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二次創作系

僕が死なないために縛るのをやめる!

作者: 影都 千虎

 こいつはヤバい。


 頭の中でそんな警鐘が鳴り始めた頃にはとっくに縛りなんて忘れて、そんなもの捨てていたはずなのに、それでも全く歯が立ちそうにない。今までのツケが回ってきちゃったみたいだね。

「《スラッシュアロー》!」

 距離をとるために跳んだと同時に一発放ってみるけど、こんな小技じゃどうにもならないのは一目瞭然だね。

 ドラゴンのような、人のような、ゴリラのような、ゴーレムのような、そんないろんなものが混じりあってよく分からないソレ。名前すら表示されないって確実にバグキャラだよね?

 便宜上、僕はこれをキメラと呼ぶことにしたけど……なんかこう、違うんだよなぁ……。

 なんて、言ってる場合じゃないね。

 小技とはいえ、それなりにレベルが上がってそれなりの威力になった筈の、僕の【スラッシュアロー】をキメラは片腕で弾いて消した。もう、圧倒的すぎて焦りすら出てこないね。

 これが普通のゲームだったら喜んでこいつの相手を何度も引き受けたんだけどね。でも今は、今だけは無理だ。死にながら対策を練る事が出来この強さは反則だよ。しかも、今は僕一人で誰もいないし。

 あーあ。もう、本当に……こんなことしてる場合じゃないのになぁ。

 早く、リンドウちゃんを助けなきゃいけないのに。

『ーーーーッ!!』

 耳をつんざくようなキメラの鳴き声(叫び声?)が響き渡る。まずい、この行動パターンは初めてだ。しかも、音量がでかすぎてまともに行動ができない! 他の感覚にも影響を及ぼす叫び声ってどういうことなの!?

「ーーあ?」

 そして、感覚が戻った頃にはもう遅い。

 目の前で真っ赤な液体が乱舞してて、体勢を保てなくなっていた。

 ぐらりとゆれてから僕は地面に膝をつく。

「ーーーーッ!!」

 数秒遅れてから痛み。痛い。痛いなんてもんじゃない。焼けそうだ。熱くて熱くて痛くて、どこをやられたのかすら判別できない。

 膝をついて動かなくなった敵は格好の的。分かるよ。僕も逆の立場だったら確実にそうしてたからね。

「ああああぁぁぁぁッ!」

 キメラの爪なのかなんなのかよく分からないものが僕の右肩を貫く。直ぐに抜かれる。血がまた舞う。気がついたら口から声が漏れていて、僕は傷を押さえながらその場に倒れていた。もう起き上がってる事すら出来ない。

 そんな中、頭だけは妙に冷静でさっとHPの確認をする。残りは一割を切っているどころじゃなくて、一ミリ残ってるかどうかレベルだった。ははは、ミリ残しなんて趣味が悪いね。そんなことすると逆に痛手を負わされるもんだよ? ーーまあ、今の僕にそんなことはできないと思うんだけど。

「は、はは、はははは……」

 なんでか分からないけど口から笑いが溢れていく。僕は今どんな表情をしているんだろうね。

 ぐるぐると視界が回って酔いそうな感じ。視覚ダメージがあるならあるで、さっさと暗転してほしいところだなぁ。

 うーん、こんなことなら、【スラッシュアロー】じゃなくて【フラッシュフォール】とか使っておけばよかったかな。そっちのほうがまだダメージが通った気がする。

……なんて思ってる間はまだまだ余裕かなぁ。今はなにより死ぬことが怖いよね。

「グアァァァァッ!」

 キメラが雄叫びをあげる。この行動パターンはさっき見た気がするな。確か、この後は魔法攻撃が来る……

「がッ……ああああぁぁぁぁッ!!」

 目の前が真っ赤に染まる。熱い。溶ける。僕が、僕そのものが、僕の存在が消えていくような感覚がする。

 でも感覚すべてが消えていくわけでも、意識が消えるわけでもない。何でだよ! ここまでいったら殺してほしいよ。

 ソニックブーム(?)で身体を裂かれ、爪(?)で肩を貫かれ、紅蓮の炎で身を焼かれ、それでもまだ僕は生きている。HPは一ミリを残したまま動かない。なんなんだよもう……。

「あぐッ……」

 死ねない、痛みの永遠ループに絶望感を抱き始めたところで、急に全身に鈍い痛みを感じた。と、同時に身体の全ての感覚が消失していって僕は暗闇に落とされる。

 あれ……? もしかして僕、最後に一撃喰らって死んじゃった?

 相変わらず意識は残ってる。でも身体は動かせない。というか、身体があるのかすら分からないね?


「幽ァッ!!」


 そんな暗闇の中で、唐突に声が響く。身体があるのか分からないのに聴覚だけは生きてるんだ? 不思議だねぇ。

「おいお前……ッ、おい! しっかりしやがれ!!」

 声がまた響く。うーん。この声はひょっとしなくてもクロだね。ゲームのなかなのに実名で呼ぶなんていけない奴だなぁ。

 まあいいや。


 あとは任せたよ、クロ。


 そう声に出せたのかどうかは分からない。クロに伝わったのかも分からない。ただ、その言葉を最後に、僕のすべてが闇に飲まれたのは確かだよ。

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