【お遊び小説】クロスオーバー対談 おまけ召喚×断片の使徒
※「断片の使徒 extra」のほうに置いてる短編と同じものです。
※メタ発言あり。オチとかもありません。雑談です。
苦手な方は回れ右ですよ。
「はーい、どうもこんにちはー。『断片の使徒』の主人公の一人、春宮啓介です。どうぞよろしくー」
カフェみたいな内装の部屋で、啓介はB5サイズの紙を眺めながら挨拶した。
間延びした棒読みな挨拶に、修太が眉をひそめる。
「いったいどうした、急に」
「だって、ほら。そこに、『啓介君、これ読んで』って書いてあるから」
「カンペかよ。うわ、まじだ。書いてある」
テーブルの上に立てかけられた札を覗き込み、修太はきょろりと周りを見回す。
「それより、俺ら、なんでこんな所にいるんだ? 確か普通に寝たよな?」
「ええと、『これは夢です。違う物語の主人公と適当に会話してください』だって。変な指示だねえ」
啓介は笑ったが、修太の方は怪訝な顔になる。
「『違う物語の主人公』? 他にいるか?」
そこで、テーブルクロスが変に歪んでいるのに気付いた啓介は声をかける。
「そこにいる人かな。おーい」
「わっ! 嘘だろ、夢なのに誰か話しかけてくる! 怖い!」
「お前の夢は、誰も話しかけてこないのかよ」
おののく流衣に、修太がツッコミを入れる。
「あ、カンペに書いてある。君が、『おまけ召喚』の主人公の折部流衣君? 俺は春宮啓介、こんななりだけど、高校二年生なんだ。そっちは俺の友達の塚原修太な。見えないけど、高二。君ももしかして、異世界に渡った時に若返ったくち?」
「は……?」
テーブルクロスの下から這い出してきた少年は、きょとんと瞬いた。
「いえ……僕は中学三年生で……。ええと……小学生じゃないの?」
「違う。若返っただけ」
「ひっ、すみません! 怒らないで下さい」
「別に怒ってねえし、ほら、いつまでもそんなとこにいねえで、座れよ。あ、茶菓子置いてあるじゃん。食おうぜ」
修太はテーブルの上の茶菓子に飛びついて、ささっと配膳すると、遠慮なく食べ始めた。啓介は笑いながら、流衣を見やる。
「ねえ君、カンペに、『自己紹介して』だって」
「へ!? な、なんだろう、この夢……ツィールカ様の悪戯なのかな。僕は折部流衣です、よろしくお願いします!」
ゴンッと痛々しい音が響いた。
流衣は緊張していたのか、頭を下げた拍子に思い切りテーブルの盤面に額をぶつけた。頭を抱えて、痛みにぷるぷる震える流衣の様子に、啓介の世話焼きな面に火がついた。
「大丈夫!? 何か冷やすものないかな。あ、都合よく冷たいタオルが! 流石、夢! ほら、冷やしなよ。そこに座って」
「お前、落ち着きなさすぎ。ほら、茶でも飲んで落ち着け」
「あ、ありがとう……」
冷たいタオルで額を冷やしながら、流衣はお茶を飲んだ。
しばらくお茶菓子を楽しんだ三人は、落ち着いてくると自然と話しあうことになった。
「ねえねえ、俺達は異世界に迷い込んで若返ったんだけど、君はどんな感じの冒険をしてるの?」
啓介の問いに、流衣はかしこまって背筋を伸ばして返す。
「は、はい、僕は、勇者のおまけで召喚されてしまって……。一緒に出てきたら可哀想だからって、女神様に辺境に飛ばされて……。それで元の世界に戻る為に、旅しているところです」
「おまけか、そりゃ大変だな」
むしゃむしゃとクッキーを食べながら、修太が言う。
「ええ、そりゃもう、大変です。でも、女神様が使い魔をつけてくれたし、最初から友達が出来たので、心強いですよ?」
「俺達は一緒に迷い込んでさ。こいつが、異世界の神様を助けるってんで、神様の断片を集める旅をしてるんだ。もう地球には戻れないけど……それなりに楽しんでる」
修太が啓介を差して言うと、啓介は頷いた。
「すっごい面白いよ。神様の断片って、変なものが多くてね。オカルト観光ツアーしてる感じ」
「あはは、オカルトというか、もうファンタジーですよ。動物人間が歩いてたり魔法を使ったりして」
「こっちにもそういう人達はいるよ。でも結構物騒だ。修太なんて、何回もさらわれて……」
「おい、啓介。余計なこと言うな」
「イデッ、足を蹴るなよ。ったく……」
修太の抗議の仕方に、啓介は溜息を吐く。修太はそれを無視して、流衣に問う。
「なあ、折部っつったか? お前のいる世界の料理って美味いか?」
「おいしいですよ。ヨーロッパみたいな感じです。あ、でも、僕がお菓子を作ると、初めて見たって喜んでくれます」
「え、菓子を作れるのか?」
「はい。僕の兄さん、パティシエなので、よく一緒に作ってたので。両親が共働きだから、料理の支度は僕の役目ですし」
流衣の答えに、修太と啓介は「ほー」と声をそろえる。啓介はしきりと頷いて言う。
「すごいなあ、俺は料理は全然だよ。母さんが台所に入れてくれなくて」
「俺は一人暮らししてるから、簡単なもんは出来るけど、菓子は作ったことねえな。でもこっちに来てからは、自分の食べたいものって自分で作るしかねえからさ、ちょっとずつ練習してるとこ」
修太がそう言うと、啓介がにこにこと頷く。
「そうそう、お茶とか凝ってるんだぜ。お陰で俺もおいしい物を分けてもらえて助かるよ」
「慣れてくると楽しいですよね。僕、食べてくれた人が喜んでくれるのが嬉しいので、料理を作ると楽しいです」
流衣の純粋な笑顔に、修太と啓介はすぐにほだされた。啓介はしみじみと呟く。
「ああ、いいなあ、こんな弟が欲しい」
「分かるけど、お前は妹がいるだろ?」
「やっぱり同性だと違うんじゃないかな。楽しみが増えそうだよな」
「そんなもんか? 一人っ子だから分からねえな」
修太は首を傾げる。そこで、啓介がカンペを見て呟く。
「お、『苦手なものについて話せ』だって。俺は特にないけど、修太はオバケが怖いんだぜ」
「お前、さっくりばらすんじゃねえよ」
修太は怒ったが、啓介は涼しい顔で流す。流衣はうつむき加減に、ぼそぼそと言う。
「僕もオバケは苦手です……。ちょっと霊感があるので、見えませんけど聞こえるしゾワゾワはするので」
「へええ! いいなあ! 俺、オバケとか見てみたいのに、全然分からないんだよな」
喜ぶ啓介の隣で、修太は顔を引きつらせる。
「ち、ちなみに、ここにいるか?」
「いえ、いませんよ」
「そっか。良かった」
ほうっと肩を落とす修太の様子に、啓介は大笑いする。
その時、リンリンリンリンとベルの音が響いた。
啓介はカンペの文字を読んで、修太と流衣に言う。
「あ、目覚めの時間だって書いてある。それじゃあ、お別れなのかな。流衣君、頑張ってね」
「ありがとうございます。そちらも頑張って下さい」
「まあ、ぼちぼちな」
ははと笑い合いながら、それぞれ手を振った。
その日、変な夢を見た気がした三人だが、起きた時にはすっかり忘れていたのだった。
……終わり。