないはずなんだが」

 先程の超音波をしたとき、何か写真に収めているような音がしたが、それをモリスに見せて、医者は言う。

 「これが、赤ちゃんです。順調に育っていますね」

 「・・・へ?」

 「ご家族の方と、一緒にいらしてください。そのとき、きちんと詳しいお話をすることにしましょう」

 「・・・おい、ふざけんなよ・・・。なんで、なんで俺が妊娠なんて・・・女みてぇなことになってんだ?なんで俺の腹にいるんだ?」

 「こちらとしても初めてのことなので、何とも言えません。貴方が母親なのか、それとも父親なのか、それも分かりません。ですが、あなたのお腹に命があることは確かです」

 「いやだ・・・俺、産みたくない。先生!!どうにかしてくれよ!!堕ろしてくれよ!!」

 「もう時期を過ぎてしまっています」

 「なら、なら、どうすれば流産するんだよ!?頼むよ!!!なあ!!俺、絶対に子供なんか産みたくねえよおおお!!!!」

 医者は、薬をくれた。

 それは強いもので、飲めば流産するだろうと言われたのだが、幾ら飲んでも流産はしなかった。

 モリスは階段から転がってみたり、自分でお腹を殴ってみたり、色々試してみたのだが、なにをどうやってもダメだった。

 「モリス、部屋で一体何をしているんだ?」

 「モリス、部屋から異臭がするって、ご近所から言われたんだ、中に入れてくれ」

 「モリス、モリス、モリス・・・」




 「おや、可愛いお客さんですね。本日はどのようなお悩みで?」

 「一夜限り、しかもレイプされた男の子供を孕みました。男は私のこと覚えてもいなくて、どうしたらいいんでしょうか」

 「難しい問題ですね。では、こうしましょう」

 ―美味しいたいやきを私に持ってきてください。そうすればきっと、良いことが起こるでしょう。

 「毒をもって毒を制す。しかし、生まれてくる子供は一体、何でしょうね?」


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