(逆)ハーレムメンバー結婚相談所
【注意事項】筆者は推しと主人公が絶対にくっつかない呪いにかかっているので、好きなハーレムエンドは、全員とくっついて「いやん、いやん、らめぇ」エンドとか、誰ともくっつかないで「恋愛? なにそれおいしいの?」エンドがおいしいと思っている少し頭のおかしい人です。
後、当たり前のように下ネタがあります。
「誰か1人だなんて、私っ……選べません」
異世界から堕ちてきたという愛しの少女、有瑠夢がそう言って泣き崩れた。
その様子を見て、我々はうなずき合う。
“彼女はみんなで愛そう”
この日から、有瑠夢を皆で共有するようになったのだ。
「なるほど」
目の前の丸い眼鏡をかけた女は事前に書いた書類をみて、ふむふむと頷いていた。
男は女に対面した硬いソファーに座り、神妙な顔つきをしていた。
「いやー。黒髪、黒目の天真爛漫な少女は誰も選べなかったと……はいはい。よくある事案ですね」
「そうなの……か?」
「勇者や聖女は定番で、最近まで人気……いえ、多かったのは悪役令嬢ですね」
「……有瑠夢は普通の娘だったぞ」
「ああ、落ちてきたパターンですか。ちなみにどちらに?」
「陛下がお休みになられていた……寝台の上だったそうだ」
「あ゛あー。大人向けバージョンだ」
「はぁ?」
「いや、何もありません。えっと……他にも庭園、噴水という報告もありますね」
「そんなに……」
青ざめて首を振る男を前に、女は自身の両手の指を交差させ、その上に顎をのせて微笑んだ。
「彼女らは山に籠っていたり、子供のいない夫婦が経営している宿屋や料理店で住み込みで働いていても、頭角を現し、必ずハーレムを築き上げます」
「……頭角」
「地位や権力はもちろんの事、種族まで飛び越えてその中で容姿端麗なものを魅了する……ある意味災害」
「……災害」
「その災害に見舞われた方々を救済するのが、この相談所というわけです」
「……」
「えーとっ。相談者が抱える不満の8割は性生活なんですが……女性がハーレムを築き上げた場合、努力次第で3人は相手にするでしょ? 前に1人、後ろの2人。となると、4人目に使う場所は手ですか? 両手を使って5人となると彼女の乳を揉むのが6人目? ……え、なに、ぷっふふふ。……笑える。いやだ、必死すぎ。スペースねぇよ。あれか、隙間から手だけ伸ばして揉むのか。ばっかじゃねぇの、どうしてもっていうなら目の前で腰を振っている男の尻でも揉んでおけよ……あ、……失礼いたしました。本当にすいません。いやほんとうに。貴方のように行為中に素に戻りハーレムから脱退したいと考える人が多いので、ほんと、すいません。何Pやろうが知ったことじゃないけれど、あぶれた男同士で連結しておけよとか思っていて、すいません。絶倫シねとかは個人的な感想ですけれど」
後半部分に何やら私怨じみた言葉がでていたが、清々しい程の涼しい顔で二コリとほほ笑んできたので、男の思考はついていけなかった。「はぁ」と言っている間に机の上に数枚の絵姿を用意される。
この国のものなら誰でも知っているであろう令嬢や別国の姫の姿見まであり、男の目が見開いた。
「……この方々は」
「貴方と同じです」
「!?」
「大体似たような感じですね。勇者は定番で……えっと、莫大な魔力? ダンジョン攻略? ギルトでひゃっはー? チートはもれなくという感じですか」
「その、彼女たちも……」
「ハーレム要員でした」
「ああぁ……」
男は目をつぶった。
最初は良かった。
有瑠夢の傍にいられることが幸せだった。
しかし、俺をいれて6人の恋人となった有瑠夢が最初に身ごもった赤子は俺の子ではなかった。有瑠夢が最初に出会った陛下の子供だったのだ。そして、自然と彼女とその赤子の父親が一緒にいることが増え、感じるのは疎外感。妊娠中という事もあり、我々の愛の営みは1年以上も行われていないのも原因となった。
恋人となってからも変わらない焦りや嫉妬。愛の営みでしか彼女からの愛情を感じられなくなっていたのだが、出産後、1年半ぶりに行われた営みで感じた違和感が顕著なものとなっていた。
彼女の愛は平等だ。
しかし、それは本当の愛なのか? 俺は言いようのない不安に押しつぶされそうになった時、この相談所を親族から紹介された。
「夢から覚めたんですね」
「…………そうかもしれない」
(もう、疲れた。しかし、俺はこの先、有瑠夢以上に誰かを愛せるのだろうか……)
そう言った男は、ソファーに背を預け深く沈んだ。
はぁ、と、ため息と共に何かが彼から抜け落ちていく。
「お任せください。確かに、1人の愛する人を数人で共有しようとした貴方の愛は一般には理解されないでしょう。しかし、貴方がたにとっては本当の愛だった。本当の愛だからこそ、苦しかったのです。同じ様な体験をした彼女たちなら、貴方の感じた幸福も寂しさや嫉妬も全部共感してくれる事でしょう。この複雑な事情もお互いの家は理解しているので応援して下さるに違いありません」
「……あ、あ」
「では、さっそく、貴方の家柄に合うお相手は……」
「お疲れ。どうだ、さっきのお客は?」
「所長。お疲れさまです。彼の家柄と見合う令嬢がいましたから、きっと上手くいくと思います。あ、ありがとうございます」
ハーレム脱退するには、今までの世間の目があるのだ。
恋は盲目。異世界人を囲んでいる時には気にもしなかった世間の好奇の視線が、ハーレム脱退後、彼らの次の恋愛に影をさした。自棄になる者もいて、彼らの両親、親族はほとほと困り果てていたのだ。
(逆)ハーレム要員は何せ、容姿端麗で身分が高いものが多い。世継ぎが望まれるのが当然だが、(逆)ハーレムを抜けた後も相手の事を忘れられない事も多く次の恋愛に結びつかない。
悩んだ彼(彼女)たちの親族が一同に集まり、創設したのが相談所だった。
所長から蜂蜜水を渡され、甘さで脳の疲れが溶かされていく感覚を味わう。
蜂蜜水に夢中になっていると、積み上げた書類の一番上にある絵姿に所長の目がとまった。
「令嬢は大丈夫なのか?」
「その点はぬかりありません。彼女はハーレムから脱退して6か月たちその間、性行為はありませんでしたし、彼も、もちろんです」
相談所を立ち上げた当初、勇者の子を身ごもった姫を紹介してしまい修羅場化した。相談所はそれを教訓とし、男女ともに性行為が半年間ないものとだけとしている。(行為の有無は、魔力が練り込まれたリトマス紙の様なもので検査できる)
なぜ、男もそれが起用されるかというと、男女差別というわけでもなく、まれに男が妊娠する事もあるのだ。いわゆる【愛の力】という名目でチート技をつかわれる事もある。本当に、なんでもありだな異世界人設定と、現場では頭を抱えているのだが。
女はため息をついた。
かつて、女も落ちてきた異世界人だった。
彼女の場合落ちた場所が森の中で、通りすがりの騎士に助けられたのだ。
そして気が付くと見目麗しい男たちに囲われている現状。
誰か1人選べ。選べないなら皆で共有する。その言葉で逃げた先がこの相談所だったのだ。
今かけているこの特殊な魔法付属の丸眼鏡がなかったらーー考えるだけ恐ろしい。
なにせここの世界の人間は異世界人に狂っている。この世界に落ちてきた人間の他に、異世界人の記憶や前世がそうだったものまで嗅ぎ分けるのだ。しかも、高貴な立場にいる程その傾向が高い。その執念が本当に怖い。共有しようぜ! っていう発想も怖い。
勇者として落ち世界を救った所長も女と似た眼鏡のふちを撫ぜ、かつての女たちが聞いただけで妊娠してしまうと腹を抑えたバリトンボイスでぽつりと言った。
「ハーレムは妄想だけでいい……」
女は慈愛の目で所長を見上げた。所長の肩がマナーモードの様に震えていた。元いた世界でコミュ厨だった彼が、一か月の間に女性10人から求婚されたのだ。そこから巻き込まれる女同士の戦い。正直、魔王を倒す方が簡単だった。女の嫉妬とか怖い。10人と結婚できるかよ。そこまでの生活能力ないし絶倫とちゃうわ。
そんな所長をまぶしく見上げていると、別の相談員から声がかかる。
さて、仕事の再開ですかと、新たな資料を手にした。
木の葉を隠すなら森の中。
結婚相談所はよい隠れ家と2人は安心しきっている。
しかし、覚えているだろうか。異世界人はどこに隠れていても【頭角】を現し【災害】を巻き起こす。
実は、女と所長の2人は現在進行形で、相談所を囲むような(逆)ハーレムを築き上げていたのだが、それに気付くのは――3分後。
「ああ! とうとう見つけ出した僕の宝物。可愛い人。一目見た時から僕は貴女に囚われてしまった。今度は僕が貴女を囲う番だ……ね?」
「わたしく、貴方の声を聞いていたら、子宮が疼いてしまって……天からわたくしたちの子がわたくしのお腹に授かったような気がするんです! 責任とって結婚していただけますか!?」
「ふわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛(ガタガタガタガタガタ)」
「所長! マナーモードは解除してぇ! 逃げますよ!!!」
【次回予告】
「く、また増えてやがる」
危機一髪のところで逃げ出した2人は相談所から飛び出し旅にでることとなった。
或る意味チートでもある2人は力を合わせて異世界を駆け抜けるのは容易い。
途中、落ちてきた異世界人を拾い、徐々に人数は増えていき、彼らは決意する。
そうだ、俺(私)たちの国を作ろう。
こうして、彼らは秘境に小さな国を作ったのだった。
その国に忍び寄る影。
巻き起こる数々のピンチ。
「お前だけでも、元の世界に還れ」
「待ってください! 所長! 私、今気付いたんです。所長の事が、私! ~~っ!!! いやぁぁぁぁぁ!!」
2人はいったいどうなってしまうのか!!
「……ここは?」
女が目にしたのは、水晶で出来た城。
そこで、再会したのはーー?!
「なぜ、所長が全裸で水晶に?」
しろくろ先生の今後の活躍にご期待ください。
――終われ。