不思議な街
君たちの中にはアメリカに渡ったことのある人はいるかい。ひとつ目の物語はアメリカにある小さな街での物語。ここで僕はとても興味深い体験をしたんだ。
これはいつだったか、だいぶ前の話になる。不思議な国々を回ろうと思い立って初めての滞在場所だったと記憶してるのを考えると相当昔になる。当時のアメリカはちょうど大きな戦争の準備があるとかでだいぶ慌ただしい雰囲気が見てとれた。そんな中降り立ったわけだが、やはり邪険に扱われていた。国中の宿泊施設が割高でサービスも粗悪。この時点ですでに旅を始めたことを少し後悔するほどだった。しかし、ここまできて帰るわけにもいかないので仕方なく手頃な宿を探すことにした。やっとの思いで見つけた宿は到着地点から丸2日移動し続けるような場所にあった。約2週間泊まれるところは多くなく2つほどしかなかったが、小さな街にあるにしてはなかなか大きく立派な宿に泊まることになった。
「すみません。1人。」
声をしばらく出していなかったので小さな声ではあったが、なんとか聞こえたらしく鍵を持ってきてくれた。
「チェックインまでギリギリだったね、よかった。」
気の良さそうなカウンターのおばちゃんが言うにはその時間まであと1時間弱しかなかったらしい。泊まれてなかったら、と思うと少しゾッとしたが泊まれたことには変わりなく安心して鍵に書かれた番号のところへ向かう。
「609号室、ね。」
部屋を探し、ドアの前に書かれた表札を見つけた。
「ROOM609WOO…?なんだろうこのマーク。いや、気にする必要もないし疲れたからとりあえず休もうか。」
ホテルの部屋としては珍しい真ん中にドンと2つベッドが置いてあり、2人泊まるのを想定してか左右に2つずつ洗面所とユニットバスがある。広くていい部屋だ。
「1人っていったのになんで2人部屋なんだろう?ベッドも2つが逆さまに置いてあるし。」
いろいろと疑問はあったがそれも忘れるくらい疲れていたためその日はすぐに寝た。
朝起きるとルームサービスの紙が目にとまったので読んでみると、美味しそうな料理がたくさんある。
「食べるのもやっぱり旅の醍醐味だよね。」
とかなんとか言いつつ1.5人前ほど頼んだ。
パンに目玉焼きにソーセージ、それに丸くカットされたチーズ。値段にしてはとても美味しかった。
しかしそこで奇妙なことが起こる。今考えてみるとおかしい、というよりも理不尽といったほうが正しいかもしれないが。1.5人前のパンはさすがに多くて少し残してしまったのだが、下げに来たボーイが尋常じゃなくそれに対して怒りをあらわにしていた。
「お手数ではありますが、出したものは全て食べきっていただかないと…。こちらともども非常に困りますので。ご注文の際にも再三確認をしたと思いますが…。」
「あっ、失礼。次回以降の食事は食べきれる量を注文しますよ。」
「今、この残りを食べていただかないと宿泊もできないようになってしまいますので、ご了承ください。」
呆れた顔をされたので仕方なくその残りを口に含んだ。
「ありがとうございます。」
何事もなかったかのように帰って行ったのが印象深いが、食べ残しくらいでそんなに怒るかなぁ、などと不満を少し募らせていた。
気分を変えて街の中を散歩することにした。自分の家周辺と違ってまったく知らない景色が広がっていて散歩が楽しいということを再確認させてくれるいい街の風景だ。メインストリートには綺麗にお店が決まった順番で並んでいてどちら側から入っても同じ順番になるように工夫をしているみたいだ。真ん中の店は損だろうとかは気にしない。
ぐるっと一周してみて気づいたが、この街はやたら似たようなところが多い。お店に関して言えば、店内の間取りも似ていて同じものを扱っているならば似たようなものが並んでいる。街の建物の統一感を出すためにそれに似たことをする話はよく聞くがちょっと度が過ぎる。何か理由でもあるのか。
散歩はめぼしいものを見つけ終わってからが本番。何もないと思ったところに何かあったときに喜びが生まれる。それがやめられない。そう思って街を来る日も来る日も歩き続けた。
そう過ごしていたらいつも以上に疲れる。身体的な疲れはあまりないが、心が疲れているというか、そんな感じだ。何故なのだろう。街の中心に噴水があったのでその縁に腰掛けると、ふと気づく。
「ここからはあまり景色を見たことがなかったな…。なんだ、これは。同じ街がもうひとつ?いや、違う。この噴水を中心にしてまったく同じ通りになっているんだ。」
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そのあと、街の人に地図をもらって形を確認したら仮説が当たっていたよ。あんなに幾何学的な街があるとはね。初めての旅だったしそのときはそこまで不思議には思わなかったけれど今振り返ってみるとすごく不思議だったと思う。ちなみに質問だけど、食べ残しをなんで怒られたか、わかる?
答えは──────想像に任せるよ。
次の物語も楽しみにしててね。